九条鋼と聖川優が人攫いの根城へと乗り込んだ同時刻。
4番区奥部の一角に、青色の制服に身を包んだ十数名の人間が集結していた。
STARs、新都の治安維持を目的に設立された彼らだが、本来ならば4番区に関わる事のない存在だ。ならば、これはどう言う事か。戦闘態勢、周囲を警戒する姿に4番区の住民は大きく困惑していた。
暗黙の了解、ただのSTARs隊員であれば賄賂を渡し早々にお引き取り願う所であるが、問題はその先頭に立つ長身の剣士。
「此方は新都治安部第九小隊。速やかに扉を開き、投降する事をお勧めします」
群青瑠璃。葵の姉であり、第九小隊の隊長を務める彼女は大型倉庫の扉を叩いた。
「新都治安部です。もう一度言います、速やかにこの扉を開きなさい。さもなければ、正面から押し通ります」
「そうだそうだ!ネタは挙がってるぞ!」
「先ぱ…善意の民間人からタレコミが入っているのよ。大人しく拘束されろ、下種共ぉ!」
次第に叩きつける音が強まる。
両脇に控える二人の女性も同調しながら声を上げる。
『おい、何でSTARsがここに居るんだよ!?』
『知るか、レンさんに連絡を』
中から数人の男の声が聞こえた。
「動くなッ!!」
冷気を帯びた剣を倉庫内へ向け、瑠璃は叫ぶ。
小型の魔銃を構えた男達はその姿に一瞬だけたじろぐが、それでも気丈に振舞おうとする。
「銃を床に捨て、頭の上で手を組み、直ちに投降しなさい」
「ふ、ふざけるな。俺達が一体何を…ッ」
「問答は無用です。抵抗するならば斬る、ただそれだけよ」
まるで虫を見るような冷たい目で、瑠璃は一人目を斬り伏せた。一切の躊躇も無い行為に、男達は殺気立つ。
「小隊、抜剣を許可します。制圧の為、各自行動。生死は問いません」
「宜しいのですか、隊長」
抜き放ちながら、STARs隊員の青年が瑠璃に尋ねる。
それは上官の判断に疑義を呈する類のものではなく、「本当にやらせてくれるんですね?」と確かめるような酷く楽し気な問い。
「構わないわ、既に上から許可は下りているから。好きにやれ、とね」
「了解」
ニタリと、青年は獣のように笑い疾走した。
それを皮切りに後ろに控えていた隊員も行動を始める。
「早く終わらせて帰ろー」
「うっしゃあ、瑠璃やるぞ!」
二人の言葉にコクリと頷き、瑠璃はもう一度声を上げる。
「一人たりとも逃がさず、制圧してください。でなければ……私達は皆揃って、仲良く鋼先輩からお説教を喰らいます。更に、訓練と称して襤褸切れにされます!それが嫌なら走りなさい!走って斬れ!」
「お……おおおおおおおお!!」
「やだー!死にたくないーー!」
「神妙にお縄に付けやゴミがぁぁぁぁぁっ」
「笑顔が、笑顔がチカヅイテクル」
「火、こわい、火が、燃えて」
今日一番の大声は、それを聞いたSTARs隊員を震え上がらせるに足る内容だった。
誰も彼もが、ある種のトラウマを糧にやる気を高める。
「第九小隊、正義を執行せよッ」
STARs、新都治安部第九小隊。
原作では落ちこぼれの吹きだまりとされていたその部隊は何の因果か、少なからずとある男と縁がある者達が集う、新都でも有数の武闘派集団となっていた。知らないのは、その元凶だけである。
☆
場所は同じく4番区、遠方で轟く破裂音を聞きながら二人の男が会話する。
「4番区とは言え、新都の中で暴徒討伐ねぇ。会長サンから直接言われなきゃ普通に疑う所だが、これどう思うよ、おっさん」
「パーティならまだしも、俺達二人への個人依頼だ。誰が話を持ち出したかは火を見るより明らかだろう」
「だよなぁ、全くあの野郎。面倒事に巻き込みやがって」
紫煙をふかしながら悪態を付くが、その口角は上がっている。
「あっちじゃSTARsがドンパチ始めたみてぇだ、俺達はどうする?」
「どうするもこうするも…やる事は一つしかあるまい。
仏頂面の男が、左に手にした大楯を構える。次いで身を低く下げ片足を後ろに引く。
その姿から連想するは、闘牛。深く息を吸い込み、男はレンガ造りの家屋に突っ込んだ。大きく突き崩されたレンガ壁の向こうには、高価なソファに身体を沈ませる男達がいる。
「な、なん───」
「おっと動くな、動けば撃つ」
「お前等、まさか」
