あ、それとキャストリス仮天でどうにか確保出来ました。
貯蓄石が姿を消しました。
「師匠知ってる?ここ数日、うちの生徒が立て続けに行方不明になってるんだって」
「ああ、前にお客さんがそんな事を言ってた気がするな」
若いって良いなぁ。
良く晴れた外を眺めていると、大盛りの白米を掻き込んでいた優君がそんな事を言い始めた。
何でも…数日、僅か四日の間に、学年問わず数名の女子生徒が消息を絶ち現在学園側がSTARsと協力して捜索に当たっているらしい。
時間も場所もバラバラ、合致しているのは皇星学園の女生徒と言う点のみ。
誰が呼んだか通称《皇星神隠し事件》
文字に起こして見ると、何かカッコいい。
さて、察しの良い人間ならお気付きだろう。
これこそが、俺が影縫さんに事前に調べるように頼んだイベントであり、初めてネームドキャラが死ぬ鬱展開でもある。
「その行方不明のせいで、今日から一週間は迷宮に潜るのが禁止になっちゃってさ。もう嫌になるよ」
「災難だな」
このイベント中は、迷宮探索が禁止される。
レベル上げは勿論、素材の確保もままならない……育成を充実させているなら良いが、ギリギリを楽しむプレイヤーではまず攻略不可能なイベント。
レビュー炎上理由の一つ目である。
ここをクリアしなければ容赦なくバッドエンド。
仕方なしにイベント前に遡ろうにも、迷宮都市ヤマトのセーブデータは三つしか残す事が出来ず、殆どの人間はプロローグを拝む事になる。
あるよな、セーブの数が露骨に少ないRPG。
20個位枠作っとけよ製作者、と怨嗟と怒号がネット上で横行した。
「早く解決して欲しいよ。風香先輩…僕達がお世話になってる先輩の友達も居なくなっちゃったみたいだし」
「へぇ」
「とっても良い人なんだよ。迷宮の事とか、学園の事とか色々と教えてくれて……でも、最近凄く不安そうだから心配だな」
風香先輩……星宮風香。
今優君が呼んだ名前。
彼女こそが誘拐イベントのキーパーソンであり、
数少ない攻略ブログのコメント欄。有志達により満場一致で付けられた『絶命先輩』と言う仇名は今も心に残っている……どの選択肢を選んでも、どれだけ最短でイベントをクリアしても生存出来ないが故の……絶命。
しかも惨たらしく死ぬ。
人としての尊厳やら、女性としての尊厳やら全て踏み躙られて死ぬんですよ。
初登場時はゆるふわな雰囲気を醸し出し、推薦生の主人公君にも優しく接する聖母の如き人格者。
すわ天然お姉さんヒロインキタコレ、と思わせておいて……最期は暗い鉄格子の中で鎖に繋がれ、濁った目で世界に恨み言を吐きながら事切れる。
『誰も…助けてくれなかった。叫んでも叫んでも、誰も助けてなんてくれなかった。ねえお願い、私を
青年向けではない為、具体的な描写こそなかったがファンブックの一言コメントで諸悪の
栄えあるシナリオの被害者筆頭、ライターは人の心をかなぐり捨ててるのか?
「師匠、どうしましたー」
「ああ、いや。何でもない」
俺の前で左右に揺れる手。
首を傾げる優君に俺は薄く笑い掛ける。
星宮風香の失踪こそが、本イベントの導入。
それは今日…迷宮封鎖の当日、夕方に起こる。
「もしかして、師匠は既に何か知ってたりする?」
「どうしてそう思ったんだよ。俺も客伝手に聞いただけだって」
「あはは、そうだよね。何となく師匠なら何か知ってるんじゃないかなって思って」
第六感と言う奴か。
コイツの勘が時々末恐ろしく感じる。
さて、今此処で情報を彼に伝えたら、もしかしたら絶命先輩の誘拐は起こらないかもしれない。
正義感の強い優君の事だ。
何の根拠もない俺の言葉を信じて、星宮風香を守る為に行動する事だって大いにあり得る。
だが、それでは困る。
彼には此処で悪人を殺す躊躇いを消して貰わなければならない。
30層を越えれば、障害となるのは魔物だけではないからだ。新人潰しやならず者等、人型のエネミーが多数現れる。ゲームをやってる時なら躊躇いなく倒して経験値を頂くだろうが、ここは現実。
人を殺す、言うのは言葉だけなら簡単だが行動に移すとなると難しい。主人公君にはここで一皮剝けて貰わないと、後々要らぬ躊躇で仲間を傷つける状況が出てきてしまう。
俺がそうだったように。
「俺も歳食ったのかな」
ついでに俺は、初めて人を殺した時は吐いた。
