シンギュラリティ・ラッドピース   作:物部。

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うーん、どうしてこうなった。
原作シナリオどころかプロットが息してない。


21話 レン・カイフェン01

 レン・カイフェン。顔に大傷を負い、背中から自身の得物、蛇腹剣を振り抜いた奴の情報はゲーム時代においても数少ない。それは何故か…いや、単純にゲーム序盤のボスだからだ。

 

 人攫いチャイニーズマフィアのボス、の腹心。

 

 「テメェらみてぇな顔の良いガキは高く売れるぜぇぇぇ」とか典型的な悪役台詞を吐き捨てて、雑魚敵4体と共に現れ状態異常付与の全体攻撃を仕掛けて来るのだが、そもそも今彼の周りには2体の雑魚敵しかいないし、両方とも及び腰。

 更にレン・カイフェンに至っては、臨戦態勢を取っているにも関わらず顔面を青くさせて動く素振りもない。

 

「何でだよ、何でよりにもよってテメェが……」

「ある女の子から頼まれたんだ、大事な友達と攫われた人を助けて欲しいってな」

「え!?」

 

 反応を示したのは、やつれた顔をした少女だった。

 彼女はまさか、と言う顔を作り俺を見て…俺は胸の底から熱が増していくのを感じる。これは恋?否、怒りだ。

 

 全く俺も情けない。

 歳を重ねてこういった感情も薄くなったかと思っていたが、今目と目が合った少女は間違いなく俺が五代目のコントローラーをぶん投げる切っ掛けとなった元凶。怒りのせいか体中から炎が漏れ出し、周囲の気温が僅かに上昇する。

 

「し、師匠…?」

「いや、すまん。何でもないんだ」

 

 恐れ混じりの優君の声で、何とか感情が収まる。

 冷却(クールダウン)冷却(クールダウン)。心を凪のように静めながらレン・カイフェンに視線を移す。

 

「そうか、そうかい…ああ、成程な」

「……………」

「神サマなんざ、終ぞこの世にいねぇと思っていたが、クソッたれ。態々豪勢な死に場を用意してくれた訳かい」

 

 何かを納得したような顔をした男が俺に語り掛けて来る。

 

「テメェ…いや、アンタが俺の死神か」

「……………そうだ」

 

 コイツは一体何を語り始めているのか。

 思わず「そうだ」なんて返してしまったが、何の事かサッパリ理解していない俺である。いや、お前にとっての死神は俺の後ろにいる小動物っぽい主人公なんだけど。

 

「ああ、クソッ。やめだやめだ、テメェら、ガキ共を連中に渡しちまえ」

「……は!?」

「何を言いだすんですかレンさん!」

 

 ???????

 急なレン・カイフェンの心変わりに内心で驚愕する俺を他所に、いきなり仲間割れを始める3人。俺は優君と顔を見合わせながら首を傾げる。

 

「そんな事をしたら、俺達がトップに殺されちまう!」

「そうだぜ、レンさんが居りゃああんな連中」

「無理だ。どうせ此処で死ぬか、後から死ぬかの同じ道しか残されちゃいねぇよ。なあ、そうだろ予備探索者」

「そうだな」

 

 同意を求められたから、速攻で答える。

 今更、被害者を解放したからと温情で見逃すなんて考えてはいない。敵対した以上、敵は殺すだけだ。

 

「クハッ、俺達は金に目が眩んで、踏んじゃあいけねえ龍の尾を盛大に踏み抜いちまったんだ。だったらよぉ、龍華の男なら、潔く戦って死ぬべきだ」

 

 清々したような顔で蛇腹剣を突き付けた男は、好戦的に笑いながら相対するように向く……これ、本当にレン・カイフェン?

 

「ふ、ふざけんじゃねえ。俺達はまだ死にたくねえんだよ!この探索者崩れがッ!」

「トップがどれだけ大金叩いてお前を引き入れたと思っていやがる!腐れ■■■■(龍華スラング)」

「知るかよ、興味もねえ。俺はただ、俺が通してぇ筋を通す」

 

 尚も喚き散らす取り巻き達。

 次の瞬間、レン・カイフェンは握っていた蛇腹剣を振り回し、器用に両方の首を飛ばした。

 

『きゃあああああああああッ』

 

 後ろの被害者達が甲高い悲鳴を上げた。 

 崩れ落ちる死体、しかし奴の目は逸らす事無く俺の方を向いたまま。親指を突き立て後ろを刺しながら、奴は言う。

 

「ほら、其処のちっこいの…報酬は目の前だぜ?」

「師匠」

「……行って来い」

 

 どうにもレン・カイフェンは俺にご執心らしい。

 おかしいな、何か恨まれるような事でもしただろうか。

 

 不意打ちの可能性を考慮しながら優君に頷くと、彼は小走りで駆けて被害者の方へと向かう。その間も一度たりとも動こうとしない。

 

 何を考えている。

 不気味な目の前の男と睨み合う事数秒、先に口を開いたのは強面の顔傷の方だった。 

 

「なあ、予備探索者」

「なんだよ」

「名前を聞かせてくれねえか、俺ぁアンタの名を知らねえ。聞いた事があるのは、良く分からん呼び方だけだ」

 

 急に名を尋ねて来るレン・カイフェン。そろそろ面倒臭くなってきたから燃やすか…なんて考えた時だった。

 

「───鋼、九条鋼」

「クジョウ、コウ…そうか、アンタそんな名前だったのか」

 

 何が可笑しいのかくつくつと笑い、奴は蛇腹剣を横に構える。どうして俺が態々名前を教えたのか…その答えはその目の中にあった。

 

