シンギュラリティ・ラッドピース   作:物部。

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大変おススメ。


11話 翡翠アリス02

 俺と翡翠アリスの出逢いは、割とおかしな状況だった。

 アレは確か、ステータス強化のアイテムを買い漁る為に裏町をほっつき歩いてた時の事。

 

 

 

 最近、ステータスの伸びが乏しい。

 この世界、ゲームのように数値化された情報が見れる訳ではないのだが、迷宮に潜る度にレベルアップのような現象は発生するのだ。

 

 強敵を打ち倒したり、困難を乗り越えると身体能力が跳ねる現象……脳のリミッターが外れるのか、何か理由があるのかは分からないが、これを俺はレベルアップと呼んでいる。

 

 そんなレベルアップだが、最近になっててんで音沙汰がない。割と手強いボスは倒してるのに、何となく数階層前から動きに変わりがないように思う。

 

 もしかしたら、これが打ち止めなのか。

 ゲーム時代、主人公以外のキャラには成長限界(レベルキャップ)があった。

 尤も、これはあるレアアイテムを使えば段階的に開放する事が出来たりしたが、ネームドではないキャラに適応されるのかは不明で、尚且つ現在入手方法がない。

 

 だったらもう強くなれないじゃないか。

 いいや、まだ手はある。

 

 簡単だ、ステータス強化アイテムを活用すれば良い。

 分かり易く言うのならド〇クエで言う所の木の実だったり、ポ〇モンで言う所の薬物だったり。

 俗に言うドーピングをするのだ。

 

「景観最悪かよ」

 

 そんな訳で今、俺は新都4番区にあるゴロツキの巣窟……通称、裏街に足を踏み入れていた。

 此処は新都の中でもならず者やヤバい組織が日夜暗躍を行うダーティーな場所。

 

 時刻は夕刻に差し掛かっている。

 ゲームでは夜にしか訪れる事が出来なかったが、あれはそもそも主人公が学生だったし、俺は高校どころか中学を中退して探索者になった身だから、関係ないのだ。

 

 にしても、マジで治安最悪である。

 

 右手をご覧ください、探索者崩れの飲んだくれと俺を睨み付ける目付の悪い輩が居ますね。

 

 左手をご覧ください。思春期にはあまりにも刺激が強い恰好をした若い売りの女性が居ますね。

 

 そして正面をご覧ください。

 

「おう兄ちゃん、見ねえ顔だな。金と装備を置いて───」

「─────着火(ファイヤワーク)

「あづいいいいいいいいいい!?」

 

 いきなり絡んで来た態度の悪いゴロツキ集団が居ますね。念入りに焼いてあげましょう。此処はSTARsも介入してこないので、絡まれたら殴り返すのがこの街での礼儀。

 

 暴力は全てを解決する。

 全ては主人公である俺に絡んで来た事が間違いだ。 

 

「ああ、丁度良かった。ロジーヌの闇商店の場所って知ってるか?知らなけりゃ出来立ての木炭が一つ増えちまうが」

「ヒィィィィッ」

 

 黒炭になった連中の中に一人だけ軽症の男が居たので、彼に道案内をして貰い目当ての店を発見する。

 

 他の店と同じ廃れた外観だが、手前に可愛らしいフォントで『ロジーヌ婆さんの商店』と書かれている。

 

 道案内をしてくれた男に数枚の謝礼と、黒炭の片付けを任せてから、俺はガタついた扉を開ける。

 

「こんちわー」

 

 店内は割と普通の様相。

 強いて言えば、駄菓子屋みたいな棚並びなのに鎮座してる商品が全て、合法から掛け離れたとんでもないアイテムである点か。

 子供が駄菓子屋と間違って入ったら号泣して失神するわ。その瓶に入った目玉って人間の物じゃねえよな。

 

「ひょひょひょ、いらっしゃい」

 

 そんな感じに辺りを物色していると、店の奥から姿を現わした蛇とカエルをミックスしたような老婆。

 

