トビカガチは実質セクレト 作:HR217の一般ハンター
「辛そうだな、導きの白い星」
復興作業で慌ただしく動く、人の群れ。それを横目に、私は義妹の腹を枕に横たわっていた。そんな中、車椅子に乗ったオリヴィアが仮設病院の方から出てきた。
「止してくれ……」
「ハッハッハ、悪いなサント。……お疲れ」
「……あぁ、お疲れ。……ありがとう、私と共に戦ってくれて」
「何を言うか、感謝するのは私の方さ」
オリヴィアは近付き、手を差し出す。その手を握り返し、微笑む。
「医者が言うには、後二年もすれば歩けるらしい。生活補助として、オトモアイルーも貰った。名はアトスだ」
「にゃー」
「かわいい……私もオトモアイルー……冗談だよ冗談、怒らないでくれ」
「体調は?」
「下半身の骨は折れていない方が少ない。お前にはトビカガチが居るだろ、と車椅子もオトモアイルーも渡されていない。まさか、氷嚢と包帯だけ渡して後は自分達でやれとはな」
「酷いものだ。サントよりも重い容態が、病院を埋め尽くしている」
「全くだ。私よりも先に診るべき患者は他に居るだろうに」
バゼルギウスの爆撃被害は、私が思っている以上に酷かった。特に、民間有志が壊滅的であった。大量に用意された病床が、一人空く度に補充されている。
「それでは、私はもう行くよ」
「あぁ、互いに元気になったら一狩り行こう」
「勿論だ。楽しみに待っている」
◇
「ボク達が居ない間に、そんな事が…………すまない」
「クソッ、なんて間が悪いんだ」
「お疲れ様でした、サント君。よく頑張りましたね。街を守ってくれて、ありがとうございます」
「笑えねぇ死傷者数だぜ……でもっ、アミーゴの活躍はスーパーだぜ!」
トニック殿の庭に、リオレウス亜種とリオレイア亜種を討伐しに出掛けていたマティーニ殿達が集まる。私は、彼等にドンドルマ防衛戦の一部始終を語り終えたところだ。
「そうだ、筆頭ハンターって知ってるかい?」
「筆頭ハンター……確か、ギルドからの信頼の篤いハンター達だったか」
「どうやら、大長老が街の防衛の為に呼んだらしいよ」
「こっちはあくまで噂だが、我らの団ハンターも来ると言われている。過剰戦力な気もするが、念には念を入れろと言うしな」
「ほう! かの我らの団ハンターが!」
流石は大陸最大の経済規模を誇る都市。緊急時となれば、こうも簡単に大物達を集めてくるのか。ありがたい限りだ。
「さっせーん。こちらの名前ナゲー方にお手紙でーす」
「あぁ、オレが受け取るから座ってな。よぉ兄ちゃん、パス!」
「あっしゃっすー」
「ほれ、サント。お前宛てだって書いてんぜ」
「ありがとう」
トニック殿から手紙を受け取る。極めて上等な便箋であり……
「これはッ!」
「どうかされましたか?」
「この紋章……私の産みの母の家の家紋だ」
「シーコウ伯爵家から? なんで今更……」
…………あ。
そう言えば私、先の戦いの演説で大声でフルネーム叫んだな。吟遊詩人の定番にもなったりして、誇張抜きでドンドルマ住民──21世紀地球で言うところのニューヨークのポジションにある街の住民の八割以上が私の名前を知っている訳だ。
そりゃ、シーコウ伯爵家の耳にも入るよな! ガハハ!
