シンギュラリティ・ラッドピース   作:物部。

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二章スタート。
変わらず不定期更新……不定期か、これ。

嬉しい悲鳴言って良い?
感想が多くて、返すのが滅茶苦茶遅れる。
とは言え感想は大歓迎だぞ、我が導きの読者達。


27話 銀月雛01

 まばらに散り始めた桜の木に青葉が増え始め、店前には先週の倍以上の花弁の絨毯が作られていた。

 宛らそれは春の雨、春雨なら利用価値はあるが、此方の場合は掃除が大変面倒臭い。

 片付けても片付けても、数時間もすれば地面は桃色に埋め尽くされる。まるで冬の北国。

 お客さんのいない時間帯を見計らい、俺は戦場へ出た。

 

「手伝わせて悪いな、黒子さん。流石に一人じゃ途方に暮れそうだったからさ」

「…………(フルフル)」

 

 何時もの黒布にウチのエプロンを付けた、明らかに目立つ格好の黒子さんが箒片手に「問題ない」と手を振る。

 あれで気配遮断も完璧だから、本職ってスゲェや。

 俺のはあくまで後付けパーツみたいなモンだし、前みたいな展開になっても対応出来るように、今度教えて貰おうかな。

 

 ぼんやりと、空を見上げながら、そんな事を考えていると。

 

『大和南部、複数の迷宮にて、魔物の異常行動が確認されました。迷宮(ラビリンス)研究家の間では、迷宮氾濫(スタンピード)の予兆では、と疑う者もおり、現在調査を続けているそうです』

『アイドル、MOMOIROさん。次のライブ公演は新都五番区、レイメイアリーナで開催!』

『探索者協会所属公式インフルエンサー。三等星探索者(ダイバー)、瀬名葉月さん。二等星昇格に向け、『天啓の逆塔』60層への挑戦を発表。有望な探索者(ダイバー)に期待が高まっています』

 

 電波塔に付けられた複数の大型モニタが、今日も真新しいニュースを打ち出す。

 

「……迷宮氾濫(スタンピード)

 

 思わず、俺は苦い顔を作る。

 

 星宮さんのイベントが終われば、近い内に迷宮氾濫(スタンピード)が起こるだろう。しかし、これに関しては、本当にいつ発生するか分からないゲリライベントなので、現状では判断が付かない。

 チュートリアルがある訳でも無く、本当に突然…発生する。乱数がクソだと、育成が整っていない状態で開始され、負ければ普通にバッドエンド。

 しかも、ちゃんと専用スチルが用意されている悪辣ぶり。

 良い子の皆は、絶命先輩イベントの前にちゃんと別枠でセーブを取っておこうね。セーブデータ、三つしか保存できないから気を付けてね。

 

 …………………。

 

 知るか、クソがッッッッ!

 そんな事は最初から教えとけッッッッ!!

 ファッキンッッッッ!!!

 

 おっと、脳内に不明瞭なノイズが発生してしまった。 

 反省、反省。

 

 そもそも、迷宮氾濫(スタンピード)とは、何なりや?

 何て聞かれるかもしれないが、これは原作者(ひとでなし)がこう回答している。

 

迷宮(ラビリンス)に満ちる魔力濃度の上昇により、魔物の体内魔力が崩れ、暴走状態、或いは活性状態を引き起こす現象です。あの世界、割と人類ってヤバいんですよ』

 

 いや、そんなホルモンバランスみたいに言われても。

 ヤバいのはお前の頭の中だろ。

 なんて思うかもしれないし、現に俺も思ったは良いが、迷宮氾濫(スタンピード)は本当に洒落にならない。

 

 現在、この世界で確認された迷宮氾濫(スタンピード)は大きく分けて三つある。

 

 一つ。大和、『天啓の逆塔』で発生した第一次侵攻。

 今では難民の受け入れも完了し、探索者(ダイバー)やそれに類する職種の人間しか立ち入る事の出来ない閉鎖都市へと変わってしまった、旧都の悲劇。

 多くの民間人の犠牲と、迷宮(ラビリンス)に対する恐怖心を色濃く残した。

 

