シンギュラリティ・ラッドピース   作:物部。

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FGO、テュフォン、何とか確保。
ゼンゼロ、師匠、仮天確保。
祝いに一話ぶん投げてやるぜ。


29話 銀月雛03

 銀月さんの言葉通り、リュミエールを出て少し歩いた場所に、箒を振り回す馬鹿共がいた。

 片や一本を長刀に見立てて構える黒子A、片や二本の小箒をアニメで見るような調子で構える黒子B。

 まるで巌流島を彷彿とさせる立ち姿。

 間合いを取るように、ゆらりゆらりと円を画く。

 一瞬の油断で勝敗が決まる。

 思わず、俺もゴクリと唾を飲み、桜舞う遊歩道に、一陣の風が吹く。

 瞬間。

 彼女達は一心に、目前の相手を見据え、疾走(はし)る。

 中央で、(ほうき)が交わ───。

 

「おうこら、馬鹿共。仕事中に何やってんだ」

「「…………ッ!!」」

 

 交わらせる訳も無く、中央に飛び込んできた黒子さんズの前に躍り出た俺が、二人の頭部を掴む。

 周囲に人がいないのが幸いだ。

 ここまで接近しても、俺の存在に気付かなかった事を見るに……コイツ等、真剣(マジ)の状態で遊んでやがったな。

 

「面倒な事を頼んだ俺がいうのもアレだけどさ、仕事は真面目にやろうよ」

「……!……!!」

「……!!」

 

 嘆息しながら、そう言うと、二人は身振り手振りでジェスチャーを開始する。

 箒を指差して、「これが悪いんですよ!これが!」とでも言うように。そこそこの付き合い故に何を言わんとしてるのか、何となく分かる。

 

「………!」

「なに?仕事は真面目にやってたけど、ふと手元の箒を見たら衝動を抑えられなかった?」

「ッ!(コクコク)」

「いや、まあ…その気持ちは分からんでもないけどさぁ。だからって、そんな小学生じゃないんだから」

「……………」

「え、何、俺も混ざれと?混ざらないよ??」

 

 どこからか取り出した、もう一本の箒を俺へと手渡し、気持ちキラキラしたエフェクトを周囲にまき散らす二人。

 子供が年の離れた兄ちゃんにゲームの攻略を手伝って貰おうとするような感じで。

 

「だから、やらないって。通行人だって少なからずいる訳だし」

「「…………」」

 

 スッ───と黒子さんAが周囲に指を差す。

 今は誰もいないと、言いたいのだろうか。

 全く、影縫さんと違ってコイツ等は俺よりも年上の筈なのに、どうして時々馬鹿になるのか。

 再度、仕事に戻るように口を開こうとする。

 しかし。

 

「……………?」

 

 俺の肩をポンと叩く黒子さんB。

 顔は見えない。だが、薄く見える黒幕の奥では僅かに口角が上がっており、言葉にせずともその感情は雄弁に伝わって来る。『逃げるんですか?九条鋼ともあろう人が?』と。

 

 成程、成程……プランαが効果なしと判断して、今度は俺を煽る方面に切り替えたか。

 全く困ったものだ。こんな単純な手に乗るような歳ではないと理解しているだろうに。

 

「ふぅ……───仕方ないな」

 

 しかし、しかしだ。

 舐められたのならば、俺がそれに乗ってやるのもまた一興。

 決して、先程の一戦がちょっと楽しそうだったとか、そういう感情ではない。

 思えば、眼鏡を掛けた状態の俺であれば、割と他人の視線とか関係ないしな。 

 

 全く以て、やれやれだ。

 これでも昔は、自分に合った武器を探す為に一通り、武器種の訓練講習は修めていた。尤も、合格判定は貰えたものの、それら全てがザ・平凡のレッテルを張られてしまい、結局拳一筋になってしまったのだが。

 

「どうやら、お前等には見せてやらねばならないらしい……俺が編み出した、孤流剣術“鋼牙煉獄破断流”の神髄を、な」

 

 箒を握り、横に引く。

 

「「ッ!!」」

 

