シンギュラリティ・ラッドピース   作:物部。

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過去話は次で終わりって言ったよね、私嘘つかない。
ちょっと長いのも気のせいです。


32話 銀月雛06

 廃墟群を駆ける。

 数週間前までは都市として機能していた、死んだ街のアスファルトを、足先に灯した炎を爆発させて、ひた走る。

 

「ブルルルゥ───グビャ!?」

「邪魔、だっ!!」

 

 闊歩する闘牛のような魔物の顎をアクロバット宛らの動作で蹴り飛ばし、続々と迫り来る魔物を相手取る。

 全身が焼けるように熱い、いや、焼けている。

 一週間の間で制御権の六割を取り戻したは良いが、それでも尚無駄な魔力が体を焼くのだ。

 だが、

 

「カッ…ハハハ、ハハハハハ!最ッ高じゃねえかぁぁぁぁぁぁ!」

 

 俺は高揚していた。

 長い長い、治療施設での拘束。

 動けば常に激痛が走るが、それでも体を動かさなければどこかポカリと穴が開くような感覚に苛まれる日々。

 だから今は、まるで水を得た魚のように高ぶり続けている。

 亜人種、精強な肉体を誇る犬型獣人(コボルド)の首を圧し折り、それを棍棒代わりにして群れの一掃、壊れたら次、無限に増え続ける武器と経験値に笑い声が零れる。

 

「次だ、次はどれだ、態々大声まで上げてやってるんだ、まだ来るだろ。来いよ、俺の糧になれよ、バケモンがよぉ!!」

「ピギィィィィィィィ!」

「芋虫発見ッ!ぶっ殺確定ッ!!」

 

 声に釣られて、大物が姿を晒す。

 全長にして、八m程の巨体で店を突き破り、現れたのは巨大芋虫。テラテラと月の光で輝く毒毛と、その下にある鈍色の甲殻。

 地面に左手、右手を爪のように構えて、術式を起動する。

 

点火(イグニッション)

 

 全身から赤い火が漏れる。

 それは俺の周囲を包み込み、大きく───広がる。

 散る火花、川辺を飛ぶ蛍に似た粒子。

 

「雑魚は引っ込んでろ」

 

 爆破。

 火花に触れた亜人が爆ぜる。

 それを起点に、誘爆。

 亜人種は断末魔すら上げる事無く爆炎の中に呑み込まれ、残る者は直線上に突撃を行う芋虫と俺。

 避けるべきだ、だが、その時間すらも惜しい。

 つま先に魔力を集め、一気に放出。

 魔術、術式などとは呼べない、故意的な暴発。

 

「チキンレースは好きかぁ、芋虫ぃ」

 

 正面衝突、その直ぐ手前で俺は右腕を振り上げ、奥に潜む単眼目掛けて、殴る。

 

「痛ってぇ、なあ!」

「ピ、ギュ……ギュ」

 

 毒毛が太い針となって突き刺さる。

 注射が嫌いな子供であれば涙を流す状況だ。

 だが、この巨大芋虫の毒は、見た目に合わずそこまで脅威ではない。だからやれる、コイツの唯一の弱点、剥き出しの単眼を無遠慮に掴み、燃やすのだ。

 

着火(ファイヤワーク)…派手に、燃えちまえッッ!!」

 

 腕を抜き、後ろに跳躍。

 痛みに藻掻きながら、耳障りな鳴き声を発して、右往左往と建物に体当たりをかます巨大芋虫の体は激しく延焼を続け、数分で動きを停止させた。

 

「ふう、出てきていいぞ、治療班」

 

 一息つく。

 だらりと、腕を垂らして後方に呼び掛けると、他の建物の中から数人の強化魔術師が顔を出す。

 

「回復と状態異常、解毒頼むわ……って、なんだお前等、その顔」

「いやぁ…鋼のトンデモ具合に引いたというか」

「控えめに言って、頭おかしいのかなって」

「正直、途中からどっちが魔物かと思った」

「化物」

「喧嘩売ってる??」

 

 蒼褪めさせて、いそいそと術式を起動する強化魔術師、もとい俺の治療班。軽口を叩きながらも仕事を熟せるだけ、コイツ等も上澄みだ。

 

