シンギュラリティ・ラッドピース   作:物部。

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どう書けば綺麗に落ち着くか試行錯誤中の巻。


37話 理不尽01

 義手の結合部を回しながら、軽く息を吐き出す。

 眼前には、訳が分からないとばかりにあんぐりと口を開けている少年少女達。

 

「そういう訳で、今日の臨時組手相手兼サンドバッグ役の九条鋼だ。宜しく頼む」

「どうしよう、師匠が何を言ってるのかさっぱり分からないよ」

「それが、お店に入って早々に拉致された私達に掛ける言葉なの?」

「説明を求めますの、納得のいく説明を求めますの!!」

 

 三人の申し出に頷きながら、俺は耳に取り付けたインカムマイクを口元に寄せる。

 

「うん、至極尤もな疑問だな。それじゃあ琴子ちゃん、説明を頼むよ」

『はーい、ハイパー天才技術者少女で解説担当の金宮司琴子ちゃんですよー』

「あ、金宮司先輩もいる!」

『いえーい、ピースピース!』

 

 すると、元気に満ち溢れた少女の声が、備え付けのスピーカーから発せられ、室内に反響する。その声の主はといえば、二階の観戦席から満面の笑みでダブルピースをしている。

 

「先輩、早く説明してください」

『もー、葵っちはせっかちでいかんですなぁ。はい、それじゃあ説明します。まあ簡単に言いますけど、可愛い可愛い後輩ちゃん達があまりにも優秀なせいで新武器を作ろうにも戦闘データが圧倒的に不足しているんですよね』

「戦闘データの不足、ですの?」

『そうです。ランク戦、攻略中の二四層探索映像も確認しましたが、皆さんまだ結構余力残しちゃってる感じじゃないですか。それは良い事なんですけどね、技術者的に貴女達の全力、一〇〇%の状態を計測して完璧に調整した装備を仕上げたい訳で……なので!!』

「俺が頼まれちゃったのさ、その全力を引き出して欲しいってな」

 

 準備運動をしつつ、相槌を入れる。

 貯め込んだ魔力を体全体に循環させて、足を開く。

 

「そっか、それで僕達は協会に強制連行されたんだ」

 

 その通り、ここはいつものリュミエール地下迷宮ではない。

 幾重にも重なる強化魔術が施され、大きな衝撃でも傷一つ付けられない白壁とウチよりも広い面積。協会管理可の特殊訓練室を、朝一でおやっさんから借り受けたのだ。

 

『いやぁ、店長の人脈様様ですよ。壊さなければ、機材も好きに使って良いなんて、太っ腹ですよねぇ』

「ここは高位に上がる連中の試験場も兼ねてるからな、色々設置されてんだ」

 

 それに、この場所は、そこそこ派手に動いても壊れないから楽なんだよ。

 昔盛大に力加減をミスって壁に大穴を開けた時、おやっさんが大金叩いて補修工事したから、室内強度は折り紙付き。

 物理軽減、魔術威力軽減、衝撃吸収、自動再生etc……。

 必要素材は全て、俺の倉庫から抜かれたぜ。

 

「さてと、琴子ちゃんの話で納得は出来たか?」

「まあ、うん。つまり師匠と戦えば良いって事だよね。じゃあいつも通りだ」

「……そうね。店長さんが相手なら、私も全力を出せるわ」

「胸を借りるつもりで行きますの!!」

 

 ははっ、やる気充分だ。若いってのは素晴らしいな。

 頷き合いながら、三人は装備に着替えて、俺の正面に立つ。

 

「よしよし、それじゃあ始めようか……───点火(イグニッション)

 

 両手を打ちあわせ、火花が爆ぜる。

 飛び散るそれらは宙を舞い、全身を覆うように広げる。

 意識を昔に戻す、体感で四割。迷宮氾濫(スタンピード)ぶっ潰し作戦の力試しも兼ねているのだ。今回必要な物は、ゴロツキや初心者狩りなどの雑な人間相手との戦い方ではなく、もっと上の理不尽との戦い。

 ならば、これで行こう。

 

「ふぅ……三人、一気に掛かって来い。遠慮は一切するな、でなければ」

 

 彼らであれば、多少手荒に扱っても壊れないだろう。

 四肢に炎を纏わせて、俺は口角を釣りあげて、笑う。

 

「死ぬぞ」

 

 

 炎が走った。

 そう錯覚する程の速度で、師匠が前へ走り出す。

 即座に直剣を構えた僕は、二人に指示を飛ばす。

 

「二人共、回避行動───ッ、アリス!!」

「え?」

 

 強い寒気。条件反射的に僕は後ろにいたアリスを強く押し飛ばす。

 直後だ、鈍い音が木霊する。僅か数秒、いやそれよりも早く眼前に現れた師匠は僕の首を鷲掴み、数m後ろだった筈の白壁に叩きつけた。

 

「まずっ」

「六〇点。最初の判断が遅い、だが動きは良い」

 

 競り返そうと動く。しかし、先に僕の体は宙を浮く。

 

「思考し続けろ、お前なら出来る」

「あ、ぐっ……が、」

 

 次いで、大きく左に跳ねさせていた。

 覚えがある。師匠との鍛錬で何度も喰らっていた回し蹴り。動作が全く見えない、数回のバウンドの後に受け身を取りながら態勢を立て直し、僕は体を起こす。

 

「あ、あれ、痛くない」

 

