シンギュラリティ・ラッドピース   作:物部。

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20話 星宮風香04

 見えてきた──。

 

 黒子さんから教えられた情報を頼りに歩いて行けば、明らかに見覚えのある一つのビルに到着する。2Dグラフィックしか見た事無かったけど、こうしてみれば立派な建物。

 四階建て、夜間でも明りが灯っている。

 

 次いで入口には屈強な大男が二人、黒服にサングラス…どうしてこういう時のガードマンって同じ格好してるんだろう。

 

「厳重そうだね」

「ああ、カードロック式かな」

 

 あの壁に取り付けられた鉄の塊。暗証番号系とか内部から閉ざされたり系だと正面突破しか手段がないから面倒…いや、監視カメラがあるから今更か。よし決めた。

 

「どうするの、師匠」

「うーん、正面突破かな。速攻即決で行こう」

「バレたら大勢で出てこない?」

「知ってるか優君、人間って殺せば死ぬんだぞ」

「そっか!」

「片方は任せたよ」

「うん、了解!」

 

 無駄口を叩きながら正面へ歩く。

 すると案の定、ガードマンが俺達の方に近付いてきて、声を掛けられた。

 

「失礼、ご用件を」

 

 至近距離まで姿を晒したガードマン。俺は貫手の要領で、彼の胸に右手を滑り込ませた。肉を貫通、骨を圧し折り、心臓を握りつぶして処理を終える。

 人間相手ならこれが一番簡単だ。声を漏らす事も無く倒れ伏す。もしかしたら彼らは依頼を受けただけの、何も知らない人間だったのかもしれない、だけど連中に関与している時点で結局は同じ穴の狢だ。

 

「優君は……」

「どうしたの?」

「……うん」

 

 横を見れば、腰に差していた短剣を引き抜き、いつの間にかもう一人の首を刎ねた優君の姿。マジで一切躊躇が無かった。コロンと転がる頭部に視線すら向けない彼の姿は、ある意味で俺を震えさせる。

 

「良い腕だ、成長してるな」

「でしょ!師匠が教えてくれる事は全部覚えてるから!」

「凄いな、偉いな」

 

 無邪気な顔をしている。宛ら飼い主を見つけて喜ぶ子犬。ただその手に握る刀身が赤黒く染まっているだけ。

 

 ここからどうするか。

 倒れ込んだガードマンの身体を漁っても特に鍵やらカードキーらしき物は見つからない。ゲームならばどうだったか、確かガードマンを倒した後にそのまま室内の描写が映ったような気がするけど…流石にそこら辺は朧気だな。

 

「ぶち抜こう」

 

 まあ、考えても仕方ない。

 右足、右腕を後ろに引き、態勢を整える。

 

「優君」

「離れてる!」

 

 物分かりが良い子は伸びるぞ。

 

「『点火(イグニッション)』」

 

 俺の周囲を炎が巡る、それは右腕に集束し赤は紅へと色を変えた。魔力の上乗せ、何度もポンプのように練り上げた塊を一点に集める。優君やアリスであれば一度の放出で事足りるだろうが、残念な事に俺は魔力総量が少ない。

 

「フゥ………」

 

 慣れはしても割と疲れるのだ、主に精神。

 迷宮(ラビリンス)の中であれば大気中の魔力を取り込めるが、ここは地上。縦に構えた拳は高熱の影響かゆらゆらと周囲を歪ませ、周りの温度を上昇させる。

 

「奥義、熱血パンチッ!!」

 

 説明しよう。

 奥義、熱血パンチとは──滅茶苦茶腕に魔力を込めて全力でぶん殴る技である、以上。

 

 

 拳を突き出す。瞬間、接触と同時に突き出された爆炎が一直線に扉をぶち抜き…それどころか一階フロントが木っ端みじんに吹き飛んだ。威力としては20%程。それ以上だとこのビルから先、更に奥までぶっ壊してしまう。

 まるで火事現場の惨状、一息ついた俺の姿を優君は憧憬混じりの目で見ている。

 

「鍵は開いたな」

「うん、凄いよ!流石師匠!」

 

 ついでに、一階に誘拐被害者はいない。

 隠蔽用の魔導具か何かで建物内の生体反応が隠されてはいるが…悪いな、影縫さん並の遮断能力ならまだしも、俺って都民とかゴロツキ程度なら何となく分かるんだわ。順応しなければ、一般人の俺は迷宮(ラビリンス)で生き残れなかったから。

 

「優君、前方2、右階段から4体来る」

「了解ッ!!」

 

 だから、遮蔽物を利用して隠れても無駄なんだよ。

 身体強化(ビルドアップ)筋力強化(ストレングス)速度強化(アクセルブースト)。三色の強化魔術を自身に付与した優君が前から走って来た黒服男に殴り掛かる。

 あれ、彼らちょっと焦げてない?

 

「襲撃!リーダーに連絡を!」

「ガキ一人で何が出来るって言いやがるッ!」

 

 油断、子供だからと言う浅い考えは捨てた方が良い。

 小柄な体躯を活かした優君は素早く一人目の目の前に入り込み、鳩尾を強打。倒れ伏す図体を魔銃避けの肉壁にしてもう一人の首を回し蹴りで圧し折った。

 ……主人公?

