転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
「やっちまったぜ……」
翌日、シドウ様の部屋に行くとシドウ様が案の定頭を抱えていた。
やっぱり、狐火の件はあそこで言ってはいけなかったみたいだ。
レイナさんが、うつむくシドウ様を慰めている。
一見すると危ない光景だ。
「シドウ様ー! あっそびましょー!」
なのでもっと危なくしてみた。
デカパイ以外はTHE子どもなので更に絵面がやばい。
対するシドウ様は少しだけ顔を上げると、また頭を抱える。
こっちの悪ふざけに突っ込む気力もないみたいだ。
「いやぁ、大変なことになりましたね」
「勝者がからかいにくるんじゃねぇよ、嫌味か?」
「まさかそんなぁ。この後のことを聞く必要があるからですよ」
絵面が面白かったからからかおうとしただけで、やってきた目的は至って真面目な理由だ。
この後のことを、シドウ様と相談するため。
狐火の特性上、狐火本体に挑むのは私とシドウ様なのだから。
ちなみにリンカねえさまは、浮足立つ冒険者たちをなだめている。
あのまま放置しておくと、シドウ様がいないのに狐火へ突撃しそうだったからな。
「それで、本来の予定はどんな感じだったのですか?」
「もう少し調査に時間をかけるつもりだったんだよ。そもそも、お前さんがこんな早く俺に比肩するとすら思ってなかったんだぜ」
「あはは、それなら私の挑戦を受けなければよかったのでは?」
シドウ様なら、いい感じに私を丸め込むことだって可能だっただろう。
そんなことより一緒にダンジョンで魔物狩ろうぜって言えば一発だ。
「断れなかったんだよ。俺自身、あの時お前さんに挑まれて興奮しちまったんだ。それに――」
「それに?」
「お前さんの瞳には勝算があった。無謀な挑戦なら笑い飛ばしもするが、
剣士として、戦士として。
シドウ様にもプライドがあるということだ。
色々と考えてこの街を運営している人ではあるけれど、根底にあるのは武芸者としての顔なのだろうな。
ともあれ、私とシドウ様の対決が想定より早いこと自体はそんなに問題ではない。
あの場でシドウ様が酔っ払いすぎなければ。
……そもそもこの状況の原因はリンカねえさまなのでは?
やめておこう、あまり考えてはいけない。
「そもそもの話、だ。六大宿痾の攻略方法は二種類あるんだ」
「二種類。どんなものですか?」
「正面からゴリ押しするか、少しずつ力を削いで倒すか、だな」
なんでも、六大宿痾は二種類存在するらしい。
一つは本体性能が高いタイプ。
とにかく個としての能力が高く、単体で全てを蹂躙するタイプ。
魔物を生み出し、数で全てを蹂躙するタイプ。
前者であれば正面からゴリ押しするのが正攻法。
後者であれば、魔物を倒して弱らせるのが正しい戦い方だそうな
六大宿痾を討伐するのであれば、その六大宿痾がどちらのタイプか見極めるのが重要なのだ。
「……どう考えても狐火は本体性能が高いタイプでは?」
「本体性能が高いタイプはダンジョンを作らねぇんだよ。正直これに関しては、狐火を封印する前からよく解ってなくてな」
狐火の性格を考えれば、どう考えても本体性能タイプなのにそうではない特徴が見られる。
弱者に興味はないタイプに見える狐火が、弱者である魔物の力を頼るかと言えば、否だと思うのは普通の話。
狐火が出現してから二十年近く経った今でも、イマイチ答えが出ていないらしい。
「といっても、今更調査して答えが出るものではないですよね」
「まぁそうなんだが……お前さんの”意外性”がなにか気付くんじゃないかと思ってな」
ふむ、と少し考える。
私はとにかく突飛なことを思いつくことが得意だ。
そんな私の意外性と発想力が求められている。
であれば、少し考えを巡らせるのも悪くない。
そして考えた結果――
「……やはり、このままの勢いで狐火を討伐するべきじゃないですか?」
「ほぉ、そいつはどういう考えだ?」
