以前にも言った気はするが、銀月雛と原作主人公は、類似点が多い。
例えば、共に旧都の出身で両親を失った侵攻孤児。
例えば、学園長からヘッドハンティングを受けて
例えば、最初のメイン武器種が同じ…いや、これはこじつけレベルだから割愛しよう。
だからこそ、原作主人公とは比較的早く友好関係を結び、戦力として貢献する男主人公にとって良き相棒とも言える存在だった。ついでに、女主人公ならアリスがその枠に収まる。
原作ではの話だ。こっちだと、最初に葵ちゃんとアリスが出くわしてパーティを組み、その後に加入しているのだから。
まあ鳥が先か卵が先かの違いだろ、うん。
さて、そんな銀月雛は、メインルートとは別…彼女の個別ルートに進む事でとある少女と相対する事になる。
自分と同じ境遇ながら、幸福な道を歩めた少女と不幸の道を辿った少女の愛憎劇。
通称『嫉妬』ルート。
「お姉さん、このお菓子いかが?朝、シャトーレで買ってきたのよ」
「おお、おっきいお菓子屋さん。甘い物は好物」
「ふふん。あのお店は、お父様の名前を言えば取り置きまでしてくれるの」
「凄い」
「流石師匠、顔が広いね」
「泥棒猫さんは駄目よ」
「なんで!?それより泥棒猫ってなに!?」
そのルートのラスボスは誰あろう。今現在テーブル席に移動して、お気に入りの熊のぬいぐるみを抱き抱え、炭酸飲料をチビチビ飲みながら、銀月雛と優君の三人で楽し気なトークを繰り広げているミカエラ・フォールンさんです。
本当にどうしてこうなったのか。
先程の騒動の最中、言葉無く彼女の様子を観察していたミカが、何を思い立ったのか「あっちの方でお話ししましょ?」と声を掛けたのだ。
最初は全力で止めた。
原作においてのヒロインと敵…というのは、ぶっちゃけ関係ない、そもそも、今この場にいる優君と凶也の時点で今更だし。あくまで不審人物に対する対応として、だ。
なのだが、悲しそうな顔で俺を見上げた、ミカの懇願を無下にする訳にもいかず、こんな状況になってしまった。
「そうなの。お姉さんも侵攻の…大変だったのね」
「そう。家が無くなっちゃったから、今はママと二人で新都に移り住んだ。学園長が手配してくれたお陰」
「私も暮らしていた養護施設が無くなってしまったから、お父様に拾われて、厄介になってるのよ」
「そうなんだ」
「僕も、僕も!侵攻で家に帰れなくて、北部のお婆ちゃん家に住んでたよ!」
「「知ってる(わ)」」
お前等、何でそんな思い出話を語るみたいなノリで未曽有の大災害の話してるの?
『侵攻』って、原作だと
そもそも、銀月雛の家族が存命という事実にも驚きだ。
前日譚において、彼女の母親は第一次侵攻の直後に命を落とす。魔物ではなく、極限状態における人の悪意によって。
人間誰しも、状況によっては悪魔に変わるという物だ。
しかしこの世界では生きてるらしい。
どう言う事か。優君の両親も生存していたし、もしや何者か…俺と同じように原作を知る者が他にもいて介入でもしたのか。
いや、考えても仕方ないか。
「兄貴。何かオレ、疎外感あるんだけどよ」
「三人で意気投合しちゃってるからなぁ。境遇似てるから仲間意識が芽生えたんじゃないか。俺達は旧都の出じゃないし」
俺と凶也は、新都の前身である開拓都市の生まれだ。
旧都が侵攻による被害を受けてから、難民受け入れと防衛力強化の為に開拓都市を大幅拡張したのが、今の新都である。
「それに、銀月があそこまで口数多い所初めて見たぜ。あ、珈琲おかわり」
「おう」
ミカの天使級の笑顔のせいか、若しくは主人公パワーじゃないですかね。
ほら、人を惹きつける才能みたいな奴。
羨ましいね、俺はそういうの持ち合わせてないから。
カップに、淹れたばかりの珈琲を注ぎながら、そんな下らない事を考える。
というか、流れであっちの席に移動したけど、まだ俺が聞きたい事を全然聞けてないじゃないか。
「銀月さん。話中に悪いけど、ちょっと良いかな」
「ッ、はいっ!」
「別に取って食おうって訳じゃないから、そんなに怯えなくていいよ」
声を掛けると、彼女はビクリッと体を浮き上がらせ俺の方に向き直った。完全に怯えられている。
とは言え、流石に事が事だから話を続行。
