シンギュラリティ・ラッドピース   作:物部。

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ほのぼの回。


33話 夜宴01

「なんて事があってさぁ…滅茶苦茶焦った」

「ほう」

「そりゃあお疲れさん。あ、お姉ちゃん、こっちにだし巻き一つ頼むぜ!ついでに連絡先交換しねえ?」

「間に合ってまーす!」

 

 柔らかな暖色の明かりが満ちる空間で、俺はグラスを呷りながら、今日起こった悲しき過去との邂逅…もとい、銀月雛との遭遇話を野郎二人に語る。

 鷲見と鷹尾。都合よく夜はオフと言う事で、飲みに誘って繰り出した居酒屋はナンパな鼻高男、おすすめの店。個室席の奥でテーブルに突っ伏す俺を他所に、片や焼酎を楽しみ、片や店員への声掛けに勤しんでいる。

 

「お前等、他人事だと思いやがって」

「何だよ。若い女の子の憧れなんて、羨ましい限りじゃねえか。俺なら間髪入れずに自分だって白状するわ」

「お前の場合は、粉を掛けてSTARsに通報されるまでがセットだがな」

「あんだと!?」

「若い子って言っても、相手は学生、未成年だし。嬉しさより先に気恥ずかしさが勝つっての」

 

 しかも、相手は原作ヒロインである。

 まかり間違っても、好感度は稼ぎたくない。

 本当に下手を打ってしまった。仮にいつもの伊達メガネやマスクの一つでも付けていれば、認識を低下させる事が出来ただろうに。仕事中は素顔だから。

 

「でもよぉ、ジャスティスフレイムはねえだろ。なんだ、ニチアサのヒーローか?」

「ああ、ないな。センスの欠片もない」

「止めろよぉ、あれがあの時は最善の選択だったんだぞ……」

 

 己のネーミングセンスが憎い。

 二人の手痛いバッシングが心に突き刺さる。

 項垂れる俺に、呆れ顔で鷲見は続けた。

 

「ド下手くそな嘘なんざ、つくだけ無駄だろ。お前に関しては、特にさぁ」

「鋼は墓穴を掘るのが上手いからな、間違いない」

「下手くそとか言うな、これでもポーカーフェイスなら誰にも負けない自信がある」

「ポーカー……フェイス……?」

「それこそ嘘じゃねえか、鏡見てみろよ」

「あ?」

 

 なんだこら、喧嘩の時間か?

 睨み付けるように二人を見やる…が、鼻で笑われる始末。

 

「おっさん、鋼がバレるかバレないか賭けようぜ」

「断る。賭けが成立しないだろう」

「こまってるひとであそぶのは、よくない」

「お待たせしましたー!花柳二六年、グラスお二つですねー!」

 

 拳を握り、「おっしゃ、やるか」と思ったと同時、引き戸を開けた店員が笑顔でトレーから二つのグラスを置いていく。

 

「……おい、誰だ、こんな馬鹿高い酒頼んだヤツ」

「いやぁ、他人持ちで飲む上等な酒はうめぇなぁ」

「うむ、全くだ」

 

 とてつもない度数を誇る、飲兵衛至高の一品。一口飲めば酔っぱらう事間違いなし、座ってるだけで酒精が香って来る。

 人の話など知った事かと言わんばかりに、ロックアイスの揺れる琥珀色の液体を喉に流し込む二人。

 半面、串焼きに付いてきた葉野菜を貪る俺。

 

「そう言えば、誘った俺がいうのもなんだけど、良く暇だったな。てっきりもう迷宮(ラビリンス)に帰ったもんだと思ってた」

「お前と一緒にするなよ、迷宮狂い」

「まあ、間違ってはいない。俺達とて、また探索に繰り出すつもりでいたんだが、別の仕事が入ってな」

「別の仕事?」

「お前のせいでもあるんだぞぉ、鋼」

 