 二つ。白の王国(フルール・ド・リス)、『ソレイユの花庭』で発生した第二次侵攻。

 小型迷宮と認定され、殆ど新人の試験用扱いだった迷宮(ラビリンス)が、突如大型迷宮に構造が組み変わった変事。

 こちらも死者数は千を超え、主に迷宮(ラビリンス)研究に大きな傷を与えた。そりゃあ、そんな特殊ギミック初めて見たらそうなる。

 とは言え、こちらは充分被害を抑えた方だ。脳筋聖女には事前に警戒するよう伝えていたし、俺も一応出張ったし。

 

 三つ。USRA、『楽園』で発生した第三次侵攻。

 正直、一番酷かった。

 あの国は探索者(ダイバー)の総数で言えば世界でトップだ。 

 国土の関係もあるのだが、単純に命知らずが多く、異常が発見されれば多くの探索者(ダイバー)を順次派遣出来る。 

 しかし、それが弊害になる事もある。

 迷宮(ラビリンス)に対する一般人の危機感が足りていない。

 迷宮氾濫(スタンピード)の兆しがあると、再三国が注意を呼びかけても、まるでお祭り騒ぎのように振舞い、退避勧告を無視。

 結果、溢れ出た魔物の残党に複数の街が襲われ、被害甚大。

 もう、全てが酷かった。

 考え無しの馬鹿共のせいで、数日とはいえ共に飯を食った戦友が次々と魔物に呑まれた。

 欲の張った連中のせいで昔の仲間が下らない責任を押し付けられそうになった。

 あの時は滅茶苦茶キレたよ、後悔はしてない。

 

 と、このように、現状俺達は迷宮氾濫(スタンピード)に対する有効な手段を持ち合わせていないのである。

 新都所属の二等星は総勢三十名弱、切り札になり得るだろう一等星は現在行方不明…そもそもアレはシナリオ中盤じゃないと出てこない、ゲームの御都合主義のせいだ。

 なんなら一人は投獄されてるし。 

 

 出来る事なら、起きる前に潰しておきたい。

 迷宮氾濫(スタンピード)は、原作において特にシナリオに関わる類のものでは無かった。

 良くて、プレイヤーに対する嫌がらせ要素。

 というかそれ以外ないだろ、アレ。 

 

 

 さて、次にアイドルだが、こちらは追加ヒロイン枠ですね。

 キラキラ系ザ・アイドル少女…原作でも数少ない、固有魔術を扱う仲間キャラであり、しかもチートに片足突っ込んでるのでは?と思う程強力な全体バフを撒く。

 ただ、この子が正式にパーティに加入すれば、本格的に星灯火教団が出張って来る。シナリオ通りであれば、彼女は教団に命を狙われているから。

 

 最後は……さっぱり分からない。

 名前も聞いた事が無いから、多分俺が辞めた後に頭角を現した子なんだろうけど、公式インフルエンサーって何だろ。

 あれか、探索者(ダイバー)のイメージ向上を図った取り組みの一つか。無理だろ、探索者(ダイバー)って頭のねじが数本飛んでる連中の集まりだぞ。キラキラしてねえよ、泥で塗れてるよ。

 二十代程の女性と共に映る、高そうなスーツに身を包んだ厳つい顔のおっさんへ向けて、軽く合掌する。

 多分、上層部が勝手に捻じ込んだんだろうな。こう言うの、おやっさんは嫌いそうだし。

 

「…………?」

「いや、何でもないよ。とっとと終わらせようか」

 

 不思議そうに首を傾げる黒子さんに返事をして、俺は掃き掃除に戻るのだった。

 

 

 二時間後。

 掃除を終えた俺は何時も通りカウンターに立つ。

 

「黒桐くんは、もう少し術式の処理速度を上げた方が良いんじゃない?いつも数秒動きとブレてるよ」

「テメェの基準で考えるんじゃねえよ聖川。これでも充分制御してる方だっつの。そもそもテメェこそ、動きに無駄が多すぎるんだよ。何ださっきのは、腕を動かしたかと思えば、へなちょこみてぇなパンチ繰り出しやがって」

「無駄な事じゃないし!師匠の真似だし!」

「兄貴があんな変な動きする訳ねえだろ、ぶっ飛ばすぞ!?」

 

