シンギュラリティ・ラッドピース   作:物部。

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先んじて投稿。

【追記】ちょっと文字増やした。


26話 集束

 昨日は、結局あの後も色々と忙しかった。

 攫われた女生徒一行を寮へ送り届け、俺はその足でSTARs本部へと向かった。

 要件は、諸々の事情聴取…という名目で、とあるおっさんの愚痴と深酒に付き合わされ、帰宅したのは午前三時。

 寝る間を惜しんで働くとはこの事か。

 助け出されて直ぐの、精神状態が安定しない子供に更に負荷を掛けるのも良くないか、なんて柄にもない配慮が俺の首を絞めた。

 

 とは言え。

 絶命先輩の胸糞イベントは、思わぬ形で幕を降ろした。

 原作では有り得なかった星宮風香の生存と、彼女の友人含め攫われた少女達の救出。シナリオが歪んだ影響で、星宮風香の代わりに別の少女が被害に…なんて思ったが、どうやらその心配も無さそうで、黒子さん曰く下っ端連中が檻に近付かないよう、レン・カイフェンが睨みを利かせていたとか。

 正直、最初に聞いた時は耳を疑った。

 お前誰やねん……と。

 

 まあ良い。それは今は置いておこう。

 次に、優君に関しても、一先ずは心配無さそうだ。

 あの様子なら、迷宮(ラビリンス)内のならず者相手であろうと苦戦する事も躊躇する事もない。

 いやぁ、頼もしいね。

 

 正しく、終わりよければ全て良しの結果…なのだが。

 

 シナリオさん、息してます?

 明らかにオリチャーの連続でしたよね?

 思い返してみても、あれ序盤のボスじゃないでしょ? 

 レン・カイフェンとか、滅茶苦茶強かったんですけど?

 と言うか、アイツが『海境』の生存者なんて話、聞いてないんですけど?

 

 と、物申したくなる事も様々だった。

 今回俺、全く関与してないと高を括っていたのに、思わぬ方向からぶん殴られた気分だよ。

 こう言うの何て言うんだっけ、バタフライエフェクトだったか。

 

「聞いてるの、店長さん。昨日の事、是非とも二人の口から聞かせて欲しいわね」

「………ああ、勿論」

「風香先輩から色々教えて貰いましたの。せめて(わたくし)達に、一言あっても良かったのではないですの?」

「全く以て、その通りだな……うん」

 

 さて、そろそろ現実逃避も終わりにしよう。

 俺は今、冷や汗ダラダラで視線を彷徨わせている。

 

 目の前には、満面の笑みで背中に鬼神を背負う葵ちゃんと、苛立たし気に地団駄を踏むアリスの姿。

 早朝、何事も無く開店準備をしていた俺の下に、優君の首根っこを引っ掴んだ二人が現れたのだ。

 

『おっと、すまん。ちょっと買い出しに出て来るから三人はゆっくり話でも』

『『逃がさない(ですの)』』

 

 と、こんな具合に有無を言わさず巻き込まれた。

 ついでに、俺を渦中に引き摺り込んだ元凶…もとい隣の優君は正座中、足が痺れてきたのかモゾモゾと忙しない。

 

「し、仕方なかったんだよ。あの時は、僕も師匠も必死だったから。時間も遅かったし───」

「でも、一回寮に帰って来たのよね?」

「その時に呼んで頂ければ(わたくし)達もお手伝い出来ましたの。先輩のご友人を助ける為ならばアリスもお供しましたの」

「あ、えっと……それは」

「ねえ優、どうして私達のいない方を見ているのかしら」

「言いたい事ははっきりと目を見て言うですの」

「うう…ししょう」

 

 俺に振るな、俺に。

 ほれ見ろ。直ぐに、葵ちゃんとアリスの照準がこちらに定まった。

 

「店長さん」

「店長様?」

 

 参ったな。

 今度は俺が詰められる番らしい。

 正論パンチと視線の暴力によるダブルコンボは、俺でも仄かに恐怖を抱くレベルだった。

 見てみろ、横の優君なんて萎れた花みたいになってる。

 なんならスライムと大差なく…待て、溶けるな溶けるな。

 

 年若い女の子達からの説教、それは一部マニアには涎物の御褒美と聞くが、あの様子を見ていると拷問と大差ない。

 同年代の優君であれなら、俺はどれだけダメージを喰らうのか……ああ、違う違う。

 今俺が考える事は、ここからどうやって話を納めれば良いのか、だった。

 

