トビカガチは実質セクレト 作:HR217の一般ハンター
「……嘘だろ」
「どういうことだ!」
「ふざけるなぁっ!」
またか、またなのか。前回のクエストでも、アンジャナフを倒したと思ったらジンオウガ。そして今回は、バゼルギウスを倒したと思ったらイビルジョー。嫌気が差す。素直に勝利を喜ばせて欲しいものだ。
「……サント、弾薬の残りは」
「lv2の貫通弾が6、残りはlv1の通常弾が少しだけ」
「……前で戦えるのは、私だけか」
後ろを見る。そこには、絶望した大量の死傷者と半壊した砲陣地。イビルジョーを撃退できるだけの戦力は、どこにも見当たらない。
「……皆さん! まだ諦めないで下さい! 現在、大量の罠生肉を生産しています! 状態異常で弱らせながら細かく位置を誘導し、撃龍槍を撃ち込みます! イビルジョーなら、撃龍槍を当てられるかもしれません!」
「無理に決まってる! アイツはドンドン近付いて来ているんだぞ!間に合うとでも思っているのか!? もう駄目だ、おしまいだぁ……」
「諦めないで下さい! こんな所で、終わって良いんですか!? 貴方達、いつからそんな弱虫になったんですか!?」
指揮をしていた、ギルドの職員が叫ぶ。あんな若い女性が、屈強なハンター共に喝を入れているとは。……立派じゃないか。
「オリヴィア、任せたぞ」
「あぁ」
後方の砲陣地へ戻り、義妹から降りる。義妹には更に奥──弾屋へ買い出しに行かせる。近場の大砲達に、砲弾を装填して回る。五個の大砲に装填し終えた頃、それでも大多数のハンターは戦意喪失状態にあった。戦う意思のあるハンターは、私とオリヴィア含め十人も居ない。ギルド職員や民間有志も、状態は最悪だ。
「傾聴せよ!!!」
高台に登り、声を張り上げる。
「我々は団結し、バゼルギウス二頭の襲撃という苦難を乗り越えた。しかし現在、新たなる苦難が手負いの我々を喰らわんとしている。それはあまりにも強大で、恐ろしく、正しく災厄である」
「なんだ……?」
「アレは……トビカガチの女か?」
「貴殿等の多くは、戦いを恐れ、今にも逃げ出したいと考えているだろう。私はそれを決して否定しない。生物として、本能的にそう思ってしまうのは当然だ」
「そっ、そうだ! 俺は悪くねぇ!」
「座ってる場合じゃねぇ! 早く逃げねぇと!」
「だが、逃げた先でどうする? 貴殿等に、家族は居るか? 友は居るか? 行きつけの店は? 思い出の場所は? その全てが奴に蹂躙され、喰われ、貴殿等が体験すらしたことの無い恐怖と苦痛に囚われながら最期を迎える。『おねがい、助けて』目の前で彼等が泣き叫び、自らに助けを求める光景が想像できるか? 差し伸べられたその手を、自らの意思で見て見ぬフリをする己の背中の矮小さを想像できるか?」
静寂が広がる。遠方より近付いてくるイビルジョーの足音が、静けさの中に小さく響く。
「かつて大志を抱き、ハンターとなった勇敢なる貴殿等に問う。愛する者の悲鳴が頭の中を支配し、敗走の汚名を被り、己の弱さを噛み締め、いつモンスターに襲われるかも分からない外界を備えも無く孤独に走り続けるか…………私と共に! 愛する者の為に殉ずる覚悟で! かの災厄に立ち向かうか!」
「お、俺は……」
「私が戦わなかったら、あの人も死ぬ……? そんなの、嫌だ……」
「ドンドルマを見捨てる者は、即刻去れ! 臆病な弱兵は肉壁にすらならん! 誰かの為に戦う理由を見出だす、命知らずな大馬鹿野郎の助力だけを私は求めている!」
「僕は戦うぞ! あんなモンスターにッ、僕の故郷を滅茶苦茶にさせるものか!」
「オレも戦う! 娘を置いて逃げられるかよ!」
ハンター達が立ち上がる。それに釣られて、後方支援のギルドや民間の有志の士気も目に見えて上がった。私はナイフを天へ掲げ、腹の奥底から叫ぶ。
