転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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八十四 決着

 確かに、手応えはあった。

 取った――確信を持ってそう断言する。

 しかし、それでも。

 相手は狐火だ。

 最強であろうとする、強者だ。

 

「ま、だ、ァ!」

 

 脳天を貫かれながら。

 それでも狐火が動く。

 それは、私ですら予想していなかった一手。

 

 ――狐火の腕は狼の口に覆われていた。

 それは、腕が狼の口に変化したように思われたのだ。

 しかし、違う。

 アレはあくまで取り込んだ宿痾の主にすぎず、まだ――腕(・)は(・)残(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)。

 

「――レイナさん!」

 

 崩壊する狼の中から、狐火の腕が露出する。

 それはすでに動き出しており、間近にいたレイナさんに強襲を仕掛けるのだ。

 慌ててレイナさんは手甲でそれをガードするものの――

 

 

 凄まじい勢いで手甲が炸裂、私達は一様に吹き飛んだ。

 

 

 もともと、魔力と瘴気を激しくぶつけ合わせて作られた武器だったのだ。

 そこにバランスを崩すような一撃が叩き込まれれば、形を保てなくなるのは当然の摂理。

 このとき、私は狐火を盾とした。

 シドウ様も大剣を盾とする。

 故に、吹き飛んでも意識は保てる。

 しかし、レイナさんと狐火は違う。

 真正面から炸裂をもろに受けたレイナさんは吹き飛び――倒れる。

 そして狐火もまた、炸裂した手甲で前身をズタボロにしていた。

 

「レイナァ!」

 

 シドウ様が叫ぶ。

 ごろごろと転がって、レイナさんは模倣魔術による変身を解除した。

 近くに吹き飛んだ私が慌てて駆け寄り、呼吸を確認する。

 ――死んではいない、かなり危ない状態だが帰還して治療すれば問題ないはずだ。

 しかし、意(・)識(・)が(・)な(・)い(・)。

 この状況で、それはあまりにも致命的だった。

 なにせ――

 

「カカ、カカカ――カカカカカカカ!」

 

 高らかに響く笑い声。

 ズタボロになり、もはや消滅を待つのみとなった狐火が、嗤っている。

 

「カカカカカカ! ――見事! ああ、見事! 認めよう! 妾の負けだ!」

 

 ゆっくりと、崩れ落ちるその体から。

 あ(・)る(・)も(・)の(・)が吹き出ようとしていた。

 

 

「だが、故にこそ……六大宿痾という名の試練。貴様らは如何に立ち向かう――!?」

 

 

 ――瘴気だ。

 六大宿痾が敗北する際に吹き出るそれは、六大宿痾を討伐した英雄を飲み込む。

 本来ならそれを、私達は多重封印によって抑えるつもりだった。

 しかし、この場で唯一それが可能なレイナさんの意識がない。

 半ば死にかけている状態のレイナさんを覚醒させることはあまりに危険で、時間もないのだ。

 

 ――どうする。

 どうする? どうする!?

 

 思考が急速に回転し、しかし結論を見つけられずに時間がだけがすぎる。

 永遠にも思える時間。

 しかし実際には、一秒にすら満たない時間。

 私は考え、考え、しかし答えは出ず。

 ――最終的に、頭の中が真っ白になっていく。

 そこに、

 

 

「何呆けてんだカグラぁ!」

 

 

 シドウ様の叫びで、正気を取り戻す。

 見れば、すでに瘴気は私達に襲いかかろうとしていた。

 レイナさんの意識が失われたことで、強化が途切れたシドウ様が私の前に立っている。

 それはまるで、私とレイナさんを守ろうとしているかのように。

 

「シドウ様!?」

「レイナを連れて逃げろ! ここは俺が……どうにかする!」

 

 迫りくる瘴気。

 それに対してシドウ様は、大剣を振り上げる。

 無茶だ、意味などない。

 そう考えてしまうが、しかし。

 

「おらぁあああ!」

 

 シドウ様は魔(・)力(・)を(・)放(・)出(・)し(・)て(・)そ(・)れ(・)を(・)抑(・)え(・)た(・)。

 私がやっているような、しかし本来ならシドウ様ができないはずの技術。

 いや、違う。

 シドウ様ができないのは多重強化による魔力放出だ。

 今のそれは、ただ純粋に魔力を瘴気にぶつけているだけ。

 もともと普通の人間は私と比べて圧倒的に魔力の消費が重い。

 それに加えて、こんな魔力の使い方したら――

 

「駄目ですシドウ様! そんなことしたら――!」

「黙ってレイナを連れて逃げろ、つってんだよ! 他に方法があるってのか!?」

 

 確かに、それは全く持ってその通りなのだ。

 考えて考えて、それでも答えが出なかったのだから。

 今は、シドウ様が長年鍛え上げてきた魔力の総量でゴリ押しているだけ。

 魔力は鍛えれば鍛えるほど量が多くなる、今の私ではどうやってもシドウ様の助けになるほどの魔力を放出できない。

 ――ダメだ、詰んでいる。

 

