トビカガチは実質セクレト   作:HR217の一般ハンター

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トビカガチはかわいい

 

 

 モンスターは、数十分程で帰ってきた。口には、まさしく草食恐竜といった見た目の動物を咥えている。私とは違い、完全に息絶えている。

 

 モンスターは仰向けに置いた草食恐竜の腹を割き、血を啜る。鋭利な爪で獲物の腹肉を切り、1kg前後の肉の塊を私の前に置く。これが、私の取り分なのだろう。モンスターは残りを黙々と食べ進める。

 

「……な、生肉か」

 

 確かにドイツ旅行で食べたメット*1は良かったが……モンスターが常温で精肉した良く分からん生肉は流石に躊躇するな。

 

 参ったな、火炎草は咥えられている時に全て落としてしまったのだ。火起こしは難しいし、これ以上の食事の要求が正しく通るとも思えない。

 

 ……食べるべきか。

 

「これはメット、これはメット、これはメット、これはメット、これはメット……よし、メットの密造に成功したぞ」

 

 ほう……驚いた、これは美味い。非常に脂が乗っていて、柔らかい。旨味も強く、まるで和牛でも食べているようだ。前世は年のせいで、和牛は薄切り肉を三枚程度が限度だった。しかし、この幼い身体ならいくらでも食べられそうだ。普通の幼児では和牛1kgなんて到底食べられないだろうが、私は父と同じく大食いなのだ。

 

 

 

「ふぅ……」

 

 5000kcalは食べただろうか。私が満腹感に満ちた息を漏らすと、少し前に食事を終えていたモンスターが近寄ってくる。すると、モンスターは私の顔をペロペロと舐めやがった。

 

「あっ、意外と臭くない」

 

 もっと野良犬みたいなのを想像していたが、一般的な人間レベルの口臭だ。そう言えば、このモンスターから悪臭は一切感じていない。綺麗好きな種族なのだろうか。

 

 モンスターは私を咥え、干し草ベッドの上へ。私と卵を中心に配置し、細長い身体をベッドの縁に沿う用に丸めて眠りに就いた。

 

「破片? 炭酸カルシウムのような質感だが……卵と同じ模様があるぞ」

 

 私は干し草の下に卵の殻の破片のような物が敷かれていることに気付いた。朽ちてはおらず、真新しい物に思える。もしかしたら、このモンスターは複数の卵を生むも一つだけを残して失ってしまい、行き場を失った母性を私にぶつけているのかもしれない。

 

 

「……私も、寝るか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「素晴らしい、これ以上の結果は望めないだろう」

 

 義母──あの白銀のモンスターと出会ってから、3ヶ月が経過した。実際の性別は不明だが、男性器と思わしきモノは見掛けていないのでメスと仮定している。

 

 相変わらず私を餌とは一切認識しておらず、寧ろ愛情を感じる。最近では、義母の感情を読み取ってコミュニケーションもできるようになった。彼女もまた私の言いたい事が何となく分かるようで、以前巣の外へ連れ出された時に見せたバクレツの実や火炎草を、餌と共に持ってきてくれるようになった。

 

 生肉も悪くないが、やはり私はヒト。たまには加熱した肉も食べたい。そして何より、武器が欲しい。いずれは、義母にも自立しろと追い出される。このバクレツの実は、上手く使えば草食恐竜を仕留められるかもしれない。

 

 実際、バクレツの実活用実験は上手く行った。

 

 まず最初に、鋭い石で樹皮を剥いで作った投石紐で投げてみた。個体差のあるバクレツの実を確実に爆破させ、尚且つ飛距離も硬い皮による打撃威力も優れていた。しかし、不慣れな私にとっては精度と耐久性に大きな課題があった。

 

 素材を蔦に変えたり、餌の毛皮にしたり……改良と練習を重ね、この四式投石紐は三発中三発が100m程先の木に命中した。

 

 

「あぁ、おかえり」

「カロロッ」

 

 義母が帰ってきた。口には、猪のようなモンスターを咥えている。コイツの肉も結構美味い。義母はいつものように私の分を切り分けて渡し……む?

 

「どうした?」

「グゥォ……!」

 

 義母は口から猪を落とし、卵へ一直線に走り出す。そして、私は卵から物音が出ていることに気付いた。どうやら、そろそろ孵化するようだ。

 

 カチッ、パキッ、卵にヒビが入る。亀裂から小さな穴が空き、それは徐々に大きくなっていく。

 

「おぉ……」

「カロロロロッ!」

「きゅー」

 

 30cmを少し超える程度の、義母に比べれば非常に小さな身体。毛は薄く、皮膚はいかにも柔らかそうで赤みがかっている。鳴き声は高く、か細い。総合的に見た感想としては、''大変かわいい''の一言である。

 