「うーん」

 

 脳をフル回転させて、複数の言い訳を頭の中に浮かべる。

 こういう時、自分の経験値の少なさに嫌気が差す。

 基本的に、説教とか注意は右から左に受け流していたから。

 とは言え、黙ったままでは精神的ダメージを与え続けられるだけ…………よし。なら、こうしよう。

 

「まあ、うん。白状するとな。葵ちゃん達に知られないよう動こうって言いだしたのは、俺なんだよ。優君はそれに従っただけだから、あんまり怒らないでやって欲しい」

「へえ?」

「ですの?」

 

 両手を上げてそう言えば、僅かに剣呑の色が増す。

 隣の小動物は「ほえ!?」と言い出しそうな間抜け面を晒しているが、無視してペラを回す。

 

「四番区の奥部なんて新都の掃き溜めだ。碌な連中がいやしない。そんな所に二人みたいな可愛い女の子を連れてくのは、お兄さんの心情的にちょっと良くないかなって思った訳だ」

「か、かわいい」

「ああ、連中が葵ちゃん位の別嬪さんを見たら、飢えた狼みたいに群がって来るからな。関わるだけ損だ、損」

「別嬪、さん」

「葵、流されてはいけませんの。これは店長様の術中、嵌ったら抜け出せなくなりますの」

 

 流石にこの場において、アリスは手強い。

 自由奔放なお嬢様は、ここに居る誰よりも丸め込み難い相手だ。

 だが、忘れているぜ。

 俺はお前に対する手札も持っているんだぞ。

 

「アリスだって、四番区に良い思い出はないだろう。そもそも、俺は親御さんからお前が危険な目に合わないよう見張ってろって言われてるし、簡単に巻き込むわけにはいかないんだよ」

「うぐっ」

「お袋さんが泣くぞ、ついでに馬鹿親父も」

「うぐぅううう!」

 

 こうかはばつぐんだ!!

 今が好機、一気に畳み掛ける。

 と、思ったその時。

 

「あの、師匠」

 

 服の裾を引き、優君が俺を呼ぶ。

 

「静かにしてろ優君、もう少しだ」

「いや、そうじゃなくて…あの、僕も」

「静かに」

「……はい」

 

 だが、悪いが構っている余裕がない。

 ここが追撃、最後の一手を入れるチャンスなのだから。

 

 コホン、と一息。

    

「別に二人の実力を軽く見てる訳じゃない、順調に強くなってるのも分かってる。だから、これは俺の我儘だった…許してくれ、ごめんな」

 

 いや本当に、本来なら主人公パーティが挑むイベントを潰してしまった訳だし、これで三人の関係が多少なりとも悪化すると大変困る。

 だからこそ、ここは俺の我儘と言う事にしておくのが最良の手。我ながら冴えてる。

 

「ぬぅ………はぁ、分かりましたの。(わたくし)は良い子ですので、今回は店長様の口車に乗ってあげますの」

 

 息を吐き出しながら、アリスはそう言った。

 どうやら許してくれるらしい。

 

「でも、次は駄目ですの。仲間外れ良くないですの」

「分かった、分かった」

「葵もそれで良いです───」

 

 膨れ面を作りながら、葵ちゃんに同意を求めるよう視線を動かしたアリスは、ピタリと言葉を止めた。

 

「かわぃぃ、えへ、かわいい……」

「あら、こっちも駄目ですの。口数が減ったと思ったら、脳内麻薬で夢の世界へトリップしてましたの」 

「うら若き少女に何てこと言ってんだお前」

 

 両頬に手を当てながら顔を緩ませているクール系美少女。

 多分、俺が即興の言い訳を始めた最初の辺りからずっと。

 そうだ。この子…「可愛い」とかの誉め言葉に弱いんだった。

 

「葵、いつまでも夢の中にいるんじゃないですの。現実はこっちですの」

「お兄ちゃんが、葵をかわいいって」

「店長様、無理ですの。あと数分は帰って来ないですの」

「もっと頑張れよ」

(わたくし)、出来ない事は出来ないと声高々に言える素直で良い子ですの」

 

 アリスは諦めたような顔で首を振り、近くの適当な椅子に葵ちゃんを座らせる。

 手慣れてるな、アイツ。 

 

「どうだ優君、なんとかなったぞ」

 

 やり切ったと、俺は服の裾の先に目を向ける。

 すると。

 

「し、ししょう…足がしびれて、うごけない」

 

