転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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八十七 私は一体何を見せられているんです?

 いやまぁそもそも、付き合いでいうと私とリンカねえさまは、そこまで長い付き合いというわけではない。

 里にいた頃と、これまで旅をしてきた間の付き合いだ。

 対してナティラリア様とリンカねえさまの付き合いは、それに負けないくらい長いだろう。

 むしろ寝取っているのは私の方なのか!?

 とりあえずはっきり解ったのは、リンカねえさまとナティラリア様は結構なマブで、その関係を私に見せられるのが恥ずかしいのだろう。

 いやだって――

 

「こいつは最近、とあるダンジョンで見つかった武具でね。名前は――」

「な、名前は!?」

「……ふふ、まだおしえなーい!」

「んっ……!!」

 

 完全になんというか、アレなんだもの。

 絵面が! 絵面が変なんだもの!

 もともとリンカねえさまは、武具に発情するタイプ。

 そこに加えて、見たこと無い武具をこれまでナティラリア様は、何度も与えてきたのだろう。

 完全に躾けられている。

 リンカねえさま、躾けられちゃってます!

 そりゃこんなところ、私に見られたくないですよね!

 

「ええと……お邪魔でしたか?」

「あーいや、全然そんなことない。むしろ見てよ、こんなはしたないリンカ、カグラちゃんだってあんま見ないでしょ?」

「も、もうやめて……カグラの前なのよ……」

 

 わ、私は一体何を見せられているんですか!?

 はしたないリンカねえさまに関しては正直たまに……そこそこ……いや結構見ますね。

 私が強さにはしたなくなってるのと同じくらいの頻度で、はしたなくなっております。

 剣の里の人間がはしたないといいたいのですかぁ!?

 こほん。

 でもなんというかこう、それを恥じらっているリンカねえさまは見たことがない。

 

「さて、こうやって話すのは初めてになるけれど、リンカからの手紙で噂は聞いてるよ、カグラちゃん」

「それは……なんだか恐縮ですね」

「あなたのお父上からも、話は聞いていてね。なんでも最近流行ってる、神楽式鍛錬法をはやらせたっていうのは、あなただって言うじゃない」

「ええと……神楽式鍛錬法ですか?」

「おや、知らないの?」

 

 いや、なんというか何を指しているのかは、わかる。

 私が「カルマン」ではやらせたアレだろう。

 流行っている、というのは理解していた。

 なにせ「ラリス」にすらそれが届くくらいだ。

 あの時はレイナさんが健康法と言っていたから、健康法として定着したのかと思ったけど。

 どうやら「神楽式鍛錬法」として伝わったようだ。

 

「リンカもあなたのお父上も、あなたのことはとても褒めていた。だから会うのをとっても楽しみにしてたの」

「……とっても楽しみにしてた相手に、はしたないリンカねえさまを見せつけたかったんですか?」

「はうっ」

 

 そこで恥じらわないでください、リンカねえさま。

 本当に私が何を見せられているのかわからなくなります。

 

「あはは、そこはまぁほら、パトロンとしての挨拶というか。……そもそも、妾が早くカグラちゃんに会いたいって言ったのに、数ヶ月も待たせたことへの仕返しというか」

「そ、それは……」

「そこはまぁ、私の都合を優先させていただいた結果ですので、こちらとしても申し訳ありません」

「カグラちゃんは謝らなでいいさ。妾としてもさぁ、カグラちゃんとはすっごく仲良くなりたいわけ」

 

 私まで寝取られようとしている!? 誰に!?

 あと、一人称が妾なの、王女様って感じだ。

 転生してから、また一つファンタジーを感じた瞬間である。

 

「というかさぁ、その数ヶ月の間にまさか六大宿痾を討伐しちゃうなんて、本当にすごいじゃん?」

「それはまぁ、ラリスの方たちの協力もありましたから」

「もちろん、シドウ殿の力も妾はよく理解している。そしてそんなシドウ殿の生命を最後に救ったのも、カグラちゃんだって」

「そこまで承知しているのですね」

 

 どうやら、リンカねえさまが手紙で教えたらしい。

 私の発言に、リンカねえさまが一瞬反応したからだ。

 普段はこういう人読みの隙を見せないリンカねえさまなのだけど、今はだいぶテンパっているらしい。

 

