トビカガチは実質セクレト 作:HR217の一般ハンター
「大変、お世話になりました。貴女は、私に生きる意味を与えてくれた。紛れもない、大恩人です」
「クォウ……」
準備含めて3日間かけて行われた、義母の葬儀。やり方は随分と迷ったが、火葬にした。遺骨は見様見真似で作った仏壇の中に納めている。
ライゼクスの死体も、他の生物に奪われないように巣に置いている。ザックリと解体し、血と内臓を除去して吊るしている。
「……さて、一狩り行こうか」
「カロロッ」
狩りの成果は、大猪が一頭。あれから、私達は猪へ少しばかり以前とは違った感情を抱いている。見掛けると、ついつい優先的に狩りたくなるのだ。いつものように大雑把に解体した猪を分担して抱え、巨大樹を登って帰巣せんとする。
「……む?」
「グォ……?」
なんだ、この臭いは。猪でも、草食恐竜でも、家族の種族でも、顎つよ炎恐竜でも、電気狼でも、ライゼクスでもない。いまいち、覚えの無い臭いだ。
「…………。」
義母の素材から作った新品の剣をすぐに抜けるよう準備をし、私達は木登りを開始。覚えの無い臭いは巣に近付くに連れて強くなり、独特な鳴き声まで聞こえてき……あれ? これ、鳴き声じゃなくて……
「……人間?」
「……驚いた。キミ、どうしてこんな所に居るんだい? って、危ない!」
「なっ!? 止めろ!」
人間、人間だ。巣に、人間が居た。男が1、女が2、性別不詳が1、いずれも武装している。女性陣は森を舐め腐ったような露出ファッションだが、性別不詳は歩兵の癖に大型ランスと大盾とかいう馬鹿装備な上に凄まじい重装甲の鎧だ。
1人の女が、火器と思わしき武器を義妹に向ける。猪を捨て、抜刀。義妹の前に出る。
「……もしかして、キミのオトモンかい?」
「オトモン……? 何を言っているのかは分からんが、このモンスターは私の家族だ。危害を加えると言うのであれば、我々と貴殿等のどちらかが完全に息絶えるまで殺し合いだ」
「おっと……それは望む所じゃあないね。武器を向けてしまったこと、心から謝罪する。そちらのトビカガチの方にも」
「貴殿の謝罪を受け入れよう。貴殿等は人間の戦士、義妹はモンスター、悪意故の行動ではないのだろう。さて……ここは我々の巣である。何用で参った」
互いに武器を納め、義妹も逆立てた毛を戻した。取り敢えずは、約十年振りの人間とのコミュニケーションを平和的に行えそうだ。人間と暴力沙汰を起こせば、タダじゃ済まない。
「ボク達は、ギルド所属のハンターだ。カン村専属ハンターに撃退された後、約十年間行方不明となっていた青電主ライゼクスの再出現及びカン村壊滅の報せを受け、調査に来た」
「青電主……つまりそれは、そこに吊っているライゼクスの事かね?」
「その通りだ。キミ達が、このライゼクスを倒したのかい?」
「無論。とは言え、私と義妹の力だけではない。殆ど、義母が倒したようなものだ」
「義母……義妹……となると、その義母というのはトビカガチのことかい?」
「トビカガチという言葉が義妹の種族の名前の事なら、トビカガチで合っている」
「お義母さまは、どちらに?」
「そこだ」
「?」
「そこの仏壇……木のオブジェクトの中に、遺骨が入っている。3日前、義母はライゼクスとの戦いで息を引き取った」
「……お悔やみ申し上げます」
なんだ、良い子じゃないか。完全に信じた訳じゃないが、話に違和感は無い。
「時間に余裕は? 少し、話がしたい」
「こちらこそ。丁度、キミと話がしたかったんだ」
「適当な所に座って待っていてくれ。火を囲んで食事でもしながら、ゆっくり話そう」
焚き火台に火炎草で火を起こし、回収した猪を素早く解剖。岩塩・ハーブ・唐辛子・乾燥粉末果実及び野菜の自家製ミックスソルトを肉に刷り込み、串に刺して焼く。
「キミはトビカガチの家族を持っているようだが、産みの親は覚えているかい?」
「最近壊滅したと貴殿が言っていた村で、私は産まれた。母は西シュレイドなる国の貴族だったが、船が難破して漂流。父に救助され、後に村で挙式。父は約十年前、例のライゼクスと戦って撃退した剣士だ」
「……やはり、か。その顔を見てもしかして……とは思っていたが」
「知っているのか? ライデン」
ここで、火器持ちの中性的な女性以外が口を開く。父と同じく二振りの剣を携えた男だ。
「はじめまして、サント君」
「ほう、私の名を知っているのか」
「俺の名はライデン、君のお父さんの弟子だ。お父さんが都市に居る間、十年近く師事した。君の事は、手紙で教えてもらったよ」
「あぁ、そう言えば名乗りがまだだったね。ボクはマティーニ、ヘビィボウガン使いでこのパーティーのリーダー。そして、イケメンだ」
「狩猟笛使いのミスティです。よろしくお願いします」