 脱スライム化したは良いが、小型犬のように震える涙目の主人公君。

 成程、さっき俺を呼んでいたのは、コレを伝える為だったんだな。

 哀愁漂うその姿に、俺はフッと微笑みながら。

  

「座ってろ、この役立たず」

「ひぃん!」

 

 地面に放置して、俺はカウンターの奥へ戻る。

 

「取り敢えず、朝飯作ろう」

 

 騒がしい店内。

 時刻は八時を回って、開店時間はとうに過ぎている。

 まあ、偶には良いだろう。

 どうせ客なんて早々来ないんだから。

 

「アリスぅ…たすけてぇ、強化掛けてぇ」

「情けないですの、自分で頑張るですの。それよりも優、アナタ…また日和ましたの」

「ぐっ……だってぇ……」

「根性無しですの、二重に反省するですの」

「うえぇ……」

「かわいい…かわ、あれ、私なにしてたんだっけ」

 

 リュミエールは、今日も賑やかだ。

 

 

 皇星(すめらぎ)学園、女子寮内。

 よく整頓された部屋の一室には可愛らしい小物やぬいぐるみが並べられ、薄桃色のカーテンは風を受けて、ふわりと翻る。

 壁に掛けられた鉄製のケースには、乙女チックな内装には似合わず、幾つかの装飾具(アクセサリ)と二つの武器。

 そして、机に顔を突っ伏した少女と心配そうに其方を眺める少女がそこにいた。

 

「はぁ……」

「ねえ、風香」

「んーー?」

 

 星宮風香と清見亜弥。

 事件の被害者という事もあり、本日は休学を許された彼女達だが…その表情は対照的だった。

 

「はぁ…………」

「風香、アンタ大丈夫?」

「うん?」

「さっきから、溜息しかついてないよ」

 

 亜弥の心配事は、朝からずっと同じ調子の友人にある。

 時たま外を見たかと思えば溜息を突き、ふと天井を見たかと思えば顔を赤らめる。

 そんな事を何時間も繰り返していれば、気にもなるだろう。

 

「亜弥ちゃん、店長さん…優君の師匠さんって、やっぱりすごい人だった?」

「え、うん…そうだね。凄いっていうか、私じゃ何が何だかサッパリだったけど。動き方とか足運びとか、全然見えなかったし」

 

 現役の探索者(ダイバー)には劣っていても、亜弥は武芸を嗜む家の出。そんな彼女だが、一度として姿を追えなかった。

 気付けば斬撃の中へと踏み込み、気付けば蛇腹剣が粉砕され、気付けばレン・カイフェンが倒れていた。

 

「凄い…うん、凄かったよ、間違いなく」

 

 檻の中での数日間、恐怖心で震える事しか出来なかった亜弥だが、あの二人の戦いは、思わず胸が高鳴る程の衝撃を受けた。それほどまでに、高みの物だった。

 ほぅ、と息を吐く…しかし、それは友人の一言で困惑に変わる。

 

「ねえ、亜弥ちゃん。年上の男の人って、どう思う?」

「ん…んん?え?どゆこと?」

 

 話が急転換したと困惑する亜弥を他所に、風香の脳裏に過ぎる男の声。

 

『大丈夫だ、お兄さんに任せとけ』

 

 後輩の少女の頭を撫でながら笑う顔。

 凄く強くて、頼りになる師匠。

 風香が聞いていた通りの人物だった。

 

「はぁ」

 

 亜弥の方へと顔を向け、手を合わせながら口元を隠す風香。

 常に朗らかに微笑む学園の聖母の顔は、林檎のように染まっている。

 

「強くて、包容力のある男の人って、素敵よね」

「本当に急すぎない?大丈夫?」

 

 これは余談であり、公式ファンブックの片隅に書かれていた、小さなトピック情報なのだが。

 星宮風香。

 その雰囲気から教師、生徒問わず頼られる事の多い彼女の異性としての好みは、頼りがいのある年上である。

 

☆ 

 

「何か、今…すげぇ寒気がしたような」

 

 悲しい事に、話の中心にいる男は…その情報をすっかり忘れていた。

 

 




これにて閉幕、友人の勧めでハーメルンに手を出したいが為に取り敢えず一章書きましたけど、予想以上に導きの読者が増えて驚きました。
皆様は恋愛ゲーム好きですか?
私のおすすめは沙耶の唄と穢翼のユースティアと古色迷宮輪舞曲って神ゲーなので、もし気になったら調べてみてください。きっと楽しめるdeath。
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