「――いいんだよ。俺は狐火を倒すことが生きる意味だった。それを成し遂げた今、もう悔いはねぇ」

「シドウ、様……」

「何より、レイナがいる。この街がある。そして――お前さんがいる、カグラ」

 

 ゆっくりと、シドウ様が押されている。

 もう、長く話をする余裕はない。

 

「レイナがいれば、俺(・)達(・)の意志は次につながる。街があれば、俺の生きた意味はある。そしてカグラ、お前さんがいれば――お前さんはいずれ、最強になる」

「…………」

「言ったな。強くなろうとする意志があれば、弱者の剣は強者に届く……と」

 

 シドウ様が、視線を向ける。

 

「――その体現がお前さんだ、カグラ」

 

 私は、確かに。

 才能のない人間が、努力と発想で最強に至ろうとしている存在だ。

 私の言葉を、私自身が体現している。

 

「言ったよな、お前さんは。自分自身が最強だと思うものこそ、最強だと」

「……いい、ました」

「だったら俺は、確信したぜ。今のお前はまだ最強じゃねぇ。しかし何れ、お前さんがこのまま進んでいけば」

 

 シドウ様は、その時。

 

 

「お前さんは、何れ最強になる。だったら、俺が思う最強は、お前さんだ」

 

 

 とても、これまで見たこともない優しげな笑みを浮かべていた。

 

「――行け! お前さんは最強になるんだろう!? だったら、ここで止まるな! レイナとともに先に進め!」

 

 いよいよ、限界が近づいている。

 もうこれ以上、シドウ様と言葉をかわす余裕はない。

 レイナさんを連れて逃げなければ、私達まで瘴気に飲まれてしまう。

 シドウ様の思いが無駄になる!

 

 ああ、

 

 でも、

 

 私は――

 

「――――――――い」

 

 動けない。

 

 動けなかった。

 

 眼の前のシドウ様をみて。

 

 動くことが、どうしてもできなかった。

 

 逃げることができなかったのだ。

 

 だって、

 

 だって、だって、だって――

 

 

「――――――――――――ず(・)る(・)い(・)」

 

 

 ずるい。

 そんなの、あまりにもずるい。

 言ったじゃないか。

 死者に最強は求めるな、って。

 でも、でもでも、でも!

 

「それじゃあ、思っちゃうじゃないですか。今こうして、私達を送り出してくれるシドウ様は、あまりにも、強く、気高く」

 

 だって、今、眼の前にいるシドウ様は――

 

 

「あまりにも、最強にふさわしい!」

 

 

 私は、逃げなかった。

 疾討を構えて、一歩前に出た。

 

「――カグ、ラ?」

「認めません。ここでシドウ様が死んだら、私の中でシドウ様が最強になります。そして最強になったシドウ様に、私が追いつくことができなくなります!」

 

 死んだら、そこでおしまいだ。

 もう二度と、その人に勝てなくなる。

 母上は、私が生まれた時にはもう死が定まっていた。

 仕方のないことだと、受け入れるしか無かったのだ。

 でも、今は違う。

 まだ、私はここにいて。

 私には、で(・)き(・)る(・)こ(・)と(・)が(・)あ(・)る(・) (・)。

 

「カグラ、お前さん、まさか――」

 

 ――シドウ様には、今私が何をしようとしているか、解るはずだ。

 かつて、私がシドウ様と初めて会った時。

 腕比べなら勝てると、そう豪語したことがある。

 だが、普通に考えて当時の私は身体強化の比重変化を使えないし、四重強化だとシドウ様に膂力で勝てない。

 だけど、一つだけ。

 私には、あの時。

 やれるか(・)も(・)し(・)れ(・)な(・)い(・)手段があった。

 

「生きて、帰ります! 誰も死なせず! ――――生きて!」

 

 意識を集中させて、疾討を構える。

 やったことは、かつての”それ”と変わらない。

 そう、違いは強(・)化(・)を(・)更(・)に(・)一(・)つ(・)重(・)ね(・)る(・)だけ。

 

 

「――――身体強化! 五(・)重(・)!!」

 

 

 溢れ出る魔力の暴威。

 戦闘中では、とてもじゃないけど制御しきれないその勢いを、しかし。

 制御する、してみせる。

 ――今の私ならできる!

 

「これで――――!」

 

 ついてきてください、疾討。

 不壊の貴方なら、このくらいの魔力どうってことはないのですから。

 だから、私が――

 

 

「終い、です!」

 

 

 守りたいと思う全てを、叶えたいと思う願いを!

 形にしてください――――!

 

 

 ――その時。

 

 

 

 世界が割れた。

 

 

 暴れ狂っていた、魔力も。

 命を飲み込まんとしていた、瘴気も。

 何もかもが消し飛んで。

 

 私と、シドウ様と、レイナさん。

 

 生けるものだけが、そこに残った。




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