 恨みがましそうに俺にグラスを突き付ける鷲見に、首を傾げる。はて、一体俺が何をやったというのか。

 鷹尾に目をやれば、彼は苦笑いを浮かべて説明してくれる。

 

皇星(すめらぎ)学園の林間合宿、その引率役を請け負う事になってしまったんだ」

「あ…ああー……」

 

 成程、そう言えばあったな。そんなイベント。

 そこまで重要でもないから、普通に記憶から抜け落ちていた。

 

「確か、三〇番区の合宿所で二泊三日の訓練指導だっけ」

 

 新都の中でも、住居が少なく、緑生い茂る区画。

 キャンプ場やコテージ、森林公園が建てられ、今ではアウトドア目的で訪れる人間も多い。

 

「ああ、少し前、お前が関わっていた誘拐事件があっただろう。あれの影響で、今年は安全性を向上させる為に、今回は三等星以上に声が掛かってな」

「探索予定がズレた俺達も、殆ど強制で参加させられる事になっちまった」

「そっかぁ」

 

 それはまた、何というか。

 

「良かったじゃん、若い子に憧れの眼差しを向けられるぞ」

「クソッ、良い笑顔しやがって。元はと言えば、誰かさんのお願いで、事後処理にまで巻き込まれたのが原因なんだがなぁ!?」

「はははっ、ごめんごめん」

 

 上位の探索者(ダイバー)さんも大変っすね。

 僅かに機嫌を持ち直した俺は、ニヤニヤと口角を上げる。

 

「後続達の為に、是非とも先輩としてご指導してやれってくれよ。おっと、鷲見くんって人に物を教えるの苦手だったっけ」

「おい、コイツここぞとばかりに煽りやがるぞ」

「子供か」

 

 何とでも言うがいいさ。

 尤も、彼らであれば問題は無いだろう。どちらも迷宮(ラビリンス)での経験は豊富な探索者(ダイバー)だ。これが優君達の更なる躍進に繋がるのであれば、素晴らしい。

 そこまで重要なイベントという訳でもないし、頑張って欲しい。

 

「お前等以外に、他には誰が来るんだ?一学年全員ってなると二パーティじゃ面倒見切れないだろ」

「どうだったっけなぁ。霧の所は参加するって聞いたけど、他は若い連中ばっかりだし」

「恐らく、三等星の方は鋼が知る人間は少ないだろう。大半がここ数年で伸びた者達だ。長くいる連中に関しては、今は他に気を向けているからな」

「他に?」

「ああ」

 

 グラスを傾けながら、鷹尾は言う。

 

迷宮氾濫(スタンピード)の予兆。南部もそうだが、最近…逆塔内でも凶暴化した魔物の行動が目立ってきている」

「そうそう、中層の奴らと上層でかち合ったって話も二、三と出ててな、協会は情報集めに走り回ってるわ、中堅連中は殺気立ってるわで空気が悪いぜ」

 

 それ、一般人に漏らして良い情報では無い気がする。

 ニュースで出てないって事は、十中八九封鎖されてる話だろ。

 

「まあ……間違ってはいない。準備は万全にしておいた方が良いだろうな」

「ふむ。と、言うと?」

 

 少し押し黙った後、俺は口を開く。

 

迷宮氾濫(スタンピード)は起こるぞ。多分、一か月もしない内に」

 

 ガチャリと、硝子に罅が入る音が室内に響く。

 扉越しに聞こえる喧騒とは打って変わり、嫌な静寂。

 

「───マジか?」

 

 鷲見の問いに、頷く。

 

「二割推測、八割俺の勘だけど……来る。第一、第二、第三…どれも最初は階層違いの魔物が確認されてたからな。見間違いって片付けるには、ドンピシャが過ぎる」

 

 マジか、と言いたいのは俺の方だ。

 階層外の魔物の出現なんて、早々起こる事ではない。

 “逸れ”と俺は呼んでいるが、それは迷宮氾濫(スタンピード)の予兆なんかじゃない。既に氾濫は始まっているのだから。

 

