「正義超人と戦わせてやろう」
そのサンシャインの言葉を聞き、遂に来たかと期待が膨らむ……話によれば、3本勝負になるとの事だが先鋒、副将、大将のうち大将はチェック・メイトが希望しているらしい。
(なら、万太郎は考えなくて良いな)
キン肉マンII世、キン肉マンの息子であるキン肉万太郎は父親の悪い面を引き継いでおり、基本的にヘタレだ……負けても何とかなる、と考えて先鋒に出て来る可能性は無いわけでは無いがどちらかと言えば先鋒、副将が片をつけてくれれば戦わずに済む、と踏んで大将にいる可能性が高い。
「それなら、副将戦に出たいです。レックス・キングが簡単に不覚を取るとは思いませんが、万一勝てなければ俺が取り戻して大将戦に繋げますよ」
「グフォフォ、あいわかった。しかし、お前が出てしまってはチェック・メイトの出番は無いかも知れんな」
「そうなったら、アイツヘソ曲げますよ……飯でもおごって機嫌取らないと」
「その時はワシの贔屓の店を教えてやろう。なあに、たまの祝勝会で固いことは言わん」
よし、言質取った。舞台は大阪、チームで勝てば串カツだな……まあ、俺が勝ててもチームは怪しいけど。
この戦いは、本来ならナイトメアズのレックス・キングとチェック・メイトの2人がキン肉万太郎、テリー・ザ・キッドと戦うところに俺も入り3本勝負になった形だ。
これは要するにヘラクレス・ファクトリーの正義超人もデビューし、勝利しているわけで時間の流れというのは過ごしてみると案外早い。
まず、俺が父・アシュラマンに魔界で鍛えられていた間に年齢による衰えから悪行超人に敗北を喫した伝説超人達は新世代の正義超人を育成する『ヘラクレス・ファクトリー』を創設。これは
魔界という異空間では時間の流れも分かりにくいところがあるが、その後の展開を見るに俺はこの創設とほぼ同時期にサンシャインを紹介されd・M・p入りしている。そして早々に組織の崩壊を実感し、生存率向上、被害の軽減を目的として訓練に励みつつ奔走し、その中でサバイバル訓練の許可を得た……あの訓練から一月程でテルテルボーイ、MAXマンが敗北しケビンマスクが組織を離脱、二の矢として俺達という状況だ。
正史ではこの戦い直後に内乱発生なので、巻き込まれを危惧して動いていたが試合に出るならば直接崩壊に巻き込まれる事は無い。正義超人との戦いが出来て、組織の崩壊にも巻き込まれないとまさに一石二鳥で実にありがたいが、魔界の外の世界における帰る場所も失ってしまうため、早々に身の振り方も考えなければいけない。
(取りあえず、負けてしまったら定番で正義超人入りを考えるか。勝ったらケビンマスクに倣ってフリーで放浪も悪くないな)
そうして、会場入り……考えてみれば一般人には俺は初お披露目で、正しくは俺のデビュー戦もここになるのか。
「さて……」
俺はチェック・メイト、レックス・キングと違いヘラクレス・ファクトリーの連中とは多少縁がある出自だし、軽く挨拶して来ようか。
緊張した面持ちの正義超人達とリングを隔てて向かい合うが、まずは彼らの前へと歩みを進める。
「初めまして、正義超人諸君。
「悪魔超人にも、少しは礼儀を知っている奴がいるんだな?」
早速皮肉を飛ばしてくるガゼルマンの足元で、後ずさる小さな超人……まあ彼ならすぐ俺の正体には気付くよな。
「その6本の腕……あ、あなたはまさか!!」
「いかにも。俺は
これは偽りない本心だ。キン肉マンファンからすれば、間違いなく最高のセコンドであるミート君のサポートを受けたいのは当然だろう。
「……それなら、何故そちらに立っているのですか?」
「俺は実のところ、正義だの悪行だのにはさして興味が無い。ただ、音に聞こえたヘラクレス・ファクトリーの
「その為だけに、今は悪行の側に立つというのですね?」
「その通り。悪行超人から人々を守る、って大義名分は用意してやったんだ。遠慮はいらないぜ」
「言われなくても遠慮なんてするものかよ」
「それはありがたいね、テリー・ザ・キッド」
そうして挨拶を終えると、対戦カードが決まった。先鋒戦レックス・キング対ガゼルマン、副将戦シバ対テリー・ザ・キッド、大将戦チェック・メイト対キン肉万太郎……概ね、予想通りだ。俺は噛ませ犬ポジションに定評があるガゼルマンをぶっ潰すものだと思っていたが、やはり親に因縁がある事でテリーがこっちに来たようだ。
レックス・キングとガゼルマンの戦いは、相手が変わっただけでほぼ原作通りに進んだ。サンシャインに乗せられてレフェリーに入った万太郎により有利な試合運びをしていたが、寒さにめっぽう弱いという弱点を露呈する事にもなり、そこを突かれる形でカーフ・ブランディングの代わりにサバンナヒートを受けてレックス・キングが敗北してしまった。
「……万太郎を利用した点で言えばお互い様だが、随分せこい手で勝ってくれる」
正義超人ほど親密ではないが、何だかんだサバイバルで助けられた仲のレックス・キングが種族由来でどうしようもない弱点により敗れるのは、思った以上に怒りが沸いて来た。
