そして、ドライビングスクールが休みの日。
ブルマの口利きで、休日の間だけ悟空を教官にした運転教習が始まる。
「それじゃあ、やんぞ~!」
やる気満々の悟空だが、
「何度も聴くが、お前は本当に免許を持っているんだろうな」
悟空に対して、不安満々のピッコロである。
「当たり前ぇだ。この前、見せただろ」
それは、ピッコロも知っている。
しかし、ピッコロが思うのは、免許証を持っているからといって、人にものを教えられるのかというところ。
どちらかといって、雑な雰囲気を持つ悟空に不安しか感じない。
それでも、二人して教習所に立っていてもラチが開かないという事で、とりあえずの教習が開始する。
「よしっ、まずはエンジン掛けろ。知ってるか?、ピッコロ。この鍵って奴を差し込んで廻すんだ」
その銀色に輝く金属片を指で詰まんで、ピッコロの眼前に掲げる。
かなり初歩からの教習である。
「それは、すでに教わった・・。とりあえずは走る前の事はいいから、とっとと、運転を教えろ」
確かに、先日の教習では車が走り出していたのだから、鍵云々の事は飛ばしても問題は無いだろう。
【ブロロロ・・・】
「おっ、エンジンが掛かったな。じゃあ、出発だ」
幸先が良い出先である。
と、思いきや、
【プス・・、プスン】
エンジンが止まる。
「なんだよ、いきなりエンストか」
「うるさい。2、3回の内、1
回は走り出す事は出来る」
確率3分の1・・・。
それでも、車の運転どころか、機械に触れる事も少ない者にしてみれば上出来かと思えるが、確率が低いか高いのかは分からない。
とはいえ、何とか車は動き出す。
しかし、その運転は思ったとおりの不安が的中する。
ピッコロの運転技術はともかく、悟空の運転指導が見ものだ。
「右、右!。道路からはみ出ちまうぞ!。それと、そのレバーをな・・?」
運転席にはピッコロ、そして助手席に悟空。
二人が乗った車が、誰もいない教習場を走る。
「お前!、本当に免許証を持っているのか?!」
と、ピッコロが聴く。
何故ならば、言われた通りのレバーを引けば、雨が降ってもいないのにワイパーが動く。
「おうっ!、持ってんぞ。昨日、見せたじゃねぇか」
その割りには、まともな指導とは思えない。
ウインカーとワイパーのレバーを間違えるのは、誰にでもある。
しかしながら、キーキーと乾いたフロントガラスを磨くような音を鳴らすワイパーは悟空の指示のもとに動いている。
それを止める方法も分からず、両手でハンドルを握り締めるピッコロ。
「ただ、オラが住んでいる所は田舎だから、運転は山ん中だけだ。
だから、ちょっと教え方が間違うかも知んねぇけどな」
「じゃあ、街では誰か運転しているんだ?!」
今も、教習場を曲がりくねりつつ進む車。
その様子を見れば、誰か悟空の運転技術を信じるのか?。
「クリリンに決まってんだろ。オラは横に座ってんだけだ」
要は、街中では通用しないということ。
悟空もペーパードライバーに近い存在であると知れる。
その言葉に、免許証を持たない故に何も言えないピッコロだが、一瞬の間だけ言葉を詰まらせながら口が開く。
「・・、アホか!。そっ、それを先に言え!!」
と、言いつつ、悟空が座る助手席に顔を向ける。
「あぁっ~。ほら!、前向けって!。ぶつかんぞ~~!!!」
車は顔を向けた先に曲がり、その先に見えるのは真っ白いガードレール。
「何ぃ!!!、どうすれば良いんだぁ!?」
「何って!、どうにかしろ!。ブレーキでもいい!」
どうにかしろ!。とは、言い過ぎだ。
もはや、教習生任せの指導でしかなく、ガードレールとの衝突を目の前にして何も出来ることない。
「あ~~!!」
と、衝撃を目の前にして、ピッコロが叫ぶ。
「あ~!。じゃあ、無いだろうが!!!」
と、雑に極まりない指導も空しい。
そして、純白のガードレールは歪む羽目になる。
「あ~ぁ・・」
それでも、悟空は諦めない。