「いや本当にすごいことをしたと思うよ? 六大宿痾が二体以上討伐されるなんて、大陸の歴史にない偉業さ」

「片方を討伐したのは、母上ですけれど」

「無論、それはよく解っている。カグラちゃんもあの人も、立派な剣士だ」

「母上とも、面識がありますか」

 

 父上と面識があるのは当然だろう。

 父上は言ってしまえば、このヤーファンの領主の一人だ。

 また、政治的な能力も高く、ナティラリア様としても結構頼りにしているのではないだろうか。

 対して母上は、もう結構前に亡くなっている。

 ナティラリア様の年齢はリンカねえさまとそう変わらないだろうから、会ったことがあるとすれば――

 

「本当に幼い頃……カグラちゃんが生まれる前の話さ。曰く、あの人は剣の里史上最も優れた才を持つ天才だって話じゃない。六大宿痾を単独で撃破するなんて、これもまた大陸史上始めてのことなんだから」

「そうですねぇ」

 

 ようするに、ナティラリア様は大陸にこれまでにない風が吹いていると言いたいのだろう。

 剣の里始まって以来の大天才と、六大宿痾を死者を出さずに討伐した私。

 どちらも、大陸に変革をもたらす存在には違いない。

 

「そう言われるとなんだか照れてしまうのですが」

「んはは、素晴らしいものを素晴らしいと認められない為政者は、為政者に向いてないのさ」

「な、なるほど」

 

 わ、私も口説かれている――!?

 いや、私は屈しませんよ、発情したって常に私のやりたいことをするのです。

 それはそれとして。

 

「あの……えっと……」

「ええと……ところで、さっきからずっとなにか言いたげにもじもじしているリンカねえさまなのですが」

「ああ、ずっと放置してたからねぇ。ふふ、そんなにこの針がほしいのかい?」

 

 リンカねえさまが、だいぶ人に見せられない顔になっている。

 とろっとろのとけっとけだ。

 私だってここまでひどいことにはあんまりならないぞ。

 ……あんまり。

 

「こいつは魔解きの縫い針って言って、こいつを突き刺すと魔力によって発生した効果――身体強化や魔術の効果が解除されてしまうのさ」

「ほほぉ」

「…………っ! っ!!」

 

 ああ、ねえさまが興奮している。

 そのうえでなんとか声を出すのを抑えている!

 がんばれリンカねえさま!

 なんて思っていると――

 

 

「これを、あなたに上げるね、カグラちゃん」

 

 

 ぽいっと、こっちに渡された。

 ええ!? と一瞬驚くものの、慌ててキャッチする。

 落としたら壊れそうだから受け取ってしまったぞ。

 

「いえその、私には疾討がありますので」

「もちろんわかってるさ。死蔵するも良し、飾るも良し――」

「!!?!!??!!??!!?」

「――誰かにあげるも、よし」

「!!!!!!!!!!!!!!」

 

 そう言って、ちらりとリンカねえさまの方を見るナティラリア様。

 ……この人、もしかして。

 

「んふふ、上げたらすっごくいい反応をする人に上げると、楽しいんじゃない?」

 

 …………私をそっちの道に引きずり込もうとしている!?

 い、いやでもしかし……いくらなんでも……

 ああでも、リンカねえさまが懇願するような目でこちらを見ている。

 なんかこう……渡したくなる……この針……

 そんな事を考えていると、ぽつりと言葉が漏れてしまった。

 

 

「えっと、じゃあ……ワンって言ってもらっていいですか? リンカねえさま」

 

 

 本当に自然に、なんだかよくわからないうちに。

 そう、言ってしまっていたのだ。

 結果――

 

「ワンッ!」

「あ、はい」

 

 リンカねえさまは即答した。

 結果、なんかすっと針を渡す私。

 

「くぅーん」

「いやそこまでは言ってないんですけど……」

「……リンカって、かわいいでしょ!」

「それはわかりましたけど!?」

 

 いやだから、私は一体何を見せられているのですか!?

 何をさせられているのですか――!?

