転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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八十二 狐火死闘③

 ――表ダンジョン。

 一人の冒険者が、仲間を逃がして決死の突貫に打って出る。

 しかしそれは、言うまでもなく上手く行かない。

 一瞬の時間すら稼げず、男は魔物によって薙ぎ払われ――

 

 

 ペンダントが砕け、男の致命の一撃を防ぐ。

 

 

 男が、突撃の前に握りしめていたペンダントだ。

 それは魔道具である。

 致命の一撃を、自身の自壊と引き換えに一度だけ防ぐ魔道具。

 レイナが開発し、表組の冒険者()()に配られていた。

 つまり、男はこの一撃で死なないことは解っていたのだ。

 それでも、死にかけるような一撃を受けるのには覚悟がいる。

 加えて言えば、一度防いだ程度で眼の前の魔物をどうにかできるわけではない。

 この状況が、絶望的なことに変わりはないのだ。

 しかし――

 

 ――そもそもこのペンダント、一体何を元にしているのだろう。

 

 形状は、さながら小さな剣の様に見える。

 剣? であればこのペンダント、開発したのはレイナだが。

 ――所有者は、一体誰なのか。

 

 

「――――よくも、私の可愛い可愛いこの子を破壊してくれたわね」

 

 

 男の眼の前に、それはいた。

 鬼だ。

 人の形をした鬼がそこにいる。

 すなわち、リンカである。

 

「破壊して! くれたわねぇええええ!」

 

 武器の破壊によるバーサクスイッチ。

 それを強引に押したリンカが、空間転移めいた速度で飛んできたのである。

 何たる執念、何たる横暴。

 ――表組ダンジョンはもし致命的な窮地に陥った場合、一人が残って他の冒険者を逃がすことになっている。

 そして、致命的な一撃をペンダントに肩代わりさせたら、後はそれに反応して飛んできたリンカが魔物を鏖殺するわけだ。

 ペンダントがなくなった冒険者はここで脱落、転移陣からホールに撤退。

 これが、表ダンジョン攻略の切札。

 

 保険と狂えるリンカ作戦――その肝であった。

 肝練りだけに。

 

 

 +

 

 

 裏ダンジョン組は進退が窮まっていた。

 宿痾の主すら出てくる状況に、彼らだけでは対応しきれないのだ。

 とはいえ、全くの無策というわけではない。

 むしろ、だからこそできることもある。

 

 

「宿痾の主同士をぶつけろぉ!」

 

 

 宿痾の主は強く、そして強大だ。

 ゆえにこそ、その攻撃の威力は広範囲にまで広がる。

 容易に、()()()()が発生してしまう。

 どうやら宿痾の主同士は共食いを行わないようだが、それでも互いを攻撃しないわけではない。

 特に宿痾の主は思考や感情があると言われているから、それを刺激してやれば宿痾の主同士を殺し合わせることも可能だ。

 

「それにしても、宿痾の主同士は連携しないなんて、嬢ちゃんもよく考えたね」

「姐さんは、宿痾の主と何度か戦ってるそうでやすからね。そこからの推察でさぁ」

 

 これを思いついたのは、言うまでもなくカグラだ。

 一体あの少女が、どこまで考えて策を用意しているのだか知らないが、まったくもって底が知れないと鮮烈は思う。

 ともあれ、裏ダンジョン組は今だ窮地であることに変わりはない。

 しかし、打てる手がなくなったかといえば、そうではないのだ。

 むしろ逆。

 この状況を利用して、彼らは宿痾の主を殲滅する為動いていた。

 

「このまま、少しでもこいつらを倒そうじゃないか!」

「おお!」

 

 かくして、裏ダンジョンの戦闘は激化する。

 混沌しまくっている状況で、二つ名持ちの冒険者たちは自身の力を極限まで振り絞っていた。

 

「にしても、やっぱエセ敬語みたいな喋り方のほうがしっくりくるね」

「まだその流れつづけんのかよ!」

 

 どうやら、多少の余裕もありそうだ。

 

 

 +

 

 

「――おい、何をするつもりだ?」

「見ていればわかりますよ」

 

 これから打つ一手を、シドウ様は知らない。

 だって知ったら絶対反対するから。

 いや、正確に言うと――

 

「……成功する、成功する、成功する!」

「おいカグラてめぇ、相談しなかったの成功が確実じゃねぇからだろ!」

「なんのことかわかりませんね! いいですかレイナさん、宿題は最終日にやるものですよー!」

「何のこと言ってるかわからないよぉ!」

 

 ぶっつけ本番にしかならないのだ。

 でも、勝算はある。

 

「私を模倣するつもりで行きましょう、レイナさん! 私はいつだって、土壇場でこういうのを成功させてきました!」

「……は、はい!」

 

 レイナさんには、模倣がある。

 他人の行動を理解し、再現できるのだ。

 私の意外性も、レイナさんなら!

