シンギュラリティ・ラッドピース   作:物部。

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読者達のあったけぇ言葉に涙ちょちょぎれそう。
マジでファッキンホット、夏は苦手なの。


36話 研究棟

 この六番区には多くの迷宮(ラビリンス)研究施設が建設されている。皇星(すめらぎ)学園の敷地内は勿論、一つ道路を挟んだ左側には、複数のビル…もとい学生が使用する研究棟。

 研究、と大きく括りはしたが、その種類は多種多様。

 例えば、魔物を討伐する事で獲得する事が出来る万能物質、魔結晶の研究、例えば、迷宮(ラビリンス)という特異な性質を有する建造物についての考察、例えば、迷宮(ラビリンス)が出現してからこれまで、少なくない人間を蝕む病の解明。

 他にも錬金術、占星術、魔導具の作成などなど。

 それぞれが信念を掲げ、寝る間も惜しんで、それこそ狂ったように活動を続けるその場所は、常にある種の……その、なんだ、淀んだ空気を醸し出しているのだ。

 

「………………」

 

 そして今日、俺は店を休みにして、その研究棟を訪れていた。

 高級マンションのような、フェイスセンサーを導入した自動ドアの先、エントランスに見える幾つかの人影を眺めながら、淀んだ空気を肌で感じています。

 

「おお、一週間ぶり。まだ生きてたんだ?」

「そっちこそ。論文終わらないって叫んでたのに、急にぱったり音がしなくなったから、てっきり首でも吊ったのかと思ってた」

「流石にそんな事しないって。素直に五徹して終わらせた」

「うわぁ、不摂生。あー、でも俺もそろそろ寝ないと不味いわ。今お前が三人に見える」

「まだまだ序の口だって。本当に寝不足になったら、会話なんて出来ないからさ」

 

 率直に、帰りたい。

 死人のような青白い顔で会話をする二人の少年、ケタケタと白い天井を仰いで笑い続ける少女、何度も壁に頭をぶつけて唸る青年。

 身形は良い。彼らの多くは白衣を着用していたり、学生服に身を包む年若い者達だ。

 だが、

 

「こっわ……」

 

 4番区とは別ベクトルで頭がおかしいと思う。

 説明しよう、したくはないが、しよう。ここは個人研究棟。

 棟、とは言うが、防音、防臭、他生活に必要な様々な設備が導入されており、研究者志望の学生、特に好成績を収めた者に貸し出される複合研究室だ。十階建ての建造物には一人に一部屋割り振られ、上級生の殆どは寮に戻らず、ここで生活する者までいるらしい。

 

「ぁぁぁぁぁ、ぁああああああ」

「待ってなさい、直ぐに医務室まで運びますから」

 

 そう、優秀な生徒しかいない。

 きっと、今目の前を通り過ぎて行った、メンタルカウンセラーに抱えられた青年だって、上澄みの優秀な子なんだ。

 ブツブツと「僕は塵芥」とか、「ゴミムシにも劣る」とか、聞こえたような気もするが気のせいなのだ。

 

 何も見なかった事にして、歩を進める。

 ここには幾度も足を運んだ事がある、慣れ親しんだ光景だ。

 いや、間違っても慣れたくはないのだが。

 人通りの少ない階段を駆け、少しすれば今日の目的地、八階、八〇二号室の前に辿り着く。

 

「もう着いてればいいけど」

 

 独り言を呟きながらインターホンを鳴らせば、数秒後にピピッと機械質な音、その直ぐ後に横開式の鉄扉が開く。

 

「───待ってましたよ、店長!!」

 

 同時に聞こえた軽快な声。

 扉が開いた向こうには、八重歯を見せて笑う金髪の少女が、白衣をはためかせて突っ立っていた。

 

「………………」

「あ、あれ、どうしました店長」

「ああ、いや、ここに来ると、琴子ちゃんを見るだけで精神が回復するなぁって思って」

「おっと、結婚ですか?あとは判子を頂くだけです」

「うん、気のせいだったわ」

 

 懐から一枚の紙を取り出して、徐に前へ突き出そうとする琴子ちゃんに、俺は即座に考えを改めた。

 

「突然こいつのメンテを頼んで悪かったな、ちょっと直近で使う事になるかもしれないからさ」

「いえいえ、この金宮司琴子。店長の御用命とあらばいつでも時間を作りますので!取り敢えず、中へどうぞ。管理人に見つかると何言われるか分かったもんじゃないです!」

 

