シンギュラリティ・ラッドピース   作:物部。

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何か知らん間にそこそこ伸びててびっくらぽん。
50話とか10万文字から伸びるもんだとばかり……。


15話 金宮司琴子01

「店長ーー!店長ーー!!」

「騒がしいのが来てしまったわ」

「ミカ、一応お客さんだ」

 

 客入りも上々の店内。

 穏やかなティータイムの時間に突如舞い込んで来た馬鹿でかい騒音…もとい叫び声を聞き、ミカはほぅと息を吐く。

 

「バイトの募集はしてませんかっ!」

「してないな」

「此処に可愛くて元気な女の子が居ますよっ!」

「可愛い子なら間に合ってる」

「お父様、照れちゃうわ」

「今なら少し刺激的なサービスも付けちゃいます!」

「帰れ」

「お帰りはあちらよ、お姉さん」

 

 トレードマークの八重歯を輝かせる白衣姿の少女は、満面の笑みから一転、膝から崩れ落ちる。

 

「な、何故ですか…店長。可愛い女の子ですよ、雇えば売上貢献間違いなし、賄いさえ付けてくれれば雀の涙でも働くつもり満々の美少女が目の前に居るんですよ」

「店の評価が下がりそうだからかしら」

「ここをコンカフェかメイド喫茶と勘違いしてないか?」

「あらお父様、コンカフェって何かしら。私は聞き覚えがない単語なのだけれど」

「……何だろうな」

 

 目元まで伸びた黒髪から、黒と金の瞳がこちらに向く。

 

「ろ、ろりこん……」

「今すぐそこを退かないと叩き出すぞ」

「ヒィン!!」

「まあ座れよ馬……琴子ちゃん」

「今、馬鹿って言い掛けませんでした?」

「気のせいよお馬鹿さん、お父様がそんな汚い言葉を使う訳がないでしょう」

「ミカちゃん、今馬鹿って言ったよね?」

 

 自称売上貢献間違いなしの美少女、もとい金宮司琴子。

 

「で、今日は昼飯で寄ったのか?」

「はーい、何時ものでお願いします」

「ナポリタンと珈琲だな」

「YES、です!」

 

 接客をミカに任せて、フライパンを取り出す。

 

「あ、店長。前に店長が言ってた一年生ちゃん達が技術科に来ましたよ。女の子いっぱいで私は幸せでした」

「それは何より。セールスは掛けたか?」

「勿の論です。群青ちゃんでしたっけ、凄く疑わしそうに私を見てきましたけど、店長の名前をコソッと呟いたら一発KOでした。ブイッ!」

「俺は客寄せパンダか何かかよ」

「似たようなモンですって~」

 

 彼女は、ストーリー序盤から使用可能な研究棟キャラだった。性格は軽いが、口は堅く、腕も良い。

 そして何よりも。

 

「どうだった、才能の塊だっただろ」

「それはもう…何ですかアレ。世界にでも愛されてる系の子だったりします?魔力量も適性も、伸びしろしかなかったんですけど」

「琴子ちゃんの目にも、そう見えたんだな」

 

 金宮司琴子の左目が怪しく輝く。

 

 特殊体質、魔眼。

 迷宮が姿を現わし、人類が魔力なるものを得た事で発生した先天性の病。見ただけで相手の魔力の総量、漠然的な才能の有無を見分ける事が出来る万能の瞳。

 

「久しぶりに気持ち悪くなりましたよ。2年前だったら絶対吐いてた自信があります」

「悪い事をしたか?」

「いえいえ、将来有望な後輩ちゃんと知り合えて専属も結べちゃいましたし、万々歳。アレが店長のお気に入りの弟子なんでしょ?」

 

 バカ弟子だ何だと言ってはいるが、本当に弟子か?と聞かれれば…どうなんだろう。

 刻んだピーマン、玉ねぎやらウインナーやら、具材を炒めながら琴子ちゃんの言葉に肩を竦める。

 

「良いなぁ、私も戦えれば店長といちゃこらくんずほぐれつ、ぬっぽりしっぽり出来たんだけどなぁ」

「叩き出すぞ」

「冗談ですよ、金ちゃんジョーク!」

 

 店内を見渡すと、お客さん達が「あらあら」みたいな温い顔でこっちを見てくる。

 