言葉を続ける前に、その右腕に風穴が空く。
何時の間に握っていたのか二対のマスケット銃を手にした男は、反動を物ともせず片手で打ち放ったのだ。
「良いだろ、これ。“
『
天啓の逆塔49層で入手する事が出来る魔導具、希少性の高い
「あ、ああ、あああっ…痛ぇ。なんだこれ、腕がくさって」
「ダチが言うには、『腐壊』って名前らしい。当たった部位から徐々に体を侵食して、最後は全部が腐り落ちてゾンビみてぇになるってな。割と色んな魔獣に有効だからおススメされたんだわ。まあ灰野郎には効かなかったけどよ」
「鷲見、喋り過ぎだ。仕事をしてくれ」
「悪ぃ悪ぃ。じゃあ俺は上をやるわ」
ケタケタと笑いながら、男…鷲見は駆けだす。軽業のように身を翻し、逃げる者、迫る者、全ての位置を的確に把握、射撃を繰り返す。狩りに興じるハンターは、狙った獲物を逃がさない。
鷲見は
身軽な身体と共に彼が鍛えたモノは空間把握能力、それは常人ならば見逃す些細な変化すら容易に見つけ出す。
「かくれんぼは得意だぜぇ」
「ヒッ」
発見と同時に射殺。
ドパンッ、と鈍く重い音が幾度も繰り返される。
これではどちらが悪人か分からない。
「ひー、ふー、みー……半分位は狩ったか。鷹尾のおっさんの方はどうかね」
さして時間も掛けず、二階から三階の掃除を終わらせた彼は下へと戻り……若干引いたような顔を浮かべた。
一階の有様があまりに酷いものだったからだ。
拉げた人間、大型トラックにでも引き潰されたかのような四肢が曲がった何体もの死体。
その中心に立つ大男は、宛らホラー映画に登場する
「おーおー、派手にやったじゃねえの。突撃戦車」
「黙れ猟銃使い、お前だって碌な始末の仕方をしてないだろう」
鷲見の口から引き笑いが零れた。
付き合いの長い彼らは、互いの性質をよく理解している。
「それよか、これで全部か?討ち漏らしとかしてねぇだろうな」
「問題、無い筈だが」
鷲見は右肩にマスケット銃を担ぎ上げ、大楯を振り、血糊を落とす鷹尾の方へと近付く。
「「誰だ」」
瞬間、微かな気配を感じ二人は得物を構える。
それらが向く方角は、つい数分程前まで男達が座っていたソファ。
何者かが座っていた。
黒子頭巾を被り、可愛らしいエプロンを掛けた不審人物が忽然と姿を現わしたのだ。
その存在は二人に手を振ってから両の手でサインを送る。
右手は指一本、左手は指五本。
次いで親指を上げてサムズアップ。
高位等級の
明らかにこの場には似つかわしくない人物、なのだが。
「あー、お前さんあれか。鋼のお使いか?」
「…………(コクコク)」
警戒を緩め、鷲見が問うた。
不審人物の身に纏うエプロンは彼らにとって見覚えのある物だったからだ。
太陽を見上げるデフォルメされた鷹がプリントされたエプロンはある喫茶店で店長が纏う物。
「先程の指の数。暴徒は十五人であると、そう言う事か?」
次いで、鷹尾も続けて声を出す。
「……………(コクコクコクコク)」
大正解、とでも言いたげに不審人物は大仰に右腕を掲げてもう一度サムズアップ。
コミカルな動作に、困惑しながらも彼らは頷く。
「らしいぜ、鷹尾のおっさん」
「どうやら、そうらしい」
「なら依頼は達成だ、帰って一杯やってくか?」
「そうだな。それも良い」
不審人物がまた動く。彼、或いは彼女は「どうぞどうぞ」とでも言うように両掌を示している。
「じゃあ、俺達は行くわ。後でアイツに言っといてくれよ、次会ったら酒奢れってさ。こちとら休みを満喫してる真っ最中だったんだからよ」
「高い酒にしろ、とも伝えてくれ」
「…………(コクコク)」
外に出る。騒音は無く、静寂のみが場を包んでいた。
「一体、今度は何をやらかしたのか」
「知らねぇ。引退したとか言ってる癖に直ぐこれだぜ。だけどまあ、また“らしい”事でもしてんだろ」
「フッ、違いない」
並び歩く二人の脳裏には、何時も突拍子もない事を宣う
この作品、一応ハーレムタグの癖におっさんからの好感度の方が異常に高いな。
店長が渡したお手紙。
どこぞの会長「あの悪ガキがまた何かするらしい。お前等をご指名だ、行ってきてくれ」
どこぞの局長「え、ウチの案件手伝ってくれるの?良いよ、好きにやっちゃって!」
誰やろうなぁ…。