「うっわ、根本までぶっ刺さってる。肉を切らせて骨を断つ…とか、探索者(ダイバー)なら良く聞く話だけどよぉ、お前の場合は危なっかしいんだよ!!」

「軽はずみに自分の命を天秤に乗せるのマジでやめてくれ」

「もうちょっと躊躇してくれないか、頼むから」

「悪ぃ悪ぃ」

 

 罵詈雑言入り混じった嘆願に、俺は目を逸らしながら答える。

 

「それに、もう六時間ぶっ続けだぞ。俺らは途中で休憩とか挟んでるけど、鋼ずっと走り回ってるしさ」

「今ので大型は五体目……どんな体力してるんだ」

「まだ、六時間しか経ってない。迷宮(ラビリンス)だと殆ど休みなんて無いし、少なくともこっちの方が楽だぞ」

「この迷宮狂いめ」

「何だと、やるか、こら」

 

 渡された回復薬と補給飲料を体内に注ぎ込み、会話とは別に耳に神経を集中させる。

 

「やっぱり、上に行くには鋼みたいな事しなきゃダメなのかなぁ」

「無理無理、単独で潜るとか考えたくねえし…ましてや、アレだぞ」

「アレって言うな。まあ、自分のペースで走れば良いだろ。無茶はしねぇで、仲間との連携を大事にしてれば、もっと先に進める。いや、俺が言っても説得力はないけど」

「ははっ、違いねぇや」

 

 音の無い街中に笑い声が木霊する。

 

「それよか、ここら辺の魔物は殆ど片付いたし、シェルターの方に行こうぜ。遊びすぎるとおやっさんに怒られる」

 

 これ程声を発していても、魔物の気配は感じない。

 一帯の処理は問題ないだろう。ここからは、おやっさんに連絡を入れて、救助担当チームの手配を任せる。

 

「良し、三班に分かれて行動。もし隠れてる魔物とかち合ったら各自で対応、お前等だって雑魚はやれるだろ?」

「後衛だからって馬鹿にすんな、問題ないわ」

「伊達に鍛えちゃいねえよ」

「この筋肉は飾りじゃねえ!」

 

 問題なさそうだ。

 手を上げて答える野郎共が移動の準備を始める。

 

「にしても」

 

 ふと、俺は潰れた店やアスファルトに目を向けた。

 死屍累々、モザイク処理もされていない生の、魔物に食われた跡の付いた死体が転がっている。服装からして、恐らく民間人だろう。

 それらに、俺は少し疑問を抱く。

 

「やけに、状態が新しいモンが多くねえか?」

 

 数週間も経っているのだ。

 『侵攻』の最中に死んでしまったモノであれば、少なからず腐敗が進行していてもおかしくない。

 それに、数。少し前に通ってきた箇所に比べて、大分多い。

 

「おーい、鋼、どうしたー?」

「……いや、何でもねえ!」

 

 考えても仕方が無いか。

 呼びかけてくるおっさんの方へと走りながら、俺は首を振った。

 

 

 三手に分かれた俺達は、通信機にマッピングされた位置情報を頼りにシェルターの一つを訪れた。地面に固く閉ざされた鋼鉄の蓋、所々に斬痕や打撲痕が見られるが、防衛設備としては充分に機能していると言えよう。

 

「待ち合わせ場所は、この座標で合ってる筈なんだけど」

「案内人は来てなさそうだな」

 

 おっさん三人と顔を見合わせる。

 シェルターは、非常時において防衛機能の一つ、前門の完全封鎖が組み込まれている。外から中に入るには抉じ開ける以外に方法が無く、そんな事をすれば大目玉確定。

 だからこそ、今、先遣した人間を待っているのだが。

 

「おーい……九条…くーん……」

「ん?」

 

 暇潰しに魔力を捏ねる事数分、どこからか、小さな声が聞こえてくる。ぐるりと視線を移し、声の方へと向く。

 

「九条くーん」

「鋼、あそこだ」

 

 いた。

 丸眼鏡を掛けた三〇代程の優男が、付近の建物の影から顔を出して、俺に手招きをしている。

 その姿に、俺は溜息を吐きながら、声を掛ける。

 

「先遣した探索者(ダイバー)ってアンタかよ、天野さん」

「何でそんな露骨に残念そうな顔するんだい?」

「いや、もう少し隠密部隊っぽい人間を想像してたから。正直、ちょっとガッカリと言うか」

「僕以上に潜入調査が向いてる人間はいないが!?」

 