「我が名はサント・リー・スピリツ・シーコウ! 勝利への道を照らす、導きの白い星である! 我々の闘いは後世へと語り継がれ、次の世代のハンター達の希望となる! この闘いがドンドルマ興亡の分かれ道、我々の一挙手一投足が人類史を左右する! 英雄諸君、未来を切り拓くぞ!!!」
「うおおおぉぉぉーーーっっっ!!!」
「神様じゃねぇ! 自然じゃねぇ! 他の誰でもねぇ! 俺達が、俺達の手で、俺達の未来を勝ち取るんだ!」
「ニュート! アンタは、アタシが絶対に守り切るからね!」
「この一戦は絶対無二の一戦なり!」
流石ハンター。それでこそ、ハンターだ。彼は、何も指示されずとも防衛の為に全力で動き出す。罠生肉を運び、大砲やバリスタを装填し、全員が一つの同じ未来を見据えている。
台本無しのアドリブ演説で戦力を早急に確保せねばならないのか、と察した時は焦ったが……まぁ、何とかなるものだ。なんだよ、導きの白い星って。自称:導きの白い星、ハンターランクは5。うーむ、文字に起こして考えてみると中々にキツい。
「グォウッ」
「よくやった!」
義妹が、ベルトポーチをこれでもかと膨らませて帰ってきた。義妹に持たせていた金額で買えるよりも、明らかに弾の量が多い。機関龍弾に至っては、銃身がオーバーヒートで破裂してしまいそうな程だ。
「イビルジョー、更に接近! まだ罠生肉の用意が終わっていません!」
「それがどうした! このサント・リー・スピリツ・シーコウが、ハンマー使いのオリヴィアと足止めする! 用意を急げ!」
高台を降り、義妹に乗り込み前へ出る。機関竜弾をセットし、オリヴィアの隣へ。
「良い演説だったぞ」
「やめてくれ……」
「そう恥ずかしがるな、私は好きだったぞ。弾の補充は……聞くまでもなさそうだな」
「あぁ、有り余っている!」
「砲の準備、全門完了! いつでも撃てるぜ! 合図を頼む!」
「砲陣地より、距離400m! 依然として動きは直線! 360、320、280…………今です! 斉射!」
義妹から降り、三人揃って深く伏せる。60門の砲が火を吹き、イビルジョーをダウンさせる。
「団結の力を見せてやる!」
「私は足を撃ち続け、体勢を崩す! オリヴィアは気絶を! バゼルギウスの時とは違い、私達の役目はダメージディーラーではなく撃龍槍を当てる為のサポートだ!」
「了解した!」
駆け、構える。奴の足を、徹底的に狙い続ける。弾の通りが良い訳ではない。使っているヘビィボウガンも、イビルジョーの狩猟に適した強さでもない。だが、何百もの弾丸を連続して放つとなれば話は別だ。
「イビルジョー、立ち上がりました! 前線のハンター二名を無視し、こちらへ直進!」
「まだ準備ができていないんだ。営業時間前の入店は控えていただこう!」
溜めに溜めたオリヴィアのハンマーが、イビルジョーの顎を撃ち抜く。流石の奴もこれには怒り、美味しそうな罠生肉を運ぶ集団よりも、私達を標的とした。
私達の中で最初の標的となったのは、一番近くに居たオリヴィアであった。怒れるイビルジョーの攻撃を紙一重で避け続ける。
「私は耐える事に集中する! 足の破壊を!」
「任せろ!」
3マガジン目の機関竜弾を撃ち切った。ここまでやれば、流石に大きな傷口ができる。すかさず竜吼を放ち、傷口を破壊。イビルジョーはバランスを崩し、転倒。
「この瞬間を、待っていた!」
オリヴィアの渾身の溜め攻撃が、イビルジョーの頭に炸裂。転倒は気絶へと変わり、更に追撃を仕掛ける。奴が復帰する頃には、既に両の足が破壊されんとしていた。
「機関竜弾はまだまだ有る! この調子で時間を稼ぐぞ!」
「あぁ!」
7マガジン目の機関竜弾。イビルジョーの動きにも、少しは疲れが見えてきてた。しかし、疲れているのは奴だけではなかった。
「しまっ……ぐぅっ!」
「オリヴィア!?」
イビルジョーの噛み付きが掠り、オリヴィアは土の上を転がる。右脚の防具は破れ、血が吹き出している。更に尻尾を振り回し、大きく吹き飛ばす。アレは……気絶しているぞ! このままでは、オリヴィアの命は無い!