 今日も優君と凶也は模擬戦を繰り返し、休憩がてらリュミエールに顔を出したらしい。互いの欠点を指摘しては対策を考え、更に己を高めようと努力する。

 

「そもそもテメェは考え方が獣みてぇなんだよ。もう少し分かり易く言えやっ、この天才肌がっ」

「それを言ったら黒桐くんだって、魔術師は殴った方が速いとか言ってるじゃん!師匠の真似じゃん!」

 

 素晴らしきかな、青春。なんか、コミュニケーションの取り方が昭和のヤンキーみたいだ。

 しかし。

 

「俺からしてみれば、お前等どっちも恵まれてるけどな」

「大丈夫よ、お父様が一番強いわ」

「そう言う事じゃあない。あと、口の周りにソースが付いてるぞ、ミカ」

 

 目の前で激論を交わす二人にため息を零していると、遅い朝飯を食っていたミカが慰めて来る。

 生活習慣が乱れすぎてて、お兄さんちょっと心配。

 

「大体さぁ」

「ほらほら、熱を上げるのもそれ位にしないと、お前等どっちも店から……ん」

 

 このままでは取っ組み合いを起こしそうな二人を諫めていると、不意にドアベルが音を鳴らした。

 

「いらっしゃ、あれ?」

 

 カチャリ、と───開いた扉の先には誰もいない。

 不思議に思い、首を傾げた…瞬間、店内から何者かの気配を感じる。

 

「お父様」

「ああ、動かなくていい」

 

 近距離からの視線。

 知覚と同時、俺は右腕を宙に上げ、何もない空間を掴み、勢いを付けて強くカウンターに叩きつける。

 

「師匠!?」

「兄貴どうした!?」

「お前等も動くなよ、敵かもしれない」

 

 姿は未だ見えず。

 だが、掴んでる物…首、細さから推測するに若い女。

 他に反応が無い事から、数は一人。

  

不可視(インビジブル)沈黙の歩み(スニーク・ウォーク)、それから無臭(オウダーレス)。チョイスは悪く無いけど、練度不足だな」

 

 どれも暗殺者や盗賊(シーフ)が好む強化魔術。

 奇襲型即殺ビルドなら定石のパーツ。

 タネを言い当ててやれば、不可視の標的は動揺するように体を震わせるのが伝わる。

 素人だ、本職はこんな事では動じない。

 

 本職と言えば、黒子さんどこ行った。

 おーい、なんか変なの入って来たんだけど。

 

「取り敢えず、姿を見せてくれると助かる。もし応じてくれないようなら、まあ別の案で行く」

 

 別案は頸椎を砕く、です。

 強化魔術なら死ねば自動的に効果も切れるし、顔が割れればあとは影縫さんに丸投げすれば良い。

 第一候補は黒桐家かな。

 凶也関係で幾つか強引な手を使ったし、なんちゃってチャイニーズの件でも色々邪魔したし、それ以前にも恨みとか貯め込んでる。

 

 襲撃者はどう出るか。

 徐々に義手に掛ける力を強めていく。

 メキメキと、良い感じの音が聞こえて来る。

 あと数秒あれば潰れるぞ。

 

 すると。

 

「待、って、」

 

 カウンター上に、薄い輪郭が現れ始めた。 

 小柄な体躯で、服装は動きやすい灰色のジャージ。

 くすみない銀の髪が肩程まで掛かり、小動物のような顔立ちは、男女問わず愛嬌を誘うもの、その双眼はダイヤでもはめ込んでんのかとツッコミを入れたくなるキラキラ具合。

 はて、

 

「えぇ!?」

「テメェは……」

「おい、ちょっと待て。待って、なんで?」

 

 俺は、滅茶苦茶その少女に心当たりがあった。

 思わず、素っ頓狂な声を上げた優君に、どう言う事かと視線を向けながら腕の力を抜く。

 

「カッ…ハア…ハア……」

 

 少女は水を得た魚のように、懸命に空気を吸い込む。

 

「ご、ごめんなさい、です。わたし、悪気は無かった、です。許して、ください、です。死にたくない、です」

 

 銀月雛。

 天然で、表情変化が乏しい筈の彼女は、恐怖に顔を歪ませながら瞳の端に大粒の涙を湛え、必死に命乞いをしていた。

 どうして、こうなった……?

 

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