 自分で言うのか、それ。

 胡散臭い丸眼鏡を掛けた糸目の男、天野軽は声を抑えながらツッコミを入れてくる。

 

「まあいいや、砦くんから話は聞いてるよ。シェルターの中は僕が案内するから、大船に乗ったつもりで居てくれたまえ」

「泥船」

「おい?」

 

 失言、失言。

 笑顔で青筋を浮かべた天野さんに、「冗談だ」と返して、話の続きを促す。

 

「それで天野さん、俺達はどっから入れば良いんだ。シェルターぶち抜いても良いなら直ぐにやるけど」

「やめてくれ、ただでさえ避難者達はストレス過多なんだ。更に心労を掛けるんじゃない。こっちだよ」

 

 冷や汗を垂らして、そう言いながら、彼は建物の影に歩を進める。後を追うように俺達も続く。

 すると。

 

「ここから中に入るんだ」

 

 天野さんが指差す先に、シェルターの前門よりは大分小さな、人一人分程の大きさの鉄蓋があった。

 

「設備点検の通行路。平時であれば、部外者が入れば直ぐさま両手にお縄が掛かるけど、こんな状況だからね。誰も咎めないとも」

「それ、仮にもSTARsと探索者(ダイバー)を掛け持ちしてるアンタが言うのか」

「ははっ、そんな事は良いから、早く行こうじゃないか」

 

 軽く笑って、我先にと鉄蓋を開き、降下用の梯子に足を掛ける。

 

「ああ、それと九条くん。一つだけ僕から忠告なんだけどさ」

「あん?なんだよ」

「中の様子を見ても、可能な限り、暴走しないでおくれよ。君が暴れたら、手が付けられないからね。もしやるなら、極力セーブはして欲しい」

「は??」

 

 どういうことかと、口を開くより前に彼は暗闇に消えて行く。

 

「……どゆこと?」

「知らん。後がつっかえてんだから、とっとと降りろよ」

 

 後ろのおっさん達に問い掛ける。

 あまりにも冷たい応答に涙が出そうだ。

 

 

 天野さんが発した意味深な言動。

 それが何を示すのかは、直ぐに分かった。

 一人が何とか通れる程の小道を先行頼りに進めば、開けた場所に突き当たる。シェルター内部、保護鉄筋が通る上層エリア。

 視線を下に落とせば、避難民の様子が一目で把握出来るのだが、状況を理解するには目視など必要無かった。

 

『うえぇぇん、帰りたいよお』

『おい、声が煩いんだ。早く静かにさせてくれ!』

『お腹空いた、ママ』

『ごめんね…もう少しで配給の時間だから』

『一体何時になったら国は動くんだよ』

 

 あちらこちらで、声が昇る。

 

「これは……」

 

 話には聞いていたが、直で見れば、確かにこの光景は堪えるものがある。

 乱雑に埋め尽くされた仮設拠点からは、少なくない悲鳴。

 老若男女問わず、誰もが怒号をまき散らしている。

 

「鋼、大丈夫か」

「ああ…ああ、何とかな」

 

 戦闘で上がった熱が一気に冷める。

 年の功とでも言えばいいか、気遣うように声を掛けて来るおっさんの一人に言葉を返して、俺はぐるりと見渡す。

 

「なあ天野さん、あれは、何だ?」

 

 俺が指差したもの、それはまるで小さな集落のように集まった複数の仮設拠点。他に比べて明らかに目を引く。

 

「聞いてるだろう。あれが、目下砦くんが頭を悩ませてる原因だよ。九条くんも運が悪いな、南部だとここが一番荒れてる場所だ」

 

 懐から煙草を取り出して、彼は火をつける。

 

「元は探索者(ダイバー)だった人達の集まりさ。シェルターに移動した当初は、他の避難民を守る為に行動してたみたいだけど、今じゃあ備蓄食糧を勝手に管理して、配給と宣い、好き勝手に暴れてる。流石人間というか、何というか…他のシェルターも似たような状況なんだよね」

「マジかよ」

 

 そう言えば、あるヒロインの前日譚もそんな話だった。

 睨むような、憐れむような、複雑な感情を宿す目で見下ろしながら、天野さんは説明を続けた。

 

