シンギュラリティ・ラッドピース   作:物部。

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某、タイトル付けド下手侍。前後に話を分けたせいで、雛ちゃん関係ない件について。


30話 銀月雛04

 『侵攻』の終息から二週間程、後の出来事だった。

 開拓都市に設立された、重症患者を収容した探索者(ダイバー)専用の医療施設の中を、重厚なケース片手に練り歩いていた俺は、とある扉の前で立ち止まり、力任せに押し開ける。

 中には、数名の男達の姿。

 本を読んだり、付近の同業と雑談したりしている連中に向けて俺は声を張り上げた。

 

「おーい、死にぞこない共。暇なヤツいねえかぁ、俺とカードゲームしようぜ。戦った相手が次々憤死するレベルのカスみてぇな害悪デッキ作ったんだけどよぉ」

 

 六人詰めの多床室に音が響く。

 瞬間、彼らは額に青筋を浮かび上がらせた。

 面倒な輩が来た、なんて思ってそうな顔をして。

 

「なあなあ、誰かー、遊ぼうぜー、どうせ次の検査まで暇だろー」

「うるっせぇよ、この馬鹿ッ!こちとら腕の接合中だっつの!!」

「おーい、鋼が暇持て余してるぞ。誰か相手してやれ」

「絶対やだ。アイツの害悪デッキ、マジで害悪だから、腹の傷が塞がってねえのに、開きそうになったから」

「つーか、体動かねえし」

 

 ヒソヒソと声を潜めて話す男達の方を向きながら、デッキケースを構えると……直ぐに視線を逸らされる。

 

「なんだよお前等、受けて立とうって気概があるヤツはいねえのか。男の癖に情けねえなぁ」

「怪我人に無茶言ってんじゃねえよ」

「しばくぞ、この迷宮頭っ」

「この、活力お化け!!」

「あ?テメェらの治療に必要な回復薬やら合成素材やらを無償で提供してやった、この天帝ちゃんすら凌ぐ大和の神とも言うべき俺に対して、何だその口の利き方。燃やすぞ、こら」

「やめろやめろ」

「そもそも、お前も体ぼろっぼろだろうが」

「まあ、うん」

 

 ゲームでは戦う事すら出来なかった、第一次侵攻のボス…仮称、馬鹿デカ阿修羅との戦いによって、割と洒落にならない傷を負った俺も、現在は絶対安静を言い渡され、迷宮(ラビリンス)に潜る事が許されないのだ。

 

「てわけで、暇。暇だから遊ぼうぜ、どうせお前等も───」

 

 なので、こうして堂々とカチコミを掛けていた。

 しかし、その時だ。

 

『看護長ーー!また九条さんが病室を抜け出しましたー!!』

『なんですってぇ!?』

『B三六室からナースコール入ってます!多分、密告です!』

 

 仮にも医療施設だと言うのに、廊下に反響する程の絶叫、次いで、その奥から何者かの足音が聞こえてくる。

 

「あ、やばい」

 

 どうやら速攻でバレてしまったらしい。

 室内をぐるりと見渡すと、嘗て俺が害悪デッキ改を使って、有り金を毟り取った探索者(ダイバー)が右手に恐ろしい凶器を握りしめて、小馬鹿にしたように顔を歪めていた。

 あの野郎、やりやがったな。

 

「九条、九条鋼ッッッ!!」

「チッ、もう追手がそこまで」

 

 曲がり角の先から、怒りで顔を赤く染めた年若い女性が現れる。薄金色のポニーテールを揺らして、全力疾走するナース服は宛ら戦場の天使、いや鬼だ。

 鬼の形相を浮かべた看護長だ。

 

「あばよ、お前等。また来るぜ」

「九条鋼ーーーー!!」

「ははははっはっは、くっ、体痛ぇ……うわ、もう来たっ!」

 

 逃げよう、ここは、脱兎の如く。

 俺は道行く看護師達にぶつからないように、細心の注意を払いながら逃走を図った。

 

 

「アイツ、ここに来たの何回目だよ」

「三回目だな。他の病室にも、良く顔を出してるらしいぞ。前に酒を運び込んで看護長にこっぴどく怒られたらしい」

「そういや、東側の女連中の所にも行って袋叩きにされたとか」

探索者(ダイバー)続けるか悩んでたヤツの相談にも乗ってたな。仕事の斡旋されたっつってた」

「重度の全身大火傷、腹にデケェ穴まで開けた癖に、アイツが一番元気そうじゃねえか」

「……まあ、鋼だし」

『それはそうだわ』

 