 

 

 +

 

 

 それから、小1時間ほどリンカねえさまをナティラリア様と撫で回す流れになった。

 私は一体何をしているのだろう……という気分と、リンカねえさまを不覚にもちょっとかわいいと思ってしまった気分と。

 なんだかいろいろなものが綯い交ぜになった瞬間だった。

 本当に何だったんだろう。

 

「…………恥ずかしいところを見せたわね、カグラ」

「い、いえ」

「…………いっそ殺して、ナティラリア」

「いやに決まってるじゃーん?」

 

 リンカねえさま……変な人は、正気に戻ると私達から距離を取った。

 向かい合う感じで設置されているソファの反対側に座っている。

 なんで私とナティラリア様が隣同士で座ってるんだろう……。

 まぁ、とはいえ今までのやり取りで収穫はあった。

 変な人のおかげで、ナティラリア様の人柄がなんとなくわかった。

 ナティラリア様がこちらの旅の動向を概ね把握していることも。

 それによって、私に会いたいと考えていたことも。

 それもこれも、全て変な人のおかげだ。

 

「というわけで、改めてよろしくね、カグラちゃん」

「よろしくお願いします、ナティラリア様」

「……あ、あのー」

 

 さて、ナティラリア様の目的が私と会うこと、ということであればすでに目的は達成している。

 でも流石にそれだけ、ということはないのではないだろうか。

 さもなくば、まさかリンカねえさまが帰って来てすぐに、時間を取ることもないだろう。

 というか、王女様なんだからどれだけ親しい人でもアポなしでそのまま直通なんて難しい。

 多分変な人の手紙によって、こちらがやってくる時期を予測していたのだろうけど。

 

「さて、それではカグラちゃん。私は君のことを更に良く知りたい。せっかくだし、今の君の目標について教えてもらってもいい?」

「私の目標ですか? それはもちろん――最強です。誰にも負けない最強の剣士になるのです」

「その具体的な方法は?」

「六大宿痾の討伐。今この大陸で、最も強い個の戦力は六大宿痾です」

「え、ええと……」

 

 そうだね、とナティラリア様も頷く。

 ここまでは、私のこれまでの歩みのおさらいだ。

 変な人がなにかいいたげだけど、話は続く。

 

「じゃあそのために――君はこれから魔境を目指すわけだ」

「まぁ、そうなるかと。魔竜峰は遠いですからね」

 

 魔境、魔竜峰、どちらも一言で言えば現在六大宿痾が存在している場所の名前だ。

 

「しかしそれだと、魔竜峰の方が攻略難易度が低くなりそうだ。魔境には二体の六大宿痾がいるわけだし」

「そこはまぁ……無理そうならゆっくり考えるつもりです。六大宿痾が新しく誕生するまでは、まだ数年猶予があるはずですから」

「そ、そうね……」

 

 それぞれ、魔境はかつてとある国家が存在していた場所だ。

 そこに出現した六大宿痾が、国を単独で滅ぼしてしまったのだという。

 以来、そこには国を滅ぼした六大宿痾が居座って、人類を滅ぼそうとしている。

 対する人類も、魔境を封鎖しこれに対抗。

 現在は二人の七刀を中心に、この封鎖をある程度安定化させているらしい。

 厄介なのは、魔境には二体の六大宿痾がいるということ。

 詳細はわからないが、魔境の状況が六大宿痾が二体いないと説明がつかないものなのだとか。

 

 魔竜峰に関しては、文字通り魔竜と呼ばれる六大宿痾が存在する山脈だ。

 なぜかこの六大宿痾は動きがなく、一人の七刀がこれを監視する状態で何年も経過している。

 こっちはまぁ、これ以上の情報がないので割愛。

 

「んふふ、そしてこうなってくると、一つ問題が発生する」

「問題、というと……」

「現在この大陸には、()()()()()()()()()()()()()宿()()()()()()()ということ」

「まぁ、それはそうですね」

 

 といっても、私は一介の剣士だ。

 どこにいるかもわからない六大宿痾を見つけることなんて無謀もいいところ。

 というか単純に情報がない。

 その六大宿痾はどんな存在で、これまでどういう手がかりが見つかってるんだろう。

 ただまぁ、ナティラリア様の発言から察するに――今回の本題はこの見つかっていない六大宿痾なのだろう。

 