「ほら、噂をすれば、配給が始めるよ」

 

 言うと同時、数人の男達が大声で呼びかけると、仮設拠点から続々と避難民が姿を現わす。数本の列を作った彼らは、何かの取引でも始めるように動く。

 

「僕、いや僕らなら馴染のある事だろう、あれは───物々交換(トレード)さ」

 

 物々交換(トレード)

 文字通り、探索者(ダイバー)迷宮(ラビリンス)内部で同業とかち合った際に行う物資の交換。大概は不足した回復薬やアイテムと引き換えに素材を渡す事が多いのだが。

 

「何が物々交換(トレード)だ。戦えねえ民間人から金銭巻き上げてるだけじゃねえか」

「全く以て、その通りだ」

 

 上昇した視力は映す。

 避難民が手にしている物の多くは貴金属類、或いは紙幣。

 凡そ、連中は自分達が生き残った後の為に財をため込んでるのだ。そんな事をしても、待ってるのは救助後に他の避難民から糾弾され、お縄に付くだろうに。

 それすらも考え付かない程に狂ったのか。

 それとも……、いや、何にしたって。

 

クソくらえ(ファッキン)だ」

 

 怒り、呼応するように体中から熱気が漏れる。

 

「落ち着け、鋼。魔力を抑えろって」

「ほら、クールダウンしろ、息吸え、息」

「……ッ!!」

 

 飛び出そうと、体を動かす寸前の俺を二人のおっさんが止めた。本調子で無い体では簡単に押さえつけられる。

 離せ、と訴える俺を他所に、一番年長のおっさんは、天野さんを向く。

 

「なあ天野さん、あれが物々交換(トレード)ってのは理解出来た。だがよ、こんなに時間が経ってるんだ。避難民の中には、出せる物資がないヤツも出てくるだろう」

「そうだね」

「そいつ等はどうなる。まさか、金目の物が出せねえなら飢えて死ねってか?」

「いいや、あちらを見てみると良い」

 

 指を差す。

 俺達は釣られるように、視線を移す。

 仮設拠点の一つに、誘導される何人もの避難民。

 

「差し出す物が無い彼らは、減っていく食糧を調達する為に地上に出る事を義務付けられるのさ」

「戦えもしない、民間人をか?」

「そうだとも」

 

 酷く苦い物でも噛み潰したような顔で、天野さんは答えた。

 知っている。俺はそれを知っていた。 

 原作知識、ヒロインの前日譚で語られていた事だから。

 

「なら、俺達が道中で見た死体も……それか」

 

 合点がいった。

 やけに状態の新しい、魔物に食われた死体。

 拘束を解かれた俺は、呻きながらそう言うしかなかった。

 

「体のいい餌だな」

「食糧を持ち帰れれば御の字、死んだ所で食い扶持が減るからってか」

「酷ぇな、最悪だ。それだけはよ、やっちまったら駄目だろうが」

 

 歯を食いしばり、或いは両手を握りしめる。

 俺だって同じ思いだ。幾ら綺麗事だろうと、一度、探索者(ダイバー)を名乗ったならば。

 

「九条ちゃん」

「……なんだ」

「僕は巌ちゃんから、今回の話を聞いて直ぐに承諾した。外での躍進は見事なものだ、これなら一か月なんて言わずに救助を進める事が出来る。最高だとも、頬にキスの一つでも落としたい位にね」

 

 だから、と続ける。

 

「本当に、この先も君に任せても良いのかい」

「…………」

「また君に重荷を背負わせてしまう事になる、まだ二〇にも満たない君には過ぎたものだ。批判や衆目に晒される事もあるだろう」

 

 俺を案じて、彼は言う。

 だが、

 

『やめて、ママを連れてかないでっ』

 

 声が聞こえる。

 配給を受ける母子。その母の方を、件の仮設拠点に連れて行く男達と手を伸ばす少女の姿。あんな光景が今まで何度もあったのだろう、ここだけではなく、他のシェルターでも。

 

「重荷がどうとかは、今は関係ねえよ、天野さん。俺は頭はそれほど良くねえから後の事とか分からねえけど、もう走り出した」

 

 強く、右足を踏みつけ、炎を灯す。

 

「だったら俺は、今取れる最善の為に突っ走るだけだ。それが主人公だし、その方が───」

 

