空に届くような魔鋼鉄製の超高層ビルが犇めく街中。
点々と輝く提灯は夜の闇を払い、何も知らない市民達が楽し気に声を上げている龍華国。
弱肉強食の文化が色濃く残るこの国は、
強者であれば自由が許される。
強者であれば、容易に悪事すらも見逃される。
武力は権力に直結する。
であれば、その核を失えばどうなるか。
「レン・カイフェンが討たれた!?冗談も休み休み言いたまえッ」
恰幅の良い男が、自分の部下である黒服に掴み掛かる。
「事実です、フー・ロウ様」
「ふざけるなっ!落ちたとはいえ奴は二等星、その力も健在だったはずだ」
「
「いや、かの国に我々の情報を追える者などいない」
「ならば一体、何が起きたと言うのだ」
仄かに赤い照明が中央に光る。
煌びやかな内装の部屋で、数人の男達が声を上げていた。
九龍商合。
表向きは魔導具の生産や生活に不可欠とされる魔水晶の流通の一角を担う商いであるが、裏では人身売買や違法薬物の横流しに手を出し、私腹を肥やす者達。
今回も楽なビジネスだと思っていた。
まだ戦う力も持たぬ学生
「他二つはどうだ、生存者は」
「両社、通信途絶。此方は一点、STARsの部隊と交戦状態にあると報告がありました」
「STARsだと!?」
新都の治安維持組織の介入が示すそれはつまり、計画の失敗は自分達を故意に狙ったものだと言う証拠。
何処かで自分達の存在に気付いた大和の上層部が秘密裏に手を下した。そんな訳はない、あの国はこのような話を聞いても黙認を貫く。
それどころか、今回の件は『黒桐家』の手引きによって行われた事。あの守銭奴共は自分の益になると判断すれば自国すら売り渡す。
「クロキリに、キョウノスケに連絡を!」
「こちらも連絡が付きません」
「あの男、まさか裏切ったのかッ」
「だから言ったではないか、大和人なぞ信用に値しないと!」
「なっ、決議の際は貴様も承諾の印を押したではないか!」
腹の立つニタリ顔を浮かべた豚を思い出し、回転テーブルを叩きつける。
「フー・ロウ様、如何なさいますか」
「くっ………直ちに、新都へ送った情報部を引き上げさせろ。損失を出し過ぎた、レン・カイフェンの代わりを用意しなければならん」
「了解致しました」
椅子にドカリと座り込んだフー・ロウは、頭を抱える。
「一体、何が起こっていると言うのだ」
「フー・ロウ。此度は貴様が主導だったな、責任の取り方は理解しているだろう」
「……私に、五席を降りろと言いたいのか?」
声を掛けた男は、それ以上何も答えない。
だが、その目は告げている。
『キヒヒッ、その必要はねえぞー』
「「「「「……っ!?」」」」」
その時だ、彼らの耳に年若い女の声が聞こえた。
特徴的な笑い声は、まるで嘲笑うかのように続く。
「何者だ!」
「どこだ、どこから聞こえた!?」
必死に周囲を探す男達は、声の発信源を見つける。
フー・ロウの胸元。彼の通信機が入った胸ポケット。
慌てて取り出したソレの画面には非表示設定の何者かと通話中の表記。
『驚かせたか?悪ぃな、アタシって結構演出に凝るタイプだからさぁ』
まるで友人にでも語り掛けるような柔らかな語り掛けは、しかし彼らをゾッとさせる。
その声を、自分達は知っている。
知らぬ訳がない、何故なら声の主はこの龍華を象徴する
「何故、貴様、いや貴女様が」
震える身体を抑えて、その名を告げる。
「蛮顎……ラオ・ロンシェン」
『キヒヒ、キヒ!』
龍華国所属、一等星
単騎で大型迷宮『万里の離宮』を踏破した怪物。
姿は見えない、なのに全身から汗が噴き出る。
『何でか、何でだと思う?なあ、何でだと思うよ!?』
嬉しそうに、楽しそうに、艶やかに彼女は問う。
知る訳があるかと、フー・ロウは言いたくなった。
他の五席に視線を回せば、ある者は失禁し、ある者は失神し、ある者は逃亡を図ろうとしている。
『答えはなぁ……───アイツにお願いされたから』
「はっ?…………今、なんと」
『お願いだよ、お願い。お前等を一人残らず狩り尽くして欲しいってお願いされた。だからアタシが態々こんな場所にまで顔を出してやったってわけ』
一瞬、思考は完全に停止した。
心臓がバクバクと早鐘を打ち、届いた言葉の意味を噛み締める。
『何やったのか知らねぇけどさ、大和風に言えばご愁傷様って奴?お前等は買っちゃいけねえ男の不興を買った、ただそれだけの事なんだけどさ!』
