転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
――開戦と同時、狐火が最高速で突っ込んでくる。
一週間前のそれとは比べ物にならない速さ。
そして何より、威圧感。
どこぞの怪獣王みたいなデカブツが、猛然と私達の前に踏み込んでくる錯覚を覚える。
しかしその直後。
錯覚以上の一撃が、私の刃に叩きつけられた。
「ぬ、ぅ!」
勢いよく後方へ吹き飛ばされる。
私の疾討は、その特性上どんな攻撃でも破壊されることはない。
そうと解っていても、肝が冷えるな。
というか、六大宿痾の全力パンチでも壊れない疾討の呪いは何なんだ。
なんて、そんな事考えている暇はない。
私を吹き飛ばした直後、狐火はシドウ様にも殴りかかっている。
「シドウ様!」
「この、程度……!」
とはいえ、シドウ様はすでに一度全力の狐火と対決した経験がある。
私なんかよりもよっぽど、狐火の攻撃に対する覚悟ができているわけだ。
「ぐぅ、ぉおお! っらああああ!」
シドウ様は、一度攻撃を受け止めてからその衝撃を後方に逃がす。
火花を散らせながら、拳と大剣が交錯した。
その直後、私が斬りかかる。
「甘いなぁ!」
だが、それすらも狐火は対応した。
私の刃を本当にスレスレで回避していく。
最も無駄のない、最低限の回避だ。
直後に、放たれた拳で再び私が後方に吹き飛ぶ。
今回はシドウ様も正面から受けられなかったのか、吹き飛ぶことで距離を取っていた。
――ここまで、それぞれの戦い方が如実に出ている。
私は狐火に劣る身体能力を疾討の特性という手札で補い。
シドウ様は技術で狐火の攻撃を受け流し。
狐火は身体能力を活かして、行動のムダを極限まで削ぎ落としている。
まさに、三者三様だ。
「カカカカカ! いいな! 久方ぶりの”死闘”は! これまでの温い手遊びとは比べ物にならん!」
「ハッ! そうかよ! 俺ぁてめぇをぶち殺せれば何でもいいんだがなぁ!」
シドウ様の殺意に満ちた一撃が、狐火に対して振り回される。
それを回避と受け流しで捌きながら、狐火が肉薄。
シドウ様のみぞおちに拳を放とうとしたところで――
「させません!」
「カカッ!」
私が割って入る。
拳と疾討の鍔迫り合い。
ダメだ、やはり私は長く狐火と打ち合えないな。
再び吹き飛ばされてしまう。
そして――
「遅いわ!」
「カグラ!」
吹き飛ばされた私が着地する場所に、狐火が先回りしている。
こちらは空中で身動きが取れなければ、踏ん張ることもできない。
普通であれば、詰みだ。
シドウ様も間に合わない。
故に――
「ぬん!」
私は疾討を”投げる”。
そこに疾討の特性を合わせて、私の手がそれに引っ張られた。
体が宙を回転し、刃と狐火の拳が一瞬接触すると、私が吹き飛ぶ。
「曲芸よなぁ!」
更に狐火は吹き飛んだ私へ追いすがろうとするが、そこでシドウ様が間に合う。
高速で飛びかかる狐火に、同じく高速で割って入るシドウ様という物体。
そこから今度はシドウ様が打ち合いに発展――
――しない!
「だぁ! らぁ! 叩きのめされるがよい!」
「ちぃ!」
狐火が、一撃でシドウ様を叩き落とす。
地面にシドウ様の巨体が激突し、跳ねる。
大きな傷はないが、ダメージには変わりない。
そして狐火は、そのまま私に飛びかかり――
「捕まえたぞ、小娘!」
馬乗りになって、私を押し倒す。
場合によっては羨ましい光景だが、今回は大ピンチだ。
なんとか疾討をかざせば、それを挑戦と受け取ったのか狐火が疾討を殴りつけてくる。
その度に、振動が私へダイレクトに襲いかかってきた。
「んぐ! ぬぅ!」
「カカカカカカ! これはこれは! 面白いのう愉快だのう! まさかここまで殴って傷一つつかぬとは!」
狐火の言う通り、疾討はここまでやっても壊れる様子はない。
ある意味でとんでもない光景だ。
それはそれとして、振動がきつい!
