此処からは、余りにも残虐的な描写が多発する為、音声のみをお楽しみ下さい。
「こんな場所に入って何すんだよ」
「今から俺はお前を殴る」
「はっ?」
「死ぬ気で殴るし、軽く何度か死ぬ」
「えっ?」
「でも大丈夫だ、俺が生き返らせる。拳で息を吹き返させる」
「なあ、何言って─────」
「黙って体を動かしやがれ、ゴミクズがぁあああああああ!!」
「ぎゃああああああああ!?」
「なあ兄貴、これ体罰って奴だろ」
「うるせえ、黙って走りやがれ糞虫。少しでも足止めてみろ、ぶち殺すぞ」
「黒桐の家が黙ってねえ─────」
「もう一遍その名前出してみろ、黒桐家をぶっ潰すからな」
「は?」
「灰も残さずに焼き尽くすからな」
「ヒェッ」
「……兄貴って二重人格だったりするのか?」
「面白い事を言うな、まあアレを見てればそうなるか。どうにも、誰かを鍛えようと思うと昔の癖が出てきちゃうんだよ、俺」
「何だそりゃ、昔の癖って」
「昔さ、俺が戦い方を教えた奴が迷宮でポカやらかして目の前で死んだ事があるんだ。だからどうにも、鍛錬って言うと力が入るんだよ。誰も死なさないように」
「兄貴ッ……!」
「だからお前も、これからもっと厳しく教えていくから宜しくな」
「兄貴ッ……!?」
「ほら凶也、少し休憩でもしよう。飯作ってきたから」
「お、おう。すげぇ、これ兄貴が作ったのかよ」
「男なら皆大好きだろ、マンガ肉。お前はまずタンパク質とカルシウム取らなきゃ話にならないから、入るだけ詰め込め。そのヒョロガリを完璧な
「……なあ、兄貴。オレって魔術師で後衛型なのに、なんで近接戦を教えられてんだ?」
「お前ってもしかして、敵と接敵したら無力で殺されたがるタイプ?それか話が通じるかもって対話を試みるタイプ?」
「ああ、成程」
「そもそも魔術師は殴ってなんぼだろ、何訳分らない事言ってんだ」
「いや、それはおかしいって」
「兄貴、無理だ、もう死ぬって」
「じゃあ一回死んでみろ、それもまた経験だ」
「んな訳ねえだろ!?死んだら終わりだっつの!!」
「俺は迷宮潜ってる時、何度か死んだが?」
「え……マジ?」
「うん」
「兄貴、もう」
「そうだな、今日はこれ位にしよう。立てるか、凶也」
「あー、悪ぃ、ちょっと動けない」
「仕方ないな。ほら、背中乗れ」
「え?」
「何だよ、脚が動かないんだろ。背負ってやるから早く乗れ」
「あ、ああ」
「まだ軽いな、もう少し肉付けろ、肉」
「充分食ってる方なんだけど」
「それでも足りないって言ってんだ、戻ったら休んで飯にしよう」
「……分かった」
「どうした、ちょっと涙声だぞお前」
「何でもねえよッ!」
「なあ兄貴、アイツ等は……ナンダ?」
「ん?どっからどう見ても
「何でヘルメット被ってツルハシ担いでるんだ?」
「そりゃあ、改修工事の為だろ。最近住居区画を広げて欲しいってウチの店員から要望があったから」
「魔物だろ?」
「魔物だな」
「……何で働いてるんだ?」
「……さあ?」
「おいこらクソ屑。テメェは何度言えば分かんだ、殴りながら魔術使えって言ってんだろうが!!」
「無理だろ、頭が追いつか……ぐぎゃあああ!」
「無理な訳あるか、俺より才能があるお前が出来ない道理はないんだよ。黙って動かせ、腕と心ッ!」
「む、り」
「大事なのは折れない心なんだよ、炎を灯せよ心に!それとも一回火炙りにでもした方が分かるか!?」
「たす、け、て」