 

 A二三号室。

 俺個人用として割り振られた病室で、ベッドに縫い付けられた俺に、看護長はくどくどと説教を続ける。

 

「良いですか、九条鋼。貴方はきっと知らないのでしょうけど、絶対安静とは、戦闘、鍛錬問わず行動を制限し、極力、いいえ貴方の場合は一歩たりとも動かず回復を待つ事なのですよ」

「それ、五回位聞いたんだけど」

「なら、どうして私の言葉が届いていないのでしょうか。こんなにも懇切丁寧に説明をしているのですが?」

「そりゃあ、暇だったから」

 

 即答すれば、彼女は笑顔を陰らせ、手に力を篭めた。

 ベギリッ、とボールペンが中程から折れる。

 

「待って、暴力は良くない。こんな体の人間に暴力は駄目だろ」

「命を尊ぶ者としての教育的指導ですよ」

「矛盾してるじゃん、言ってる事」

 

 脳筋聖女もそうだが、治療を受け持つ人間がこんなに好戦的であって良いのか。彼女は重苦しく溜息を落とし、胸元から真新しい二本目のペンを取り出す。

 

「術式による内側からの炎傷。腹部は何とか塞ぎましたが、魔術や魔力に関しては今の私達には情報が余りにも少ないのです。表面上は何も無くとも、今も尚燃え続ける貴方の体は、魔力欠乏や暴発等の恐れを持つ危うい状態。寧ろ、それでどうして平静を保っていられるのですか」

「気合、根性、主人公としての矜持、かな」

「その精神論で物事を解決しようとするの止めて貰えます?」

 

 差し出された青色の回復薬を受け取り、一気に呷る。

 腹の奥底に力が満ちる感覚。

 俺の術式は、使っている自分で言うのも何だが、大分扱い辛い。特に今、俺の体を焼いてる点火(イグニッション)は制御下から外れれば、こんな事になりやがる。

 包帯を取れば、中にはこんがり焼けたチキン野郎が。

 全てはあの憎き馬鹿デカ阿修羅のせいである。

 

「選択は間違えたけど、後悔はねえや」

 

 第一次侵攻は、フレーバーテキストとして語られるだけの存在だった。旧都が崩壊して、多くの探索者(ダイバー)が命を落とし、最後は大和の一等星と他国から救援として送られて来るあいつ等の協力で鎮圧される。

 正直な話、連中を待っていれば、俺がこんな傷を負う事も無かっただろう。でも、待てなかった。

 あの光景を見て、頭の中が真っ白になって、血が昇って、俺が出張らなければどうすると躍起になって、戦った。

 

「まあ、俺は主人公だしな」

「脳の障害ですか、直ぐに先生を呼んできましょう」

「純然たる事実だろうが」

 

 痛み続ける腕を枕にして、知らない天井…いや、勝手知ったる天井を見る。いつも、迷宮(ラビリンス)から戻って来るとここに運び込まれていたから。天井のシミの数も知っている。

 

「それと、貴方に面会希望の方が来ています。受けるようでしたら、このままお呼びしますが」

「ん?親父とお袋…は、昨日来たか。誰だ、永遠(とわ)か?」

「貴方の上司ですよ」

「ああ、成程な」

 

 最近は、『侵攻』鎮圧の後始末やら記者会見やらで忙しそうにしていたが、漸く時間を取れたのだろうか。

 看護長に承諾の意を伝え、彼女が退出して少しすると、病室の扉が開き、一人の男が入室する。

 

「調子はどうだ、鋼」

「まあまあかな、そこら中痛ぇけどさ」

 

 屈強な体に、常に眉を寄せた厳ついおっさん。

 彼は俺の名を呼びながら、籠詰めされた果物を脇のテーブルに置く。

 

「ちょっとやつれたか、おやっさん」

「問題ない。お前に比べれば、こちらの方が幾分マシだ」

「つまり疲れは溜まってると、飯は食ってんのかよ」

「………………」

 

 岩雄砦。

 探索者(ダイバー)を束ねた探査隊、そのトップを張る、開拓都市どころか大和でも名の知れた御仁は返事ではなくデフォルト装備の仏頂面で答える。

 

「はぁ、まあいいや。いや全然良くはねえけど。それで、今日は諸々の報告にでも来てくれたのか?」

「うむ、そんな所だな」

 