 驚き、体を仰け反らせる二人に、俺は笑う。

 ザ・平凡……それがどうした。

 俺には前世がある。この脳みそにはアニメ、漫画、ゲーム、ラノベで培った万能の英知が兼ね備えられているのだ。

 懐かしいぜ。

 嘗て、俺を毎日の如くボッコボコにしていた熟練の武器使い達が口を揃えて、「いや、それは卑怯だろ」と絶句していた。

 その技の一つが、この孤流剣術“鋼牙煉獄破断流”

 

「構えろ。俺が箒を振るった瞬間、気を失いたくないのなら」

 

 ヒリついた空気の中で、コクリと頷いた二人の黒子さんは、己の尤も得意とする箒術の構えを取る。

 良い覚悟だ、ならばこちらとて油断はしまい。

 

「いざ、尋常に」

「「………………」」

 

俺達の戦いは、これからだ。

 

「始めっ!」

 

 開始と同時、俺は手に持っていた箒を垂直にぶん投げ、黒子さんに殴り掛かった。

 武器、それ即ち、投擲アイテム。

 

 

 二〇分程して、一仕事終えた俺は店に戻った。

 外で服に付着した埃を払って、扉を開ければ、カウンター席に座っていた凶也と優君が眉を寄せて聞いてくる。

 

「……師匠、なにかあったの?」

「何でそんなにボロボロなんだよ、兄貴」

 

 所々解れたワイシャツに視線が集まる。

 

「ふっ、外のいたずらっ子達に少しお灸をすえてやってたのさ」

 

 十戦、十勝、つまりは完勝。

 一人、また一人と、倒す度に増殖する黒子さんズを下した俺は、この大和随一の箒術チャンピオンと名乗っても良いのではなかろうか。

 抗議のジェスチャーと非難のブーイングなんて、知らないぜ。

 勝てるなら何でも使うのが人間ですよ。

 この世は勝った者が全てだって、ラオも言ってたし。

 

「お父様、ちょっと良いかしら」

「ん?どうした、ミカ」

 

 壁に掛けたエプロンを付け直し、定位置に戻る。

 すると、窓側のテーブル席に座り、銀月さんと談笑していたミカが、俺を呼んだ。

 

「雛お姉さんが、お父様に聞きたい事があるらしいわ」

「聞きたい事?」

 

 直ぐ横に目線をずらせば、彼女は小さくコクリと頷く。

 

「そう、ミカエラ達から聞いた。店長は、色んな人と知り合いだって」

 

 俺は小首を傾げる。

 

「知り合い?…まあ、こういう仕事柄だから、人と話す事は多い方だと思うけど」

「それは、探索者(ダイバー)も?」

「俺が探索者(ダイバー)をやってた時からいたヤツなら、殆どは顔見知りだな」

 

 流石に、ここ最近の探索者(ダイバー)は知らないが。

 今も中堅帯でウロチョロしてる者達であれば、知り合いと言って差し支えない。

 

「そう、なら」

 

 僅かに言い淀み、銀月さんが視線を動かす。

 そして、意を決したような顔でこう言う。

 

「実は……ずっと、探している探索者(ダイバー)がいる」

「探してる、探索者(ダイバー)?」

 

 彼女は、ゆらりと銀の短髪を揺らす。

 

「その人は、『侵攻』の後で、わたしとママ、ううん…もっと多くの人を助けてた。だから、見つけられたら、お礼を言いたくて」

「あ、それ前に雛が言ってた人だよね」

「うん、そう」

「……ほう」

 

 話を聞きながら、俺は思考を動かす。

 銀月雛の前日譚『アナタだけでも生きて』では、『侵攻』直後の旧都の様子が描かれる。

 死んだ街を闊歩する魔物と、その目を掻い潜り、生き残る為に食糧を求める人間の戦い。

 シェルター内では内部競争の嵐。奪い合い、騙し合いが当たり前で、彼女の母親はその最中に他のシェルターの人間に騙され、魔物の餌となる。

 極限状態可で親のいなくなった子供を助けようとする物好きはおらず、彼女は一人旧都の外で、生きる為に藻掻く。

 そして、ひょんな事から銀月雛を発見した学園長が、彼女の才能を見抜いて学園へ。

 これで終わり。

 なのだが、そうはならなかった。

 