手にこびり付いて落ちない粘ついた血糊、震えて動かない手、肉を裂いた時のぐちゃりとした感覚を思い出して朝まで吐き続けた。まあ、二回目以降は割と苦も無く殺せた、慣れって怖いな。
お節介なのは重々承知だ。
だが全ては主人公の成長の為、延いては世界の為。
必要な犠牲や
「師匠はまだ全然若いよ!いっつも珈琲の良い匂いしてるし!」
「誰も加齢臭の話はしてないんだがな?」
「イタタッ、痛い師匠。僕の小玉スイカみたいな頭が粉砕しちゃうっ」
「詰まってるのはどっちも真っ赤だもんな。割って見るか」
「やめてーーーー!」
失礼な事を宣う下手人の頭部を強く掴み上げる。
俺の手を何度も叩きギブを宣言する姿はまるで子犬だ。
浄化能力みたいな物でもあるのか、優君を見ていると嫌な考えも馬鹿らしく思えて来る。
「その純粋さを無くすんじゃないぞ、主人公」
「んえ?主人公は師匠でしょ」
「ははっ、何言ってんだ」
俺は主人公にはなれなかったんだよ。
だから今、ここに居るんだ。
「御馳走様でした。それじゃあ行ってきまーす!」
「おう、気を付けて行って来い」
小走りで駆けていく優君を見送る。
「店長」
「急に背後に立たないでくれよ、影縫さん。後ろの幅のせいで殆ど密着状態になってる」
「すまないな。こちらの衣装はあまり見たくないだろうと配慮したつもりだったが、逆効果だったらしい」
「どちらでも、それで場所は割れたのか?」
「ああ」
姿の見えないまま、カウンターの上に数枚の紙と写真が置かれる。
写真は4番区近辺、紙には詳細な住所と目印、そして組織の所属人数。
「店長の見立て通り、連中は分散して活動しているようだ。中には数名の黒子を紛れ込ませているが、何かさせる事はあるだろうか」
「今は現状維持で良いけど、今日の夕方に何処かの拠点に運び込まれる女の子が居る。名前は星宮風香」
「接触しろ、と?」
「それと、彼らは男所帯だからもし手を出しそうな奴が居たら止めて欲しいな。君達なら、それ位余裕だろ」
「殺さずか」
「当たり前だ、殺しちゃ駄目。先んじて彼らのボスを仕留めるのも駄目。これは優君達のイベントなんだから」
そう、当たり前の事だ。
「殺したら、優君達の経験値が入らなくなっちゃうだろ。折角のリソースを一匹たりとも無駄にしたくない」
「連中のトップは、そこそこの手練れだぞ。あの子達で勝てるだろうか」
「勝てるさ」
人を殺した事は無くても、人を壊す技なら幾つか体に刻み込んだ。俺は信じている、それを生かすのが主人公だ。
「ただ体力面を考えて、襲撃と同時に幾つか間引いた方が良いな」
ゲームなら連戦すればするだけ旨味があるけど、こちらの世界では10匹程仕留めればそれでいい。
最悪今回は、人を殺す覚悟を決めてくれればそれで充分だ。
育成は効率重視。
ゲーマーの鉄則と言えよう。
「拠点は三つで大体均等に15匹、一つは優君達が行くとして……俺も一つ潰しておこう。後はSTARsの手柄を作るのもアリだな。瑠璃ちゃん達の治安貢献度の増加、うんアリだ」
「……………」
「どうした影縫さん、どれか欲しい?」
「いや、私は店長の指示に従おう」
ならこれで大まかな
「影縫さん達は最低限、星宮風香を護ってくれれば文句はない。後は必要に応じて主人公君達の手助けをしてくれ」
「承知した」
優君達にとっては、ここから数日は文字通りの修羅場となる…だけど、これは茶番だ。
最も安全に、最も刺激的に、最も効率的に強くなるには危険な状況を作り出さなければならない。
目指すは優君達の戦力強化&精神成長。
ついでに絶命先輩、絶命ルート回避。
「不安要素は一つ一つ丁寧に潰して、完璧な
数時間後。
「師匠、どうしよう!先輩が、先輩が!」
イベントが始まった。
厨房で作業していた手を止めて、俺は優君が入って来た扉の方へ視線をやり…驚愕の表情を浮かべた。彼のすぐ後ろに見えた、色々と大きな少女を見てしまったから。
「先輩が悪い人達に攫われそうになってて、助けたんだけど…追われる事になっちゃった!」
星宮風香…誘拐失敗。
彼女は青い顔で優君の服の裾を掴んでいる。
成程なぁ、そっかぁ、そう来たかぁ。
「なんだってぇ!?」
【悲報】シナリオと俺の計画全てがご破算になった件について。ここから入れる保険とかって、ありますか?