転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
――対狐火の基本戦術は、とにかく複数の作戦をぶつけて狐火を翻弄することだ。
何故なら狐火は極端な近接戦特化。
それしかできない、というレベルで近接戦しかやってこない。
先程の瘴気みたいな例外はあるが、向こうの奥の手をあまり想定する必要のない相手なのだ。
そしてこちらの攻撃は、正面から打ち破ろうとしてくるタイプ。
一方的に策を練ってぶつけるのが、最も有効なのは疑いようもない。
だからこそ、私達は次々と狐火を翻弄する一手を打つ。
「カグラ!」
「はい!」
私とシドウ様は、
狐火は動かない、こちらの攻撃を見てから対処するつもりのようだ。
その余裕もまた、こうして作戦を立てて戦う理由の一つだというのに!
私達は、互いの得物を構え直して突っ込む。
巨大な剣の幼女! 巨大な剣の幼女!
「ひゃっほう!」
「なぜ妙に楽しそうなのだ小娘ぇ!」
「知らん!」
個人的な癖を満たしつつ迫る私と、特に何事もなく接近するシドウ様は――
攻撃の直前で、互いの得物が元に戻った。
「何だ!?」
困惑する狐火。
なんとか私の疾討は受け止めるものの、シドウ様の大剣には対応が遅れる。
結果、大剣を受け流そうと伸ばした手が、あらぬ方向に曲がった。
狐火の腕を……へし折ったのだ!
「まだまだぁ!」
「このまま!」
私とシドウ様が、そのままもう一度斬りかかる。
今の武器の入れ替えは、疾討の呪いを利用したものだ。
本来の持ち主以外が疾討を振るおうとすると、疾討が逃げるという特性がある。
結果、攻撃の直前に転移が発生。
転移は転移先と転移前の空間を
なお、これを提案した際疾討はめちゃくちゃ悩んだ後、ちょっと興奮しながら了承した。
寝取られ性癖……!
「甘いわ!」
対する狐火も負けてはいない。
へし折って使えなくなったはずの腕が――強引に再生する!
急速に巻き戻るような挙動の後、シドウ様の剣を受け止めた。
「シドウ様! 押していきます!」
「おう!」
「何をする……つもりだ……!?」
この状況、狐火は若干無理な体勢で剣を受け止めている。
故に、私はここで更に力を込めていく。
四重強化の比重変化だ。
これによって腕力”だけ”を強化するのが、現状私とシドウ様にとって最も出力を上げる方法である。
結果――
「ほう……! 我を膂力で上回るか!」
「二人がかりですけど……ね!」
若干ながら、私が狐火を押している。
狐火との戦闘が始まって、ようやく私達が狐火を正面から上回る時が来たのだ。
しかし――
「甘い! 甘すぎるなぁ!」
狐火の両腕が
そんな能力が狐火に合ったのか?
否、違う!
人間であれば痛みに悶え苦しむ状況だが、狐火はそうではない。
一瞬こちらが驚愕する中、自由になった体を動かし両足を器用に私達へ飛ばしてきた。
「カグラァ!」
――まずい。
シドウ様が叫ぶのは、私が特にこの状況で危ないからだ。
身体強化を腕力にだけ寄せている私は、下手したら狐火の蹴りの余波で消し飛びかねない。
避けなければ、対処しなければ、死ぬ。
だが――
「このまま行きます! シドウ様!」
「ほう!」
私は退かない。
なぜならば、私達は順調に狐火を追い詰めているからだ。
狐火の両腕はへし折れている。
一瞬で再生するとしても、この状況で反撃できればテンポが遅れるだろう。
そうした結果、体勢に無理が出るのは先程の攻防で証明されている。
ならば、今の状況は?