探索者(ダイバー)の知り合いが多いのなら、もしかしたらって」

 

 銀月雛の前日譚を壊した人物を、彼女は探しているのだ。

 

「顔とかは分からないか。探すのなら、特徴があれば良いんだけど」

「顔は、分からない、隠れてたから」

「隠れてた?」

「そう」

 

 顔を隠した、謎の探索者(ダイバー)

 面妖な、随分と怪しさ満載じゃないか。 

 

「あの人は、包帯で、顔をぐるぐる巻きにしてたから」

「包帯で……包帯でぐるぐる巻き?」

「そう。声は男の人、だった思う。いっぱい、叫んでた」

「包帯の男かぁ」

 

 そう言えば、『侵攻』の最終ボス…馬鹿デカ阿修羅と戦って、そこそこ手酷い傷を負った俺もあの直後は顔を包帯で巻いてたような気がする。

 尤も、『侵攻』鎮圧の為に多くの探索者(ダイバー)が戦って、手傷の多い者なんて腐る程いた。

 それだけで、判断する事は難しい。

 

「他に何かないのか?使っていた武器とか、魔術とか」

「武器は見てない。でも、魔術は……火。体中から噴き出す、見た事もない位、宝石みたいに綺麗な紅い炎」

 

 うっとりしたように、虚空を見つめる銀月さん。

 

「魔術、いや……純化か。あの頃にそんな技術を持ってるヤツなんて、永遠(とわ)しかいない筈だし、炎?─────あれ?」

 

 不意に、背筋が寒くなる。

 術式の純化は、大分難易度が高く、今でも使える人間は極少数で。

 

「黒桐君、純化ってなに?」

「知らねえよ、兄貴に聞け」

 

 手前二人の声に反応を返さず。

 俺の頭の中に、途轍もなく嫌な予想が浮かぶ。

 合致する人間に心当たりはあるのだが、それが当たって欲しくない衝動がふつふつと湧き上がるのだ。

 だが、聞かねばならない。

 多分ここで聞かなければ、後々悪い事になりそうな予感がするから。

 

「時に銀月さん、その男は…もしかしなくても、おかしな単語を口走ってなかったか。例えば、“主人公”とか」

「……………」

 

 当たらないで下さい。お願いします、神様。

 そんな願いは空しく、彼女は決定的に、残酷に言葉を紡いだ。

 

「そう、言ってた。後ろから来た仲間っぽい人達に何回も叫んでた」

「え……それって、師しょ、みぎゃぁ!?」

「ソイツは、シェルターの食糧物資を独占してた連中に殴り掛かって、「義は俺にしかない!」とか言ってなかったか……馬鹿笑いしながら」

 

 何か禄でもない事を言おうとした優君の口に迷宮産シナモンスティックを突っ込みながら、俺は最終確認(ファイナルアンサー)

 

「そう、でも、どうしてそんな事まで」

「ペッ…師匠、これ美味しくない!師匠!!待って、何でもう一本持ってるの!?」

「そいっ」

「みぎゃぁぁぁ!」

「聖川ァ!?」

「あまり床を散らかさないで欲しいわ、泥棒猫のお姉さん」

 

 余程辛かったのだろう、ひぃひぃと涙目になった優君の前に飲料水を置いて、俺は内心で頭を抱える。

 分かってしまった。

 そんな馬鹿は一人しかいない、そんな厨二病野郎は、多分大和に一人しかいなかった。

 包帯ぐるぐる、術式の純化、考え無しの馬鹿。

 ああ、記憶がぶり返してくる……だって、それは。

 

「心当たりがあるなら、教えて欲しい。わたしはまた、あの人に会いたい」

「ふっ…………そうだな、ソイツの名は」

 

 深く息を吸い、吐き出して。

 

「覆面戦士、ジャスティスフレイムだ」

 

 俺は……盛大に嘘っぱちをついた。

 だって、普通に考えて、君が探してる人は自分だよ、とか言うの滅茶苦茶恥ずかしいじゃん。

 

 銀月雛の前日譚を壊したの、俺でした。

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