「凶也、今日はおにぎりを作ってきたんだ。お前、サケが好きだって言ってただろ」
「……覚えててくれたのかよ」
「当たり前だろ、ほら食え……何で泣いてんの、お前」
「いや、何か誰かと飯食うのってこんなに美味かったんだなって、最近思って、何か泣けてきた」
「やっぱり子供だなぁ、好きな分食え」
「ああ……って、頭は撫でんじゃねえよ!!」
「いや、丁度良い位置にあったから」
「やっぱり風呂は良いな、生き返る」
「何で迷宮の中に風呂があるんだ……」
「従業員から苦情があったから」
「それにしても、兄貴の身体スゲェな……パッと見は分からねえけど岩みたいな筋肉だし、生傷だらけだし。傷って回復薬で治るモンじゃねえの?」
「長い事潜ってれば、薬でも完治出来ない傷は出来る。まあ、名誉の負傷ってやつよ」
「なあ兄貴、兄貴はどんだけ迷宮に潜ったんだよ」
「何だ何だ、俺の迷宮武勇伝でも聞きたいのか?」
「聞いてみてぇ」
「仕方ないな。休憩がてら色々話してやるか、何が飲みたい?」
「珈琲、兄貴の珈琲すげぇ美味いから」
「ハッハッハ、嬉しい事言ってくれるじゃないの。それじゃあまずは何を語るか、火を噴きまくる馬鹿でかい蜥蜴の話でもするか」
「蜥蜴?」
「しかも首が三つもある蜥蜴」
「……蜥蜴?」
「…………なあ、兄貴」
「何だ、クソガキ」
「前に兄貴が言ってた蜥蜴とさ、兄貴の魔術ってどっちが熱いんだ」
「そりゃあお前、俺の炎に決まってんだろ」
「決まってんのかよ。ならそんなポンポン出してくんなよ」
「これでも加減してやってる方なんだが?」
「は?」
「兄貴の腕って、義手だよな。それ回復薬か上位の治癒魔術なら治るんじゃねえの?」
「そう言うのにも制限があるんだよ、腕が残ってないと迷宮じゃ戻ってこない。腕がぐちゃぐちゃ生えて来るとかファンタジーだぞ」
「そうなのか」
「だからお前も、これから潜るのなら欠損には気を付けろ。こうなりたくないならな」
「……なあ、兄貴」
「何だ」
「俺の腕、今黒焦げなんだけど」
「それは回復薬で治せるから」
「聖川にも、これやってんの?」
「アイツは体術だけだから、精々骨を圧し折る位かな」
「アンタ鬼かよ」
「男なら四の五の言うもんじゃないだろ」
「男?あー、成程」
「どうした」
「いや、何でもねえ」
「最近さ、聖川のパーティがギスギスしてんだよ」
「へぇ、珍しいな。何かあったのか」
「学園で何かあった訳じゃねえんだけどさ、兄貴って最近店に顔出してる?」
「昼間は出してるけど、夕方からはお前の鍛錬に付き合ってるから出せる訳ないじゃん」
「……成程なぁ」
「無駄話してないで、とっとと立て」
「はい」
「そういえば、ここ数日黒桐の家から連絡が少なくなってきた」
「ああ、知り合いに頼んで脅し……話は通しておいたからだろ」
「脅し……?」
「いや、気にするな。お前はただ、自分が強くなることを考えれば良い」
「分かった」
「まあ最悪、家から縁を切られたらウチで雇ってやるから」
「なあ、何やったのか教えて貰えねえかな!?」
「昨日さ、お前が寝た後に仕込みしてたら優君と葵ちゃんとアリスが家の店の前で立ってたんだよ」
「は?」
「迷宮帰りだったみたいで、寄ったらしいんだけど。凄い怖かった」
「そりゃあ兄貴、理由なんて」
「時間外だけど飲み物だしてあげたらさ、ほぼ夜通し話に付き合わされてさ」
「兄貴……」
