トビカガチは実質セクレト 作:HR217の一般ハンター
マティーニ:イビルジョー装備一式
ライデン:デスギア防具+オドガロン双剣
ミスティ:ヤツカダキ装備一式
トニック:ウラガンキン装備一式
私達は荷物を纏め、マティーニ殿達と共に巣を発った。綺麗サッパリ消滅させられた村に建てられたキャンプを彼女等が畳む中、小さな集合墓地の前に立つ。逃げて別の村まで辿り着いた数名以外、全ての村人がこの簡素な墓の下に一片の遺骨も無く眠っている。無論、私の産みの母も。
「正直言って、貴女にはそこまで情が無い。だが、うんと腹を痛めて私を産んでくれた母親であり、一年半共に暮らしたという事実に違いは無い」
両手を合わせ、黙祷。義妹の頭を撫でながら振り向くと、キャンプの解体は殆ど終わっていた。後は、作業の為に一部解除していた武装を再び身に付けるだけであった。
「改めて……建墓、感謝する」
「いえ、当然の事です。粗末なモノしか用意できず、申し訳ありません」
「気持ちだけでも、ありがたいものだ。それこそが、葬儀の本懐故に」
「それじゃ、行こうか! かなり歩くことになるからね!」
◇
村を出てから、もう三日が経過した。人工物も、一切見掛けていない。あの村の立地の悪さを、心の底から痛感している。父──つまり、ライデン殿の師匠を殺したモンスターの事件だと知らなければ、依頼を受注することも無かったのだろう。
マティーニ殿達は、流石ハンターといった実力者であった。全員が単独で私と義妹のペアよりも強く、それこそ通常個体のライゼクスならタイマンでも勝てるだろう。連携も素晴らしく、一流のハンターと呼んで良いだろう。持久力や速力にも秀でており、競歩の世界大会のような移動を毎日14時間行っている。
それだけ歩けば、気候にも変化が訪れる。北海道内陸部のような気候であった原生林は見る影も無く、今はサバンナを歩いている。些か急な変化だが、体長20m近くの骨太動物が空を飛んでいる世界だと考えれば多少の違和感は飲み込める。
「……見慣れないモンスターだ。ミスティ殿、あの竜はどういった生物で?」
「あれはアケノシルムという鳥竜です。あのように1本脚で立つことから、傘鳥とも称されます。また、燃焼時間の長い炎を吐くことにも要注意ですね。大型モンスターの中ではあまり強くはありませんが、ヨシナという高名なハンターが通常個体に真正面から一方的に殺害された事例もあります。戦う時は、油断せずに潤沢な回復薬を用意しましょう」
ミスティ殿は普段静かだが、大変博識だ。元々は龍歴院なる組織でモンスターの生態を研究をしていたらしいが、今ではハンターである。到底戦闘用とは思えない白と紫の防具を着ているが、案外実用的らしい。ヤツカダキというモンスターの素材とのこと。
「む、襲ってくるか……。仕方ない、アケノシルムを狩猟する!」
四人は抜刀。ミスティ殿は音楽を奏で、トニック殿は巨大なランスでチャージ、マティーニ殿は発砲、ライデン殿は双剣を抜き駆ける。
アケノシルムはマティーニ殿の発砲でトサカを完全に破壊され、トニック殿のチャージで吹き飛び地面に倒れる。そこに、ライデン殿が鬼人の如き連撃。アケノシルムは、十秒もせず命を絶った。
「……どうするマティーニ、素材を持ち帰るか?」
「出来れば持ち帰りたいけれど……アケノシルムの素材は、ハッキリ言って不要。鞄を圧迫させるのは良くない。処理は自然に任せよう。肉の食味も悪いしね……」
おぉ、哀れ。実に哀れ。なんと可哀想なアケノシルムか。補給のできない長期遠征で余裕の無い一流ハンター集団に襲い掛かってしまうとは。
「……ところで、何故ミスティ殿の大槌には楽器としての機能が? 戦士に演奏は付き物とは言え……失礼ながら、四人編成かつ主力武器に内蔵してまで奏でる価値があるとは……」
「え? 何故と言われても……音楽を聞くと、身体能力が高くなったり傷が癒えたりするでしょう?」
「?????」
◇
巣を出てから、もう一週間が経った。そして私は、11歳にして漸く二つ目の人類領域へと到達した。ここはサーラ村、砂上船という乗り物の寄港地として栄えている村だ。マティーニ殿達も拠点からここまで私有の砂上船でやって来たらしい。
「大丈夫か?」
「カロロッ」
義妹にとって、人類領域はコレが初めて。この数の見知らぬ異種族と一気に接近するのはストレスになるかと思ったが……大丈夫そうだ。いや、もしかしたら義妹は人間を味方としか認識していないのかもしれない。
