転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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八十一 狐火死闘②

 いよいよ持って、残りの策が少ない。

 といっても、後半に行けば行くほど策は本命になる。

 唯一の例外は人読みによる連携だ。

 あれはシドウ様がレイナさんの護衛に入ると使えなくなる。

 いや、使えなくはないのだが、やはり有効なのはシドウ様が自由に動けるタイミングなのだ。

 なんにせよ、私たちは有効であろう策を取る。

 

「カグラぁ!」

「はい!」

 

 シドウ様が叫び、行動を起こす。

 これが合図だ。

 私とシドウ様が、役割をスイッチするのである。

 

「……ほう、その気配。アレを使うか!」

「実戦で使うのはテメェとの戦い以来だ。今度こそこいつで死んどけよ狐火ィ!」

「カカカカ! 断る!」

 

 シドウ様が、狐火に切り掛かりながら前に出る。

 驚くべきことに、狐火を押さえつけているのだ。

 如何にして狐火を抑えているか。

 理由は二つ、一つは武器。

 稲妻を迸らせるその体験から、猛烈なまでの稲光が溢れシドウ様を包んでいるのだ。

 この光が、シドウ様の身体能力を大幅に強化している!

 もう一つは――レイナさんだ。

 

「そも、その光はそちらの魔術師の小娘が与えているのだろう。そちらを害せば効果は消える。あの時、貴様らがなぜ負けたのか、よもや忘れたとはいわせんぞ!」

「残念ながら、今回は私がいます!」

 

 ――前回。

 シドウ様とその奥様は、今レイナさんがやっている強化によって大幅に強くなったシドウ様が暴れることで狐火を追い詰めた。

 しかし、最終的には狐火がその弱点を見抜き、奥様の方に致命傷を与えることでそれを阻んだのだ。

 結果、生命が長く持たないと悟った奥様は、封印魔術を行使した――

 今回だって、レイナさんとシドウ様だけなら同じ轍を踏むだろう。

 しかし今回は私が――

 

「らぁ!」

「ぬう、また魔力か! 面倒な!」

 

 魔力の刃によってシドウ様を援護する。

 何より、こちらを狙っても私がレイナさんを守るから、以前のようには行かない。

 

「今度こそ、てめぇにこの剣を叩きつけて……やる!」

「ふん!」

 

 シドウ様と狐火が激しくぶつかり合う。

 私の魔力の刃もあって、狐火は動きにくそうだ。

 そのうえで、シドウ様は先程よりも大幅にパワーアップしている。

 私と全く同時に狐火を攻撃した時ほど追い詰めてはいないが、それでも若干シドウ様が優勢だ。

 私が援護しているだけではなく、レイナさんも加わっているのだから、優勢でないと困る。

 

「らぁ!」

「はっ!」

 

 唸る大剣、豪快に振るわれるそれを狐火が最小の動きで捌く。

 普段であれば逆の立場で行われるだろう剣戟。

 狐火は、明確に追い詰められている……!

 しかし――

 

「カカ! 小娘どもを狙う意味がないのなら、このような小細工に付き合う義理などないわ!」

「んだと!?」

 

 狐火が後退する。

 封印によって停止した魔物の間をすり抜け、幻惑するように。

 シドウ様は魔物を薙ぎ払いながらそれを追いかける。

 しかし、距離は稼がれてしまった。

 

「この封印は厄介だが、所詮は小細工程度よ」

 

 いいながら、魔物の一体に狐火が食らいつく。

 距離を取られると魔力の刃が有効ではなくなり、シドウ様一人では狐火のそれを妨害しきれない。

 

「いくら食った所で、魔物はこの封印下じゃ動けねぇだろうがよ!」

「そうだな。()()()()その通りだ」

 

 狐火の狙いが見えない。

 これは完全に、想定外の行動だ。

 しかし同時に、どこか既視感がある。

 私はこの光景を、以前に何処かで見た覚えが――

 

「しかし、だ。魔物は所詮、宿()()()()()()()()()()にすぎぬ。それを混ぜ合わせれば――どうだ?」

 

 ――まさか。

 思い出した、この光景の既視感。

 

「シドウ様! 気をつけてください!」

「ああ!?」

()()()宿()()()()()()()()()()!」

 

 直後。

 狐火の右手がズレたと思った瞬間。

 

 

 狐火の右手から伸びた()()がシドウ様を吹き飛ばしていた。

 

 

 ――見えなかった。

 あまりにも早いそれを、シドウ様はギリギリで受け流しながら吹き飛んだようである。

 私達の近くまで吹き飛びながら、なんとか態勢を立て直していた。

 