 義母は見るからに嬉しそうに喉を鳴らし、自慢するように赤子を咥えて見せ付ける。私が手を前に出すと、そっと赤子を差し出す。家族として、完全に信頼を受けている証拠である。

 

「女の子……かな? 一緒に美味しい肉をたくさん食べような、義妹よ」

 

 決して傷付けないよう、慎重に慎重を重ねて下に置く。しかし、義妹は私の身体を登りピカチュウさながらに肩へ居座る。義母も異種族義兄妹が早速仲を深めたことに、なんだか嬉しそうにしている。

 

 おっ、今度は母の足に飛び乗った。生まれたてなのに、飛膜は随分としっかりしているんだな。もう滑空している。

 

「かわいいなぁお前は」

 

 よーし、お義兄ちゃん張り切っちゃうぞ。今度、オモチャでも作ってみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 義妹が産まれてから、約三ヶ月。二歳となって身長も鰻上りな私だが、実は既に義妹の体長も同じぐらい大きくなっている。いや、実を言うと既に抜かされている。まぁ……人間とモンスターの身長を比較することがまず馬鹿らしいのだが。

 

「ほれ」

 

 家族の種族は、見た目や特徴は爬虫類的。しかし、中身はネコ科に近いような印象を受ける。ということで、義妹を楽しませる為に作ったオモチャも猫用を参考にしている。

 

「あーかわいいねー」

「キューッ」

 

 私と義妹は、近縁種ですらない全くの別種。しかし、孵化した時から三ヶ月も常に共に居る私であれば、幼い義妹でも義母と同じように私の感情を読み取り喜怒哀楽を共にしてくれる。私が愛情を向ければ、それ以上の愛情を返してくる。

 

 以前は、生への執着が薄かった。何も失うモノがない、無敵の人だったからだ。しかし私は今、愛する者を得た。何が何でも、生き残ってやる。絶対に、家族を一人にはさせない。

 

 最近では、投石紐の練習や筋トレにも更に集中して行えている。この過酷な世界で生き残るには、力が要る。大きくなった義妹に守ってもらうだけの生活を送る訳にはいかない。実際に義妹より強くなるのは種族柄厳しいだろうが、この森の頂点捕食者になってやるぐらいの気概でトレーニングに勤しんでいる。

 

 

 

 

 

 

 

「と、ひ、さ、め、きゅ……よしよし、正解だ」

 

 私は今、二歳を迎えた義妹に人間の言語を教えている。義母は興味を示さなかったが、義妹は私についての全てに興味がある上に常に隣に居るので授業は順調に進んでいる。

 

 私も四歳間近になって身長は110cm前後あるが、義妹は既に成人男性並みの体長である。体重も中々で、もう抱き上げることは不可能である。かなしい。

 

「グゥ……」

 

 昼寝をしていた義母が近付いてきた。どうやら遊びたい気分のようだ。九式投石紐に遊び用として義母が持ってきた小石を三つセット。放たれた小石を、義母は巣から落ちるギリギリで全て回収し私の下へ持ってくる。顎を一つ撫で、また紐を振るった。

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!」

 

 十六式投石紐を振るう。100m先の青熊の頭にバクレツの実がめり込み、爆発を起こす。川で水を飲んでいた青熊は突然のダメージに驚き、酷くむせる。

 

 私を背中に乗せた義妹は全力疾走。電光石火の爪を、青熊にぶちかます。血の吹き出す傷口へ、ザンレツの実と鋭く尖った黒曜石を振るう。傷口は完全に破壊され、凄まじい激痛に青熊は倒れ悶える。

 

 義妹の背から飛び降り、グチュグチュになった傷口へ剣を深々と差し込む。これは、以前巣に襲い掛かってきたモンスターの牙を改造したものだ。義妹は背中の針を青熊の腹に刺し、電気を放つ。

 

 青熊が起き上がる前に、帯電したままの義妹の背に戻る。以前巣を襲ってきたところを母が討伐した、狼のような青いモンスター。電気を無効化する奴の毛皮に興味を抱き、義母の爪を借りながら加工。それでコートとパンツストッキング型のズボンを作成した。

 

 青熊は怒り狂い、急接近。しかし、義妹の方が遥かに俊敏。青熊は疲弊するばかりで、義妹は楽々回避。そこに、私が急所を狙って投石紐を振るい続ける。

 

 グチャッ、青熊の両目が破壊される。その苦痛は、察するに余りある。攻撃能力を喪失している青熊に接近し、また各々で猛攻を仕掛ける。電気狼の爪で作られた剣が首の傷口を破壊し……青熊は、息絶えた。

 

「カロロッ! カロッ」

「カルルッ!」

「よしっ!」

 

 樹上から、義母が現れる。義母の介入に頼らない、私と義妹の実力による青熊の討伐成功。これに、私達だけでなく義母も強く喜んでいる。

 

