シンギュラリティ・ラッドピース   作:物部。

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12話 昼のある日

「あれ、アリスがまたリュミエールでバイトしてる」

「バイトじゃありませんの。居候としての務め、お手伝いですの」

「翡翠、テメェ大和貴族としての矜持(プライド)はねえのかよ」

「今日は影縫さんは休みだし、ミカは部屋でゴロゴロしてるからな。割と助かってる」

「……兄貴、オレもなんか手伝うぜ!」

「黒桐の家の者としてそれはどうなんですの?」

 

 大和貴族としての矜持(プライド)は何処に行った?

 トルネードでも起こす勢いで手伝いを名乗り出る凶也に笑みが引き攣る。 

 

 休日と言う事もあり、何時もより客足の多い時間帯を切り抜けた昼過ぎ、優君と凶也が連れ立って来店してきた。

 二人は時折、学園の修練場で殴り合い……もとい腕試しを繰り広げているらしく、店に来る度に互いの短所を語り合っている。

 

 主人公と悪役、序盤で敵対し友好を築く事の無かった関係が今では良いライバル同士となっているのだ。正直、ゲームでは見なかった光景なので内心ワクワクしていたりする。

 

「それにしても、手慣れてるよね。何時も学園で見る姿とは大違いって言うかさ」

「あら、嬉しい事を言ってくださいますの。これでも年季が違うんですのよ」

「誇るな、家出娘」

「何時でも副店長を名乗る準備は出来てますの」

 

 今も手早く食器を洗いながら学友、お客さんとの会話を楽しんでいる。何処からどう見ても、喫茶店のバイト店員だ。この高スペック自由人お嬢様を誰か止めろ。

 

「兄貴ってよ、変な奴らに懐かれてるよな」

「え、黒桐君がそれ言うの?」

「鏡ならここにありますの」

「ああ!?」

 

 随分仲良くなったな、コイツ等。

 

「それで、注文は?」

「今日はガッツリ食べたい!」

「兄貴。肉食いたい、肉」

「もしかしてお前等、此処を食堂かなんかだと勘違いしてない?」

 

 其処はほら、スパゲッティとかサンドイッチとかあるじゃん。まあ仕方ない、折角の注文(オーダー)だし作るか。

 溜息を吐き出し、俺は貯蔵庫から食材を取ってこようと動く。

 

「店長様、店長様。お待ちくださいですの」

「ん、どうした」

「先程のお客様ラッシュで解凍した食肉品は殆ど底を突いてますの。今からとなると、少し時間が掛ってしまいますの」

 

 間髪入れずにアリスは言って、胸ポケットからメモ帳を取り出した。そこにはビシリと今日使用しただろう食材の名前と数がリストアップされている。

 

「本当だ、もう少し溶かしておけば良かったな」

「残念ですが、優達には他の物を頼んでもらう他ないですの」

「うわぁ、そんなぁ……」

「肉食いてぇ……」

 

 カウンターに力尽きる二匹の肉食獣。

 申し訳なさそうに笑うアリスを横目に、少し考えた俺は一つ妙案が浮かんだ。

 

「なら今から狩りに行くか、肉」

「「え?」」

「ですの?」

 

☆  

 

 ハウスラビリンスシステム。

 それは前に何処かで言った通り、ある程度等級が上がった探索者(ダイバー)が持つ事を許される個人所有の迷宮だ。

 二等星探索者以上なら一つ、二つ持ってる事も不思議ではなくテレビで内見特集を組まれる程だ。

 

 さて、そんなハウスラビリンスの作り方だが何とも簡単。

 迷宮のボスが極稀にドロップする迷宮種(ラビリンスシード)を好みの場所にぶん投げる事で迷宮が生まれる。

 

 整備しなければただの魔物が溢れる大洞、だが改良すれば何かと敵の多い高階級探索者にとっては最高の拠点となる。

 

「ここ、こんなに広かったんだ」

「スゲェ、マジの迷宮じゃねえか」

「お前等が使ってたのは一層の修練場だけだからな」

 

 時たますれ違う迷宮鼠(ラビリンスラット)に挨拶をしながら今俺達が居る場所は一層の修練場、二層の居住区画を越えて、未だ手を付けていない迷宮エリア。

 アリスに店番を任せて、俺が付いてきた理由は……主人公君達の成長度合いを見たかったからだ。

 

「ここで出て来るのは大体20層の魔物だし、二人で何とかなるだろ」

「師匠、20層はまだ行ってません!」

「あー、なるようになる」

「適当じゃねえか!?」

 