「婆さん、店はやってるか?」

「勿論だとも」

 

 彼女こそ、ロジーヌ婆さん。

 ゲームでは何かとお世話に、主にキャラ育成と錬金素材の為にお世話になった。

 

「霊薬シリーズ、出来れば20本ずつ欲しい」

「おやぁ、何かと思えば坊ちゃんもそっち系の人だったか。ここはあれかねえ、力が欲しいか?とか言った方が良いかねえ」

「欲しい。今めっちゃ欲しい」

「食い気味だねえ、素直な子だよ」

「それで、ある?」

「今持ってくるから待っててね」

 

 さてこの霊薬シリーズ、ゲームでは1キャラに付き40本の使用制限がある。

 1本で、基礎数値が10上昇するぶっ壊れアイテムである。しかも、特にデメリット無し。

 いや、こんな場所で買った物にデメリットがないのか、とも思うけど無い……と願いたい。

 

「ほい、それじゃあ合計でこれ位かね」

「一括現金払いで。あん、ちょっと安くねえか?」

「これ、最近売り出した物だから市販品として安く売ってるのさ。坊ちゃんが何処から聞きつけて来たのかは聞かないでおくさね。鞄はサービスだよ。ああ、もし爆発でもしたらごめんねぇ」

 

 色取り取りなケミカルな液体が入れられたシリンダー、ロジーヌ婆さんは一本一本確認しながら小型のジュラルミンケースに納めていく。

 

 デメリット、無いよな?

 心中で戦々恐々としながらも、代金を支払って俺は店を後にする。

 

「何処で試そう。協会で治癒が使える奴に声掛けた方が良いか」

 

 髭面はまだ協会に居るだろうか。

 アイツなら、話を聞いても爆笑しながら手を貸してくれる気がする。

 

 よし決めた、協会に行こう。

 満ちる覚悟をキメて裏街の出口に歩を進める。

 

「そこの御方、お助け下さいまし!!」

「はっ?……ぐえっ」

 

 次の瞬間、声と共に腹に衝撃が走った。

 危うく取り落としそうになったケースを強く握りしめ、俺はぶつかって来た不埒者を睨み付ける。

 

「テメェ、何のつもり────」

「お願いしますの、アリスを助けて下さい!」

「─────だ、ああ?」

 

 最初に目に飛び込んで来たのは、透き通るような緑。その下には、涙目で訴えかける見覚えがあり過ぎる幼女の姿。

 

「翡翠、アリス……何でテメェが此処に」

「!?どうして、アリスの名前を……いえ、今はそれよりも助けて下さいですの」

  

 チワワのようにビクビクと震える翡翠アリスは、後ろを見ないようにしながら指を差す。

 

『…………………』

 

 黒装束に身を包んだ怪しげな連中が、いつの間にか裏街の出口へ続く一本道を塞いでいた。

 

「あー、成程。はいはい、理解した」

 

 翡翠アリスの誘拐。

 彼女が男性嫌いになった原因の前日譚。

 確か、幼い頃に父親との諍いが原因で家出をした彼女が他所の家から送られた刺客に襲われて一週間監禁されたんだったかな。 

 何度も殴られたり、蹴られたりした影響で極度の人間不信に陥って……月日が経つにつれて、それが男性嫌いに変化した、だったか。

 

 それに、今俺は巻き込まれてしまったらしい。

 

「あれか、群青葵のシナリオを壊したせいか?神様は俺に何か恨みでもあるのか?」

 

 思えば数か月前のあの日から、何かがゆっくりと傾きかけてるのではないか。

 別にシナリオに関わろうと思って裏街を訪れた訳ではない。そもそも日時も、いつ起こったかもざっくりとしか描かれていなかったし。

 

「なあ、お前はどう思うよ。俺って神様に嫌われてんのかな」

「なんですの!?そんなのアリスが今思ってる事ですの!!」

「そりゃあ、そうだよな」

 

 奇しくも同意見だな、嬉しいよ。 

 取り敢えず、世間話がてら軽いジャブでも入れてみるか。

 

「相談なんだけどさ。アンタら、俺がもしこのチビをそっちに引き渡せばこのまま何事も無く帰してくれたりする?流石に俺にはそう言う趣味はねえけど、お宅らは人形遊び好きそうだし」

「ふええええ!?」

 

 ふええええ!?ではない。

 普通に考えて見ず知らずの、それも裏街で買い物してるような禄でもない人間に頼るか?

