トビカガチは実質セクレト 作:HR217の一般ハンター
3G→友人の家で少しやった(おそらく片手剣)
X→おそらくラギアクルスまで(スラアク+双剣)
ワールド→ネルギガンテ討伐まで(ランス)
ライズ→村クエ完結(太刀)
ワイルズ→全防具収集の旅の最中(色々)
この程度のモンハン素人ですので、誤った事を言っていた際には感想で教えて下さい
厳冬の大雪山を、深い雪を掻き分け進んで行く。手には散弾銃、腰にはナイフ、背には大きな背嚢、纏うは冬季迷彩服、足には鉄板仕込みの半長靴。
私は猟師である。昨年、陸上自衛隊から定年退職したばかりの57歳新人である。今日の狙いはエゾライチョウ。白く染まった奴の羽を根こそぎ毟り取り、かしわそばにしてやろうと思う。夜には余った肉でとり天を作り、六つの和ボタニカルを主軸としたジャパニーズジンのおつまみとする。
「む?」
なんだ、この音は。何かが、動いている。だが、人間ともエゾシカとも思えない。それよりも、明らかに重い。
「……穴持たずか! 大人しく巣穴を作って冬眠しておけば良いものを!」
散弾銃を構え、セーフティを外す。それと同時に、ヒグマが姿を現す。距離は39m、そのやなせたかしい姿からも極めて空腹であることがヒシヒシと伝わる。
「向かって来るか……見逃して貰えるとは、到底思えんな」
ヒグマは私を睨み付け、勢い良く駆け出す。スコープを覗き、自衛の為に発砲。しかし……ヒグマは少し怯むだけで、止まらない。
それもそうだ、私が持っているのは鳥撃ち用の散弾銃。20式小銃が有ればいとも容易く狩猟できた筈のヒグマも、こんな豆鉄砲では掠り傷しか付けられない。
「しかしね、坊や。二士から二佐まで成り上がった男の技量は、未だ錆び付いてはおらんのだよ」
丁寧かつ淀み無いレバーアクションで排莢し、続けて二発をヒグマの顔面に直撃させる。日本は猟銃規制が厳しく、散弾銃は三発しか装填できない。素早く再装填し、既に目前へと迫り爪を振りかぶっていた奴の攻撃を避ける。
「57はまだまだ若者よぉ! この鍛えた五体に衰えは無い!」
背後に周り、発砲。スピンコックで排莢しながら、横凪ぎの追撃を屈んで回避。バネのあるしなやかな脚力で瞬時に体勢を戻し、手の届く範囲で一番深そうな傷口によく研いだナイフを差し込む。暴れるヒグマから離れ、連射。再装填し、また連射。しかし、ヒグマは依然として動き続ける。
ナイフはヒグマが暴れた際に何処かへ飛んでいき、残弾は三発。ヒグマも一向に逃げる気配が無い以上、この鳥撃ち用散弾銃三発で仕留めねばならない。
「可能性は、0じゃない」
ほんの一瞬の隙が勝負を分け、ほんの一瞬の遅れが致命傷を生む。私の持ち得る、全てを使う。多少のリスクは、全て飲み込む。
一層鋭い眼で私を睨み付けるヒグマが私へ向かって駆ける。私もまた、接近する。熊パンチをギリギリで避け、0距離で顔面に発砲。僅かに開いた口へ銃身を突っ込み、排莢。残りの二発も叩き込む。
「……ぐぅっ!」
化物が。そう思わずには居られなかった。最後の弾丸を受けても尚、ヒグマは鋭敏に動き私の腹を切り裂いた。大量の血が溢れ出し、腸が少し飛び出す。
しかし、鳥撃ち用とは言え銃は銃。流石のヒグマも限界が来たのか、急激に動きが鈍くなる。すぐに地面に倒れ込み、一切の動きを止める。
「相討ち……か」
視界はボヤけ、意識は朦朧。私はきっと、ここで失血死となるのだろう。
私は結局、ロクに狩りも出来なかった。父の遺した狩猟の道を、歩めなかった。
「今……そちらへ、いきます」
◇
悪とは何か。これは、人によって回答の異なる問いである。実にあやふやであり、試験に出されようものならSNSで悪問だと揶揄されるだろう。
しかし私にとっては、一つ明確な回答がある。正確に言えば、たった今私の中で確立した。
悪、それは不義理。最大の不義理とは、一切の非を持たぬ己の家族を切り捨てること。つまり、つまりである。
「……ごめんなさい」
今、現在、白昼堂々と、私を山へ置き去りにせんとしているこの小娘は純然たる巨悪である。
…………なんて思える程、私は若くない。彼女が大変な境遇であり、私を捨てることが唯一の道であることは承知の上である。私はただ、彼女を哀れんでいた。
私は、あのヒグマに殺された。間違いなく、確実に。しかし、私には意識があった。当然、混乱した。その数時間後に漸く、自分が赤子になった事を渋々納得するに至った。
模範的戦後型大和男児である私は、残念ながら仏教への造詣が浅い。私の抱く宗教と言えば、強いて言うのであれば神道……かな? という程度。故に、生まれ変わる等という極めて仏教的な事象についてはてんで理解が及ばない。