 10層も20層もそんなに大差ないから大丈夫だよ。

 前衛1、後衛1で後ろに俺、何とでもなる筈だ。

 

「ほら、早く武器を構えろ。魔物が出て来たぞ」

 

 グダグダと喋ってる時間なんてない。

 立て掛けられた松明に照らされながら、奥からのそりと異形の生物が姿を現わす。

 

巨大猪(ビックボア)か。肉は美味いし、デカいから食い応えはあるな。アレにしよう」

「初めて見る魔物なんですけど!?」

「兄貴、どうすりゃ良いんだ!」

「好きなように戦え」

 

 俺の言葉が合図となった。

 低い唸り声を出しながら、巨大猪(ビックボア)は前脚を地面に擦り一気に疾走する。

 一直線の猪突猛進、ぶつかればただでは済まないだろう巨体の暴力は優君に向く。

 

 さて、お手並み拝見……あれ、武器はどうした?

 

「それじゃあ、行きますっ」

「いや、ちょっと待─────」

身体強化(ビルドアップ)筋力強化(ストレングス)属性付与・炎(エンチャント・ファイア)……せやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 支援系統の魔術を自分に掛けながら、拳に炎を灯した優君は正面から猪に殴り掛かる。成程、彼は俺との特訓を生かして魔術格闘ビルドを組んだ訳か。

 なら凶也、お前も自分の立ち回りは分かるな。

 

 後衛の凶也に視線を向ければ、彼はニカリと笑いサムズアップをする。

 

「行ってくるぜ、兄貴!!」

「ああ……ん?」

 

 行ってくる、とはどう言う事か。

 お前は他の支援魔術を掛けながら遊撃に移る普通の魔術師ビルドの筈では。

 

身体強化(ビルドアップ)筋力強化(ストレングス)速度強化(アクセルブースト)属性付与・炎(エンチャント・ファイア)!」

「は?」

 

 呆けた俺を他所に、凶也は拳を握りしめて猪に殴り掛かった。彼は優君と共に猪の振り払いや突撃を紙一重で躱し、肉の柔らかい腹や目を重点的に狙っていく。

 

 連撃に次ぐ連撃、回避が間に合わない時は片方がタゲを取り、示し合わせたかのように片足を執拗に叩く。

 

 ダウン狙い、巨体には有効な手段だ。

 

「おらあ!!」

「ブギャァァァァァァァァァァ!?」

 

 何度目かの打撃の末、猪は体勢を崩す。

 だが彼らは其処では止まらなかった。

 

「行くぜ聖川ァァァァァァ!」

 

 あ、凶也がいきなり猪の頭部をかち上げた。

 

「まっかせてよ、黒桐君ッ!!」

 

 あ、優君が頭上に飛んでこめかみ目掛けて拳を振り下ろした。

 

 これは……連携攻撃。

 ゲームでは専用カットインと共に強力な攻撃を放つ事が出来たが、まさかこの世界で初めて見るのが主人公と悪役の連携とは、面白いな。

 

 まるで昔見た赤べこのように右足を折り曲げて首を何度も上下に振る猪。酷い光景だ、これ以上見せれば動物愛護団体か星灯火教団に訴えられるかもしれない。

 あと、焦げ臭い。

 

「アハハハハハハハハハハ」

 

 アレが主人公って何かの間違いじゃないのか。

 あんな凶悪で狂気的な笑い声を上げる人間を、果たして俺は主人公と呼んで良いのだろうか。

 

「「終わり、だ!!」」

 

 抵抗すら許されない猪に二つの燃える拳が上下から挟むように撃ち出され、巨大猪(ビックボア)は白目を剥いて完全に沈黙した。

 

「正義は、紡ぐ!」

「いや、絶対に今の所業は正義ではないだろ」

 

 動物虐待…魔物だからノーカン?

 と言うか、お前は何で俺の黒歴史決め台詞を知ってるんだ。おい、誰から聞いた。

 

「師匠師匠、どうだった。僕のマジ殴り!」

「悪くは無かったけど、まだ間合いの取り方が甘い」

「オレはどうだった兄貴、結構戦えてただろ」

「戦えてたけど、お前って魔術師じゃなかったっけ」

「? 殴った方が早ぇと思ったから殴ったんだけど」

「そうか、なら仕方ないな」

 

 そう言う時も、あるよな。

 返す言葉が見当たらない程の正論を叩き込まれてしまえば、俺も頷くしかない。

 

「でも師匠、魔獣って食べられるの?」

「確か、臭くて食えたモンじゃねぇって授業で習ったぜ?」

「魔物の体液には、コイツ等特有の魔力が溶け込んでるからな。普通に食えばクソ不味くて吐き出すレベルだけど」

 

