転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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七十六 開戦

 作戦の試行錯誤と、冒険者たちの鍛錬と、他にも住人の退避などなど。

 いろいろなことが慌ただしく行われ、あっという間に時間は過ぎていく。

 気がつけば、一週間が経ち。

 ついに、決戦の時がやってきた。

 

 狐火の封印が緩むのは、日付が変更するタイミング。

 つまり深夜だ。

 すでに夜も更けた時間、普段ならば人なんていないはずのギルドホールに、多くの冒険者が集まっている。

 代わりに、街の中は完全にもぬけの殻だ。

 街で活動している商人と、住人、それから作戦に参加しない冒険者が街から離れているためである。

 こういうときに、嫌がることなく一致団結して逃げ出せるのはすごいと思う。

 全ては、シドウ様の号令あってこそだな。

 

 後、狐火の存在が公然の秘密で、いずれ街を去るだろうことがはっきりしていたからだ。

 国として認めると色々まずいから秘密ってことになってただけっぽい。

 この世界って結構雑……?

 ともあれ。

 

「――時間だ」

 

 ふと、声がする。

 しんと静まり返った冒険者ギルドに、シドウ様が時計も見ずに言い放ったのだ。

 こういうところは、やはり天才らしさだろうか。

 私の場合、十秒を正確に刻むことはできるけど何も見ずに時間を計測するのは無理だな。

 シドウ様は逆にそっちのほうができないらしいけど。

 何にしても、日付が回った。

 

「作戦を始めるぞ、野郎ども!」

 

 ――帰ってきたのは、やる気に満ちた叫び声だった。

 

 

 +

 

 

 レイナさんの通信魔術で、表と裏のダンジョンの様子を観察する。

 表のダンジョンは、日付が変わったことで魔物の数がリセットされた。

 その状態で、出現した魔物は一斉に転移陣を目指しているようだ。

 転移陣に入ると、上の階層に転移するらしい。

 それを冒険者がリンカねえさま指揮のもと、各地の階層で戦うのだ。

 こちらはなんというか、タワーディフェンスみたいな感じだな。

 

 対する裏ダンジョンは、見ればポツポツと魔物が湧き始めている。

 その数は表ダンジョンと比べると少ない。

 しかし魔物の質は明らかに高く、表下層で出てきたデッカメ等が見受けられた。

 この状態で二つ名持ち冒険者が魔物を殲滅しながら攻略していく。

 裏ダンジョンに関しては、そこまで普段のダンジョンと様相は変わらない。

 出て来る魔物の強さと、冒険者が一斉に行動を開始するという点を除けば。

 

「さて――」

 

 そうして、私達は状況を確認してから、通信を切る。

 ここからは、周りの状況など確認している余裕もないからだ。

 

「いつまでそうしているのですか? 狐火」

 

 対する狐火は、どこか楽しげに玉座に腰掛け、目を閉じている。

 すでに私達が封印を解いたにもかかわらず、だ。

 狐火にはダンジョン内部を観察する能力があるわけで。

 ああしてやることと言えば、ダンジョンの状況を確認する以外にありえない。

 そのうえで、魔物たちに指示を飛ばしているかと言えば、多分そんなことはないのだろう。

 気配からして、そんな感じだ。

 

「――のう、貴様らはなぜ妾が魔物を従える宿痾の主であるか、わかるか?」

「あぁ?」

 

 シドウ様が、訝しむように問い返す。

 そういえば、この問題に関しては結局答えが出なかった。

 いや、一応考えがないわけじゃないんだけど。

 それはあくまで実利の話。

 狐火の問いかけは、狐火の心情に関するものだ。

 そっちに関しては、単純に考えを回す時間がなかった。

 

「妾は弱者に価値などないと思うておる。しかしそれは、妾と戦う意味がないという話であるわけだ」

「……弱者同士が戦う分には、価値があると?」

「――ない」

 

 ないのか。

 そこは”ある”と答えるところではないのか。

 

「弱者に価値などない。存在する意味もない。疾く消えればよい。故にこそ、妾はそれを手足に任す。あれ等は価値なき駄物であるが、塵芥を妾に近づけぬだけの意味はあるのだ」