 不思議と、痛みはなかった。

 

「当たり前だろうが、こんな初っ端で落とすかよ」

 

 師匠は呆れたように顔を顰めてから、直ぐに切り替えて、再び走り出す。

 その姿は、まるで獣だ。

 

「アリス、支援をお願い」

「お任せですのっ!」

 

 定位置に移動したアリスが魔杖を振り、複数の術式を起動する。

 自分の体が軽くなるのを感じる。僕も駆ける。更に加速、加速、剣速を上げて師匠に斬り掛かる。上段から始め、何撃も組み合わせ、隙を与えないように一気に。

 しかし、全て弾かれる。右腕、義手一本だ。小手先の動作だけでどうしてこれらを往なせるのかさっぱり理解できない。

 

「はぁああああああああ!」

 

 師匠の右方向から葵が追撃を与えようと動く。

 日本刀に宿る青色の閃光は属性が付与(エンチャント)された斬撃。二四層の魔物であれば、一撃で致命傷を与えられる威力のソレを、葵は躊躇いなく使用した。

 

「アリスッ!」

「続けますの、風刃(エアスラッシュ)!」

 

 アリスの魔術。起動を遅らせた、三連の鋭利な薄風。

 右に迫る刃、左から走る術式。それらを師匠はチラリと一瞥して、

 

「生温い」

 

 小さく言葉を零し、右足を強く地面に踏み落とす。

 足元が揺れた。ただの足踏み一つで、強化が施された床を僅かに揺らした。

 

「ふえぇええ!?」

「きゃっ」

「三〇点、動揺するな───着火(ファイヤワーク)

 

 動揺するなというけれど、無理だよ。どれだけ鍛えれば、そんな芸当が出来るの?

 動きを鈍らせた僕と葵、同時に師匠は空いた左腕を大きく横に振る。

 赤色が、集まっている。

 

「“薙げ”」

 

 至近距離で聞こえた、短い声。

 

「あ、あっっっぶなぁぁぁぁいっ」

 

 左腕に集う粒子から炎が吹き上がり、形を変えた。

 言葉で表せば、一色の揺らめく大太刀。

 円を画くように振られた炎は、風刃(エアスラッシュ)を蚊でも払うように処理し、自身の刀で衝撃を防ごうとした葵を吹き飛ばす。

 跳躍が間に合わなければ、僕も喰らっていたかもしれない。

 

「葵!」

「ええ……分かってる、わ」

 

 僕はアリスの正面へと回り、起き上がった葵が師匠に接近する。

 師匠は動かない。背筋が凍る鋭い目で睨み付けながら、僕達の動きを観察している。

 

「行きますっ」

「ああ、来い」

 

 鞘に手を当て、身を低くした葵の姿が、ブレる。

 移動する度、葵の姿が増えていく。

 

水鏡(みずかがみ)か、分身の数は五体。装飾具(アクセサリ)を良く使い込んでる。良いな、八〇点」

「ありがとうございます!」

 

 あれは葵がセットしている装飾具(アクセサリ)の効果だ。

 前に師匠が言っていた、持ち手と相性が合えば特殊能力が発動するらしい。

 だけど、

 

「でもな、数のゴリ押しは俺には効かねえ」

 

 言うが早いか、師匠は大太刀を振り回し即座に三体の分身を叩き切り、右手で一体の首を締め上げて、もう一体に放り……投げる。

 

「良いか。刀っていうのは、こう使う」

「しゅ、瞬殺……炎が、水を打ち消したんだけど」

「うそぉ……」

「もう一つアドバイスだ。水鏡(みずかがみ)は大変有用な能力だが、良く見れば若干透けてる。だから、見切れる。あと、系統に関しては単純に練度の差だ」

 

 言いながら、師匠は(本物)の腹部に掌底を入れて、僕達の方へ跳ね返す。

 情け容赦もない。知ってるけどさ。師匠、女の子、葵は女の子、ついでに僕も女の子。

 

「系統ついでにもう一つ、そら行くぞ」

 

 僕の心情など意にも介さず、師匠は右腕を後ろに引き、何かの構えを……待って、やばい。

 

「“穿て”」

 

 ボク、アレ、シッテル、トテモコワイモノ。

 

「か、か、か、回避ぃぃぃぃぃぃぃ!」

「きゃ!?」

「ちょっと優、なんです───」

 

 二人の体を掴み、強引に地面に倒す。

 次の瞬間、僕達が先程まで居た場所を分厚い炎が通り過ぎた。

 いつか師匠が扉を破るのに使った、あの時より幾らか小規模な爆炎。

 怖気ながら、僕は師匠を見る。その両手には、未だに赤い光が満たされており。

 

「師匠、ねえ、師匠、まさかそれって、連発……出来るの?」

「ん、ああ」

 

 構えて、ただ何とでもないような顔をして。

 

「出来るぞ」

 

 理不尽の化身が、そこにいた。

 




現在の鋼ちゃん。
・人体に大打撃ぶち込む訳にもいかないから、直前で手を抜く(優以外、最初はアリスを狙っていた)
・手に馴染んでる武器をぶっ壊す訳にもいかないからかち合う瞬間に術式の威力を下げる。
・適度にアドバイスを入れる、褒めて伸ばす。
・探索に使えるちょっとした小技を見せる(当社比)
・術式制御で脳みそフル稼働&ある意味鍛錬なので軽口叩けない。
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