「死なせはしないぞ! 戦友!」
付かず離れずの距離を維持させていた義妹に、前進を指示する。動きを止めたオリヴィアへ牙を突き立てんとするイビルジョー、その側頭部に力強い突進。義妹は持ち得る全ての電力を放出し、イビルジョーの顔を焼く。
イビルジョーは雷属性に弱い、勉強した通りに奴は怯んだ。とはいえ、成体になりきれていないトビカガチの電気。いくらなんでも、戦闘力が違いすぎる。怯みは、ほんの一瞬。
「だが、それで十分だ」
義妹から飛び降り、イビルジョーの頭に乗る。暴れまわる奴の頭に決死の覚悟でしがみ付き、閉じた瞼をナイフで抉じ開ける。
「ゥ゛エ゛ェ゛アア゛アァァァッ!!!」
イビルジョーの咆哮が響き渡る。痛みが走る程の轟音で、耳鳴りまでする。それでも、奴の頭にしがみ付く。奴は力任せに私を振り払おうと頭を振り回し続け、その最中にオリヴィアを背に乗せ撤退する義妹の姿を視認した。
「ッ、標的が変わった! 注意しろ!」
イビルジョーは私を落とす事を放棄し、義妹へと一直線にダッシュ。更にナイフを突き立てるが、止まる気配は無い。
「罠生肉、配置完了! 撃龍槍もいつでも撃てます! イビルジョーの誘導を!」
「了解した! 砲陣地へ方向転換だ! もう時間を稼ぐ必要はない!」
義妹は方向を変え、大きく弧を描きながら砲陣地へ。罠生肉の上をジャンプで飛び越え、奥へ奥へと突き進む。イビルジョーは依然として義妹に食い付き続け……そして、逃げ回る素早い肉塊よりも、目の前の動かぬ肉塊を選んだ。
「イビルジョー、罠生肉に食い付きました!」
「次の罠生肉も食いだした! 誘導は順調! 私はこのままイビルジョーに乗り続ける! 誘導を確実なモノとする為、救出は不要! 撃龍槍を当てる事だけに全てのリソースを割け!」
「そんなっ……それでは!」
十年近く、義妹の背に乗り立体機動に付き合いながら射撃をし続けた。モンスターに乗って耐えるという事において、私はドンドルマ一と自負している。どんな無茶でも、やってやる。
「状態異常の蓄積を確認! イビルジョーが麻痺状態に!」
罠生肉を食べ進め、これが最後の一つ。イビルジョーは後方部隊の計算通りに、撃龍槍の間合いで痺れる。しかし、流石はイビルジョー。急拵えで数が少なかった事もあり、後数秒でまた元気に動き出しそうだ。
「撃龍槍を! 早く! 私に構うな!」
「ッ……撃龍槍、3……2……1……撃てぇ!!!」
作動音。機械達が動き、絡み合い……イビルジョーすら飲み込んでしまいそうな程の巨大な鉄の塊が、私の視界を埋め尽くした。
「…………なんだ、ありゃ」
全ての力を振り絞る。これで脚が砕け散っても、ハンターとしての道を失っても、二度と義妹に乗れなくなっても……全ての結末を受け入れる。
だが、その全てとは私が生き残った上でドンドルマが勝利した結末のみを指す。何があっても、死んでなるものか。確実に撃龍槍を直撃させ、確実に私も生還する。その為には、救助も事前に降りることも許されない。
私に残された道は、ただ一つ。
空。
「…………聞いたことがある。25年前、ドンドルマをモンスターの襲撃から救った男の話を。確か……ベネットと言ったか」
「ベネット……懐かしい名じゃ。そうか、あの娘は彼の……」
「どんな災厄にも果敢に挑み、モンスターの身体を蹴り、空を跳び、空を舞い、雷のように刺す。忽然と消えた伝説のハンター……飛雷刃、ベネット」
イビルジョーの頭を蹴り飛ばした私の身体は、天を舞っていた。
撃龍槍はイビルジョーだけを貫き、吹き飛ばす。しかし、奴はとんでもない化け物であった。それでも尚、生命を停止していない。顔は潰れ、右半身は失くなり、削られた脊椎が何mに渡って見えている。それでも尚、立ち上がろうとしていた。
「なにっ」
「嘘だろ!? なんでまだ生きてんだよ!?」
「猿が考えたみてーな生命力しやがって!」
武器を抜く。マガジンが挿さったままの、機関竜弾。細かく狙いを付ける余裕なんて無い。だが、イビルジョーがまだ立ち上がる前に仕留め切る。奴の何処を狙っているのかも認識できず、しかし確実に奴の肉体へと。
機関竜弾を、ぶっ放す。
「しゃあっ」
「これが……導きの白い星」
受け身なんて頭にない。機関竜弾を最後の最後まで撃ち続け、地面に身体を打ち付ける。アドレナリンで無理矢理身体を動かして、イビルジョーの方へと顔を向ける。
そこには、勝利があった。
歴戦アルシュベルド倒しました。もう恐れるネタバレはありません。