シンギュラリティ・ラッドピース   作:物部。

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メインで書いてる話が行き詰ったので息抜きに投稿。
VR物は常に数値と睨めっこしなきゃいけないから大変なのです。


13話 暗躍01

 繊細なピアノと緩やかな管楽器の音が流れる店内で、今日も今日とて客入りの少ないリュミエールで俺は長閑な珈琲タイムと洒落込んでいた。 

 この時間が至福の一時まである。

 

「店長、私にも一杯入れてくれ」

「ああ、影縫さんお疲れ。外の掃き掃除は終わった?」

「勿論だ。見ろ、店の外に桜の山が出来ているぞ」

「何それ風流」

 

 さて、そんな至福タイムなのだがそれは従業員の手があってこそ。

 箒片手に軽口を叩きながら中に入って来たスーツ姿の女性は影縫羽織さん。リュミエールで住み込み店員をしているカッコいい系のお姉さんである。

 

「黒子さん達もお疲れ様。珈琲飲む?」

「……………(コクコク)」

 

 彼女の後ろから音も無く入って来る、演劇の裏方のような恰好をした数人は彼女の元家のお手伝いさんと言うか、お世話役の人達らしい。

 

 しかも、こんな怪しい恰好してるのに外では気配遮断まで使って完璧に隠蔽する。

 

 ああ、ついでに影縫さんは魔法都市ヤマトのヒロイン枠ではない。どちらかと言えばミカと同じボス枠の人だ。

 リュミエールはボスキャラが集まる喫茶店ではありません……が、何故か拾ってきてしまうのです。

 いや、彼女の場合は拾ってきたとかではないような。

 

「美味いな。良い豆だろう」

「合衆国の『スティレッド』だ、味わって飲めよ」

「……迷宮産の一杯ウン万するヤツじゃないか」

 

 その通り、合衆国……USRAの友人が送ってくれたそこそこお高いヤツ。これはどっちかと言えば俺の趣味のような物なので、店では出してない。

 と言うか、値段が値段なので簡単に出せない。

 

 ウチは地元に愛され、地元と共に時を過ごす普通の喫茶店なのである。

 そんな上層向けの馬鹿高い珈琲なんか出したら客足が更に遠退く。

 

 

 おや、顔の見えない黒子さん達が分かり易く肩をビクッと跳ねさせて気持ち飲むスピードが下がった。そもそも顔を隠してる状態でどうやって飲んでるのかは不明だけど。

 

「相変わらず趣味に関して金に糸目を付けない雇い主だ。金遣いが荒いとも言える」

「これでも堅実な方だと思うよ、俺は」

「どうだかな。急にポンと大金を渡されるこちらの身にもなって欲しいものだが」

 

 そもそもこれは送られて来た物だから、財布を開けてる訳じゃないし。給料に関しては高くもなく低くもない。

 

「そう言えば店長。最近、龍華国のならず者連中が裏でコソコソと動いてるようだぞ」

「龍華国? ………ああ、あのなんちゃって人攫いチャイニーズマフィア」

「何か心当たりでもあるのか」

「まあね」

 

 聞き覚えのある名前だ。カレンダーを見ながら、納得気に相槌を打つと影縫さんが眉を顰めて聞いて来る。

 

「あるにはある、けどまだ動かなくても良い。時期がくれば、分かり易く誰かが独り言を零しにくるだろう。ただ拠点の場所を探しといてくれると嬉しいな。手間が省けて楽だ」

「ふっ、何だ善良な人間の店長も時には悪だくみをするのだな。随分と良い顔をしている」

「影縫さんの場合は、店の仕事よりそっちの方が楽しいだろ」

「問題ない。一週間、いや数日もあれば望みの物を手に入れて見せよう」

「必要な物があれば言ってくれ。それと一応、瑠璃ちゃんにもさり気なく伝えておいて欲しい」

「承知した」

 

 悪だくみ、確かに悪だくみだ。

 

 俺としては優君、延いては主人公パーティの戦力追加とレベルアップイベントでしかないけど。その過程でどれだけ被害が出るかは分からない。

 尤も、動かなくて良いならそれに越した事はないが。

 

「イベントがそろそろ動くとして、問題は……あの子か」

「店長?」

 

 今回のイベントは、ゲーム序盤で初めてプレイヤー諸君に「あれ。本当にこのゲーム、恋愛ゲームか?」と不安を与える要因となる事件だ。

 

 割と鬱……と言うか、悲惨と言うか。

 人攫い、チャイニーズマフィア、鬱要素と来ればどういう物かは何となくお察し出来るだろう。

 