「何時か来るとは思ってたけど、早かったなぁ。流石はゲリラ発生」

「笑ってる場合かよッ!お前の勘八割とか、ほぼほぼ確定じゃねえか!!」

「ちょっと待て、今から会長に連絡を入れる」

 

 頭を抱える鷲見と、通信機を弄り始める鷹尾。

 二人の様子を眺めながら、俺はグラスに口を付ける。

 

「どうする、今から合宿引率なんぞ千切って、迷宮(ラビリンス)の間引きに駆り出すか」

「やめとけよー。言っただろ、ただの勘だって。そんなの信じて依頼をドタキャンしますとか、探索者(ダイバー)以前にヤバい人だぞ」

「そうだな、それがお前の勘じゃなければの話なんだがなぁ!?」

「会長、夜分遅くにすみません。会議中でしたか。ええ、いや、はい、鋼が飲みの席でとんでもない事をぶちまけまして、え?スピーカーですか?四家もいる?今から…ええ、はい」

 

 凄い大混乱だぁ。

 全く、二等星たる者、常に心にゆとりと落ち着きを持つのが基本だろう。嘆かわしい限りだ。

 

「………まあまあ、落ち着け。どうせ今から右往左往したって何も変わらないんだから。ほら、リラックスリラックス」

「リラックスが出来る状況だと思ってやがるのか?……おい、待て。お前、何飲んでる、それおっさんのグラスじゃねえか!」

「はははははははははっ」

「飲んだのか?飲んだだろ!?鷹尾のおっさん、今すぐコイツの腹ぁぶん殴れ!こんな所で寝かせてたまるかっっっ」

「俺の筋力で鋼の腹に打撃が通ると思ってるのか!?」 

「無理だなぁ!!」

 

 頭がふわふわする。

 今なら迷宮氾濫(スタンピード)だろうが裏ボスだろうが、指先一つで倒せそうだ。

 

「安心しろって、さっき自分で言ってたじゃねえか。来ると分かってればこっちから打って出りゃあ良いんだ。『侵攻』程の規模もないし、絶滅種が出る訳でも無い。良くて五〇層程度だぞ?」

「普通に惨事だが!?」

「そもそも何でそんな事が分かんだよ!?」

「勘」

『またそれかぁああああああああああ!!』

 

 大絶叫、何だ、さてはコイツ等酔ってるな?

 あ、ヤバい。何か凄い眠気が来た。

 

「まあ任せろ、突発的なクソイベなんか俺が直ぐに終わらせてやるから───」

 

 気分良く何かを言おうとした俺は、しかし、そこで視界が黒く反転する。ガチンと、何かに頭をぶつけながら。

 

 

 翌日。

 深酒の影響か、朧げな記憶しかなく、やけに痛む頭を抑える。

 どうやら時刻は一〇時過ぎ頃、完全な寝坊を確信した俺の耳に、一階から声が聞こえてくる。

 母さんの声と、聞き覚えのある男の声。

 思わず飛び起きて、寝間着のまま下へと降りる。

 そこには、

 

「来たか、鋼」

「やっほー。少しぶり、九条くん」

「何でいるの、アンタ等」

 

 探索者協会会長とSTAR局長、そしてゆかいな仲間達。

 

「昨日の話を詰めようと思ってな」

「いやぁ、昨日は大変だったんだよ?いきなり爆弾みたいな話を投げ出すし、四家三つが、誰が一番弟子かとか揉め始めるしさぁ」

「昨日の話、爆弾、四家」

 

 ふむ、と顎を撫でて俺は考える。

 俺の極限まで研ぎ澄まされた思考能力は、二日酔いすら超越し、正解を───。

 

「…………ごめん、何の話?」

 

 いや、何も思い浮かばなかったわ。

 多分、別の人と間違えてねえかな。




コイツに酒を飲ませたら、終わり。
ちなみに店長が飲むのは果実系のサワー。
大抵の状態異常は耐性を持ってるけど、酩酊は貫通する。不思議だね。
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