「無言を貫くランス使いはトニック、タバコを使った宴会芸に失敗して喉を火傷してしまい、医者に暫く喋るなと言われている」
「ライデン殿の言った通り、私の名はサント。この森で、えぇと……あぁそうそう、トビカガチの家族と暮らしている。どうだ、私の義妹は可愛いだろう」
「カロロッ」
「かわいい……」
肉もそろそろ焼けてきた。生肉を既に食べている義妹の頭を撫でてから、串を1人1人に手渡しする。一応、客人だからな。
「あぁ、どうも」
「ありがとう。……さて、あまり思い出したくない話かもしれない事を敢えて聞くわけだが、キミはどうしてトビカガチを義母と仰いだんだい?」
「約十年前のライゼクスの襲撃は、村にとって致命的だった。当時一歳半であった私は、口減らしとして山に捨てられたのだ」
「なんだと!? い、命懸けでライゼクスを撃退した男の子が、口減らしの対象になったのか!? 師匠がこれを知れば、どんな気持ちに……!」
「仕方あるまい、それ程までに村は苦しい状況だったのだ。私は、口減らしには納得しているさ。何も憎んじゃいない」
「だからって……」
「…………あの、すみません。話の腰を折るようで悪いのですが、貴女の年齢って……」
「11歳を迎えたばかりだ」
「えぇ……?」
「……そ、その身長と口調でか」
まぁ、そう思うだろうな。私の身長は180cm近くで、幹部自衛官としての口調のままである。童顔だし精通もしていないが、私を見れば普通は成人していると思うだろう。
「だが……少し違和感があるな。キミは一歳半の頃にこの山に来たのだろう? しかし、この巣には数々の文明的な技術及び発想が散見される。キミ自身からも、人類社会で高度な教育を受けた人間のような印象を受ける」
「それはまぁ……アレだ。私は早熟なのだ。村での記憶をよく覚えているのと……まぁ、試行錯誤の結果だ」
「ふむ……?」
流石に、前世の事は話せない。前世がどうこう言っても、過酷な野生下で気が触れたと思われるだけだろう。例え信じられても、未成年という武器が使えなくなる。
「さて、そろそろ私からも質問だ。貴殿等は、このライゼクスをどうしたい」
「元々は、可能であれば狩猟を予定していた。しかし、既にキミ達が打ち倒していた。我々としては、既に目標は達成している。できればギルドへの死亡証明として鱗を一枚持って行きたいのだけれど、大丈夫かな」
「結構。好きに剥ぎ取ってくれて構わない」
「ありがたい。おいトニック、働け。喋れないんだから、手を動かすんだ」
「……!? …………!!!」
「当然だな、働けトニック」
「そうですよ、ちゃんと働いて下さい」
渋々立ち上がったトニックの背中は、どこか寂しそうに見えた。
「さて、ここでキミに提案がある。人間社会に来ないかい? キミは野生児だが、十分な言語能力と社会性がある。ボク達が少しサポートするだけで、簡単に馴染める筈だ」
「厚意は受け取っておく。だが、それは難しいだろう。人間社会が、義妹を受け入れられるとは思えない。義妹もまた、人間社会は落ち着かないだろう」
「そいつァ残念だサント君。だがね、一つ考えてみて欲しい。保護者を失い、義妹ちゃんは成体に達しておらず、武器はその腰の剣と投石紐。……ライゼクス、ジンオウガ、アンジャナフ……彼等の襲撃に、どう対処するつもりだ?」
「…………ふむ」
「何も一生人間社会で暮らせって言っている訳じゃない。十年もすりゃ、サント君も義妹も身体は出来上がりきっているだろう。俺達が使っているような、強力な武器も手に入る。防具や、医薬品や、知識だって」
確かに、義母を失った私達は弱い。顎つよ炎恐竜に勝率フィフティ・フィフティが限度。電気狼やライゼクスには、手も足も出ないだろう。バクレツの実も、残り少ない。
私は、今の私は……果たして、義妹を守り抜けるのか?
「……マティーニ殿」
「なんだい?」
「貴殿は先程、義妹を庇う私を見てオトモンという言葉を発したな。オトモンとは、どのようなモノだ」
「その名の通りさ。ハンターは、よくオトモを連れて狩りをする。オトモ+モンスターでオトモンさ」
「そのオトモンであれば、友好的な存在として公に認められるか」
「人や地域による。でも、ボク達の拠点であれば大きな問題は無い。ラージャンという、超攻撃的生物と呼ばれるモンスターをオトモンにしている人も一時期は居た」
「どうすれば、義妹をオトモンとすることができる」
「書類数枚の提出」
剣と投石紐ごと、ベルトポーチを外す。正座になり、深呼吸。頭を下げ、火の弾ける音だけが響く静寂の中で叫ぶ。
「このサント・リー・スピリツ・シーコウ、貴殿等に折り入って頼みがある! どうか我々を、人間社会へと連れていっていただきたい! 義妹を守る為の火力が! 砲がッ、私には必要なのだ!」
「人を助けるのが、ボク達ハンターの責務。喜んで受け入れよう!」