「聞きたい事は一つ。どうしてウチの店に、あんな方法で入って来たのか」
「…………」
「俺がいうのも何だけど、魔術…それも二級魔術を使って店に侵入したら、誰だって侵入者と誤解するだろ」
この世界では、基本的に魔術は三種類に分類される。
日常生活や魔術産業の際に使用される事の多い三級魔術。
迷宮攻略において
軍事作戦、或いは侵攻への鬼札として使用される一級魔術。
新都内では、基本的に戦闘系の、二級以上の術式の行使は制限されているのだ。
無意識に起こる魔力漏れのようなケースを除き、故意的な行動であるのならば、最悪STARsのお世話になる事もあるんだぞ。危険な術式、駄目絶対。
ついでに、俺の
「本当に悪気はなかった、です……学園で偶然、優達を見かけて、いつも喋ってるお店に、行くって話をしてたから」
「つけて来た、と。魔術まで使ってか」
「そう。練習にもなるかと思った、です。あと、バレなかったら驚かせられる、から」
「そんな理由で!?」
予想以上にしょうもない理由だった。
優君が声を上げるのも無理はない。
ほんの少し、すわ敵対行動か!?なんて考えた俺が馬鹿みたいじゃないか。
「だ、そうだが」
「確かに驚いたし、今も驚きっぱなしだけど…危ない事は駄目だよ!師匠にも迷惑掛けたんだし、これからは絶対にやっちゃ駄目だからね」
「うん、凄く反省。でも、わたしだけいつも話に混ざれないのは、寂しかったから、ちょっと意趣返…嘘、いじわるしたかった」
「今意趣返しって言わなかった!?」
「言ってない」
何食わぬ顔で嘘を吐いたな。
ポーカーフェイスで隠しているが、反省の色が全くない。
しかし。
「まあ、でも…確かにその気持ちは分からんでもないな」
昔、俺にも似たような経験がある。
パーティの仲間が同じ話題で盛り上がってるのに、一人だけ蚊帳の外ってのは辛いよな。
他の連中が国際情勢やら話しちゃ駄目そうな自国の裏事情で盛り上がってるのにさぁ、俺だけ
挙句、お前もなんかネタがねえのかと無茶ぶりをしてくるんだ。ねえよ、ある訳ねえだろ。
俺には、アイツ等程の、社会的地位は、無いのだから。
何か、自分で思い返して悲しくなってきた。
「そもそも、危ない事云々に関しては優君の右に出る者はいないしなぁ。数日前の事をもう忘れたのか」
「くっ、何も言い返せないっ」
「ついでに、最近は勘定を済ませてくれてるけど、まだツケは残ってるからな。君も迷惑、掛けちゃってるからな」
「大丈夫、ここにさっき入ったばかりの
「聖川…テメェ、さてはオレを金の生る木だと思ってやがるだろ」
「ソンナコト、ナイヨッ」
片言じゃねえか、もう少し誤魔化す技術も身に付けろよ。
優君をからかいつつ、俺は銀月さんを見やる。
「とにかく、事情は分かった。悪気がなかったってのも嘘じゃないだろうし、次に来る時があれば、普通に来てくれればそれで良い」
「そうする、です」
顔を上げた銀月さんが小さく頷く。
多分、大丈夫だろう。
事故のようなものだが、もしまた同じ事を繰り返せばどういう目に合うのか、自分で体験したからな。
「言葉遣いも優君達と同じで良いよ。喋り辛いだろ」
「……そう」
「良かったわね、お姉さん。それじゃあお喋りに戻りましょう?私、お姉さんのお話もっと聞きたいわ」
「うん」
花のような笑みを浮かべるミカに、銀月さんも釣られて微笑む。
水と油の関係。どうやら、こちらも俺の杞憂に終わったらしい。二人の姿は、まるで年の近い姉妹のようだ。
「ほら、優君はこっちにおいで。あの空間には、多分俺達が混じっちゃいけない気がする」
「どういうこと?」
「良いから、良いから」
強いて言えば、空気感かな。
「そう言えば、よく一人でこの店に来れたな。初めて来るお客さんって、割と道に迷うんだけど」
「うん、迷った。けど、変な人達が教えてくれた」
「変な人達?」
「そう。道の途中で、箒でチャンバラごっこしてた黒い人達」
「チャンバラごっこ」
「誰も気にしてないから、幽霊かと思った」
ほう?
成程、どうやら
「ちょっと外に行ってくるわ」
仕置きが、必要らしい。
答え:しょうもない理由。
銀月雛の隠密能力は魔術。
影縫&黒子メンバーの隠密能力は体術。
店長の察知能力、長年の勘。