「うぉあっ、トビカガチ!?」
「あぁ失礼、ボクのツレのオトモンになる予定の子だ」
「よ、予定……? 大丈夫かよソレ……」
義妹オトモン化計画に一抹の不安を抱きながら、私達はサーラ村を歩く。乗船の前に、サーラ村に避難して依頼をギルドに出したカン村の男に挨拶をしに行くらしい。
彼は今、貸与された小さな空き家で家具を作って暮らしているらしい。その家の前まで来た私達は、サイズ的に入れない義妹を家の前に待機させてお邪魔することにした。
「お邪魔します」
「おぉ、よくぞ戻ってこら……れ……え?」
「……どうされましたか?」
「な、なんでっ……なんで生きてるんだ!? ベネット……死んだ筈じゃ!?」
「依頼人、この子の名はベネットではない。その子供だ。十年前、口減らしで捨てられたな」
「……えっ、じゃあ……サント? いやでもっ、なんで生きて……」
小さな村らしく、目の前の中年男性は私の事を覚えているらしい。そして、私もまた彼の事を覚えている。
「そんなに不思議か? 『英雄の子なら、モンスターの世界でも生きていける』そう主張し続け意見を押し通したのは他ならぬ貴殿だろう。私は、全てを覚えているぞ」
「ぇっ、あっ……いや……」
「そう青ざめる必要はないさ。私は貴殿を憎んじゃいない。仕方ない判断だった。冷徹で、合理的で、スマートな判断だった」
「あっ、ぁ……っ、あっ、う゛あ゛ぁ゛ぁぁーっ!!!」
「泣き叫ぶ程怖がらなくたって良いじゃないか。私は、貴殿を、憎んで、いない。分かるか?」
「やっ、やめろっ……来るな、来るんじゃないと言っている! 俺の側に近寄るなぁーッ! 俺に復讐しに来たんだろ!? だっ、誰か助けてくれぇーっ! ぅおあっ!? も、モンスター!? なんでモンスターが村の中に居るんだよぉーっ!」
「……行ってしまった」
彼は私が誰かを認識するや否や、顔を恐怖で埋め尽くし滝のような汗を出した。そして、何度も転びながら私達の横を通り抜けて家を飛び出した。
「追うか?」
「いや、大丈夫だ。村の外には出ないだろうし、放っておこう。それに……ボクは心身共に世界一のイケメンだが、誰にでも優しくする訳じゃないのさ。依頼人への挨拶はこれで終わりだ。さっ、早く補給を済ませて砂上船に乗ろう」
食料品を中心に買い物をした私達は、出発の前に武装を解除して風呂屋へと来ていた。風呂屋と言っても、歌舞伎町やすすきの繁華街に大量にある奴じゃないぞ、健全な銭湯の方だ。この風呂屋には厩舎があり、人間以外の洗浄もやっているらしい。ということで、義妹はそっちだ。
生涯で一番私と離れる瞬間だが、義妹は人間を完全に味方だと思い込んでいるので、寂しくて泣いたりはしないだろう。本当は一緒に入りたかったが、それは無理な話だ。私としても、今回が第2の人生最初の湯船。流石にこのチャンスは逃せんのだ。
「中は思ったより綺麗だな」
「あぁ、貴女はこっちですよ」
「ふふ、そっちは男湯だよ」
「え?」
「え?」
「え?」
「…………おい待て。マティーニ、ミスティ……お前ら、何か勘違いをしてねぇか?」
「わ、私は男だぞ?」
「…………ハァ?」
「?????」
嘘だろ。私を、私を……女性だと思っていたのか!? ……確かに、今思えば性別についての言及は一度もなかった。それに服装はお手製のローブみたいなモノだし、夜に身体を拭く時も離れてやっていた。
「いくらサント君が中性的で可愛い顔立ちで一人称が私だからと言って、身長ってモンが有るだろ!? それに、一人称が私と言っても貴族や高位の役職が使うようなお堅い口調の一貫だろ!?」
「全く以てその通り。ライデン殿の意見に、全面的に賛同する」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「おい待てトニック、まさかお前も勘違いしてたのか?」
トニック殿は壊れたオモチャ、あるいはヘビメタ系のように頷いた。マティーニ殿とミスティ殿は、義母に睨まれたアプトノスのように固まっていた。
「なんてこった……お前ら、帰ったら座学だ。大陸でも屈指のハンター集団が同族の性別すら見分けれない節穴集団だったなんて……俺ァ恥ずかしいよ」
「ライデン殿、早く風呂に入りに行こう。髪は私の命も同然、少しでも早く砂塵で削がれた艶を戻したい」
「おう」
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