「全く、どうして悪い事をする奴ってのは定期的に出て来るのか。ただでさえ迷宮なんて大敵が目の前にあるのにさ。帝ちゃんも、現状はテキストとグラしか出て来ない体の良いマスコットで役に立たないな」

「それを私の前で言うのは、当てつけか何かか? と言うか店長、帝ちゃんとはまさか天帝……」

「そういや影縫さんも俺の命を狙ってきた暗殺一族の人だったな。もう一回尻叩きしようか?」

「ぐっ、止めてくれ」

「冗談冗談、文字通り本心だよ。内ゲバしてる余裕なんて、これから先は無いだろうし」

 

 内ゲバ、外ゲバ、俺が嫌いな言葉だ。

 ただ我武者羅に迷宮を攻略して奥に居るボスを打ち倒して、人々から称賛されて世界が平和になる。

 そんな英雄譚みたいな話は残念ながら現実では起こり得ない。

 

 国のお偉いさんはお金と悪巧みが大好きな生き物だから。

 

「……本当に、こっちで生きてるとゲームで見なかった人間の嫌な部分がポコポコ顔を出してきて嫌になる。一致団結して迷宮(ラビリンス)に立ち向かえよ世界。国の覇権なんか気にしてたら、この先生きていけねえぞ」

「何か言ったか、店長」

「いいや、何でもない」

 

 優君の入学、4月1日から既に本編シナリオは開始している。これから始まるのは、『侵攻』なんか目じゃない位の鬱展開モリモリ鬼畜難易度だ。

 

 もう数日もしない内に龍華の誘拐イベントが発生するって事は、その後はゲリラ迷宮氾濫も控えてる。

 

 否応なしに大勢の人間が死ぬ。

 大和も他の国も例外なく。

 

 俺も何度コントローラーをぶん投げて壁に穴を開けたのか覚えていないよ。まあ、優君の話を聞く限りだと迷宮攻略は順調に進んでるらしいし、ロストの心配はないか。

 

 ちょこちょこ迷宮小噺、もとい豆知識も披露してるから過信もなさそうだ。

 

 現状の問題は装備だな。

 

 見た感じ優君や葵ちゃんの装備はまだ未強化武器。迷宮ドロップの未強化武器と強化武器だと性能が雲泥の差だ、それとなく学園の技術科を勧めてみるのも良いかもしれない。

 

 いや、この問題はパーティの話し合いで進めた方が良いのか。この世界はゲームじゃない。意見交換だって、仲間との友好を築くのに必要な事だ。

 

 パーティの不和で連携が取れず、結果最悪の事態を引き起こす……なんて昔嫌になる程経験した。

 コマンド入力すれば言う事を聞いてくれるゲームとは違って、面倒だな。

 

「……店長は、時折未来を見ているかのような事を言う」

「見えてるって言えば、どうする?」

「どうもしない。既に私は影縫の家とは縁も切られている。今は喫茶店リュミエールの店員だ」

「それもそうだ。ああ黒子さん達、珈琲のお代わりは如何」

 

 先程から俺達の会話を聞きながら、二重の意味で震えが止まらなくなっている黒子さん達にポットを掲げて見せる。

 

 盛大にオドオドしてるのに、ちゃっかりカップを差し出してくるのは強かだな。

 

 注がれていく珈琲を見ていると、心が落ち着く。

 

「まあ、俺も精々護れる範囲は護らなきゃな」

「何だ藪から棒に」

「何事も大団円(ハッピーエンド)が一番だろ。俺ってハピエン厨だからさ」

「ふふっ、訳が分からん」

「これも言葉通りだよ」

 

 ここまでシナリオを壊してしまってるんだ。

 なら俺だって好きにやるとも。

 

 主人公君達には順当に成長して貰って、楽にラスボスを討伐して貰わないと困る。主人公が居て、ヒロインが居て、悪役まで仲間になって、最高なハッピーエンドだ。

 俺はそれを眺めながらダラダラと日常を謳歌したいんだよ。

 

「それでは店長。私達は仕事をしてくるとしよう、珈琲美味かったよ」

夏季賞与(ボーナス)は期待してくれて良いぞ。何なら皆で旅行にでも行こうか」

 

 片手を振りながら、影縫さんと黒子さん達は消える。

 

 カウンターに置かれたカップを洗い場に移動し、俺は旅行に行くなら何処が良いかと笑う。

 

再挑戦(コンティニュー)なんて物がない一発勝負で、主人公君達はどれだけ多くの人を救えるのか。やっと迷宮都市ヤマトらしくなってきたな」

 

 

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