「ええと、こっち向きに体をひねればいいのか」
「ああ、そっちだ。力任せに抜けようとすると余計ハマるぜ、実戦ではそんなゆっくりしていられないだろうが、力がかかる方向をちゃんと理解するだけでもかなり違うはずだ」
「そうだな、助かる」
「おーい、ヒカルド、シバ! そろそろ飯にしようぜ!」
「ヒトーデか……今日のところはこの辺にしておくか」
「ああ。飯の前に包帯も替えておくか、ヒトーデ、手伝ってくれ」
俺は今、6本ある腕のうち中央と下の腕4本を痛めてしまっている……結果的には良い方向に進んでおり、怪我の功名とは良く言ったものだ。
「あだだだ、もう少し優しくやってくれよ……」
「
包帯を替え、このブラジルで広く敬愛される正義超人・パシャンゴの弟子達と一緒に食事を取る。ヒトーデはその名の通り、ヒトデを思わせるマスクを着けた、一門で最も大柄な超人なのだが、いかつい風貌とは裏腹に気配りの出来る男だ。
「お、今日の食事当番はウーゴか。期待できそうだな」
「ヒカルドの時なんてひどいもんだぜ、誰がどう見ても分かる手抜き料理ばっかなんだ」
「シウバ、てめえ!」
「まあまあ、そう怒るなって。超人レスラーたるもの、食事にも気を遣うべきなのは間違いないからな」
「ウーゴは俺の
パーマのかかった長髪が特徴的なウーゴはパシャンゴの弟子の中でも料理上手だ……実力不足も含めて明らかにサポート向きだと思うのだが、リングの表舞台に立つ事を本人は諦めていないらしい。
俺と少し名前の似たシウバは弟子の中で最年少の少年で、左手がサソリの尾のような異形になっている。まだまだ成長過程という感じだが、成長次第では面白い戦いが出来るようになるかもしれない。
ウーゴの作るブラジル料理は、初めて食べた時はその独自性に衝撃を受けたものだが負傷してからここで過ごすうちにだんだんとその味わいにも慣れてきた。食事を楽しむ俺の包帯を見て、ヒカルドは何度目かわからない感謝の言葉を述べる。
「すまなかったな、シバ。お前のおかげで
「気にするな。この状態の方がかえって体の動かし方が分かりやすいくらいなんだ。それに、この怪我で試合も止められて実質無駄飯食らいだからな、技の脱出法も教わっているし、礼を言うのは俺の方だ」
俺がブラジルを訪れたのは、今話しているヒカルドと接触する為だった。ヒカルドの両親は悪行超人であり、彼は『正義超人の技術も侮れない、学べるなら学ぶべき』という奇特な考えの持ち主だった。
ヒカルドはその両親の方針で正義超人のパシャンゴに預けられ、正義超人として育てられたという特異な境遇の超人であり、悪行超人由来と思われるの残虐性と、自らのアイデンティティに悩んでいる。
ヒカルドに会いたかった理由は2つある……1つはd・M・p崩壊に巻き込まれた彼の両親の訃報を伝えるため。もう1つは、俺の弱点を補うためだ。
どんな超人であれ、得意分野や苦手分野はある……実は俺は関節技というのが苦手だ。なまじ腕が多いために、技をかけられてしまう場所が普通の超人より多いし、技をかける側としても普通の超人の要領しか分からないので腕4本がフリーになってしまい、そこをどう動かすかという案が全然出て来ない……せいぜい、動きを封じてからそのまま殴るくらいだ。
そんなわけで、特に『技を受けてしまう場所が多い』点を補うため関節技からの『脱出』をパシャンゴ一門から学ばせて貰うという狙いもあったというわけだ。
今回の接触に関しては、俺が事態の引き金を引いてしまった形になる。
原作ではスパーリングでたまたまオーバーボディが剥がれ落ち、ヒカルドが悪行超人の子である事が発覚した……だが、俺が接触した事で事態は大きく変わってしまった。
ヒカルドの両親がd・M・p崩壊に巻き込まれて死亡した事を伝える=彼の両親は悪行超人だった、と伝えるに等しい。それを知ったパシャンゴはヒカルドを悪行超人と見なし、正義超人としてリングの上で打倒しようとしたのだ……バカな老いぼれだ。
いくらパシャンゴが関節技の名手として名を馳せたと言っても、既に高齢だ。対してヒカルドは10代のまさに肉体的全盛期で、関節技の面白さにのめり込みスパーの段階でパシャンゴに技を決めまくるほど研鑽を重ねている。