私の生まれたのは、聞いたことも無い名の寒村だった。貧しいだけでなく、中々に寒い気候でもある。小麦の育ちは悪く、海もない。大都市と近い訳でも、街と街を繋ぐ要所でもない。何の長所も無い、ただの寒村である。
此度の母は寒村の中でも特に凍えるように冷たい財布の持ち主である。父は高名な狩人であったらしく、立ち寄った無人島で漂流していた母を拐って妻にしたらしい。その後すぐに故郷である寒村に帰り、私が言語を概ね覚えるようになった頃に戦死した。
明らかに21世紀地球ではないこの世界には、モンスターが存在する。比喩表現でもなんでもなく、本当にモンスターが山のように生息している。体長10mを超える竜が、平然と大空を自由に羽ばたいているのだ。
父は、ライゼクスと呼ばれていた雷鳴を轟かす青い竜と戦い、死亡した。私も父の勇姿を見ていたが、まこと立派で勇敢な最期だった。父も竜も、共に百戦錬磨の歴戦の猛者であることがヒシヒシと伝わった。父の決死の一撃でライゼクスは致命傷を負い、そのまま逃げていった。
しかし父は大変な浪費家でもあり、貯蓄を嫌う人間であったらしい。結婚してからマトモになったようだが、それでも外の世界と違って稼げる仕事というモノが概念から存在しないこの寒村において、貯蓄が増えることは無かった。
ライゼクスの襲撃で村の畑は致命的な打撃を受け、現在の人口では食料が足りなくなった。故に、何の労働力にもならない一歳半の私が口減らしの対象となった訳だ。西シュレイドなる国の貴族令嬢として生まれながら、僅か19歳でこれ程の貧困に喘ぐようになった母が哀れで仕方ない。
「……さて」
口減らしは受け入れてやったし、失うモノも無い第二の人生は最悪潰えても良いとさえ思っている。だが、生きたいか死にたいかで言えば無論生きたい。
「何日目で終わるかは分からんが……精一杯、足掻いてみよう」
寒村は、自己防衛の手段として特殊な音を出している。この地域一帯の頂点捕食者であるライゼクスの鳴き声とソックリな音色の楽器を交代制で奏で続けることで、他モンスターの襲撃を避けているのだ。かなり危うそうにも思えるが、案外なんとかなるらしい。
私は今、笛の効果範囲のギリギリに居る。この先に行けば、モンスター溢れる魔境である。しかし、効果範囲の食料や有益な素材は全て村人が採っている。つまり、私は魔境に身を投じざるを得ない訳だ。
「……行くぞ」
赤い線の引かれた、人間領域とモンスター領域の境目。それを、今、飛び越えた。
小さな脚で素早く木陰へ移動し、落ちた枝・蔦・石を回収。心許ないにも程が有るが、極めて簡素で粗悪で原始的な槍を作成する。私は一歳半にしては身体が強く、これさえ有ればちょっとした虫を退治するぐらいはできるだろう。まぁ、無いよりはマシだ。
「寝床を探そう。風邪は引いたら一発でお陀仏だ」
人間領域の方が好ましいが、一から作るのは難しい。こっちで洞窟や木のウロを探すしかない。それと、水と食料。寝床探しと共に、川や木の実を探そう。
「……お?」
おいおい……あそこの木、実っているじゃないか。人間領域からは位置的に見えず気付かなかったが、これは僥倖。槍でつついて、落としてみよう。
「よっ」
成功。蜜柑ほどの大きさをした、薄茶色の柔らかい木の実である。軽く土を払い、手で割ってみる。
「うぉ」
驚いた。これは木の実じゃない、虫の卵だ。私は屈強なレンジャー。他に選択肢が無いのなら、虫を食べることは可能である。他に食料を見付けられなかったら、またここに来よう。
「これは何だ?」
虫発見から10分程。私は実を成したとある植物を見付けた。パイナップルのクラウンを2mにしたような草本である。実をもぎ取るが、かなり硬い皮をしている。うーむ、これは食べられそうに……いや待て。ナッツ類のように硬い皮で覆われているが、中は美味で栄養満点という場合もある。
「鳥の真似でもしてみるか」
一部の鳥は、高い所からナッツを落として開封すると聞く。この手法なら、力にも道具にも欠ける私でも試せる。これで開かなかったら、キッパリ諦める。草の近くにあった、急な傾斜。その一番下にある礫地帯に向けて、ぶん投げる。
「はぁ?」
爆発、爆発した。これはホウセンカのように種がポンと弾けたのを爆発と形容したのではない。確かにこれはホウセンカの延長線上にある、実の破裂による種の飛翔なのだろう。だが、本当に爆発したのだ。私は今、手榴弾を投げたのか?