 義妹も、今では六歳だ。体長は5m近くで、私も身長150cm弱と年齢にしてはかなりの長身かつ筋肉質。未だ、私達はこの森では下層の捕食者。しかし、確かに二次消費者階級へと至ったのだ。

 

 青熊を大雑把に解体し、既に前世の全盛期よりも強い筋力で義妹と共に青熊を巣まで運ぶ。地上から100m近く高い樹上の巣に運ぶのは難しいが、ここが踏ん張り所である。一応、私が運搬しているのは100kg程度だしな。義兄として、義妹に筋力で大敗している現状が少しだけ情けない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ」

 

 川辺を義妹と歩いていると、翡翠と思わしき石を二つ見付けた。丁度良い、巣に持ち帰ってアクセサリーに加工するか。

 

 義妹も今年で八歳だ。身体も大きくなり、丸かった顔も義母のようにシュッとしてきた。私も令和日本人成人男性の平均身長に達し、何も知らぬ者が見れば童顔で細マッチョな成人と認識するだろう。

 

 私達も立派な捕食者であり、食事は自分達で確保している。義母とは、今でもあの樹上の巣で共に住んでいるがね。元が広い為、狭さは感じていない。

 

「えっ、うわっ、リンゴだ!」

 

 初めて見た。肉ばかりの食事をしている私にとって、このリンゴは金色に思えるほど輝いて見えていた。木の幹で壁ジャンプし、高さ8mにあるリンゴを二つもぎ取る。手で割ってみるが、虫が入っているなんてこともない。かぶり付けば、酸味は強いがリンゴの風味と甘味も仄かにする。

 

「食べる?」

「グォ」

「まぁ食べないよな……肉食だし」

 

 この場所は覚えておこう。流石に肉に飽きていたんだ。私の種族はヒト、肉食ではなく雑食。植物も、肉と同じく大好きだ。

 

「む……? おぉ、この草の形は明らかにネギ属! 匂いも……うむ、最高にネギ臭い」

 

 このエリアは美味しそうな植物が多いな。義妹には退屈かもしれんが、また来よう。

 

「カロッ」

「お、獲物が居たか?」

 

 義妹は茂みの奥を向き、喉を鳴らす。私は義妹の背に乗り、投石紐を構える。義妹はグンと勢いよく駆けながら、木々に身体を擦り付け静電気を溜める。

 

「美味しそうな猪じゃないか」

 

 突然の自分よりも遥かに強い捕食者の接近に驚く猪に、石を投げ付ける。鼻を潰された猪は怯み、その首に義妹が噛み付き電流を流す。猪はあっという間に絶命し、ただの食料となった。

 

「……足りんな」

「クォッ」

「あぁいや、食事についてはこれで十分だ」

 

 最近、私は少しばかり悩んでいることがある。それは、火力不足。人間の筋力には限度はある。投石紐では、ライゼクス等の硬質な鱗を持つ頂点捕食者には豆鉄砲も豆鉄砲。丁度良い形状の石や特殊植物も、無限にある訳じゃない。

 

「……火器、か」

 

 古代と中世の武器から、ステップアップをしなければならない。だが、この山には鉄が無い。原始的な火薬を作るための硫黄や硝石のアテも無い。さて、どうしたものか。

 

「ヒトだから、そんな理由でライゼクスに蹂躙されるのは不愉快極まりない」

 

 必ずや、私は更に強くなってみせ……

 

「あっ、ちょっと、私の髪食べないでね」

 

 パツ、度重なる使用で限界に達した樹皮製の髪紐が切れる。戦闘の邪魔にならないように纏めていた髪は、丁度下を向いていたこともあって義妹の口の位置まで垂れてしまった。

 

 この環境では、綺麗に髪を切るのは難しい。出来る限り散髪の頻度を減らせるように、私は長髪にしているのだ。普段はポニテ、戦闘時はお団子である。

 

 また、若ハゲへの悩みが馴れ初めである両親から産まれた男が前世である私としては、少しでも豊かに生えた髪を楽しみたいのだ。

 

 実を言うと、私の髪は野生児でありながら結構綺麗である。一流の自衛隊員とは、化学にも精通しているものだ。そこら辺の炭酸カルシウムを焼成・加水し水酸化カルシウムを精製、岩塩地帯に生息する植物の灰から炭酸ナトリウムを抽出、両者を混ぜて水酸化ナトリウムを精製。そこに水と油脂を加えれば、石鹸の完成だ。

 

 石鹸染髪というとキシむので良くないと言われがちだが、あれは髪が水酸化ナトリウム由来の塩基性に傾いているだけ。柑橘系の果汁を用いて中和すれば問題ない。

 

「美しく艶のある髪……なんだか泣けてくるな」

「グゥ……」

「あぁ大丈夫大丈夫、心配しないで」

 

 

 

*1
生の豚肉のソーセージ。豚味のネギトロ。おいしい。九州の鳥刺しのように、極めて厳格で徹底した衛生管理が行われている

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