 パタパタと小走りで戻っていく彼女の背を追いながら、俺も部屋に足を踏み入れる。靴は脱がず、玄関を越えて二枚目の扉を潜る。

 

「ようこそ店長、千年に一人の天才である私の研究室へ!!」

「もう何回も来てるけどな───また散らかってる」

 

 素人が下手に触れば、間違いなくぶっ壊してしまいそうな精密機器の山の上には、乱雑に散らばった書類。足元にはジャンクフードの紙屑だったり、ペットボトルの空だったりが捨て置かれている。

 

「部屋の片付け位はこまめにしなよって、前に言ったよな、俺」

「へへへ、最近ちょっと忙しくて。でもほら、前回よりは散らかってませんから!」

 

 そう、前回に比べれば、これでも片付いている方と言う事実。

 半年前頃だったか、あの時はこれらに加えて、脱ぎ散らかされた衣類やら何やらも混ざって酷い有様だった。

 流石に見るに見かねて、掃除を始めた俺は間違っているだろうか、いや何も間違ってない。そうだろう。

 

「まあまあ、それよりとっとと始めちゃいましょうか。いつも通りそちらに手を置いて頂いても?」

「了解」

 

 一応は羞恥という感情も持ち合わせているからか、仄かに顔を赤くさせた彼女はバインダーで顔を隠しながら促す。

 魔導解析装置と呼ばれる、名前の通り魔物素材や迷宮資源の性質を解析するのに使用される機器。それを彼女は自力で改造…もとい改良を重ねて、魔導具用に組み替えた。

 天才ってすげぇ、まあこれ、グレーもグレーな違法スレスレの改造だったりするんだけど。

 解析装置から発する数本の光線が、上下に我が相棒を照らし続け、そのまま琴子ちゃんは半透明な数台のモニターに向かい合う。

 

「はい、オッケーですよ。それじゃあちゃっちゃか点検箇所を見て行きますので、店長は適当に時間を潰しててください。大体二時間位あれば完了しますから」

「分かった、それじゃあ……───」

 

 真っ先に目がいった掃除用ロッカー。

 

「取り敢えず、掃除するわ。何か見ちゃダメな物とか先に言ってくれ」

「……いつも、すみません」

 

 

 唯一装備(オンリーワン)という物をご存じだろうか。

 それは魔導具でありながら、魔導具ではない。前世で言う所のオーパーツに類するような、浪漫と夢の詰まった特異性を発揮する謎多き装備品の事だ。希少性が高く、複製品を作れない、魔導具技師の誰もが一度は、物品を限界までバラして隅々まで解明したいと思うアイテム。

 裏オークションに出品すれば、国家資金レベルの金額が飛び交う事も少なくない、手に入れれば生涯何不自由なく暮らせるドリームチケット。

 そんなトンデモ装備を原作において、強化出来るキャラクターが存在していた。それが、金宮司琴子だ。

 シナリオ上ではドイツ魔導連邦のメル=クリウスに次ぐ技術面での天才。寧ろ、台詞としてしか登場しないメルを抜かせば、彼女は職人として最後まで活躍してくれる。

 ただ一つ難点を上げるとすれば、唯一装備(オンリーワン)の強化を依頼出来るようになるのは原作の後半。おつかいクエストを全クリアした後に、十種類以上の唯一装備(オンリーワン)を彼女に見せる事で機能が拡張される。

 各ヒロインの好感度イベント以上に、唯一装備(オンリーワン)は取得場所、取得条件ともに面倒で、入手には手間がかかる。普通の人間なら一週目ではまず不可能、二週目でようやく解放される要素だった。

 

 うん、どうしてこんな話をするのか気になるよな。

 何を隠そう。実は俺の右腕は、一応その唯一装備(オンリーワン)に該当する物だ。まあ深く詰めて行けばもしかしたら別の物かも知れないけど、製作者は唯一装備(オンリーワン)って言ってた。

 

「基盤は問題なさそうですね。ただ、回路が少し乱れてます。最近、どこかで大きく魔力を動かしましたか」

「あー、ビルの入り口開けるのにぶっ放したかも」

「すいません、流石の私もスペースキャットです。ビルの入り口開けるのに、大魔術レベルの魔力動かす事あります?」

「あるんだなぁ、これが」

 