「と、取り敢えず読んでみるか」
導きの白い星 サント・リー・スピリツ・シーコウ殿
拝啓 蜜蜂達が舞い、回復薬の癒しの力を引き上げる蜂蜜が一層熟す今日、初めてお手紙を差し上げました。
ドンドルマを守る為に立ち上がり、絶望した民を鼓舞し、かの恐ろしい竜達を討伐した貴殿の英雄譚は、遠方にも届いております。
さて、貴殿の英雄譚において私は疑問を抱きました。それは、貴殿の名について。サント・リー・スピリツ・シーコウ、当家初代の名でもあるサント、当家含む西シュレイド王国一部貴族において男子を意味するリー、当家先々代の名でもあるスピリツ、そして当家の家名であるシーコウ。失礼ながら、私は貴殿の素性を調べさせていただきました。
そして、貴殿が当家より出奔したブラン・デー・ヘネシー・シーコウと、四半世紀前の英雄ベネットの間に産まれた長男であることが判明いたしました。
この調査結果と西シュレイド王国憲法に基づき、まことに遺憾ながら貴殿はシーコウ伯爵家爵位継承権第三位となりました。つきましては、貴殿にシーコウ伯爵家へと訪問していただきたく候。
多忙の身とは理解の上であります故、具体的な期日は設けません。ただし、三年以内に来ていただけない場合、貴殿と義妹殿の命は保証しかねます。
過ごしやすい季節ではございますが、大変な山越えとなりますのでお身体をご自愛ください。
「うわぁ……見てくれ、この手紙を……」
「ふむふむ……うわぁ」
「うわぁ」
「うわぁ」
厄介事。あまりにも見え透いた、厄介事。
「平穏かつ楽しげな食事会が開かれるだけで無事に帰れると思う人」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
無言。まったくの、静寂。この地雷は、単なる私の気のせいではないようだ。私としては、そうであって欲しかったのだがな。
「……大長老に、相談に行ってみようと思う」
「良いアイデアだ。あの方は知見が広い。このニッカなる卿についても知っているかもしれない」
◇
街の復興は一段落し、我々は普段の生活を取り戻そうとしていた。私も杖が無くとも歩ける程度には回復し、まだまだ戦闘は厳しいが生活にはそう困っていない。
復興に伴い、ハンターやギルド職員達の戦功についても細かく査定され、功労者は参加報酬の他に報奨が出た。私は最大功労者と満場一致で認められ、十字銀火竜勲章と70000ゼニー、ハンターランク12への飛び級という、極めて異例な褒美を受けた。
ハンターランクの向上に伴い、私は全ての素材の利用が認められた。その為、現在は青電主ライゼクスの素材で作られた鎧を着ている。今回は、しっかり男性用だ。尤も、通常のモノと比べると大きく軽量化されているが。加工屋のオヤジも、機嫌を直してくれた。
また、重ね着という摩訶不思議技術の利用も認められた。頭防具については、重ね着技術を利用することで素顔を晒している。これでも一切性能に影響が無いのだから、凄い技術である。
「何が食べたい?」
「カロッ」
「ポポ肉か、分かった。よし、それじゃあ肉屋に行こう」
教科書に栞を挟み、義妹に乗る。転落防止のハーネスを巻き、庭を出る。しかし……
「あっ、トビカガチだ!」
「本物!?」
「キャーッ! 導きの白い星よー!」
外に出ると、いつもコレだ。吟遊詩人や作家達は、これでもかと美化と脚色を施した私の作品を山のように出し続けている。そのせいで、私は何処に行っても騒がれる。変装をしようにも、義妹については隠しようがない。
「クソッ……何故あの時の私は、導きの白い星だなんて自称したんだ……。私の作品についても、揃いも揃ってタイトルを''導きの白い星''にしやがって……」
「カロカロッ」
「恥ずかしいんだよ……あまり笑わないでくれ」
庭を出てから、十分弱は歩いたか。閑静な高級住宅街を抜け、市場に出る。より多くの注目が集まり、人が寄る。
「あっ、あの!」
「何用か」
「さっ、サイン! ください!」
「……分かった。…………これで良いか?」
「わぁっ……! やったー! ありがとー!」
人の群れの中、なんとか肉屋を見付けた私は近付いて外から店主に声をかける。すると、特別に三割引きでポポを一頭丸ごと頂いてしまった。人に囲まれるのは得意ではないが、こういったサービスは嬉しいものだ。
私はポポを背負い、道を引き返して帰らんとする。その時、見慣れないハンターを発見した。黒と紫の鎧で身を包んだ、見るからに強そうな剣士である。
「禍々しい防具だ……」
