転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
この状況に至っても、狐火を完封するという私達の考えは変わっていない。
もともと狐火が隠し玉を持っていることは想定内だった。
魔物を従える宿痾の主が、ただ肉弾戦に特化しているだけとも思えなかったのだ。
結果、いくつもの予想が立てられ、その中の一つに今回の状況は含まれている。
しかし、考えられる状況の中で魔物の出現と共食い、それによる強化はかなり”悪い”予想だ。
何せ、あらゆる状況で厄介度が増すからだ。
表ダンジョンでも、裏ダンジョンでもそう。
この決戦の場に置いても、単純に魔物が増えてジャマだし狐火の強化という最悪の事態が起きている。
特に狐火が強化されるのが厄介だ。
たださえ現状、私とシドウ様は狐火を策で圧倒しているだけ。
純粋なスペックで言えば圧倒的に狐火が上で、それをどうにかこうにか埋めている状況である。
それが、一気に崩れかねない。
故に――
「――崩させません」
転移陣から、レイナさんが現れる。
ここまで、レイナさんはギルドのホールでずっと待機していた。
「その小娘! ……そうか、どこにもいないかと思えば、切札として待機していたのか!」
「俺達との戦闘、そして表と裏の激闘ですっかり認識から抜け落ちてただろう?」
最初のうちは狐火も意識していたが、やがて戦闘の中で意識から外してしまっていたレイナさん。
それをこの場で、戦力として持ってくる。
「だが、魔術師の小娘ごときに何ができる。妾を模倣するつもりか? 解っているぞ、完璧な模倣をすれば呑まれてしまうと。できて精々、頭のおかしい小娘に少し劣る程度の妾にしかなれんと!」
「頭がオカシイとはなんですか! 違いますよ、レイナさんのやるべきことは――」
そして、レイナさんが構える。
「――封印!」
直後、レイナさんが魔術を起動した。
封印魔術。
本来であれば、生命と引き換えに強大な宿痾の主を封じ込める魔術。
そう、本来であれば。
「封印だと? ……正気か? そんなことしても、意味は――」
「あります……この封印は、生命を代償としない効果の弱いものです」
ならばなおのこと、意味がないではないか。
狐火がそう考えていることは、手に取るように解る。
しかしその封印は――
「……多重封印!」
――私の多重強化のように!
「魔物たちが……!?」
途端、戦場の魔物が一気に動きを止めた。
封印の効果だ。
同時に――
「貴方自身にも効果はあるはずですよ、狐火。いえ、正確に言えば――
「――ッ!」
狐火の強化も、停止する。
この封印は狐火のような強大すぎる存在には効果がない。
しかし、弱い封印を多重に行うことで、周囲の魔物くらいなら止められる。
「レイナさんと鍛錬し、ずっと準備を続けてきました。私の多重強化を模倣し、魔物の動きを止めるために」
「あまりにも変態的な技術過ぎて、とっても難しかったですけど……二重強化まで、たどり着きました」
「ぬうう……しかし!」
――狐火が動く。
狙いはレイナさんだ……!
「鍵はそこの魔術師の小娘よ! それさえ殺せば、この状況などいくらでも――」
「――させねぇよ」
しかしそれを、シドウ様が正面から防ぐ。
「俺ぁレイナの父親だ。だからこそ、守る。殺させねぇ、二度とてめぇに俺の大切なものは奪わせねぇ!」
「小童ァ!」
――打ち合いが始まる。
シドウ様の動きは、先程と比べても段違いに良い。
守るべきものを前に、強くなれる人なのだ。
さぁ、ここからだ。
レイナさんを守りながら、狐火を……討つ!
