転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
――決まれば必死。
回避は不可能。
絶対の確信を持って放たれた一撃は、しかし。
「なっ――」
「チィ――」
突如として出現した
兎のような魔物と獅子のような魔物である。
それぞれの反応は三者三様だ。
鋭く視線を細めて、その状況を観察する私と、驚いた様子のシドウ様。
そして
「やあ!」
私が即座に私の攻撃を妨害した兎の魔物を切り捨て、そのまま魔力を飛ばす。
獅子の魔物を吹き飛ばし、狐火を足止めする狙いだが――
「その程度!」
狐火が、瘴気をぶつけてそれを防いだ。
ダメだ、隙が生まれない!
そのまま斬りかかるも、それを防がれたタイミングで狐火の片腕が再生した。
「……この手を使わなければならぬほどに、妾を追い詰めるのは見事! しかし、使わせる前に死んでおいたほうが良かったかもしれんなぁ!」
叫ぶ狐火の周囲に、無数の魔物が出現する。
そのほとんどは私が見たこと無いような魔物――おそらく裏ダンジョンの下層辺りに出てきそうな凶悪な気配の魔物たちだ。
中には、ポン君の姿も見える。
「やはり、貴方は魔物を従える類の宿痾の主でしたか。この状況で貴方に再生された上、魔物も同時に相手しなくてはいけないというのは、厄介ですね」
「くく、これが妾の従者? そう見えるか?」
「違うのですか?」
油断なく、周囲の魔物を視る。
私達に視線を向けている魔物の殺意は、狐火と同様のものだ。
これが従えているというのでなければ、何だというのか。
「妾にとって、こやつらは妾がここにいるだけで生まれてくる余分よ。確かに、妾に隷属はしているのだろう。でなければ、妾が窮地に陥った時
「なるほど、アレはオートガードのようなものでしたか」
「それが何であるかは知らんが――そうさな。隷属しているとすれば……」
その時だった。
魔物たちが敵意を迸らせ、こちらに向かってくる。
「……ハッ、そういうことかよ!」
シドウ様が何事かを理解して、叫ぶ。
直後に私も、そいつらの狙いが”おかしい”ことに気づいた。
一部は私達を狙って襲ってくる。
近くにいる魔物は。
だが、多くの魔物はそうではない。
「
同士討ちを始めているのだ。
中には、狐火を狙っている魔物すらいる。
「カカカ、そういうことだ。さて――妾にこれを使わせた以上。この迷宮の規則が変わるぞ」
「それは?」
「こういうことだ……!」
私達が魔物を切り捨てながら、狐火に視線を向ける。
すると狐火は――
自身を襲う魔物を捕まえ、
+
――一方その頃。
リンカは冒険者たちを指揮しながら、
魔物たちが、同士討ち――共食いを始めるその瞬間を。
「な、何が起きているんだ!?」
「なんだ、勝手に同士討ちをして数を減らしてくれるのか?」
周囲の冒険者が騒ぎ出す。
中には、楽観的な考えを持っているものもいた。
しかし、ありえないだろうとリンカは踏んでいる。
何しろ――
「狐火がそんな優しい魔物なわけないでしょう。全員、周囲の魔物を警戒!」
「は、はい!」
共食いを始めた状況で、なおもこちらを襲ってくる魔物もいる。
どうやら魔物は、魔物にしか意識を向けなくなったわけではないようだ。
おそらく、人だけを狙っている状況から、
だが、それだけでは正確なことがわからない。
リンカは意識を集中させて、周囲で起きている出来事の把握に努める。
「た、大変だ! 魔物が……
「おいこいつ、下層に出てくる魔物じゃねぇか!?」
変化はすぐに訪れた。
近くの魔物を食べた魔物が変化――否、進化したのだ。
ここは現在、中層の入口である。
階層の魔物を全て討伐すれば、その階層に魔物はいなくなる。