あのような防具の素材になりそうなモンスターも、あのような防具を身に付けたハンターも、ドンドルマ近辺では一切見たことがない。もしや、ドンドルマ防衛の為に外部から呼ばれたハンター達の一人だろうか。
「トビカガチ上から失礼」
「……? なに?」
「私はサント・リー・スピリツ・シーコウ、ハンターだ。急な話で悪いが、貴殿は防衛の任を受けてやって来たハンターか?」
「うん」
「ほう、そうかそうか。それは有り難い限りだ。我々在来ハンターが回復するまでの間、よろしく頼むよ。ドンドルマの命運は、貴殿等に懸っている」
「まかせて。やくめだから」
彼自身は、随分と強そうに見える。そこら辺のリオレウスくらいなら、片手間に倒せそうだ。しかし、言葉の節々から不思議と幼さを感じる。きっと、戦闘の後遺症で障害でも負ってしまったのだろう。それでも尚、人を守る為に戦う彼に敬意を表する。
「貴殿、名は?」
「ゆうた」
「ゆうた、良い名前じゃないか」
「ねぇ、はちみついる?」
「はちみつ?」
「これ、うちのよーほーじょーの」
「養蜂をやっているのか!? 凄いな……養蜂なんて、ドンドルマでも殆ど成功していない事だぞ」
ゆうたから蜂蜜を頂く。瓶に光を当て、眺める。非常に綺麗で、純度も良いように見える。蓋を開けると、豊かで良い香りが一気に広がる。これは随分と上等な蜂蜜だな。
「既に貴殿に恩恵を受けている私ばかりが貰うのは悪いな」
「きにしなくていいよ。かってにやったことだから」
「それでは私が嫌なのだ。何かさせてくれないか。ゆうたは何処から来たんだ?」
「ばるばれ」
「バルバレ……もしや、我らの団ハンターか?」
「うん。みっかまえにきた」
「なるほど……今晩、空いているか?」
「うん」
移動する街、バルバレ。時には海にすら行く街だが、基本的には砂漠に居る。そんな所から3日前に来た男性ハンターをもてなすには……アソコはどうだろう。
「最近、ドンドルマにも温泉が引かれてな。食事等のサービスも非常に質が高く、良い場所だ。一緒に行かないか? 勿論、全て私の奢りだ」
「わかっ……ん?」
「男同士、ゆっくり温泉に浸かりながら狩猟の話でも楽しもう」
「……?」
アソコの何が良いかと言うと、男湯・女湯・モンスター湯がある。以前行った時に覗かせて貰ったが、どうやって管理しているのか不思議になるほど広くて良い場所だった。少しの間なら、安心して義妹を任せられる。
「それでは、六時半に大老殿前で集合しよう」
時間通りに私達はゆうたと合流し、温泉に到着した。一言で温泉と言っても、雰囲気としてはスーパー銭湯が近い。開業日にライデン殿に誘われて来た時に食べたユクモ料理は絶品だった。
「まぁ、サントさま」
「男二人と大型一人だ」
脱衣場へ行き、服を脱ぐ。私の美しい筋肉に見惚れて固まっているゆうたを急かし、洗い場へ入る。
「私の素晴らしい腹筋が魅力的なのは分かるが、よそ見して滑るなよ」
「……うん」
椅子に座り、髪を洗ってお団子に結う。隣を見ると、ゆうたは短髪ながら洗髪中だった。あまり、こういった場には慣れていないのだろうか。身体用の石鹸を泡立てていると、漸くゆうたも洗髪が終わったようだ。
「背中を向けてくれ、私が洗ってやろう。……良い背中だ。筋肉質で、男らしく、勇ましい」
「…………そ、そうかな」
「そうだとも。さて、私もお願いして良いかな?」
「わ……わかった」
恐る恐る、といった風にゆうたが私の背中に触れる。緊張しているのだろうか。その体格には見合わぬ僅かな力の感触が背を伝い、上等な石鹸の香りが鼻を擽る。
「っ……ぅ、っ……」
「い、いたくない? こーゆーの、はじめてで……」
「ふふ、やはり初めてか。大丈夫、とても上手だ。気持ち良いぞ」
口調が幼い影響もあるのだろうか。合計年齢70近くの私にとっては、ゆうたが子や孫のように可愛く見える。この身体にとっては、2倍は年上なのだろうが。
身体を洗い終え、私達は立ち上がる。浴場への扉に手をかけ、洗い場を出る。浴場には、一つの大きな石造りの浴槽。硫黄の香りが漂い、熱気が頬を火照らせる。
「っ、あぁ…………どうだ、気持ち良いか?」
「う、うん……」
「ユクモという温泉で有名な地の者が携わっているらしくてな。浸かると力が漲るのだ。狩りの後に汗を流すのも良いが、狩りの前に来るのも良いだろう」
この風呂を上がった後、私達を待っているのは蕎麦前。だし巻き玉子、焼き味噌、漬物、かしわ抜き、天ぷら等をツマミに酒を楽しみ、シメに香り高い蕎麦を啜る。幾分か値段は張るが、この温泉は21世紀日本にも引けを取らない極上の湯だ。