「貴様らの行動を見ていれば解る。妾を無傷で制したかったのだろう。しかしそれは失敗したな」

 

 見れば、シドウ様の体に裂傷が見える。

 致命的な部分を防いで、余波だけでダメージを与えてきたのだ。

 そして私達は、狐火の変化を理解した。

 狐火の片腕が、全く別のものになっているのだ。

 狼の頭、とでも言うべき形。

 

「カカカ! 驚いているようだな。解るだろう? この手は我が生み出した宿()()()()よ!」

「魔物同士の共食いが、宿痾の主を生み出すってのか」

「……以前、融合して強くなる宿痾の主と戦ったことがあります。理屈は同じでしょう」

 

 「ヨース」の街で戦ったあの宿痾の主だ。

 そしてどうやら、レイナさんの封印は宿痾の主を止められるものではないらしい。

 

「――さぁ、頭のおかしい小娘、ここまでの差配は貴様がしたことだろうが……ここからは貴様も先を描かぬ未知ぞ?」

「失礼な、人を悪辣な軍師みたいに」

「そうだと言って……おるだろうが!」

 

 そして、狐火が動く。

 厄介なのは――やはりあの狼だ。

 こいつ、伸びるのである。

 鞭のようにしならせながら、こちらに食らいつこうとしてくる!

 速い……! ほとんど感覚だけで疾討を合わせた。

 激しい衝撃とともに、私の体が吹き飛ぶ。

 狐火の膂力に、宿痾の主の出力が乗っている――先程までの比ではない!

 

「カカカカ! どうしたどうした!」

 

 ほとんど防戦一方のまま、狐火の連打を受ける。

 レイナさんによって強化を受けているシドウ様は、ギリギリ受けれているものの。

 私はなかば翻弄されていた。

 疾討の不壊と手から離れない特性がなければ、とっくに致命傷を受けて戦線を離脱していただろう。

 そしてシドウ様も、長くは持たないはずだ。

 

「そうらどうしたどうした! このままでは、お前が二度と妾に奪わせないと豪語した小娘に牙が届くぞ!」

「いちいちうるせぇぞ……! 俺は七刀最強の”覇乱王道”シドウだってんだよ……! 守ると誓ったなら、守り切るんだよ……!」

 

 激しいぶつかりあいの中で、シドウ様の手ががむしゃらに動く。

 もはや、意識的に振るっている剣はないだろう。

 限界を越えた速度、限界を越えた技術でもって狐火の攻撃を受けている……!

 視線を向ければ、不安そうなレイナさんがシドウ様を見ていた。

 そんなレイナさんに、語りかけるようにシドウ様がこぼす。

 

「安心しろ。俺ぁ最強だ。お前の父親のシドウ何だぞ? いつも言ってたじゃねぇか。俺は誰にも負けねぇって」

「パ、パパ……」

 

 しかし、シドウ様はどんどん追い詰められている。

 私はなんとか魔力の刃で援護しようとするが、狐火は気にかけてもいない。

 おそらく、今の狐火を止めるには四重強化の魔力放出では全く足りていないのだ。

 

「だから、ここは俺に任せて……レイナは逃げろ」

「パパ!?」

 

 ――それは。

 

「……カグラぁ! レイナを連れてここを攻めてる冒険者を撤退させろ! 国から応援を募り、てめぇが率いて狐火を討て!」

「何を言っているのですかシドウ様!?」

「――解ったんだよ。これがこいつの()だ」

 

 敗北宣言であるはずなのに、随分と明るい言葉だった。

 

「解るぜ狐火。てめぇは魔物を喰らい強くなるが……今のてめぇが上限だ」

「…………」

「何せ、魔物は共食いで強くなっていく。最終的に、それは宿痾の主にすらなれちまうんだろうが……これ以上強くなったら、その宿痾の主がてめぇより強くなっちまう」

 

 シドウ様の言うことは最もだ。

 狐火は、自分が最強でなければ気がすまないタイプだろう。

 であれば魔物の融合が、一定以上の強さになるとは思えない。

 そしてそれは、宿痾を取り込んだ狐火自身の強化上限にもなる。

 

「底が見えちまえば、対策が取れる。レイナとカグラなら、必ず()()()()()()()()()()()()。俺達は勝てるんだよ。そのために今は俺が時間を――」

「――シドウ様」

 

 だからこそ、私は問いかけた。

 

「それは事実なのですね」

「……ああ、だから」

「なら――」

 

 私はレイナさんを見た。

 レイナさんは、少しだけ不安そうな顔をしてから――覚悟を決めたように頷く。

 

 

「私達の勝ちです。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 言ったはずだ。

 狐火は完封する。

 ――底が見えたなら、それは可能だ。

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