凹んだボンネットから湯気の出る車から降りて、
「じゃあ、次の車に行くぞ!」
降りた悟空は傷一つ無く、元気な様子を見せる。
勿論、ピッコロも同じように怪我一つ無いが、吐く言葉は悟空と違う。
「ちょっと待て、いきなり車が一台壊れたぞ。また、教官とやらに何か言われるんじゃないだろうな?」
などと、先ほどまで車と呼ばれていた物体に目を向けながら言う。
「ちょっと位、大丈夫だろ。多分、ブルマが何とかしてくれる」
と、悟空は言うが、壊れた車が気になるのか、ピッコロからの返事はない。
「あ~。もういいから、早く乗れって!。時間が無ぇんだから」
と、言い、ピッコロを次の車に押し込める。
「おいっ!、本当に壊れても良いのか?!」
と、聞かれなくても、良い訳が無く、これから先に何台の車が破壊されてゆくのだろうか?。
そんな感じの教習が続いたが、何台の車が壊れたかは数えていない。
しかしながら、破壊に比例するだけの運転技術を会得して、流石に人並み程度の運転が出来るようになった。
しかし、後日、ドライビングスクールからの請求書がカプセルコーポレーションに届く。
その金額はゼロが7つか8つ程付き、結構な額である。
「ふ~ん。結構、掛かったわね」
費用は勿論、ブルマ持ちである。
「俺が持っていた金で足りないのか?」
と、手にしていた学科試験用の自動車免許教本から目をそらして、自分の運転により発生した請求額を気にするピッコロ。
運転が上達したならば、次は学科試験がある。
それに向けて、猛勉強の大魔王。
「100万ゼニーじゃあ、ちょっと足りないわね。でも、大丈夫よ。私が紹介したんだし、気にしないで」
車が何台も壊れて、信号機に加えて様々な物が破壊された自動車学校。
恐らく、金額は100万ゼニーの10倍でも足りないはず。
しかし、ブルマが気にする様子はない。
「そうか、悪かったな。その内、埋め合わせはする」
ピッコロが金の価値に詳しくないのは誰にでも分かる。
それゆえに、一応の礼を言う程度で、再び手にしている教本に目を向けるピッコロ。
歯を食い縛り、脂汗を掻きながらの姿は、やる気しか滲み出ていない。
そのピッコロを余所目に、ブルマなりにも気になる事があるのか、クリリンを手招きする。
「ちょっと、クリリン」
「何すか?」
近づいてくるクリリンに顔を寄せて、多少は聴かれるとまずいと思うのか、もう一度だけピッコロに目を向けてから聞きたい事を口にする。
「何だか、やけに素直じゃない?。ピッコロ」
一応程度にでも頭を下げるピッコロ。
その姿は、ブルマが知る以前のピッコロとは少し違うようだ。
「何か。時々、人間と関わっているみたいですよ」
「それって。私達以外ってことよね?」
「ええ、普通の人間らしいっすよ」
先に話を聞いた、辺境の民や遊牧民の事である。
「ふ~ん。あのピッコロ大魔王かね・・・」
と、その意外性に驚くブルマ。
その辺りに、免許証を取得する理由があるのかもしれないとも思う。
多少なりとも、身分証明書によって、人当たりを丸くしたいのだろうか。
「いいじゃないすか、こっちも近付きやすいし」
と、クリリンは言う。
すでに、親しみを見せる悟空達であるが、威圧感を滲ませる相手よりも人当たりが良い方が気楽に違いない。
「それはともかく、随分とブルマさんも気前が良くないすか?」
クリリン曰く、車入りのホイポイカプセルや教習所の金を言っているのであるが、知り合いとはいえ払う金額が多すぎる。
「別に良いのよ」
と、ピッコロに目をやって、
「昔はともかく、今は孫くんと仲が良いんでしょ?。だったら、車くらいはね・・・」
と、ブルマは言う。
その昔、ピッコロは世界を恐怖に陥れる存在であって、一時期には悟空やクリリン達と死闘に及んだ時がある。
それが、親しげであるように見えるほどの間柄になっている。
ならば、と言うところのブルマらしい。