 さて、ここで一つ、矛盾がある事に気付いているだろう。

 本来ならば原作後半で唯一装備(オンリーワン)の知識を得る筈の琴子ちゃんが、現在進行形で俺の義手の調整をしている事。

 

 白状しよう、俺の茶目っ気が招いた事故だ。

 あれは何時だったか、初めて顔を合わせた際に言われた言葉が原因で、ちょくちょくと店に顔を出す琴子ちゃんに一度、腕のメンテナンスを依頼した。

 無理だとは分かっていたさ。意地悪な事をしたと、今でも反省している。

 だが、この出来事が何故か、彼女の心に火を付けた。

 数日間ぶっ通しでパソコンと向かい合い、様子を見に行けば、何時間もの熱弁を繰り出してきた琴子ちゃんに、俺はポロリとハウスラビリンスの中で眠っている幾つかの唯一装備(オンリーワン)の存在を口にしてしまった。

 有用な装備ではない。それらは何時か主人公が使うものだから手を付けていない。それ以外のあくまでマイナーな、一発芸程度の物だけ。

 それからというもの何度も強く、見せて欲しい、バラさせて欲しいとせがまれ、最終的に俺の根負けによって勝敗は決まった。

 

「よくこんな謎数字の羅列と格闘出来るな。俺には無理だ」

「慣れと趣味の産物ですよ。あ、珈琲ありがとうございます」

 

 正直な話、俺は琴子ちゃんの才能を見くびっていたのだ。

 今まで多くの天才や怪物を見てきたが、彼女もその中の一人だと思っていなかった。

 

「ただまあ、私は天才ですけどまだまだですよ。状態の確認だったり、ちょこっと回路弄るのが精々ですもん」

「それは精々で片付けて良いモンじゃないと思うけど。時々連絡が来るけど、メルのヤツも褒めてたよ。愚鈍に埋もれさせるには惜しい人財だ、助手に欲しいってさ」

「うひゃあ、恐れ多いですねぇ!ただ私、最終就職先はリュミエールって決めてますので」

 

 他人を褒める事がないアイツをして、高評価を余儀なくさせている事をもっと喜んだ方が良い。俺なんて、顔を合わせれば凡人、凡愚とか只管貶されるんだぞ。

 

「世界最高の魔匠の誘いを蹴ってまで、喫茶店員志望とかロック過ぎない?」

「履歴書は既に書いてあります、宜しくお願いします」

「準備が良い」

「常に持ち歩いてますから……よしっと、店長、腕をこちらの方に寄越してください」

 

 大きく伸びをしてから、琴子ちゃんは複数の小型器具を手に取り、俺の方を向く。

 

「頼んだ」

「頼まれました」

 

 自分の右腕ながら、今何を成されてるのかサッパリ分からんが。目を綺羅つかせて、玩具で遊ぶ子供のような表情の少女に身を任せ、視線を上げる。

 

「そうでした店長。メンテナンスの対価、とは違いますけど、私も一つお願いしたい事があるんですよ」

「なんだ、俺に出来る事なら手を貸すぞ」

「はい、聖川さん達の戦闘データを集めているんですけど、ちょっと現在の階層だと力不足感が強くて、店長にお願いしたいなぁって」

「ああ、新しい装備でも依頼されたのか」

「そゆことです。お陰でここ数日寝不足」

 

 カチャカチャと、手を動かす彼女の方を見ながら考える。

 丁度良いな、と。

 

「分かった、任せてくれ」

「コテンパンに伸しちゃって下さいね」

「それは、逆にデータが取れないだろ」

「てへっ」

  

 昨日、今日と店を閉めていたんだ。

 きっと明日には、あの子達は団体で押しかけてくるだろう。

 優君は別として、二人とは久しぶりに拳を合わせる事になるな。迷宮氾濫(スタンピード)の話もその時にすれば良いか。

 

「うん、完璧だ」

 

 とても楽しみだ、色んな意味で。




個人的にアリスと琴子ちゃんは会話が捗る。
ヒャッハー系美少女って、私大好き。



『???』
銀腕。鋼ちゃんの右腕に取り付けられてる義手。
彼曰く、「滅茶苦茶固くて魔力を貯め込める腕」なんだって。
ただそれだけだよ、本当に。

唯一装備は彼の記憶から算出するとロストテクノロジー、今日はここだけ覚えて帰ってね。
ワタシとの約束だよ。
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