 

「師匠、そっちは!?」

 

 俺の方を振り返った優君は、右階段の方を見てホッと息を吐く。其処には出来立てほやほやの湯気を上げて黒炭となった四つの塊。手癖で燃やしただけだ。

 

「これで6、残りは9だ」

「うん、早く次に行こう!」

 

 何発か当たったのだろう、肉壁にしていた男を地面に投げ捨てながら階段を登っていく。

 

「優君、大丈夫か?無理とかはしてない?」

「んえ?」

 

 もしかしたら、心の底では無理をして…と、思った俺だったが優君は不思議そうな顔で俺に首を傾げている。

 

「もう、師匠は過保護過ぎるよ。僕だってそんな子供じゃないんだから」

「そうか、なら良いんだけど」

「それにこれは皆を助ける為の戦い、正義は紡ぐんだよ」

「なあ、マジでそれは誰から聞いた?」

 

 鼻高、髭面、いや会長…違う、面識はまだ無い筈だ。

 俺の黒歴史を吹聴して回る奴なんて…困った、心当たりが多すぎて分からん。

 

「えへへ、教えなーい!」

「張り倒すぞ」

  

 ワーと声を出して優君は階段を登っていく。危機感が足りてない、ここら辺もみっちり仕込んどかなければいけないな。懐からメモ帳を取り出して書きこむ。

 

 

 

 

 

 

 時は流れて三十分。

 

「弱い」

「弱いね」

 

 弱い、手持ち無沙汰だ。

 これ本当に経験値入ってんのか?と思う位には貧弱な連中が目の前で山を作っている。数は7体、どれも性能の良い防具と魔銃で身を固めているのだが、如何せん優君が強かった。確かに対人戦の特訓は十二分にしていたと自覚している。なのだが、まさか一方的にジェノサイドするとは思わないじゃん。

 

 もしかして、本当に言った事全部吸収してるの?

 これも主人公適性って奴ですか?

 

「さて、残りは四階だけになった訳なんだが」

「うん」

 

 いるな。強そう…ではないが、弱くもなさそうなのが3人とそれより弱そうなのが4人。幹部連中を集めて、人質でも取って立てこもってるつもりなのか。

 なんか、うん…正直がっかりだ。レベルアップは強者との戦闘でのみ発生する。しかし連中の気当たりはどうだ。

 優君と比べても数段劣る。

 これじゃあレベルアップなんて起こらないんじゃないか?折角の俺のプランは全て水の泡、優君の覚悟が決まっていた事は幸いではあるが、それ以外は全てマイナス。

 

 なんか、考えるの面倒になってきた。

 

「優君、俺が前に出るから後ろから付いてきて」

「分かったよ師匠!」  

 

 あー、優君ニウムが染み渡る。

 良いわぁ、善良でニコニコくっ付いて来る年下。弟でも出来た気分になる…あれ、ちょっと背筋が寒くなったな。

 

 心底下らない事を考えながら、明らかにボス部屋らしき場所の前に辿り着いた俺は、特に準備も無く扉を開けた。

 

 ガガガンッ!ガガガンッ!

 魔銃の発砲音。音からして連射型の魔導具は受けたら一溜りもないだろう。

 

「御挨拶だな、おい」

「銃弾を弾いた…?中層上がりの黒鉄だぞ!?」

「いや、違うッ!!」

 

 中で玩具を構えていた黒スーツ達が悲鳴に近い声を上げる。

 その後ろには、人質の為に檻から出されたのだろう、恐怖に顔を歪める少女達。 

 

 

 そう、違う。弾いたんじゃなくて、ただ溶けただけ。

 涼しい顔でそいつ等から視線を変える先は一人の男。

 

「初めまして、レン・カイフェン。何だっけ、龍華国だと龍咆だか劉邦だかって呼ばれてたんだったか。俺の顔知ってる?」

「………嘘だ」

 

 顔に大きな傷を付けた彼は、土気色の顔でこちらを見ていた。

 最初は胡乱な目で、しかし数秒の後に何かに気付いたような。

 

「あ、ああ、あああああ…………何で、何で、何で()()()()()()()()()()()()()()何で、どうして」

 

 ああ、知ってるんだ。

 元二等星だもんな、ラオから知らされてたのかな。

 

「何でテメェが、出張って来やがった…予備探索者ァァ!?」

「元を付けろ、元を。台詞が雑魚丸出しなんだよド三流。テキスト一回見直してこい」

 

 




・予備探索者。
迷宮の出現によって、国は軍人、民間人問わず迷宮への調査を試行する探査チームを組織した。彼らに等級は無かった、彼らは国の為、大事な者の為に死出の旅に向かう事を選んだ者達。多くの探査チームメンバーは探索者協会の発足と同時に等級を獲得し、名を上げたが、その中には自分の意思で予備探索者を名乗る者もあった。
その中の一人は言った…『だって、最下層完全ソロ攻略してないんだから探索者名乗れねえじゃん』と。 
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