 言いながら、猪の方に近寄り俺は傷口に手を添える。

 

「『着火』」

 

 刹那、巨大猪(ビックボア)は体を跳ねるように震わせ……数秒の後に焦げた匂いが周りに漂う。

 

「コイツ等の体液を一瞬で蒸発させれば、何でか普通に食えるようになるんだよ。これ、豆知識な」

 

 割とテクニックが居るやり方だが、普通に血抜きをするだけじゃ血が若干残って不味くなる。

 だから体内、血管の末端まで馬鹿みたいに細い炎を巡らせれば問題が無くなるのだ。

 

 昔迷宮で迷子になって死に掛けた時に覚えた生活の知恵(ライフハック)です。これをやれば迷宮で遭難しても僅かに生存率が上がる。

 

「……ほえぇ」

「どんな魔力制御すりゃそんな事が出来るんだよ」

「元とは言え探索者(ダイバー)としての経験の長さだよ」

「これ、紅小路先輩でも出来ないよね」

「……当たり前だろ。兄貴みてぇな火炎魔術師が紅小路家の中にいりゃあ、戦力バランスが崩れるわ」

 

 おいおい。俺の知らない人の名前を出して、俺を化物扱いするんじゃない。いや、勿論知ってる名前だけど。だってヒロイン枠の女の子だし。 

 尤も、あのツンデレ姫とはこの世界で知り合いでも無ければ面識もない。素晴らしきかな原作通り、主人公君の強化イベントを頼んだぞツンデレ姫。 

 

「兄貴がまた上の空だぜ」

「きっと、凄い深い事を考えてるんだね」 

「さて……それじゃ、肉焼くぞ」

「「おお!!」」

 

 俺は背負っていたリュックから、少し大きめの薪と定価5000円程で購入した普通の包丁、塩コショウなどの簡単な調味料を取り出す。

  

「そのまま火で焼いても良いんだけど、折角の迷宮だし浪漫重視で行こうか」

「浪漫?」

「石で焼く」

「石焼き!」

「でもよ兄貴、石なんて持って来てんのか?」

「変な事聞くな、石ならそこら辺にあるだろ」

「そこら辺って─────」

「これだよ、これ」

 

 不思議そうな顔でこちらを見る凶也。

 少し歩けば横一面に広がる岩壁に手をついて答える。

 

「これ」

「え?」

「……は?」

 

 言葉少なに、俺は義手の甲に力を込めて裏拳を叩きつけた。

 ビシリと蜘蛛の巣のように亀裂が走る。

 閉所故か迷宮の中に破砕音を響かせ、倒壊した手頃な壁の一部を手に取る。

 

「「ぇ、ええええええ!?」」

「安心しろ、迷宮は修復効果がある。これ位の傷なら一日もあれば塞がるよ」

「そう言う事じゃあねえよ!?」

「迷宮って、壊せるんだ」

「壊せる」

 

 阿呆程強度はあるが、筋力に物を言わせれば壊す事も可能だ。

 後は先程取り出した薪を積み重ね、適当に敷き詰めて、上に迷宮の岩壁片を乗っけて魔術で火を付けて。

 

 10分もすれば準備は完了。 

 包丁で猪の肉を切り取り、熱された石に脂身を押し当てて……焼き始める。

 

「やっぱ良いな、迷宮飯」

「凄く、良い匂いしてきた」

 

 うずうずと涎を垂らす優君に笑いながら少し過去を思い出す。昔、まだパーティを組んでいた頃は仲間達とこうやって遠征だなんだと繰り返した。

 命の危険もあるってのに馬鹿みたいに騒いで、どんちゃん騒ぎして、音と匂いに釣られて来る魔物と戦って、そいつ等も食って。

 

「塩コショウ、後はバーベキューソースとかも入ってたはずだ。好きなの掛けて食え、俺はその間に猪を解体(バラ)しとくから」

「やったー!」

「聖川、次焼け、早く焼け!」

 

 終わったら珈琲でも淹れてやろう。

 こういう場所で飲む珈琲もまた違う味わいがある。

 

 

 

 その後、俺、主人公、悪役と言う謎のパーティは巨大猪(ビックボア)の肉を浴びる程食い終わり、更に潜ってみたいと駄々を捏ねだす優君の首根っこを掴んで地上へと帰還するのだった。

 

 ついでにアリスが「(わたくし)も潜りたかったですの!」とハンカチを噛み締めたのはまた別の話。

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