 いや、頼るか。命掛かってるなら子供なら身近な大人に頼るもんな。

 

『………………』

「黙んなよ、古臭いゲームのNPCじゃあるまいに」

『我らを視覚した者は、皆始末せよと命じられている』

「定型文、暗殺者もマニュアル時代か?」

 

 腹が立って来る。

 

 何度でも言うが、俺は別に主人公のお株を取ろうとか、全然これっぽっちも企んでいないのだ。

 

 出来る事ならこの、今現在腹にしがみ付く地雷(ヒロイン)を投げ渡して「何もなかったね」なんて笑いたい。

 でなければ最悪世界が滅ぶから。

 だが、世界は何時だって俺を置いて先に行くらしい。

 

 黒装束の数名が音も無く飛び掛かって来る。

 前二人は短剣持ち、後ろは魔銃……コルトS23。

 

「きゃあああああああああっ」

「お嬢様、ちょっとコレ持って顔隠してろ」

「ぁ、はいですの」

 

 撃ち出された銀製銃弾を右手を振って弾き飛ばす。

 ジュラルミンケースをアリスの手にねじ込ませ、至近距離まで迫った黒装束の頭部を、同時に掴む。

 

 刺客とは言っても、迷宮(ラビリンス)の魔物より柔らかい。そのまま力任せに握り潰せば、軟骨みたいに頭蓋が潰れる。

 

 道に産業廃棄物を投げ捨てて、アリスを掴む。

 

「ぐちゃって、今ぐちゃって言いましたの」

「気のせいだろ。俺は何も聞こえなかった」

「絶対嘘ですのー!」

「なあ仲良く逃避行するなら、何処に行きたい」

「はい!?え、うえ?」

「良く分かってんじゃん。跳ぶから口閉じてろよ、舌噛むぞ」

「う、うええええええええええ!?」

 

 続く刺客の猛攻を退けながら、最早言語機能を焼失(ロスト)させたお嬢様を脇に引っ提げ高く跳躍。

 手頃な足場(ビル)に着地して、一気に疾走(はし)りだす。

 

「と、飛びましたの」

「そのケース、意地でも離すなよ。もし手放したら紐無しバンジーにするからな」

「飛びましたの!」

「話聞いてる?」

 

 何が彼女のツボを付いたのか、アリスは目を輝かせる。

 

「アリス、すっごい飛びましたの!!」

「分かった分かった、顔出したら危ないからジッとしてろよ」

「はい、ですの!」

 

 悪趣味に伸びたビルからビルへ、時々民家を跳び超えて走り続ける。

 

「黒い人達も付いてきましたの!」

「問題ねえよ、全員振り切る」

 

 あの練度から言って、良くて連中は中層に挑んでる探索者(ダイバー)と同等。

 そんな木っ端に俺が負ける訳がない。

 転生主人公舐めるな、チートは無いけどな。

 

「兄ちゃんに任せとけ。お前を必ず家に帰してやるから。あと、あんまり家出とかするんじゃねえぞ」

 

 もうこうなったら自棄だ。

 全部あの連中のせい、俺は悪くない。

 もし世界が滅んだら連中に全責任を負わせて焼き尽くしてやる。

 

 あらん限りの自己弁護の言葉を脳内で並べる俺を他所に、アリスは何処か呆けたような顔で上を向く。

 

「……まるで騎士様、ですの」

「は?」

「ッ、何でもありませんの!」

 