このまま殴られ続けると、疾討が壊れていないのに私の内部がミンチにされてしまいそうだ。
とはいえ――
「どきな! 畜生が!」
シドウ様の手が完全に空いている。
雷鳴がほとばしり、稲妻の剣が狐火を襲った。
「ふん」
途端、狐火が遠くに退避。
稲妻剣の射程から逃れたようだ。
「未だにそのようなつまらぬ剣を使っているのか」
「つまんねぇ、だぁ?」
「つまらぬだろう、そのような妾に対してあまり意味があるわけではない剣を後生大事に使うなど」
「あぁ!?」
稲妻がほとばしる。
そこら中に雷撃をばらまくものだから、私まで回避することになってしまった。
慌ててそれを回避しながら、シドウ様に近づく。
狐火は軽くステップを踏んで、愉しげに嗤いながらシドウ様を見ていた。
「シドウ様、落ち着いてください!」
「……チッ。おいカグラ、これ以上正面から戦う意味はねぇな」
「そうですね。やはり正面からでは狐火に勝てません」
私達二人の動きでは、どこまでやっても狐火に遊ばれてしまう。
先ほど私が馬乗りにされた時が特にそうだ、疾討に興味を示して壊そうとしなければ死んでいた。
いや、あの状況を脱出する方法はあるんだけど、正攻法では無理だ。
ゆえにこそ。
「ほう、何か余興でも披露するつもりか?」
「簡単です。ここからは――策を弄して戦うのですよ!」
直後。
私の数が、無数に増えた。
魔力による分身だ。
「ほう、やはりその分身を利用するか! しかし!」
狐火が手を振るうと、分身の一部が弾け飛び消えてしまう。
瘴気が手から放たれているのだ。
反発によって、魔力はどこかへと霧散してしまうのである。
「妾に、数で挑むことなどおろかの極み!」
「それは――!」
しかしそれでも、全てが消えるわけではない。
むしろ、数はどんどん増えていく。
狐火がかき消すよりも早く!
「どうでしょうかね!」
そして、無数の私が一斉に狐火に襲いかかった。
一つ一つは大したことがなくとも、数が合わされば狐火の動きは止められる。
ちょうど、私が魔力の刃で狐火を完封したときのように。
とはいえ、あの時と比べて狐火は出力が違いすぎる。
「この、てい、ど……!」
狐火が――動く。
無数の私に、大量の魔力に囲まれてもなお。
前進し、私へ突っ込んでくる。
「もと、より……貴様らの戦闘を見ていた時点で、この分身の厄介さなど、理解している。故に――」
やがてそれは加速していき、最終的には元の狐火とそう変わらない威圧感を取り戻していた。
こいつ、ゴリ押しで私の包囲網を突破するつもりだ!
しかし――
「俺を、忘れてんじゃ……! ねぇよ!」
そんな狐火の後方から、シドウ様が大剣を振り下ろした。
「ぬぅ!」
完全な不意打ちだったが、直感的に狐火は腕でそれをガードして見せる。
なんという感覚、この状況でも狐火は脅威なのだ。
何にしても――
「次は……私です!」
私も攻撃に参加する。
若干思考を分身の行動決定に当てているため、精度は普段より劣るものの。
この状態なら、何も問題はない。
「そうか、そうか! 魔力は貴様ら人間の動きを阻害しない。妾だけを妨害しつつ貴様らは自由に動けるわけだ」
「はっ! そういうこった! だからさっさとここでくたばっておけ!」
私達は先程と同じ速度で、狐火は魔力の分身に身体を縛られ。
それでもなお、私達の動きはほぼ互角。
あまりにも、狐火の身体能力が高すぎる。
加えて――
「断る!」
狐火が動いた。
何かが狐火の内側から溢れてくるのが見える。
間違いなくそれは、人間に取っての天敵。
――瘴気だ。
私が気づいた時には、シドウ様が一瞬早く行動していた。
即座に私を抱えて安全なところに避難すると――
「カカカカカカカカ! 全て、全て! 吹き飛ばしてくれるわ!」
狐火の笑い声が響き渡る。
ああこれは……なんとも厄介だ。
とはいえ、私達は作戦で戦うと決めた。
こうなることは――すでに予測積み。
さぁ、次なる一手を打っていこう!