「だから俺、実は今日……寝不足でイラついてんだよな」
「兄貴?」
「なあ凶也、今日はテンション上げて良いか?」
「スゲェ寒気がするんだけど」
「大丈夫、三回位お前が炎に呑まれるだけだから」
「オレ、死なねえか?」
「死ぬかも」
「(勢いよく何かが駆けだす音)」
「(何かを掴んで、ついでに何かが折れる音)」
「お前も大分重症に慣れてきたよな」
「重症に慣れるって、おかしいと思わねえか?」
「でも腕折れても声出さなくなったじゃん」
「耐えてんだよ」
「腕が炭になっても冷や汗で済んでるじゃん」
「歯を食いしばってんだよ」
「今日で鍛錬も最後だな」
「……ああ、そうだな」
「凶也、お前明日優君にランク戦仕掛けろ」
「はあ?何だよ急に」
「自分が今どこまでやれるようになったのか、成長の実感も大事だろ」
「……分かった」
「頑張れよ、お前も強くなってる」
「ああ、なあ兄貴。俺、また兄貴と鍛錬しにきて良いか?」
「時間があれば、何時でも受けてやる」
「そっか、そりゃうれじい」
「何泣いてんだよ。暇な時にでも、また珈琲飲みに来い」
「わがっだ!!」
☆
地獄の一週間を乗り越えたオレは、今再び聖川優の前に立ち塞がっていた。
「おい聖川、ランク戦だ。受けやがれ」
「何さ、僕今機嫌が悪いから手加減出来ないんだけど」
「ああ、そうかよ」
他の連中がオレを見る目は変わらない。
それ処か、嘗てはオレの取り巻きをやってた奴らですらオレを見下したように笑っている。
だが、オレはもう……そんなモンはどうでも良い。
「ククッ。聖川、オレもあの喫茶店に行ったぜ」
「ッ!」
「はっ、分かり易い奴だな」
分かり易く、オレに殺気を向けて来る。
いや、聖川だけではない。群青も翡翠も、それぞれが別の殺気を発しながらオレを見ている。
兄貴との鍛錬で身に付いた危機察知能力が、此処から逃げろと警鐘を鳴らしている。
「そっか、ああ、成程ね。最近師匠が僕達に構ってくれなかった理由はそれか」
「そう言う事だ。兄貴との約束なんでな、絶対に受けて貰うぜ」
「兄貴?……また、お兄さんが何かやったんだ」
何故か群青から洩れる殺気が格段に研ぎ澄まされた気がする。
だが、今はそんな事を気にしてる時間はない。
目の前のこの女と戦わなければならない。
「良いよ、分かった。師匠がやれって言ったのなら受けてあげる」
「へっ、そりゃあありがてぇ」
「ああ、でも一つだけ聞きたい事があるんだけどさ」
「あ?なんだよ」
そう言うと、聖川は少し目元を柔らかくさせて。
「珈琲は、好き?」
「─────ああ、最近良く飲むようになった」
「そっか。それじゃあ修練場に行こうか、今の黒桐君となら良い勝負が出来る気がする」
「こっちこそ、もう負けるつもりはねえ」
「終わったら、珈琲を飲みに行こう。あの店に」
「ッ……願ってもねえ話だ」
結果としては、オレ達は引き分けた。
互いに傷付く事も、血を流す事も厭わず殴り合い、全部を吐き出すように笑い合って戦った。多分、審判が中止を言い渡さなければどちらかが死ぬまで戦っていただろう。
学園長も流石にドン引きしていたが、「これも成長か」と納得していた。
そして、ランク戦を終えてリュミエールの中で。
「お前等、やり過ぎだ馬鹿共」
「「すいませんでした」」
二人揃って、兄貴に怒られた。
後日、群青葵から「私が姉です」と真剣な顔で言われた。
マジで意味が分からなかった。