 

 であれば、楽しげにそれを眺める意味がわからない。

 意味などないと断じる者同士の戦いの、一体どこが楽しいというのか。

 

「くく、そしてそれを眺めているのはなぁ。滑稽で笑みが漏れてしまうのだ。あんなことをしても、妾には刃が届かぬ。偽の妾とやりあっていた連中も、結局ここには直接来ていないではないか」

 

 ああ、なるほど。

 こういうところは、単純に狐火の宿痾の主たる部分なのだ。

 強者ではある。

 戦いを愛するものではある。

 だが、根本的には人間と考えが違う。

 そうであるように、できていて。

 そうあれかしと、振る舞っている。

 

「けっ、解ってねぇヤツだなぁ、おい。生命には才能ってもんがある。そしてそれを活かそうという人間には等しく生きる価値があんだよ。少なくともあの場にいる人間は、全員にその価値がある」

「カカ、それは結局。この世に価値のない生命があると認めているようなものではないか。小童、貴様も妾と同じ傲慢な存在よ」

 

 シドウ様の言葉に、狐火が笑みとともに返す。

 確かに、狐火の思想は論外だけど、シドウ様だって才能を活かそうとしない人間に興味がない。

 教えを請うためにやってきた冒険者をえり好みするのも、その証拠。

 とはいえ――

 

「だからといって、価値のない存在を殺して排除しようとまではしねぇよ。俺ぁ人間だ。どれだけ傲慢だろうとな」

「カカカ、そうかそうか。何でもよい、貴様に妾と戦う理由があれば十分だ」

 

 シドウ様も、人の守護者であることに変わりはない。

 この場において、シドウ様と狐火を分ける理由はそれだけで十分だ。

 もう言葉にすることは何も無いのか、シドウ様は手にしていた剣を担ぎ構える。

 それを見て、狐火の視線が私を向いた。

 どうやら、狐火はまだ話足りないようだ。

 

「であれば小娘、貴様は言ったな。弱者との戦いにも意義はある、と」

「あー、そうですね」

「……貴様、戦いたすぎて妾との話に余り興味がないな?」

「そうかもしれないですね」

 

 いや違うのだ、思考は冷静に狐火の話を聞いている。

 しかしそれはウズウズしすぎて興奮の余り、作戦を無視して突撃するのを抑えるため。

 思考の一部を切り離して冷静に内容を耳に入れている部分を”作った”にすぎない。

 なので私本人は、話は聞いていても答える余裕がないのだ。

 うおーーー、早く戦わせてくれー!

 話とかいいから仕掛けてきてくれー!

 おっと、思考が身体に侵食され始めている。

 

「まぁいい、価値があるというなら、その価値を直接拳で問いかければよいだけだ」

「ですか」

「ええい、もう返事はしなくてよい! 貴様と拳をぶつければ、自ずとその考えも読めてくるというものだ」

 

 そうして、狐火の気配が少しずつ高まっていく。

 ゆっくりと起き上がり、自身の拳に視線を落とす。

 

「封印されていては、正しく相手を測ることもできぬというもの。ようやく、貴様の心胆を確かめることができるというものだ」

 

 なんだろうその、私が理解できない生物だったみたいな。

 

「まぁ、妾が力を取り戻したところで、その理解できぬ異常な脳の中身までは、把握しきれるとも思えんがな。まだ、小童の方がわかりやすい」

 

 言ってる! 理解できない生物って言ってる!

 

「ええい、もういいではないですか。戦うのでしょう? 戦うのでしょう? 戦うのでしょう!?」

「――カカ」

 

 とはいえ、だ。

 狐火は私を理解できないモノと断じてはいるが、否定はしていない。

 むしろ――

 

「佳いぞ」

 

 こちらもまた、楽しげに。

 その顔に張り付いた笑みを、更に獰猛に歪めて。

 

「小娘、小童。かかってくるが佳い。妾が許す。――そして殺す」

 

 構えた。

 

「来るぞ、カグラ!」

「解っています! ――さぁ!」

 

 そして私も、シドウ様も。

 

 

「開戦です!」

 

 

 自身の得物を手に、最強の敵と相対する!

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