 ばっちり聞こえるんだわ。

 見様によっては人攫いだと思う。

 

 距離を詰めて来る黒装束へ一人ずつ丁寧に飛び蹴りをかまし、場外落下させながら自分の聴覚を呪う。

 

 下の方で何かが潰れる嫌な音が聞こえた気がする。

 まあ、4番区なら人が飛び降りるなんて日常茶飯事だ。

 

「ざまあみやがれ、暗殺者風情が俺に歯向かうんじゃねえ!」

「凄いですの、カッコイイですのっ…………あ」

 

 アドレナリン過多で意気揚々と叫ぶ俺に、アリスが合いの手を入れる。だが、その直後彼女は蚊の羽音にも似たか細い声を出して、

 

「おい、お前、おいなんだ今の嫌な声」

「ケースが落ちましたのーーーーーー!!」

「はああああああああ!?」

 

 両手でぶらんぶらんと揺らしていた俺の強化アイテムinジュラルミンケースを盛大に手放していた。

 

「お前、馬鹿!もう、馬鹿!」

「ご、ごめんなさいですのっ」

「今から紐無しバンジーやるかこら!?」

「止めて下さいまし、死んでしまいますの!」

 

 それと同等レベルでやらかしですの!!

 

「今すぐ取ってこい、俺が投げてやるから」

「嫌ですの嫌ですのっ、アリスはまだお空のお星様になりたくありませんの!」

 

 憐れ、地面に対して法線を描くように落下したジュラルミンケース。それは、数秒後にとんでもない音を鳴らして唐突に爆風と黒煙を上げた。

 

「「……は!?」」

 

 何が起こったのか分からず、走りながら思考停止する俺と、一体何を持たせてたんだと言う目でこちらを凝視するアリス。

 

 俺はふと、ロジーヌ婆さんの言葉を思い出した。

 

『ああ、もし爆発したらごめんねぇ』

 

 あ。

 

「マジで爆発してんじゃねえか!これ飲まなくて正解だったヤーツ!?」

「なんて物をアリスに持たせてたんですの!?」

「知るか、俺だってさっきまで爆発物を後生大事に持ってたなんて思いたくねえよッ」

「ああ───それより騎士様、後ろにまた増援が来てますのー!!」

 

 まさかのアリスのドジで命拾いした俺は、ごくりと生唾を呑んで彼女をもう一度強く抱え上げる。

 

「強く掴まってろよアリス!」

「は、はいですの!」

 

 逃避行は、終わらない。

 

 

 何て事も、ありましたね。

 結局あの後は追ってきてた刺客を全て脱落(物理)させて、アリスを家に送り届けたんだったか。

 

 翡翠家の人間には感謝されたし、何ならコネクションも生まれて万々歳……なんて事もなく、この後もアリスは家出と称してウチに泊りに来るわ。なんならもっとひどい事に、

 

「アリス、アンタまたお兄ちゃんに迷惑掛けて」

「ふん、妹気取りには文句を言われる筋合いはないですの」

「女狐が、また増えた……」

 

 原作では有り得なかった、群青葵と翡翠アリスの幼馴染設定が追加されるわで……もうキャパオーバー。

 そりゃあ、俺が迷宮(ラビリンス)に潜ってた時もちょくちょく店に顔出してた葵ちゃんと鉢合わせするなんて、時間の問題でしたよ。

 

 今も部屋の掃除を終わらせて、綺麗な髪を一つに結い直し店のエプロンを付けて接客してるお嬢様に、来店した葵ちゃんが嚙みついてる。

 あの熟練の店員感を出してるお嬢さん、一応貴族の一人娘なんだよ。

 

「ミカ、後は頼んだ」

「もうどうにでもなってしまえば良いのよ」

 

 奇しくも同意見だな、嬉しくないよ。

 

 平穏が息を止めた空間で、ただ静かに俺とミカは深く息を吐き出しながら嵐が去るのを待つ。

 

 

 

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