鼓膜が破れんばかりの甲高い哄笑に耳を塞ぐ。
一体この女が何を言っているのか、理解したくない。
『つーかさぁ、久しぶりに連絡を寄越したと思ったら、ゴミ掃除を頼まれたアタシの気持ち分かるか?寝起きでクソ機嫌悪いのにウッキウキで電話出たらよ、社交辞令と一方的なお願いだけとか』
ゴミ掃除とは、間違いなく自分達の事だろう。
先程の上機嫌は何処へやら、ぐちぐちと不機嫌を隠そうともせず続ける龍華最強。
『もう、最ッ高だよなぁ!?』
いや、やっぱり上機嫌だ。
フー・ロウは心の中で「勘弁してくれ」と強く願いながらここから逃げ出そうと画策する。
『アイツが、アタシに“お願い”したんだぜ?こんなのアンネに教えてやったらブチギレて大和に乗り込んでドロップキックかますだろうよ。あの女、誰に似たのか聖女様の癖に異常にフットワーク軽いから。まあ、録音して速攻で送り付けたのアタシだけどさぁ!』
惚気のように言葉を続けるラオを無視して、地面に身を落とした男は匍匐前進で部屋を出ようとする。
しかし。
『ああ、逃げても無駄だぞ。もうアタシ来てるから』
「何を言って───」
不意に、ラオの声から色が消えた。
刹那の出来事だった。ビルが、轟音を立てて揺れ始める。地震にしてはやけに不自然、それは自分達の頭上で発生しているのだ。
「ま、さか」
何かが上にいる。
今自分達が立つ最上階よりも上階。
「ギャァァァァァッッッ」
「なんだ、どうした!?」
誰かの絶叫が、鼓膜を直撃する。
五席の内、未だ意識を失わず椅子に縫い留められていた男が窓の外を見て発した声。
思わず、反射的にフー・ロウも其方を向く。
「ぁ」
自分の行動を後悔した。
視線の先、窓の外には未だ街の明かりが見える筈だ。だが、其処にあるのは怪しく光る…酷く巨大な爬虫類の眼。
『もうアタシ来てるから』
つい一分前に告げられた言葉と、彼女の二つ名を思い出す。
蛮顎とは、彼女の固有魔術に肖り、付けられた物。
「転身、魔術」
『キヒヒヒ、キヒャハハハハハハハハッ!』
笑い声と共に、ラオ・ロンシェンは窓から消える。
次いで、階層外から硬質な破壊音が響き渡った。
バギリッ、ベギリッと嫌に鈍い音、震源は徐々に近付き、ソレは壁を突き破って現れる。
「ぁぁぁ、ぁぁ」
白く鋭利な数本の牙。
恐れ戦くフー・ロウを無視して、徐々に牙は動く。
ガリガリガリッ!!
片方は斜め上へ、片方は斜め下へ。
動けない男の身体が、地面に倒れ込む。
力が入らないのではない、自分の立つ場所が傾き始めていた。
『龍華は強い者が全て、誰も彼もが同じ事だ。それはお前等にだって適用される』
龍華最強の声が聞こえる。
『ならよ。例え百二十階建てのビルから落ちたとしても、生きててくれるよな』
「や、やめろ…やめてくれっ!」
『安心しろって。こっちのお仲間は全部アタシが送ってやるからさ』
「我々が、龍華から消えれば国は少なからず傾く事に───」
『ならねえよ。お前等の代わりなんて幾らでもいる。弱い者が落ちれば、また新しく強い者がのし上がる。そうやってアタシ達の国はデカくなったじゃねえか』
フー・ロウは顔を青く染めて懇願した。
しかし、返って来る答えはまるで玩具で遊ぶ子供のように無邪気なもの。
『最後に教えといてやるよ。多分、お前等じゃぁ認識すら出来てないんだろう』
肥え太った体が宙を浮く。
『九条鋼……アタシの最愛の“射手”、嘗て地上に太陽を落っことした男の名だ。覚えてねえだろ、知ってるよ。それが、あの
熱の籠った声が遥か上空から聞こえる。
窓から外に投げ出され、落下する最中…彼は月を背にした金色の龍の姿を見た。
『ああ…そういやアイツから伝言があった』
思わず死ぬ間際である事を忘れてしまう程に、あまりにも美しく、恐ろしい。
『「子供を食い物にしようとしたんだ、なら死んで償え。どうせ生きてたって、価値なんて無いだろ」だとさ』
龍は、最後にそう言って笑った。
特に理由の無い小噺。
ラオさんの名前、どこぞの老山龍から引っ張って来た。
私あの子大好きなのよ…ただあっちとは違ってこっちは東洋龍だけど。
次で一章?二章?のラストだから、これを機に単語とキャラの解説とか挟みたいよね。
気になる設定の詳細とかあったら感想に貼りつけてくれれば助かる。
ついでに作者のXとかフォローしてくれればマツ〇ンサンバ熱唱する程喜ぶ。