 “格好良い”だろう。

 手摺りから体を宙に投げ出して、激しく爆発させる。

 

「お偉いさんやらの面倒事は任せた、いや、ほんと全力で任せた」

 

 推進力、斜め下へと移動の最中、俺は身を翻して蹴りの動作へと移行する。

 場所は、男達と仮設拠点の中間。

 距離が縮まれば、避難民から声が上がる。

 着地と同時、大きく振動。

 

「ふぅ」

 

 息を吐き出し、冷却(クールダウン)

 怒りだけではどうにもならない。

 茫然と、俺に寄せられる複数の目。

 

「だ、誰だよ、お前」

「あ?」

 

 数人の男達は、全身包帯だらけの突然の闖入者に警戒しながら、そう問いかけてくる。

 誰、誰か、そんなのは一つしかない。

 時間が無い、答える暇すらも惜しい。

 しかし、

 

「俺は、主人公だ」

 

 口元を釣りあげて、全身から炎を放出しながら俺はただ、そう言った。

 

☆ 

 

 みぎゅあああああああああああああ!

 うぎゃああああああああああああああ!!

 ひぎゃああああああああああああああああ!!!!

  

「………っ」

 

 苦悶とは、正しくこの事か。

 嘗ての黒歴史、思い出したくない過去の記憶が俺に襲い掛かるのだ。

 

「師匠が、今まで見た事も無い位、萎れてる」

「兄貴、大丈夫かよ」

「お父様検定一級の私には分かるわ。あれは、忘却した筈の何かを思い出した時のお父様よ」

「師匠検定!?なにそれ、受けたい!!」

 

 観客席のように移動した三人を無視して、俺は眠たそうな顔の少女を見る。

 

「それで、ジャスティスフレイムはどこにいるの。大和の探索者(ダイバー)なら、会えるかも」

「あ、ああ、ジャスティスフレイムね。あいつは大和の危機にならないと姿を見せない不思議な男なんだ。だから今はいない、絶対にいない、間違っても新都には確実にいない」

「……そうなの?」

「ああ!!」

 

 いて溜まるものか。

 もしジャスティスフレイムとか名乗ってる探索者(ダイバー)がいるなら、俺はそいつをこの世から抹消しなければならない。

 

「そう、残念」

「だから連絡を取る事も出来ないんだ。力になれなくて悪いな。俺の交友関係なんて全然、これっぽっちも大したことがないらしい」

「嘘だぁ」

「ふんぬっっっ」

「もごっ……またぁ!?」

 

 歴戦の教師が繰り出す百発百中のチョークが如く、俺は無駄口を叩こうとする優君に迷宮産(以下略)を投げつける。

 

「うん、分かった。無理を言って、ごめんなさい」

 

 何とか、なった。

 何とかなった!!

 心中でガッツポーズを浮かべていると、銀月さんは席を立つ。

 

「わたしは、そろそろ帰る。ご馳走様でした」

「そうか、確かに良い時間かもな、うん」

 

 もうかれこれ一時間は過ぎた。

 荷物を纏めた銀月さんは、トテトテと小さな足取りで扉へ歩く。

 

「あ、そうだ」

 

 その時だ、何かを思い出したように、不意に立ち止まった。

 

「最後に聞きたかった事、ある。店長の名前」

「んん、俺の名前?」 

「そう、聞いてなかったから」

 

 そう言えば、名乗ってなかったか。

 いや、別に名乗る必要があるかは不明だが。

 

「九条、九条鋼だ」

「……九条、そう、なるほど」

 

 彼女は呟いて、頷きながらノブに手を掛ける。

 

「話、聞かせてくれてありがとう。またもし、何か分かった事があれば教えて欲しい」

「善処するよ」

 

 全力で、社交辞令と愛想笑いを駆使して、答えた。

 銀月さんは店を出る。瞬間、肩から力が抜けた俺は、近くの椅子に凭れ掛かる様に座る。

 

「今日は、厄日だな」

 

 仕事が終わったら、何処かに飲みにでも行こう。

 酒で何もかもを流し込めば、きっと明日の朝にはスッキリ忘れている筈だ。




誰かの為に動いたって、全員が賞賛する訳ではないから。
シリアスパートは好きだけど、書くのはクソ苦手。
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