個人的にはパシャンゴがどうなろうがさほど気にしないのだが、師匠を手にかけてしまった事がヒカルドの精神に相当な悪影響を与えた……むしろ、そちらの方が無視出来ない。
そこで、ヒカルドがパシャンゴに
結果、試合に割り込みパシャンゴを助けた事でパシャンゴを反則負けにして真っ二つに引き裂かれての死亡を阻止し、代償として腕を痛めてしまったというわけだ。
死亡こそ阻止したが、本来なら致命傷になる技を受けた以上パシャンゴも無傷というわけにはいかず、特に背中に大きなダメージを負って現在は入院している。そのため、俺はパシャンゴの弟子の中で最も優秀なヒカルドに目的であった『関節技からの脱出』を教わっている。
「いっつつ……痛むのは痛むが、そろそろ動かせそうな気もするな。俺は明日、新しい包帯を貰うついでに見舞いに行くつもりだけど、ヒカルドはどうする?」
「……いや、オレは遠慮しておく」
死なせこそしなかったが、やはり俺と師匠に重傷を負わせてしまった事に変わりはないので負い目があるのかもしれないな。しかし俺に言わせればパシャンゴの対応の方が悪いので、気に病む必要は無い。ここからどうやって立ち直るかは、ヒカルド次第だろう。
翌日、病院のベッドに横になるパシャンゴは一命を取り留めながらもヒカルドに対して怒りを隠そうともしていなかった。
「……ワシも老いたものよな。ヒカルドに敗れたばかりか、お主に助けられるとは」
「そこは、弟子を褒めるところじゃないか? 弟子が師匠を越えたんだから」
「うるさい! 奴が悪行超人だと知っておれば、ここまで育ててはおらんかった!」
「それだけ喚けるなら、当分死なないな……実はな、ちょっと聞きたい事があったんだ」
「……言ってみるが良い」
俺の言葉に対しても、不満そうな態度を崩さないが俺が命の恩人であることくらいは自覚しているようだ。
「アンタから見て、俺は正義超人か? 悪行超人か?」
「……どういう意味じゃ?」
「俺の父親は
「むぅ……確かにお主はワシの命を救った。しかし、d・M・pという悪行超人の組織に身を置いていたであろう」
「それは、正義超人がどういうものか知るために一度正義超人と戦ってみろ、と父に言われ、そのために父に友人を紹介されたからだ。あと、そんな事を言ったら正義超人の息子のケビンマスクだってあそこにいたぜ」
「……何が言いたい」
「アンタが正義超人が悪行超人かを、生まれで判断するのならそれは間違っている。正義だの悪行だのは所詮生き方にすぎない」
「それは一理ある。だが、悪行超人の残虐性は多くの場合、その血が濃く表れた結果。悪行の血は争えん」
その強い言葉に、思わずたじろいでしまう……事実、俺もその悪魔の残虐性に手を焼いているからな。
「それはそうかもしれないな。だが、それが全部でもないだろう。俺は知識欲が強いんでね、過去の伝説超人を色々調べた事がある。ラーメンマン、カレクックは『世界三大残虐超人』なんて呼ばれた残虐超人で、バッファローマンだって悪魔超人出身じゃないか。その血の残虐性は争えなくても、生き方を変えた超人はいる……だから、ヒカルドを悪行超人と決めつけないでやってくれ。とりあえず、それだけ言いに来た。傷が癒えたら、俺はこの国を去るよ」
「……そうか。お主は、何故そこまでヒカルドを気に掛ける?」
「俺達は似ている。俺もヒカルドも悪魔の、悪行の血を引いている。俺は道に迷っているから、よく似ているアイツの生き方が気になるんだ」
「そうか」
パシャンゴはそれ以上口を利かなかった。これで、パシャンゴとヒカルドが話す機会を設けるかは彼ら次第だし、ヒカルドがどういう道を選ぶかもヒカルド次第だが、師匠を手にかけることなく、その在り方も血が全てではないと伝えた……これはパシャンゴもヒカルドに告げるはずだ。
俺とヒカルドは似ている……だからこそ、放っておけなかった。俺にできるのはここまでだ。
次は、どこに向かうかな?
そんなわけで、ヒカルド救済に入ってみました。
あと本編で介入するならボーン・コールドがギリギリ間に合うかどうかと言うところだと思います。
その後は超人オリンピックですね……どこから出たものかと言うのが悩ましいです。