「来いよ、
「言ってくれるじゃないか、クモ野郎」
「まず無理だろうが、引き分けまで持ち込めれば親父と同じレベルかな? せいぜい楽しませてくれ」
ゴングが鳴るなり、弾かれたように突っ込んで来るキッド。
「抜かせーッ!!」
得意のナックルパートか。2本で十分凌げるが、もう1本追加して右側3本の腕を使いいなしていく。
「……?」
そこで感じる妙な違和感。その正体を確かめる為に、左の腕2本でカウンターを見舞い、距離を取る。
「ぐっ……!」
「見りゃわかんだろ、文字通り手数が違う。このまま殴り合いだけでも押し切れそうだが……それじゃつまらない。少し実験に付き合って貰おうか」
「実験だと?」
「俺は知識欲が強くてね、過去の様々な超人の技を研究するのも大好きなんだ。ミート殿、見様見真似だが……俺なりにキン肉族の技をアレンジしてみたんだ。是非、見て貰いたい……休憩はもう良いだろ、暴れ馬。それともやっぱり臆病な
「バカにしやがって!」
安い挑発に乗って再び拳を振るうキッドを迎え撃つ為に、ガードの姿勢を取る。所謂『ピーカブースタイル』……ただし、通常の人間や超人ならば腕2本の所を、俺は上と中央の腕4本でガードする。一見シンプルだが、これが立派なキン肉族の技のアレンジだったりする。
「ぐあっ!!」
俺はキン肉族ではないので、鉄の強度を得るとはならないが超人強度の暴力で並みの超人よりは頑健なガードになる。結果、むしろ拳を痛めたのはキッドの方だ。
「あ、あれはまさか肉のカーテン!?」
「正解! いや、4本の腕でガードして2倍の防御範囲があるからアシュラ一族式肉のカーテン、さしずめ『肉のカーテン・デュアルコート』ってところか」
たまらず引っ込めたキッドの腕を、中央の腕のガードを解いて掴むとそのまま引き寄せ、下段右腕を振り上げてアッパーカット。
ご覧の通り、ガードは腕4本で行いつつ、適宜空けた腕によるカウンターを狙う為どちらかと言えば『肉のカーテン』の源流とされる『パーフェクトディフェンダー』に近い技だ。肉のカーテンと言いつつ、中身は別物なので自分で名付けておいてネーミングセンスに疑問は残らないでもない……この辺は追々良い名前を思いついたら改名しよう。
モロに入ったアッパーカットによろめくキッドの首を、上の両腕で掴まえ、ネックハンギングツリーで吊り上げる。
「がっ……」
「安心しな、ギブアップを言えるくらいの力加減はしてやる」
「誰が、ギブアップなんてするかよ……!」
「そうかそうか、いつでもギブアップして良いからな」
腕が4本も空いているのに追撃しない理由は無いので、そのまま滅多打ちにしながら、違和感の正体に気付く。
(弱い……あまりにも弱い! コイツ本当にこの程度なのか!?)
ゴング直後からのガムシャラな攻撃……挑発してやったとはいえ、あまりにも単調だった。ケビンマスクやマルスなら、同じナックルパートでもフェイントを織り交ぜるくらいはやって来る。冷静で判断力に優れるあいつらは同じ土俵で戦う事は良しとせず、何とか自分達の戦い方をするための方法を考えるだろう。
その後『肉のカーテン・デュアルコート』に突っ込んできたのもそうだ、わざわざ新技の実験だと言っているのに無策で突っ込んできた。レックス・キングならジュラシック・ハンドでガードの上から嚙み砕きにくるし、こちらが防御姿勢で攻撃して来ないとなればテルテルボーイは嬉々としてトラウマボイス攻撃に移るだろう。
そして、今の状態……MAXマンならそもそも打撃がろくに効かないので、エアバッグを膨らませる事で余裕でネックハンギングツリーをはがし、変形攻撃に転じて来るだろう。チェック・メイトも
早い話が、俺が知るd・M・pの超人は何かしらの形である程度今の状況で戦えるというのを、身を以て知っているのだ。だが、目の前のキッドはこの体たらくだ……自分の中で、急速に正義超人に対する期待と言う熱が冷めていき、怒りを通り越して虚しさすら覚えた。これは、そう……失望だ。同時に悪魔の血に起因する残虐性が先の事を考えない邪悪な決断を囁く。
既にグロッキーなキッドを下ろし、告げる。
「……もういい。いたぶるのにも飽きた、さっさと終わらせてやるよ」
今の冷たく、冷酷な判断に相応しい顔をキッドへと向ける。
「阿修羅面……冷血」
感想でいただいたムーブを可能な限り取り入れてみました。
で、新技と言うほどでもないですが4本腕で肉のカーテンしつつ残り2本で反撃を狙う阿修羅式肉のカーテン『肉のカーテン・デュアルコート』を考えてみました。
やっている事は本編の考え通りむしろパーフェクトディフェンダーに近いのでもう少し良い名前がありそうな気もします。
次回でそのまま決めますが、仮面が示す通り想像以上の手応えの無さに失望して息の根止めるつもりです。(まあそれで死なないのが正義超人ですが)
ある意味万太郎と対峙したチェック・メイトの気持ちが良くわかるという状態ですね。