転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
さて、対狐火の準備が進む中、狐火の封印が緩む日がやってきた。
今回は私とシドウ様が連携する形で狐火に挑む。
別に魔力刃で完封してもいいのだが、せっかく私が四重強化を習得したのだからどこまでできるかやってみたかったのだ。
「カカカカ! 善いなぁ! 善いなぁ! よもやこの短い間にそこの小童に追いつくとは思わなんだ、小娘!」
二人がかりで狐火を抑え込む。
出力で言えば私もシドウ様も今の封印狐火にすら追いつけてはいないのだが。
それでも、単独でもなんとか戦闘が発生する程度には拮抗している。
故に、二人がかりであればそこまで狐火と渡り合うことは難しくない。
ただ――
「だが、まだ手ぬるいな」
狐火がそうこぼすと、私とシドウ様の一撃を同時に”逸らす”。
途端、私の攻撃はシドウ様へ、シドウ様の攻撃は私へ向けられてしまう。
「むう! すいません!」
「しゃあねえよ! 連携不足だ!」
――そう、連携不足は否めない。
私もシドウ様も、自分が自分がってタイプだから相手に合わせることができないのだ。
戦闘自体は今の狐火であればこちらが有利だと言うのに。
ふとした拍子に狐火が連携を乱してくるのだ。
そのタイミングは、少し肝を冷やす。
とはいえ、戦闘自体はそこまで問題なく終わらせることができた。
再び封印されていく狐火に対し、私が一つ言葉をかける。
「それにしても、まさか表ダンジョン最下層のアレをみても、そこまで怒り出さないとは思いませんでした」
「小娘の頭のおかしさはともかく、表でやっているアレらはそこまで咎めるものでもないであろう。奴らも、妾に挑む資格はないが、十二分に強者だ」
なるほど、と頷く。
私はてっきり、表ダンジョンでやっている模倣狐火のことを「馬鹿にしているのかぁ!」みたいに言ってくるかと思ったのだが。
どうやらそうではないらしい。
ちなみに、私が頭おかしいのはともかくってどういうこと?
「何より、妾なら絶対に言わない言葉を妾の顔と態度で抜かすのは、なかなか興味深いものがある。ぜひとも妾の手で縊り殺させてもらいたいものだ」
「はは、ぜってーさせねぇ」
とおもったけど、言っていることはやはり宿痾の主って感じだった。
根本的にわかりあえる相手ではない。
アレでも、狐火の私の頭がオカシイっていう発言にシドウ様がうんうん頷いてたのは一体……
こほん。
「何より――小童と小娘、貴様らの戦いはなかなか心踊ったぞ」
どうやら狐火は、強さと強さがぶつかり合うなら多少のアレヤコレヤは流せてしまうらしい。
今回穏やかだったのも、魔力刃の完封ではなく戦闘を選んだからだろう。
「しかし、しかしだ。貴様らはすでに今の腑抜けた妾を上回っている。であれば、これ以上の座興は不要」
最後に狐火はそう言い残す。
確かに、私が四重強化を習得したことで、封印された狐火を抑え込むだけなら問題という問題はもう起こらないだろう。
「妾が最も愛するは、強さと強さがぶつかり合うその瞬間。結末の見えぬ戦いだ」
「故に、これ以上こうして封印を巡って戦う必要はない、と?」
「その通り! ――故に、次に妾が目覚めるその時こそ、貴様ら人類と妾の最後の戦いが始まるのだ!」
かくして、狐火は予言めいた言葉を残して再び封印された。
次に目覚める時――すなわち、再び封印が綻ぶ時。
つまり、1週間後だ。
+
「にしても、連携が上手く行かねぇってのはどうしようもねぇな」
「お互い、人読みで相手の行動を予測して合わせる……くらいしか連携の方法がないですもんね」
これは私とシドウ様の抱える欠点だ。
私達は互いに出会ってまだ少ししか経っていない。
ましてや私が四重強化を習得したのはつい最近。
連携といえる連携を習得するには、あまりに時間が足りていなかった。
「とはいえ、ですよ」
「んだぁ?」