なのでリンカ達は、魔物を殲滅しながら少しずつ前線を押し上げていた。
そんな中、中層の魔物が下層の魔物に進化したのである。
ここにいる者たちは、言うまでもないが下層の魔物を相手するのは厳しい。
「……全員聞いて! 魔物が共食いを始めた。魔物を食べた魔物は
リンカは、耳元に手を当てて叫ぶ。
そこにはイヤリングのようなものがあり、これはレイナの開発した声を一方的に届ける魔道具である。
リンカの声を、この場にいる全員へ届けることができる。
「おそらく、防衛戦の本番はここから。私の指示に従って、生存を優先しながら戦って!」
かくして、状況は加速していく。
+
「くそ、これなら数が多い方が楽だぜ!」
裏ダンジョンでは、ダグスが周囲の魔物を相手取りながら叫んでいる。
現在、裏ダンジョン攻略組は中層の半ばほどにいた。
攻略速度としては非常に順調と言っていい。
しかし、魔物が共食いをはじめてから、一気に状況が悪くなった。
「周りの連中と臨時でパーティを組むぞ! 前衛後衛をバランスよく配置し直していけ!」
「あいよ!」
その言葉に答えたのは鮮烈の二つ名を持つ冒険者。
彼女は光魔術を扱うため、後衛の適性もある。
周囲ではそれまでの単独攻略から、パーティ攻略に切り替えた冒険者たちが固まっていた。
もともと、周囲の魔物が強くなってきた時は臨時パーティを組む作戦になっている。
なので、パーティが組みやすいよう裏ダンジョン組は動いているのだ。
このあたりは、流石に歴戦といったところか。
「予定通りとは言え、流石にこのタイミングでパーティを組むのはちとはえぇな」
「こればっかりはしょうがないさ。嬢ちゃんの予想が悪い方向で当たっちまったからね」
「そォだな」
状況は悪い。
ただでさえ、パーティを組まなければ対処できない魔物が相手だというのに。
果たして、下層で共食い進化を果たした魔物はどれほどの強さになるのか。
しかもその共食いは、時間が経てば経つほど凶悪な魔物を生み出すだろう。
そうなってしまっては、ここにいる人間ではどうあっても対処できない可能性が出てくる。
非常にまずい状況だ、とダグスは考えて――
「……にしても、基本変態ちゃんの側でエセ敬語ばっか使ってるから、タメ口で話すアンタはちょっと違和感あるね」
「今そんな場合じゃないですぜ!?」
鮮烈から突っ込まれて、ダグスは思わずずっこけるのだった。
+
「最初のうちはてめぇが卑怯な手を使ったのかと思って、ちと頭が白くなっちまってたぜ、狐火」
「そいつは光栄よな。妾とて他者の力を使わねば行かんのは心苦しいのだ」
狐火は、魔物を喰らいながら獰猛に笑う。
当然ながら、魔物同士が共食いで強くなる特性は、狐火にも適用される。
「しかし、妾は最強であらねばならぬ、強くなければならぬ! ゆえにこそ、どれだけ無様だろうとこの力を使うぞ。貴様らを倒すためになぁ!」
気配がどんどん強くなっていく。
先程まででも、策を弄してなんとか戦えていたというのに。
これを許したら、手がつけられなくなってしまうだろう。
だからこそ――
「シドウ様! 狐火が隷属した魔物を利用するのは
「……そうだったな、わりぃ」
「ほう……その口ぶり。まさか今の妾に対抗する術があるというのか?」
――そうだ、狐火が魔物を従えるタイプの宿痾の主であると解った時から、こうなることは想定していた。
追い詰められた時に、何かしら魔物を使って行動を起こすだろう、と。
その内容までは確定できなかったものの、策を出し合いあらゆる状況に対応できるようにした。
そして今――
「ありますとも! さぁ、出番ですよ
切札を切る時が、やってきた。
ジャキーン、みたいなメンタルのカグラです