転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
いよいよ、ムキムキデカパイ狐獣人との決戦が始まる。
多くの冒険者がそのために準備を始め、ギルドの職員が慌ただしく動き回る現状。
中でも賑わっているのが、ダンジョンの最下層だ。
表の方の。
というのも、そこでは現在あるものが開催されているからだ。
その名も――
「ムキムキデカパイ狐獣人(ニセ)テーマパーク開園!」
ムキムキデカパイ狐獣人(ニセ)テーマパークである。
「何いってんの?」
「最下層の状況を、一言で表してみました」
命名、私。
呆れた様子のリンカねえさまが通り過ぎていく。
私はと言えば、そのまま勢いよくギルドの転移陣に乗り込む。
目的地は、言うまでもなくダンジョンの表最下層だ。
そこでは――
『カカカカカ! どうしたどうした!』
レイナさんが変身した狐火が、結構な数の冒険者をまとめて薙ぎ払っていた。
ようするに、この場では狐火相手を想定した戦闘訓練が行われているのだ。
ここの様子は狐火も把握しているので、なんというかとんでもない挑発行為である。
まぁそれを言ったら私と狐火レイナさんの時点で今更だし、何より「ラリス」の街でここが一番大規模な戦闘に向いているのだからしょうがない。
とにもかくにも、ここでは狐火レイナさんが大暴れしている、というわけ。
さて、ここに集まっているのは主に「ラリス」の街で二つ名を有している冒険者だ。
”沈黙”のお兄さんや”鮮烈”のお姉さんをはじめ、多くの強者が集まっている。
中にはダグスさんの姿もあり、「ラリス」にいる強い冒険者は私とリンカねえさまとシドウ様以外は全員ここに集まっていると行っていいだろう。
里の剣士もちらほら見受けられた。
――が。
『猛者をこれだけ集めて、妾に一度として傷をつけられぬのはとんだお笑い草だなぁ!』
誰一人として、狐火レイナさんにダメージを与えられていないのだ。
狐火の特性、一定以下のダメージ無効。
これが働いているのである。
いやいや狐火の固有能力みたいなものなのに、どうやってレイナさんが再現しているんだ……と思うかもしれないが。
レイナさん本人に聞いてみたところ――
『ま、魔術で再現……してみました!』
とのこと。
うーん、これは天才……
模倣故に性能は完璧ではないけれど、私の三重強化くらいなら弾いてしまうようだ。
それってつまり、強化の比重を偏らせたダグスさんやリンカねえさまの攻撃すら弾けてしまうのでは?
やばくない?
というわけで、狐火レイナさんの無双を複数人で抑え込んでいるのがこの「ムキムキデカパイ狐獣人(ニセ)テーマパーク」である。
(ニセ)が獣人のようで獣人ではない狐火本体と、ニセ狐火のレイナさんに同時にかかっているぞ。
まぁ、そんな自画自賛はおいておいて。
「私もまぜてくださいなー!」
抜刀。
私もまた、狐火レイナさんへと切りかかっていった。
+
「はふぅ、お疲れ様ぁ」
「お疲れさまでしたー!」
その後、一頻り私が狐火レイナさんと遊んだところで、テーマパークは閉園となる。
そもそも私がここにやってきたのは、このテーマパークが開園してからすでに八時間も経過しているからだ。
その間、ひたすら二つ名持ちの冒険者は狐火レイナさんと戦っていた。
要するに、そろそろ休憩したほうがいい、と声を掛けに来たのである。
そのついでに、ちょっと私が狐火レイナさんと遊んだだけで。
「いやぁ……生で見ると更にとんでもねぇですよ、四重強化の姐さん」
「狐火レイナさん相手なら、ほぼ対等に渡り合えるようになりましたね」
そこに、先程から休憩をしつつ私達の戦闘を見ていたダグスさんが声をかけてくる。
私が乱入した後、私と狐火レイナさんの戦闘が激しすぎて他の冒険者は戦闘からはじき出されてしまったのだ。
後は、四重強化をマスターした私と狐火レイナさんのガチバトルである。