「俺と死合ってくれ、クジョウ。俺の墓標は此処で良い、だから全力で、俺と殺し合え」

 

 その目を俺は知っている。

 嫌と言う程、知っている。

 

 届かない高みに手を伸ばし、決して勝てる見込みが無いと理解していながらも挑戦を望む探索者(ダイバー)の目。

 あの地獄(ラビリンス)の中で、多くの者が宿していた頂きに目を奪われた狂人の目。

 

 ああ、クソッ…お前、そんなキャラじゃないじゃん。

   

 良くて優君の経験値リソース、存在価値が皆無な雑魚ボスだと思っていた男は…確かに今、戦人の風格を漂わせている。その姿は、確かに元二等星の名に相応しい。

 

「ハァァァァァ…………───乗った」

 

 その目に、俺は弱いんだよ。

 『点火(イグニッション)』…炎を体中に纏わせながら、俺も構えを取る。右腕を上、左腕を下、平行に構えた腕に力を込めて低く腰を落とす。 

 

 周囲の音が消える。 

 

 始まりの狼煙は、レン・カイフェンの横振り上げ。

 魔力の糸を通して蛇のように自在に動き回る無数の刀身が迫る中、俺は一息に奴へと疾走(はし)った。刃が擦れる寸前に身体を捻らせ、回避行動。

 手数が多い、ならば弾くのみ。炎が灯された拳は火花を上げて攻撃を弾き飛ばし、懐に入り込む。

 

「まだまだぁッ!」

 

 分断された刀身を纏めながらも、奴はすぐさま近接格闘に切り替えた。直剣形態を交えた攻撃法…左薙ぎ、蹴り、回転と同時に横払い。慣れている、連撃の一つ一つに無駄な動作がない。

 おい、誰だコイツを衰えた雑魚とか言ったの。普通に現役70層でも通じる技術持ってんじゃねえか。何でこれを原作主人公はレベル20代で倒せたの?優君と戦わせなくて良かったぁ!

 

「まだだ、まだだろ、アンタはそうじゃねえ。その程度の人間じゃあねえだろうがッ」

「もしかしてどっかで面識あったりする?」

「忘れてんだろうなぁ、だが俺は忘れてねえぞ」

 

 再びの刃の展開。鞭のようにしならせた斬撃が俺に向かう。雁字搦めされた、身体に食い込む…が、傷は一つも付かない。

 

「フンッ!!」

 

 取り敢えず、邪魔だからぶち壊す。

 体に力を入れて、巻き付いた蛇腹剣を粉砕。

 

 虚を突かれたような顔をしたレン・カイフェン。

 まさか物理で破壊されるとは思っていなかったのだろう、だが俺は壊すぞ、全部壊す。

 

 服の埃を払い落として、拳を握る。

 

「来い」

「上等ッ!」 

 

 格闘戦、明らかに俺の土俵に立たされたと理解していても、レン・カイフェンは向かって来る。右拳を受け流す、蹴りを足払いで崩す。もう動きは見切った。二、三度見れば対応できる。宛らそれは柳のように、鞭のように、お前はこの戦闘法を知ってるか?

 

 動きは流動、流れに身を任せるまま狙うのは奴の胸元。

 滑らせた右の銀腕、五指がめり込み、その心臓を掴む。

 

 そのまま、力を入れて…いや。

 

「ハッ、打、神鞭…そりゃあ、龍華の秘匿暗殺術じゃねえか」

「昔、ラオの爺やから教えて貰った」

「老師かよ…ああ、クソッ、マジか。これで終わりか」

 

 ゴフリッ、とレン・カイフェンの口から血塊が吐き出される。それでも尚、奴は笑いながらまるで友人にでも語り掛けるように口を開く。

 

「気分はどうだ、レン・カイフェン」

「チクショウ、全くどうして…気分は良い」

 

 惜しいと、素直にそう思う。

 これ程の腕があるのなら、彼はまだまだ先に登れた。

 

「海境で見た時からずっと、アンタと戦ってみたかった。それがまさか、こんな舞台を用意して貰えるてよぉ…神サマに感謝だ」

「参加してたのか、あの探索に」

 

 『海境』

 

 今は無き、海上に出現した大型迷宮(ラビリンス)。ゲームでは既に一等星探索者(ダイバー)達に踏破されていた迷宮の探索に、探査チームに入っていた俺も参加していた。

 成程な、良く分からない呼び名…コイツが言っていた言葉に納得する。あの時既に俺達は会っていたのかもしれない。

 

「気分は良い、最高だ。だが、一つだけ」

「聞いてやるよ」

 

 今わの際だ。相手がどんな悪党だろうと、面と向かって拳を合わせたのなら聞いてやるのが道理だ。

 

「アンタに落ちぶれた姿は見られたくなかったなぁ…」

「…………じゃあ落ちぶれんなよ」

 

 そう言って、レン・カイフェンの身体から力が抜ける。

 倒れ伏した男の姿に俺は溜息を突いて、ポケットからハンカチを取り出し適当に掛ける。

 

「締まらねえ終わり方」

 

 視線を横に移せば、唖然とした女学生と今の状況には似合わない視線を向ける優君の姿。

 

「とっとと帰ろう、送ってくよ」

 

 他の拠点も、既に制圧が完了している頃だろう。

 それだけ言い残して、先に俺は歩き出す。

 




誰が味方だけが脳を焼かれてると言った。
次回、レン・カイフェンの過去に迫る……見たいか、これ?
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