無理な体勢から無理な蹴りを放ち、更には両腕もまだ治っていない。
この状況、むしろ攻撃のチャンスだ。
故に――
「はあ!」
私は、全力で狐火に魔力をぶつける。
両者が反発しあい、一瞬足の動きが止まった。
そこに、私は身体強化を腕力に寄せたまま、疾討を振りかぶる。
「カカカ! もはやどちらが曲芸か解らぬな!」
対する狐火は、魔力の反発を利用し――方向転換。
私の反撃を回避しようとする。
だが、これは完全に私だけを意識した動きだ。
この状況、もう一人この場にはいるというのに。
「オオオオオッ! 狐火ィイイイ!」
「!!」
シドウ様が咆哮とともに斬りかかる。
そこでようやく、一瞬だけ狐火の表情が驚愕に染まった。
ここまで、一度として余裕を崩さなかった六大宿痾に、風穴を開ける時が来たのだ。
「チィ!」
狐火は、更に身を捩る。
折れた腕を強引に動かし、それを盾にした。
結果――
狐火の腕がちぎれ飛ぶ。
「まず、一つ……!」
「だが、時は稼いだぞ!」
私の刀は避けられ、シドウ様の剣は腕を斬るにとどまる。
そこで狐火が先ほどと同じく――瘴気を私達にぶつけてきた。
今回は魔力を壁となるよう放出しているから、こちらが避ける必要はない。
しかしそれは、反発した瘴気によって狐火が距離を取るということを意味していた。
「カカカ、カカカカカ! やってくれたなぁ! しかし腕は再生するぞ!」
着地した狐火、見ればすでにへし折れた腕は完全に再生している。
しかし、斬り飛ばされたほうはそうではない。
少しずつ、元に戻ろうとしている感じだ。
つまり、完全な再生には時間がかかる。
「であれば、再生までに狐火本体を斬り飛ばすまでです!」
「そういうこった!」
私達が、再び飛び出した。
時間を与えれば、この優位が失われてしまう。
ここからは時間との勝負だ。
対する狐火は、時間を稼ぐことが求められる。
最も有効な手段は、逃げること。
私達から逃げて戦場を飛び回りながら戦えば、狐火は戦況をコントロールできるだろう。
しかし――
「――来いッ!」
狐火は動かない。
迎え撃つつもりだ。
それは優位を捨てるという意味であり、同時にプライドを優先するということでもある。
窮地にあってもなお、退くことを良しとしなかったのだ。
とはいっても、この選択が間違いというわけではない。
迫る私とシドウ様の一撃を、狐火は的確に防いでいく。
確かに逃げたほうが戦況としては有利になるかもしれないが、本人の性格と獰猛さを考えれば性に合っている戦い方を選んだほうがパフォーマンスが上がるタイプだろう、狐火は。
「チッ……攻めきれねぇ!」
「次、行きます! シドウ様!」
「カカカ! さぁ、ここからどうする!?」
――ここで打つ一手が、戦闘の行く末を左右するだろう。
最大のチャンスとも言えた、腕を切り捨てたタイミングでの追撃に失敗した。
その立て直しだ。
次にもう一度腕を切り落とすのは至難の業。
ゆえにこそ、ここで勝ちを私達に手繰り寄せる!
私達は一瞬だけお互いに視線を向けて――
「ッ!」
驚愕とともに片方を受け、片方を回避する狐火。
その状態で、更に私達はもう一発。
これもまた、全く同時!
「攻撃を合わせているのか!」
「そういう!」
「こった!」
更に、もう一度。
私達は常に、寸分違わず同じタイミングで一撃を叩き込み続ける。
すなわち、私達がここで持ち込んだ作戦は――連携だ。
「面妖な! 貴様らのような我の強い阿呆共がなぜそうまでして、息を合わせられる!」
狐火の言う通り、私達の連携は完璧ではない。
かつてシドウ様が奥様と戦ったときのようには、絶対にいかないのだ。
であれば、どうやって合わせるのか。
答えはとても――とても単純。
「――合わせてねぇよ」
そう、合わせていない。
私達はただ――
「お互いが、お互いの攻撃タイミングを
狐火には、もう腕が一本しかない。
その状態で、全く同時に襲いかかる攻撃をしのぎ切るのは困難だ。
どれだけ身体能力が高かろうと、私達を圧倒するスペックを持っていようと。
狐火はその両手両足以外に攻撃手段がない。
手数で押し通れば、私達は何れ攻撃を通せるようになる。
「おのれ……! このような!」
腕はまだ、再生していない。
間に合う。
私達の刃が届く。
狐火に――致命の一撃が!
「こいつで!」
「終わりです!」
私は心臓を、シドウ様は首を。
それぞれ、全く同時に狐火へと刃を振るう。
「貴様らぁ!」
回避は、できない。
防御も間に合わない。
故に――
これが通れば――私達の勝ちだ!
ピコーン(何かが立つ音