ハーメルンを触って見たかったから書いてみた。
不定期投稿。
俺、九条鋼は転生者である。
何て言ってはみた物のそんな大層な存在ではないのだが。
今から10年前。
迷宮都市ヤマト。
恋愛シミュレーション大型RPGと言う大層な謳い文句と共に売り出されたそのソフトはクオリティの高さから一世を風靡した……という訳もなく、コアなマイナーゲーマーなら名前は知ってる程度のゲームだった。曰く鬼畜恋愛ゲー。
兎に角面倒なフラグ管理と、ヒロインの前日譚とか言うただの鬱CG回収イベ、定期的に発生する迷宮氾濫と言う名の襲撃要素、果ては主要キャラだろうが死ねば永久ロストして文字通りシナリオが崩壊してやり直しを喰らう悪辣仕様。
発売して最初の三日はヒロイン達のグラフィックと戦略の豊富さから神ゲー扱いされていたが、中盤に差し掛かるにつれて雲行きが怪しくなり、一週間が過ぎた頃にはレビューサイトが大荒れだったとか。可愛いパッケージで偽装してやがったんですよ、この鬼畜ゲー。
かく言う俺も、このゲームの名を知ってる事から察せる通り……買った。限定パッケージ、ファンブック封入セットと言う定価の三倍はする値段の方を買った。
どうも製作者の一人に余程の設定魔が居たらしく、分厚い文庫本一冊ほどの書籍とゲームを前にして俺は。
『
買って後悔した、やって後悔した。
何で娯楽の為に遊ぶ物でストレスを抱えなきゃならねえんだと何度もコントローラーを投げた。
とは言え、折角買ったのに勿体ないと貧乏性を発揮して死に物狂いでゲームクリアを成し遂げたのだ。
『なんだ、割とストーリーは良い。と言うか、ヒロイン可愛すぎじゃん。ただ鬱展開多すぎやしませんか?』
こんな具合に、割と嵌ったりした。
と言うか、どっぷり嵌り込んだ。
おっと、閑話休題。
そんな訳で何の因果か、今そのクソゲーの世界で生きているのだが……どうも俺は本編よりも大分前の世界に生まれたらしい。
迷宮都市ヤマトの始まりは、『侵攻』から数年後に設立された
不思議現象のオンパレードで数日部屋に引き籠りもしたが、あの頃は俺も若かったのだ。三日ほど不眠欠食で過ごした俺はこんな事を考えてしまったんだ。
「ゲーム知識があれば、迷宮に潜れるんじゃね?」
齢16歳、物語の英雄に憧れる時期。中二病とも言う。
自分の知識と力で効率的に迷宮を踏破して、シナリオとは関係ない所でハーレムを作ると、そりゃあもう意気込んだ。
俺が転生物の主人公だぜーー!と意気込んだ。
其処からは我ながら迅速な行動だったと思う。
国で発足した迷宮探査チームの一つに滑り込み、多くの迷宮を巡った。初めて生き物の命を奪った、仲間も出来た、仲間を失った、ソロになった、大怪我もした、それでも食らい付いた。
まあ、その後も色々とあった訳なのだが、最終的には
流石にソロで迷宮に潜るのは、危険だからね。
そして現在、俺はクラシックの流れる冷房の効いた室内でグラスを拭いている。
新都と呼ばれる、天帝が治める都市の一角にポツンと見える小ぢんまりとした場所。
喫茶店リュミエール。
生で主人公達の軌跡を眺める為に、両親が経営していた店を引き継ぎ、改築し、店長生活を送っているのが今の俺だ。
場所はなんとゲームの舞台である皇星学園の正面。世界の危機は主人公君達に任せて、少し手を貸して、のんびりと平和な生活を送る為のだ。
……までは、良かったのだが、
「師匠、僕に稽古を付けて下さい!」
「ちょっと優はどいて、今私がおに……店長さんと話してるんだから」
「店長!バイトの面接お願いします!」
「おい聖川、兄貴が困ってんじゃねえか。テメェは黙って珈琲飲んでとっとと失せろ」
「はあ!?」
「店長様、家出して来ましたの!」
「お前等、仲良くしないと出禁にするからな」
どうして俺の目の前で主人公とヒロインと悪役が取っ組み合いをしているのだろう。