 

「――何をするのか知らんが」

「……行きます!」

「させるわけないだろうが!」

 

 そして、狐火が動く。

 狼の口を、レイナさんに向けて放ったのだ。

 それを――

 

 

「カカカ!」

 

 

 レイナさんが()()()()()()()、弾く。

 否、正確には少し狐火とは違う。

 具体的には、カラーがレイナさんのものになっていた。

 全体的に黒く、そしてどこか艶がある。

 

「妾の模倣程度で――」

「カカカカカ! 模倣では……ありません!」

 

 狐火が、レイナさんを攻撃しようと迫る。

 しかしレイナさんは、()()()()()()()()でそれに返した。

 笑い方こそ狐火を模倣しているが、自我はレイナさんのものだ。

 そして――

 

「させま……せん!」

 

 私が間に割ってはいる。

 即座に弾かれてしまうものの、レイナさんが距離を稼ぐくらいの時間は用意できた。

 そしてレイナさんは――

 

 

 ()()()()()()()()

 

 

「なっ――」

 

 シドウ様が目を見開く中、レイナさんは食らった魔物の瘴気を体内に取り込む。

 

「カカカ! 狂ったか貴様! 人が瘴気を取り込めば死ぬだけだ!」

「いいえ、そうではありません。レイナさんは魔物を封印できるんですよ? 当然その根源たる瘴気も封印し――」

 

 封印するということは、一つの箱に押し込めるということだ。

 そして瘴気は、世界を害する力。

 それを押し込んだ箱は、いびつに――そしてどこまでも強大になっていく。

 

()()()()()()()

 

 レイナさんの手に、黒い手甲のようなものが出現する。

 アレは間違いなく、瘴気の塊だ。

 これから狐火をぶん殴る――最高の武器。

 魔物に対して瘴気は意味をなさない。

 しかしここに、箱という形で魔力を混ぜる。

 反発しあうそれらは、触れただけで人も魔物も消し飛ばしかねないほどに力をうねらせていることだろう。

 

「……成功しましたね、レイナさん」

「カカ、……そうだね。制御は大変だけど、これなら行けるよ。カグラちゃん」

 

 私とレイナさんは、互いに視線を交わして笑みを浮かべる。

 アレだけ練習しても成功しなかったのに、どういうわけか本番になればすっと成功してしまうのだ。

 そこにたどり着くまでの研鑽、経験、そして努力。

 どれもこれも、成功には絶対に必要なピースだ。

 

「――シドウ様。これでレイナさんは、もう守る必要はありません。私やシドウ様と、肩を並べて戦えます」

「……ああ、ったく。カグラ、お前さんは本当にトンデモねぇな」

 

 シドウ様は、ガリガリと頭を掻いてからこぼす。

 その体は今も光を帯びている。

 レイナさんの強化は、今もシドウ様に生きているのだ。

 

「色々いいてぇことはある。だが、これだけははっきりしたよ。カグラ、お前さんの発想力……意外性は誰にも負けることはねぇ」

「……」

「意外性って分野に関しちゃ――間違いなくお前さんが最強だ、カグラ」

 

 その言葉に、私はただ笑んで返す。

 七刀最強。

 この街にやってきて、私が目指した本物の最強に、自分の最強を認められたことが嬉しかった。

 

「これで、先程までは取れなかった戦術が取れますね? 私達が考えた戦術の中で、おそらくもっとも有効な戦術を」

「言われなくても解ってら。ここにいるのは俺、レイナ、そしてお前さんだ、カグラ」

「私達三人には、同じ特技があります」

 

 ――人読み。

 相手の行動を先読みし、それに合わせる能力。

 三人が三人、高い人読み能力を有している。

 

「カカカ、そうか、そうか。……貴様ら三人を文字通り()()に相手どれというわけか!」

 

 狐火が、どこか呆れたように笑みを浮かべ。

 

 

「いいだろうかかってこい! 底が見えた? 勝ちが確定した!? ――ほざくなよ、最強は妾だ……!」

 

 

 ――襲いかかる。

 さぁ、最終局面だ!




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