 左手に下げた革鞄から、数枚の茶封筒を取り出す。

 数日寝たきり状態だったせいで、俺は探査隊の集まりに参加する事が出来なかった。

 だから、時間を見つけて、おやっさんは来たのだ。

 

「まず初め、今回の迷宮氾濫(スタンピード)…第一次侵攻に関してだが、一級戦果、偉業の達成として、渡良瀬永遠を一等星へと昇格、並びに『侵攻』鎮圧に貢献した探索者(ダイバー)達を一段昇格とした」

「妥当だな、俺の名前は?」

「出してはいない、が…前線を知る人間であれば直ぐに此度、尤も戦果を挙げた者が誰かと気が付くだろう。どうしてこんな回りくどい事をする?」

「へっ、分かってねえなぁ、おやっさん。その方が主人公っぽいじゃん」

 

 名前を告げずに、誰かを助ける。

 しかし、俺の魔術によって彼ら、彼女らは気付くのだ。

 自分を助けてくれた相手は九条鋼であると。

 そしたら、あれよあれよとハーレム構築ってな感じで俺は言うんだよ。

 

『ふっ、バレちまったか』

 

 と、いう風にな。

 よし、算段は出来上がった。

 

「全く、本来ならば、お前も充分に一等星の資質を持ち合わせているが……」

「海境の時も言っただろ、興味ねえ」

「そういうだろうと思っていた。では次に、お前へ支払われる報奨金についてだが」

 

 二枚目の封筒を取り出す。

 しかし、その前に俺は挟むように口を開く。

 

「そっちは、死んだ探索者(ダイバー)達の補償に充ててくれ。俺は要らねえから」

 

 にやけ面を引っ込めて、おやっさんと目を合わせながら。

 

「別に今は金に困ってる訳でもないんだ、俺には必要ない」

 

 ふと、何気なく窓の外を向く。

 死んでいった連中の中には、面識のある者もいた。

 俺を先輩と慕っていたヤツも、憧れだと言ったヤツも、女関係に悩んで玉砕したヤツも、ガキだ何だと言いながら飲み物を奢ってくれたヤツも、いつの間にか逝ってしまった。

 

「アイツ等は最後まで戦って、仲間を守って死んだんだ。なら俺の貯金通帳の中で腐らせるよりも、そっちの方が有意義だろ。足りてるなら、慰霊碑の一つでも作ってやってくれ」

 

 それが、俺に出来るせめてもの弔いだった。

 

「……分かった、そのようにしよう」

「おう、それにどうせ、迷宮(ラビリンス)に潜れば稼げるし」

 

 顔を戻して、おどけてそう言えば、おやっさんは面食らったように暫し動きを止めて俺に問うた。

 

「お前は、まだ迷宮(ラビリンス)に潜るつもりなのか、鋼」

「当たり前だろ、俺の目標はまだ達成出来てないんだぜ」

 

 『天啓の逆塔』、単独(ソロ)攻略。

 仲間達と共に達成した『海境』とは違う、俺が、主人公としてどこまで行けるか試す為。

 この体で無ければ、直ぐにでも殴り込みに行ったのに、口惜しいったら無い。

 

「───そうか」

「あれ、おやっさん今笑った?」

「ああ」

 

 目尻を和らげ、口角を上げている。

 珍しい事もあるものだ。

 

「なに、少し……安心したんだ。これを機にお前も探索者(ダイバー)から降りてしまうのではないか、とな」

「何だそりゃ」

 

 予想外。

 思わずポカンと口を開き、俺は思い出す。

 今、この医療施設に入っている者達の中にも、退院後は探索者(ダイバー)を辞めようと考える者が数多くいた事を。

 

「俺は、辞めねえよ」

 

 だから、こう言う。

 

「アンタの横っ面をぶん殴った時に言ったじゃねえか、俺を探査隊に入れたら、とびきりスゲェモンを見せてやるって。まだ果たしてない、だからまだ…辞める気もない」

 

 口元の傷を指差して、笑う。

 

「……そうだったな」

「話はこれでお終いか?だったら愚痴に付き合ってくれよ、暇で暇でしょうがないんだ」

「いや、もう一つ、お前に聞いて欲しい話がある」

 

 手を組み換え、おやっさんは仏頂面に舞い戻る。

 さて、聞いて欲しい話とは何か、三枚目の封筒から取り出された書類に書かれている内容を簡潔に彼は口にする。

 

「現在、中央都市…旧都で発生しているシェルター内部の混乱と暴動、その対処についてだ」

 

 なにそれ、面白そうじゃん。

 




うーん、主人公。
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