+
激突する剣と拳。
狐火が暴れまわる中、私とシドウ様がそれを防ぐ。
レイナさんを守る関係上シドウ様は不動の構え、そこに私が遊撃を仕掛ける構えだ。
「カカカカカカ!」
戦闘は拮抗していると言えた。
私達の策はまだまだある。
魔力によって増えた私に、触れると魔力を爆発させる機能を追加してみたり。
レイナさんが増えたことでそれによる作戦も実行できるようになった。
中でも一番大きいのが身体強化魔術だろう。
強化量としては私達の身体強化には及ばないものの。
通常の身体強化とは別枠で、強化が発生する。
若干でも、純粋な強化は非常に有用だ。
私の多重強化は繊細だが、外部からの強化に対応できるように調整はちゃんとやっている。
それでも――
「どうしたどうした! 妾はまだ倒れておらんぞ!」
「チッ、さっきより隙がねえぞこいつ!」
狐火の牙城を崩せない。
まず、隙が減っている。
先程までの狐火には、こちらの策を楽しむ余裕があった。
しかし、腕を切られ絶体絶命の状況に陥ったことで意識を切り替えている。
私達を、自分を倒しうる敵と認めたのだ。
それ自体はありがたいことなのだが、結果として策を使ったうえで
このままでは、こちらの策が尽きかねない。
できることなら、策が残っているうちに決着を付けたいのだが。
向こうの底が見えてきて、その底を封じていられる今が、最も狐火を完封できる状況なのに……!
「焦れるなよ、レイナ! カグラ!」
「わかっています!」
「う、うん……!」
シドウ様が冷静になるよう促すが、限界は近いかもしれないな……!
+
カグラ達が攻めあぐねている一方で、他の戦場はどんどん状況が悪くなっていた。
まず、表ダンジョン組は押し上げていた前線の後退を余儀なくされていた。
すでに三つ分の階層を押し戻されている。
一番まずいのは、転移陣で上の階層に戻ると冒険者の位置がバラバラになることだ。
位置が不明になる関係で、連携が難しくなる。
それを統率するリンカも手が追いつかない。
「うわあああ! だめだ、魔物が強すぎる!」
「私が行くまで耐えて!」
現状、表組が倒せない魔物はリンカが倒すしかないのだ。
危なそうな場所を飛び回り、なんとか現状を維持するのがやっと。
そしてそれも、だんだんと限界を迎えつつあった。
「くそ、もうだめだ! 俺を置いて逃げろ! 少しでも時間を稼ぐ!」
一人の冒険者が限界を迎えようとしていた。
その状況はリンカに伝わっていない。
周囲の冒険者が、一瞬迷いながらも後方に退避していく。
残念ながらこの状況は、最初から想定されていたものではあった。
どうしたって、二つ名持ちほどの実力を持たない冒険者を束ねるのだ。
どこかで限界は来る。
異世界肝練りによって、度胸だけは彼らもつけている。
故にこそ、この状況でも覚悟はできていた。
あとは
「ちくしょうやってやる……! やってやるぞ!」
覚悟は決めた。
胸元に身につけたペンダントを握りしめる。
それでも怖い。
だが、やるしかない。
「かかってこい、オラああああ!」
そして男は、決死の突撃を敢行し……
一方、追い詰められているのは裏ダンジョン組も変わらない。
「ったく、キリがないね!」
鮮烈の冒険者が叫ぶ。
周囲にはポン君を始めとした彼らにとっても荷が重い魔物が闊歩している。
しかも、共食いでさらに彼らは強くなるのだ。
「もうすでに下層の魔物が混じってるだろォな。ここからは、下手な宿痾の主級が相手になるぞ」
「ポン君くらいならいいんだけどねぇ、愛嬌もあるし金玉もでかい」
「後者の感想はいらねぇよ」
表ダンジョン組との違いは、ここまで裏ダンジョン組が一度も後退していないこと。
表組は数が多く、統率も取れないため後方に下がる選択を取るが、こちらは精鋭揃いだ。
転移でバラバラになるよりも、戦線を維持する方が強い。
「……新しいやつだ」
不意に、声がする。
驚いて周囲の冒険者が声の主を見た。
声を出したのが
「あいつが喋ってるところ初めて見たよ」
「俺もだ。しかし……声を出すだけはあるな」
ダグスと鮮烈が、顔を見合わせてから呟く。
彼らの顔は互いにどこか呆れに近い感情を浮かべていた。
何せ、
「こいつら、魔物じゃねえ。
ダグスは以前、カグラが討伐した宿痾の主、剣豪鬼について聞いたことがある。
目の前に、聞いた姿に近しい敵がいる。
裏ダンジョン組も、いよいよ状況は最悪と言っていいものになりつつあった。