興味深げに、シドウ様が問いかけてくる。
どうやら、本気で私の発想に期待しているようだ。
といっても、何か画期的な考えが浮かんだわけじゃないんだよな。
「まず第一に、現状は考えうる限り最も冒険者達が狐火討伐にやる気をだしている状況です」
「まぁ、あの場で煽るのが一番効果的だってのは、そうだろうが」
狐火を魔物召喚型と仮定した場合、私とシドウ様が狐火と戦っている間。
冒険者たちも魔物を倒してそれを支援する役割がある。
それを任せるためには、あの場で煽るのが最高の方法だ。
そもそもの話、私には一つ疑問に思う点があった。
「それに、そもそもどうしてシドウ様はここに来て慎重な選択を取ろうとするのですか?」
「…………」
「確かに慎重な考えも必要ですが、普通に考えればあそこで煽って狐火討伐の機運を高めるのは正解だと思います。酔っ払ってタガが外れたからとはいえ、シドウ様だってそう考えたからあそこで煽ったのですよね?」
シドウ様は沈黙した。
レイナさんが慰めるその背中は、さっき私が部屋に入ってきた時――つまり、やってしまったと頭を抱えていた時より小さく見える。
図星をつかれたからだ。
「かつて、狐火が発生した時。シドウ様をはじめとした多くの冒険者が集まってそれを攻略しようとした。……その時の敗北が今も脳裏にこびりついていることはわかります」
「カグラおめぇ……」
私は、あえて挑発するような言葉を選んだ。
シドウ様が、臆病風を吹かせているわけではないということくらい、私でも解っている。
けれど、躊躇があることもまた事実。
自分が作り上げたこの街は、かつてのあの”輝かしい日常”に勝っているのか。
シドウ様は自信がないのだろう。
「ですが」
だからこそ、はっきり言わなければならない。
この場において――この世界において、現状シドウ様と対等なのは私だけなのだから。
シドウ様自身、それを望んでいるからこそ、私に期待したのだろうから。
「――私はシドウ様が作り上げたこの街を、素晴らしい街だと思っていますよ」
「……そうか」
「……シドウ様って、結構繊細な方ですよね」
「うるせぇ」
なんというか、見た目の印象ほど豪放磊落な性格をしているわけではない、というか。
才能を愛しているという部分を除けば、どちらかと言えば真面目な性格で。
私やリンカねえさまみたいな、一部に対する偏愛なども見られない。
もしかしたら昔は私達みたいに才能に発情する変態だったのかもしれないけど。
いや、そんな事を考えている場合ではなくって。
「そんなシドウ様がラリスの支配者として振る舞えるのには、それ相応の理由があるのでしょうね」
そう言って、私はシドウ様の横に立っている、さっきから何かを言おうとしては口をつぐんでいる恥ずかしがり屋なレイナさんを見た。
視線を向けられたレイナさんが真っ赤になって、シドウ様が苦笑した。
「お前さんはさっきから、いちいち言葉が多いんだよ」
「あはは、いいではないですか。とにかく、シドウ様が恐れる必要はないということです」
――はっきり言って、私の言っていることは誰にでも言える綺麗事だ。
言っていることは正しくて、正しすぎるほどだ。
他の誰かが言っても、アタリマエのこと過ぎてシドウ様が納得することはないだろう。
でも、私は違う。
私はこの世界でただ一人、シドウ様に勝った人間だ。
そんな私の語る言葉は――
「狐火を、ここで倒すべきです。倒しましょう、倒したいです」
多分、世界の誰が放った言葉よりも、ある意味でシドウ様にとっては重い一言になるのだろう。
「……お前さんにそう言われたら、やらないわけにはいかないよな」
かくしてシドウ様は苦笑しながらも立ち上がり――
「やったぁ! そういうことならシドウ様、鍛錬です鍛錬! 狐火を倒せるようになるまで強くなりましょう!」
「お前さんは、どうしてそう最後まで真面目にやれねぇんだ」
「ええ!?」
――狐火討伐作戦が始まった。