転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
三者三様、攻撃を狐火に集中させる。
その攻撃は一瞬の乱れなく、全く同時に狐火へ迫るのだ。
重要なのはお互いの呼吸だけを意識すること。
狐火の動きは、私達の攻撃に自然とついてくる。
私達はただ、眼の前に迫る狐火の攻撃だけを対処すればいい。
とにかく、ただただ狐火を打ち倒すことだけを考えるのだ!
「――舐めてくれるなよ! 人間風情がぁ!」
狐火が、片腕の狼を振り回してくる。
その速度は音を軽く越え、私だとほとんど反応できない。
威力もある。
アレに噛みつかれたら、一発でアウトだろう。
しかし同時に――狐火の持つ部位の中では最も脆い。
それはすなわち――
「させま……せん!」
レイナさんの手甲が、一撃で狼の一部を消し飛ばす。
――私達三人の中で最も一撃の威力が高いのは、レイナさんだ。
あの手甲は、狐火本体はともかくその付属物である狼の宿痾の主くらいなら簡単に吹き飛ばす威力がある。
といっても、おそらく核であろう顔面を殴らなければすぐに再生してしまうし。
それが解っているからか狐火はレイナさんの手甲に狼の口を近づけないが。
「生意気な真似をしてくれるなよ! 魔術師の小娘ぇ!」
「させるかよ……っ!」
故に狐火は、自身の手でレイナさんを縊り殺そうとしているのだが。
そこへ割ってはいるのがシドウ様だ。
狼の宿痾の主を取り込んだことで、狐火本体のスペックも高くなっている。
それに対して、こちらもスペックを極限まで引き上げたシドウ様が正面を受け持つ。
私とレイナさんが同時に攻撃するせいで、手数が足りずシドウ様と狐火は半ば拮抗していた。
「――そして、行きなさい私部隊! 突撃ぃ!」
「小娘ぇ! 貴様が一番意味が判らん! この中で最も弱いのは貴様だろうがぁ!」
狐火の言う通り、現在レイナさんとシドウ様と私。
この中でもっとも弱いのは私だ。
私にはレイナさんのような武器もなければ、シドウ様のようなスペックもない。
もともと、私は強化前の狐火とシドウ様の戦いにギリギリ割って入れるくらいの能力しかない。
なので、本来ならここで私は足を引っ張るおじゃま虫のはずなのだ。
だけど私には、私だけの武器がある。
多彩な攻撃手段――意外性というその武器で、この戦いに食らいつくのだ。
現在は、無数の私を魔力で形成、撹乱しながら本体で不意をつく形で攻撃を仕掛けている。
正面から打ち合っているシドウ様、武器だけを気にしていればいいレイナさん。
どちらも脅威ではあるが、狐火からしてみれば戦いになるだけ”愉しい”相手だろう。
対して私は、何をしてくるかわからないという厄介さがある。
「その意味のわからなさこそが、私です! 私が積み上げてきたものなのです!」
こうして、頂上決戦に至らぬ立場で臨んだことで、強く痛感する。
私はまだまだ最強には届かない。
シドウ様に勝ったって、狐火をここまで追い詰めたって。
私が、誰にも負けない修羅になったということにはならないのだ。
むしろ逆、こんなにも届かないのかと思ってしまうくらい。
ここにいる誰もが、私よりも先を行っている。
だとしても、私がここにいる意味はきっとあるのだ。
「弱いものに意味はないといいましたね、戦うことが無駄だと! ――そんなことはないと、私はいいました」
「ふん、だからどうした! あの時、貴様は何を言おうとしたのか知らんが、無駄であることに変わりはあるまい」
「そういえば、途中で楽しくなり過ぎて話が中断していたんでしたね」
「貴様あの痴態を忘れていたのか……!?」
痴態? 何のことだろう。
私は楽しすぎて、ちょっと興奮していただけなのだけど。
何にせよ、あの時私はそれを否定した。
「弱者との戦いにも、意味はあります。何故なら――それは、弱者を知るということにつながるからです!」
「弱者を知る? 意味のないことをするのだなぁ、貴様は!」
「わからないでしょうね、そもそも弱者と戦うことを拒否する貴方には」
狐火の、ある程度の威力がないと攻撃が通らない能力。
弱者を拒絶するその姿勢は、狐火から理解を奪っている。
弱者がどんな存在であるか、狐火は知らない。
「人は貴方と違って、生まれた時から強かったわけではありません。才能に恵まれた天才であろうと、剣を振り始めた時はただの人間です」
「それがなんだ? そんなものに、妾が意識を向ける必要はない。妾は人間の敵、ならば敵となる眼の前の人間だけを意識していればいい!」
「そうかもしれませんね。でも、だからこそ……貴方は目を向けてこなかった」
人は、弱者から強くなるという事実を。
どんな人間だろうと、努力によって強くなることができるということを。
「全ての人間が、強くなれるわけでもないのだろう。中には怠惰で、価値のない、生きているだけの塵芥がいるのだろう。そんなものにまで意識を向けてやる義理はない。妾はただ強くなれればそれでいいのだ!」
「確かにその通りです。強くなりたいと思っても、環境がそれを許さない人間はいます。強くなろうと思わない人間もいます。ですが……!」
三者の剣が、狐火を狙う。
少しずつだが、狐火の動きが見えてきた。
追い詰めているという確信がある。
でも、あと一手たりない。
決定的な、狐火を倒す最後の一手が――!