「連携なんて、早々できないなら……あまり意識するべきではないのかもしれません」
そもそも連携とは、長い信頼関係の末に完成するものだ。
出会って数ヶ月の私とシドウ様では、いくら気の合う関係だからといって高い完成度には至らない。
それでもなんとなく私達が連携を意識しがちなのは、シドウ様が連携を重視しているからだ。
「シドウ様が連携を重視するのは、奥様がいたからですよね?」
「……ん、ああ、そうだな」
そしてそれは、シドウ様が誰かとコンビを組んで戦う時、連携が最も強力な武器だったから。
シドウ様の奥様との関係が、今もシドウ様の根底に残っているのだ。
「私が今からどれだけシドウ様と信頼関係を結んでも、シドウ様の奥様を超えることはありませんし、あっても嫌ですよね?」
「……あー、あぁ……そうだなぁ。そうかもしれん」
なんとなく、そこまで深く考えたことがなかったのだろう。
納得した様子で、シドウ様は頷いた。
「お前さんも、大概人読みのうめーこったな」
「これに関しては……端から見ていれば誰だって解ることだと思いますけど」
「俺ぁそこまでわかりやすくねぇよ」
いやいやいや。
レイナさんが気づいていないはずはないし、リンカねえさまだって解ってるはずだ。
単純に、シドウ様が面倒くさがってあまり他人と交流を持たなかったから、指摘されることがなかっただけなのだ。
コンビを組んでシドウ様と対等に渡り合える人間も、そういないだろうし。
「そういうことであれば、私達は私達の強みを活かすべきです」
「俺達の強みぃ?」
言いながら、私は周囲を見渡した。
現在私とシドウ様は、ギルドの修練場で話をしている。
修練場ではリンカねえさまが、作戦に参加する表ダンジョン組をしばいているところで。
誰もが、真剣にリンカねえさまと戦っている。
数百対一で戦って、誰もリンカねえさまを傷つけられていない辺り、実力は天と地の差があるけれど。
だというのに、誰も逃げ出していない。
すなわちそれは――
「――私の意外性と、シドウ様の人望です」
ここにいる者たちが、シドウ様のことを慕って集まっているということだ。
少なくとも、私のことを修練場にいる人達は認知しているけれど。
シドウ様ほど慕ってはいないだろう。
彼らの評価は
「彼らに作戦を募りましょう」
そう、作戦。
連携という面でシドウ様とその奥様に私が届かないのなら。
事前に作戦を立てて戦えばいい。
「前回、シドウ様と奥様が戦った時と違い、今の私達には狐火に対する情報があります。そこから対策を立てるのです」
「そのために、俺の人望を使って多くの人間からアイデアを集めろってことか」
「アイデアを集める行動そのものにも、人手が必要です」
なにせ決戦まで一週間しかないのだ。
作戦を立てて、それを実際に試し、効果を確認する。
そのためには多くの人の力を借りないと行けないだろう。
「それに、ですよ」
「ああ?」
「――表ダンジョン組も、裏ダンジョン組も、自分が狐火と戦えないことを残念に思っているはずです」
狐火の能力がある以上、私達しか本命と戦えないのはどうしようもないことなのだ。
だけどそれでも、力になりたいと冒険者は集まってくれている。
そんな彼らの力を借りるのに、シドウ様の人望を利用しないでどうするのか。
「そして最後に私が、その作戦をまとめ、勘案し――狐火に勝利する道筋を建てます。どうです? 悪い考えじゃないでしょう?」
「あー……」
私の言葉を聞いて、一度シドウ様は頭をガリガリと掻いてから。
「そういう悪巧みをさせると、お前さんがあの男の娘だって実感できるな」
「むう、なんですかその言い方は」
「――気に入った、つってんだよ」
ニイ、と笑みを浮かべて。
「やろうぜ、狐火討伐作戦。俺も一つ、いい考えがあるんだよ」
そうして、話はまとまった。
時間はあっという間に過ぎていく。
私とシドウ様は、毎日おそくまであーでもないこーでもないと話し合い。
そして――