「アレについていけなきゃ、本来のダンジョンは踏破できないってのは……なんだか気が遠くなりそうね」
「……」
鮮烈さんと沈黙さんが、そんな風に話をしている。
いや、沈黙さんは喋ってないけど。
雰囲気で、こう。
「もともと、ここにいるってこたぁ、俺達は表のダンジョンを突破したメンツでさ。それでも、裏のダンジョンの主には追いつけないってな……なかなかきついですぜ」
ここに来るには、表のボスである「ポン君」を倒さないと行けない。
もともと「ラリス」において二つ名とは、「ポン君」を倒したもの、もしくは倒せる実力のあるものに与えられる称号だ。
だというのに、本来の「ラリス」は今の実力では全く”足りていない”というのだから。
まぁ、色々感じるところもあるだろう。
「皆さんは、狐火との戦いが始まったら裏ダンジョンを攻略する形で作戦に参加するのでしたよね」
「そうですぜ。狐火の封印が解ければ裏ダンジョンに魔物が現れやすからね」
狐火討伐作戦。
シドウ様が考えるその作戦において、二つ名持ちの役割は裏ダンジョンの攻略。
狐火が魔物召喚型の六大宿痾だとすれば、こうして裏ダンジョンを攻略することで狐火の力を削ぐことにつながる。
ついでに言うと、狐火が暴れ出すと裏ダンジョンの魔物はダンジョンの外に出ようとするのでそれを防ぐ意味合いもあった。
なお、表ダンジョンは二つ名を持っていない冒険者の担当だ。
「まぁ、でも、ですよ」
私は「二つ名」持ちの皆さんを見て、ポツリとこぼす。
「皆さん、楽しそうじゃないですか」
そう、楽しそうなのだ。
どこか愚痴をこぼすような言動だった鮮烈さんも沈黙さんも、その実表情は明るい。
「当たり前ですぜ、姐さん。ここにいるのは――冒険者なんすから」
なぜ、と問えば。
答えはダグスさんの一言に集約されるだろう。
私もその答えに満足しながら頷きつつ。
視線を、一人の少女へと向けた。
「そしてレイナさんは……不安そうですね」
「それは……だって」
楽しそうな冒険者たちの中でただ一人、レイナさんだけがどこか浮かない顔をしている。
理由はまぁ、単純だ。
「……狐火を倒すと、パパもカグラちゃんも生きて帰れないかもしれないんだよ?」
一つの大きな懸念が理由だった。
それは、狐火を倒した時の瘴気だ。
私の母上がそれによって、長く生きられない体になってしまったように。
六大宿痾を倒すととんでもない量の瘴気が噴出されるのだ。
今回は幸いなことに、狐火がダンジョンの中にいることで直接狐火を倒したもの以外が瘴気を浴びることはないと言われている。
しかしそれでも、狐火と直接戦う私とシドウ様は、どうしても危険が伴う。
「もっと有効な倒し方があればいいのに」
「それはまぁ、狐火にダメージを与えられるのが私とシドウ様だけですからね」
今回、狐火レイナさんが大暴れした要因であるダメージ無効化。
これが、非常に面倒くさい。
現状大陸で、狐火のこの能力を無視してダメージを与えられるのが私とシドウ様しかいないのだ。
とはいえ、だ。
「それにしてもレイナさんは――
「え?」
レイナさんは、私達が狐火を倒した”後”のことを考えている。
「だ、だって……パパとカグラちゃんだよ? 世界で一番強い人と、それと同じくらい強い人がいるのに……負けるわけないよ!」
「……なるほど」
レイナさんのシドウ様に対する信頼が、そうさせているのだろう。
レイナさんは逆だと思ってる? なんのことかよくわかりませんね。
ともあれ。
「――そういうことであれば、レイナさん。私、その瘴気対策に一つ考えがあるんです」
「え!? そうなの?」
「ええ、そのためには――レイナさん。貴方の力が、どうしても必要なのですよ」
張り合うべきはシドウ様ではなく狐火だ。
その狐火を倒すための悪巧みを、着々と進めていくこととしよう。
デカパイ悪巧み。
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よろしくお願いいたします。