「……試してみる、価値はあるな」
実を再び採取し、出来る限り遠くの土に投げる。しかし、無反応。また新しいモノを取り、今度は岩に投げる。無反応。岩に投げたモノに、尖った小石を投げる。今度は勢いよく爆発した。
「なるほど。強い衝撃が加わることで爆発すると。これは使えるぞ。バクレツの実と名付けよう」
変わった植物もあるものだ。ということは……バクレツの実の近くに生えている、この変な草も面白い特性を持っているのかもしれない。一際目に付く赤い花を槍で切り落とし、石を投げてみる。赤い花は毒かもしれないので、あまり触りたくないのだ。
「おぉ! 燃えた」
ほう、随分と簡単に燃えるな。これもまた、危険だが役に立つ。私の貧弱な身体では、火起こしは簡単ではないからな。火炎草と名付けよう。
「…………。」
音、音がする。草木を掻き分け、大地を力強く踏み締めている。おそらくは、大型のモンスター。すぐに茂みに隠れ、呼吸音を小さくする。
一言で言うなら、恐竜。鱗は赤く、背には青みがかった黒い毛を蓄えている。どうやら見付からずに済んだようで、奴はすぐに去っていった。
「……私は後、何日生きられるのだろうか」
この身体は、思ったよりも頑健であった。一歳半の癖に、原生林を四時間以上歩いておきながら疲労で済んでいる。
「綺麗な川じゃないか」
蒸留なんて贅沢な事は言ってられない。これ程までに透明で異臭のしない川の水なら、そのまま飲んでしまおうか。
川の近くに寝床を構えては、水を探しに来たモンスターに見付かる可能性が高い。たらふく水を飲んだら急いで離れて、川から近すぎず遠すぎずの場所で寝床を探そう。
「……参ったな」
水を飲むのに、夢中になりすぎていた。接近を、許してしまった。
音がする。確かな足音と呼吸音がする。真後ろ、5mも無い距離だ。モンスターが、やって来た。
一つ、息を吐く。心を落ち着かせ、ゆっくりと振り向く。
そこに居たモンスターは、巨大であった。体長10mの大台は、余裕を持って超えるだろう。白銀の体毛、紅い瞳、イタチとトカゲを混ぜ合わせたような体格と顔。彼または彼女の思惑に逆らえる可能性は、万が一にも無いだろう。
猟銃を携えた屈強な男と狩り下手なヒグマ、一歳半の素手に等しい少年と巨大なモンスター、この二組のそれぞれの力量差は比較することさえ烏滸がましい。
「おはよう、今日はいい天気だね。水を飲みに来たのかい?」
観念した私の顔を、モンスターは頭を下げ目線を合わせてジッと見つめる。こうして見ると、結構可愛らしい顔付きだな。食う気が有るならどうせ死ぬので、口付けでもしてみる。私は無敵の人である。
直後、モンスターは動き川の水を飲む。タイミングが悪かっただけかもしれないが、少しばかりショック。いやまぁ、私も見知らぬ存在にキスをされたら口を洗うが。
「そう来るか」
モンスターは口を開け、私を咥えて持ち上げた。痛みは無く、単に私を運搬したいだけであることが分かる。土饅頭にするのか、それとも我が子の狩りの練習として生き餌にでもするのか。あまり、楽には死ねなさそうだ。
川から、モンスターの足で僅か3分。どうやら、ここがモンスターの巣らしい。ビルのように長く太い巨大な木の上に構えられた、中々作り込まれた広い巣である。子育てはしっかりする部類のようで、見るからに柔らかそうな干し草のベッドの上に卵が一つ乗っている。
「だが、そうなると……これはどういうことだ?」
子供が居ないとなると、狩りの練習用の線は消えた。となると、今すぐ食い殺すか拘束をする筈だが……モンスターは、私を干し草ベッドの上に置いてグッと身体を伸ばす。
怪訝に思っていると、モンスターは巣から飛び降りモモンガのように何処かへ滑空していった。
「……まさか」
一つ、私の中に閃きが訪れた。
あの巨大な体格だ、爬虫類ベースと言えどそれなりに知能は高い筈。そして、知能が高い生物は異種族の幼児を育てるケースもある。
極めて稀有な現象を前提とした、あまりにも私にとって都合の良い希望的観測。だが、その仮説を真とすれば……モンスターの行動の全ての辻褄が合う。
「ALL INだ。この可能性に、私の全てをBETする」