「ただ聖川さん、制作費用とか払えるか心配なんですよねぇ。あの子を見てると歴戦の賭博師の姿を幻視すると言いますか」

「まあ、うん……そうだな」

「ツケを理由に色々素材とか持って来て貰おうかな~なんて考えちゃったりしましたけど、店長に怒られそうだし」

「良いんじゃないか、ギブ&テイクだ」

「あれれ、店長的にはオッケー寄りの意見?」

「俺も昔は金が払えなくて物々交換してたし、探索者をやってくなら悪くはないだろ」

「ならボス素材とか強請っちゃおうかな」

「ボッタくるなよ」

「やりませんよ~。顔が怖いなぁ、ハイ、スマイル!」

 

 ゲームでも度々、金宮司琴子からお使いクエストは交付されていたし、クリア報酬も悪くない装備ばかりだった。

 腕はいい、腕は。

 

「それで店長、余談はポイしてバイトの件ですよ。どうですか、雇いません?」

「まだ諦めていないのね。しつこい女の子はお父様に嫌われてしまうわよ」

 

 炒め終わった具材を皿に移し、ついでソース造り。

 マダム達の会計を済ませたミカが帰って来る。

 

「店長が私を嫌う訳ないじゃないですか~!」

「何だその溢れ出る自信」

「だって、私は店長にとって有用な子でしょ?」

 

 急に、先程までの様子は嘘だったかのように琴子ちゃんが表情を変える。

 

「技師として、研究者として、それから女の子として私は自分に絶対の自信があっちゃったりします。私は店長にとって欠けてはならない駒だって自信があります。だから、店長は私を捨てません。嫌う事も無いでしょう?」

 

 本心、なのだろう。

 薄ら寒さすら感じる、混じりけのない歪み。

 

 学園屈指の変人凄腕技師。

 ゲームではおくびにも出さなかった、明るさの権化は一体どうしてこんな事になったのか。

 

「俺は別に有用だ何だで判断してないよ。琴子ちゃんは面白い子だからな」

「にゃはは、知ってまーす!だから店長は大好き!」

「ただ面倒ならしばくけど」

「折檻ですか!?調教って奴ですか!?」

「目を輝かせるな、座れ」

「クゥン……」

 

 本当に、どうしてこうなったのか。

 

「やっぱり、出入り禁止にするべきかしら」

「ミカちゃん!?」

「ミカ、パスタ茹でといてくれ」

「はーい」

 

 煮たてたソースと具材を絡めながら、思案しているミカに手伝いを頼む。

 

「良いな~。私も店長と共同作業したいな~」

「ごめんなさいお姉さん、これは従業員の特権だから」

「店長、今からでもバイトを」

「取ってない」

「……ぐやじぃ」

 

 ハンカチを噛むな、昭和の少女漫画か。

 

「そもそも、琴子ちゃんは装備作りでバイトしてる時間なんか無いだろ」

「店長、空き時間は作る物なんですよ。そして私程の天才なら幾らでも作り出す事が可能」

「こう言う人を才能の無駄遣い、奇人って言うのよね」

「誉め言葉として受け取っておきます!」

 

 数分程パスタが茹で終わるのを待ち、上がった麺をフライパンに移し…混ぜる。

 茹で汁で伸ばし、全体に絡めれば完成。

 

「ほら、出来たぞ。パセリと粉チーズは好きに掛けてくれ」

「了解でっす!頂きまーす」

 

 まあ、備え付けの市販品だが。

 差し出した筒二つを受け取る琴子ちゃんは、均等に全体に振りかけてから食べ始める。

 スプーンとフォークを巧みに操り、滅茶苦茶上品に。

 

 彼女、このテンションと見た目からは想像出来ないのだが割と良い所のお嬢様だったりする。

 食器で音を立てる事も無いし、一口も小さい。

 

「あの店長、そんなにジッと見つめられると食べ辛いと言いますか」

 

 僅かに恥ずかしそうに、口元を隠す琴子ちゃん。

 俺はミカと顔を見合わせて…口を開く。

 

「解釈違いだ」

「ええ、解釈違いだわ」

「どう言う意味ですか!?」

「ああ…いや、特に意味はない。ほら珈琲が入ったよ」

 

 深煎りの豆がナポリタンには良く合う。

 頭の上で疑問符を浮かべる琴子ちゃんの前に、ことりと置いてはぐらかす。

 

「お嬢だな、アリスよりも」

「本当に、女狐よりもお嬢様しているのよ」

「あの、すっごい恥ずかしいんですけど」

「気にするな、好きに食べてくれ」

「気になりますってー!」

 

 顔を赤らめて身を縮こませる姿は、庇護欲を誘うお嬢様のそれである。

 この光景。ナイフを使わず分厚いステーキに齧り付く大和貴族の二人に見せて差し上げたい。

 

 きっと、また「むきーー!」とか言って怒り出すだろうな。

 

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