「強くなろうという意志を、揺らぐことなく持ち続けていれば……!
正面からの攻撃を、シドウ様が凌ぐ。
狼の攻撃を、レイナさんが牽制する。
そんななか、私の刃が狐火を狙い――奔る!
「そんな単純な突貫など!」
直線的な突撃だった。
ただただ速度に任せた、駆け抜けるだけの一撃。
シドウ様やレイナ様とタイミングを合わせたとは言え、あまりにも稚拙すぎる一撃だ。
これでは、狐火は刃を避けるだけでいい。
狼の口でレイナさんを凌ぎ、シドウ様の剣を腕で受け止め。
私の剣を首を振って回避しようとした瞬間――
「なっ!」
「だあああああ!」
型もない、技もない。
ただただその身を最高速で狐火にぶつけるだけの一撃。
だがそれでも、狐火に――届いた。
「なにを、した!」
驚愕する狐火。
だが、理屈は至って単純だ。
今の私の刃は
濃密な魔力を纏わせて、私自身が稚拙な一撃を放ったように見せかけただけの。
それと同時に、私は可能な限り魔力を消して突撃した。
シドウ様に分身の中から攻撃をしかけたのと、理屈は同じだ。
私の身体強化は繊細だ。
武器を持っていることを前提としており、徒手空拳には対応していない。
それでも、ただ体を突撃させることくらいならできる。
結果として――
「流石に、
狐火は、態勢を大きく崩す。
そして――私の手には、再び疾討が握られる。
狐火の上にのしかかるような形で、刀を構えた。
「小娘ぇええ!」
「狐火。弱者には、強くなるために考え前進する力があります。貴方を倒すために作り上げた無数の策はただ私が考えただけではありません! 多くの人の強くなりたいという意志が、強者を倒す鍵となるのです!」
多くの人たちから意見を募り、それをまとめ上げた。
その中には、戦う力のない弱者の意見もある。
多くの人が、狐火を倒すために頭を悩ませ、そして策という形でそれを現実にしたのだ。
「てめぇには、多くのものを奪われた! その恨みが、てめぇに俺の剣を届かせる! 奪われるものが弱者だとしたら、これは弱者の剣だぞ、狐火ぃ!」
「ママが残してくれたもの、パパが私に教えてくれたもの! その全てを持って! 私はここまで強くなりました! その一撃を……これに賭ける!」
――三者の攻撃が、同時に狐火へ迫る!
寸分違わず、回避の余地を与えず!
「――妾は狐火! 六大宿痾が一角ぞ! 弱者などねじ伏せる! 貴様らも、妾の前に弱者となれ!」
狐火の拳が、狼の口が、そして――
脳天へ刃を突き立てようとする私に――狐火の
「……っ!」
「おおおおっ!」
「りゃああああああああああっ!」
だけど、態勢を崩した状態で放った無茶な一撃は、今の私達を止められない!
狼の口をレイナさんがぶち壊し、狐火の拳をシドウ様が叩き切る。
「狐火!」
そして私の剣が――――
狐火の脳天に、突き刺さった。
次回決着です。