「えっと……その……いいでしょうか」

「何かしら、リンカ」

「なんでしょう、へん……リンカおねえさま」

「カグラから若干距離を感じるわ!」

 

 いやだって、あまりにも変な人すぎましたし……普段以上に変な人でしたし変カねえさま。

 

「存在が確認されていない六大宿痾――幻象のことでしょうか」

「まぁそうなるね。せっかくだリンカ、幻象について解ってることを説明してくれないか?」

「は、はい……」

「ええと……そろそろいつも通りで大丈夫ですよ? へ……ィンカねえさま」

「軌道修正しないでちょうだい!」

 

 こほん、と咳払いをするリンカねえさま。

 

「……幻象は、正体不明の六大宿痾よ。これは本当に文字通りの意味。存在が確認されていないというのは、本体がどういった存在なのか解っていない、ということ」

「人類が遭遇したことはあるのですか?」

「一応ね。直接幻象と戦ったという記録も残ってる。ただ、全ての記録に置いて()()()()()()が幻象とされているのよ」

 

 ええと、それはつまり。

 Aという人物が戦った幻象と、Bという人物が戦った幻象は別のものである。

 すなわち――

 

「幻象には、変身能力がある?」

「と、見られてるわ。結果として、人類は幻象の足取りを掴めていない。そもそも、能力が本当に変身かどうかも不明。他人の身体を乗っ取るタイプかもしれないわ」

「それはまた、なんともいい難いですねぇ。そもそもどうやって、そいつを幻象だって見抜いたのですか?」

「そりゃ、幻象は六大宿痾よ? 人類より圧倒的に強いもの。加えて幻象には、ある能力がある」

 

 その能力は、どうやら常時発動するタイプの能力らしい。

 つまり、幻象の能力を知っている人間が幻象と対峙したら、一発でそいつが幻象だとわかるのだ。

 それがなにかといえば――

 

「対峙する人間の弱体化。魔力だったり、身体強化の精度だったり、魔術の威力だったり。あらゆるものが”減少”するらしい」

 

 幻象。

 千変万化の能力と、常時発動のデバフ。

 前者は肉体面に干渉する能力、後者は精神面に干渉する能力と言われている。

 それらを併せ持つのが、本当の姿を誰も知らない六大宿痾……というわけだ。

 他にも色々、幻象の分身を生み出す能力だとかあるらしい。

 黒い影みたいなものを生み出して、人を襲わせるのだとか。

 ただまぁ、こいつはそこまで強いわけではなく、私の三重とどっこいくらいだそうな。

 いや、結構強いですけど。

 

「ねぇナティラリア。その話を私達にするってことは……そういうことなの?」

「まぁ、そんなところだな」

「どういうことですか?」

 

 むむ、ここで私の知らない情報が更に増える。

 なんだか少しの疎外感。

 おのれ寝取らりあ様……!

 

「七刀の中に、幻象を追いかけて大陸中を駆け回っているやつがいるのよ」

「その七刀は、とある事情で幻象を追いかける理由があってね。要するに、対幻象の専門家と思ってもらっていい」

 

 そう考えると、七刀って六大宿痾を封じるような役割があるのだな。

 リンカねえさま以外の全員が、六大宿痾をどうにかするために各地へ散らばっている。

 なんとなく、そこら辺の話はあまり聞いてこなかったけど。

 それなら、里が宿痾の主に襲撃されても、対応できないのは納得だ。

 いやでもお手紙くらいは出してもいいのでは……?

 特にシドウさま。

 あの人、狐火をどうにかする必要があるのは週に一日だけで、残りの六日はひましてるのに!

 ……いや、そんなことを考えてる暇はない。

 私もなんとなく話の筋というやつが見えてきた。

 

「――その七刀が、今この王都に来ている」

 

 すなわち――

 

 

「現在、王都に幻象が潜んでいると目されてるんだ。リンカ、そして可能ならカグラも――その七刀に協力して、幻象を討伐してはくれないかい?」

 

 

 ――今回、私達がこの王都でやるべきことが、見えてきたということだ。




ねえさま……
感想と、高評価ありがとうございます。
今回の話のリンカねえさまみたいになります。
いやそれは人として拙いな……
今後ともよろしくお願いいたします!
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