シンギュラリティ・ラッドピース   作:物部。

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明日はよォ、ガチャの時間だよォ……。


38話 理不尽02

 僕の師匠は凄い人です。そりゃあもう、侵攻から始まって今の今まで一度だって、師匠への尊敬を忘れた事はないレベルで凄い人です。自力が違う事は重々理解している。毎週時間が空けば行っている鍛錬とか、息切れで死にそうになる僕の横で、汗一滴掻かずに「今日の晩飯どうしようかなぁ」って零す位なのだから。現に今だってそうだし。

 ただ、それとは別に時々、いや高頻度で思う事がある。

 

「師匠ってさ、本当に僕達と同じ人間なのかな、アリス」

(わたくし)は既に別カテゴリとして認識してますの、そんな事より早く走るです───」

「“穿て”」

 

 即座に身体を翻し、最早何発放たれたか定かではない爆炎を紙一重で避ける。

 訓練室、僕達がいる一階は酷い有様だ。壁は罅割れ大きな歪みを作り、床は抉れて見る影もない。師匠曰く、まだこれなら修復可能だから問題ないそうだが、本当にそうなんだろうか。後少しで僕達の後ろの壁、穴が開きそうなんだけど。

 

「逃げてるだけじゃ、ジリ貧だぞ」

 

 近付けないんだ。

 接近戦に持ち込めば、高機動の体術と謎の術式の多用。

 今みたいに距離を開けていれば、連続で繰り出されるあの爆炎。

 というか、確実に他にも手札隠し持ってるでしょ。

 もう、勝てるかどうかの話ではない。一撃でも当てられれば僕は満足です師匠。

 

「一撃、一撃か」

「何か良い考えでも浮かびましたの?」

 

 一瞬だけで良い、師匠の動きを止める事さえ出来れば。

 僕達が持ち得る手札、手を抜いてるだろうあの人に届き得る鬼札。

 一つだけ、僕の頭の中にそれは思い浮かんだ。

 分の悪い賭けではある、寧ろ他の手の方が良いかもしれない。

 だが、

 

「葵、アリス、少し話を聞いて」

 

 顔は師匠に向けながら、集まった二人に僕は小声で作戦を伝えた。

 

 

「マジで言ってますの?」

「また無茶な事を……」

「でも、このまま力任せに突貫しても、師匠には届かないだろうし」

 

 時間も限られているから簡素に、要点だけを聞いた二人は多分渋面を浮かべているんだろう。でも、この反応は多分通る。

 数秒の沈黙、師匠は動かずにただ僕達を観察している。

 

「分かった、やるわ」

「駄目だったらその時はその時ですの、ありったけの魔力を込めますの」

 

 溜息を突きながら、承諾する二人。僕はちらりと視線を動かしてから剣を構えた。

 

「悪巧みは終わったか?」

「うん、いけるよ!」

「そうか。じゃあ、おいで」

 

 師匠は構えない。ただ首の骨を鳴らして、僕達を待っている。

 

属性付与・水(エンチャント・アクア)筋力強化(ストレングス)、葵合わせてっ」

「了解」

「更に重ね掛け、行きますの!」

 

 葵と二人、強化が施された脚力をフル活用して、走り出す。

 

「ふっ!」

「せやぁあああああああああああああああ」

 

 上段袈裟斬りと高速抜刀から続く連撃。「またか」と呟いて、師匠は僕達の剣を弾かずにただ回避に徹する。その動きはまるで数秒先の未来でも見ているかのように、最小限の動きのみで、対応している。

 

水鏡(みずかがみ)!」

 

 更に手数が増える。葵の姿を模した水の人形が、四方八方から斬り掛かった。

 

「だから言ってるだろ、数が増えた所で俺は止まらねえぞって」

 

 左手を水平に構えて、再び赤い粒子が集まり出す。

 

「“薙───」

 

 また、あの炎の大太刀が来る。

 ここだ。

 

「葵、お願い!」

「ええ、させない。氷鎖(アイシクル・チェーン)二重(ダブル)!」

 

 攻撃の手を止めた葵が空いた手を突き出すと同時、水鏡の分身体が地面に溶け出し、その場から複数の魔法陣が出現した。氷の鎖、葵が言うには水鏡(みずかがみ)は自分の魔力が凝縮して形を成した物であり、それを媒介として複数の術式を起動する事が出来るらしい。師匠の体に一〇を越える鎖が絡みつく。

 

「お、おお?」

 

 これで身動きは取れない。いや、そんな訳がない。

 前に師匠は、あの強そうな元探索者を相手に、巻き付いた武器を身一つで破壊して見せた。幾ら数が多くても、師匠なら難なく脱するだろう。

 

「だから……呪縛(カース・バインド)麻痺霧(パラライズ・ミスト)

 

 拘束中、対象の身体能力、免疫力を低下させる呪縛(カース・バインド)と、名前の通り一定時間身体を麻痺させる麻痺霧(パラライズ・ミスト)。呪紋がうねり、師匠の体に張り付き、その周りに黄色の靄。

 

「ただの害悪戦法じゃねえか。主人公が闇系統連打って、えげつねえぞ、おい」

「使える物は何でも使えって師匠が言ったもん!!」 

 

 言葉を交わしながら、僕は顔をカクリと下げた師匠に迫った。

 油断はしない。麻痺が効果を発揮する僅かの時間、ここが分水嶺。

 僕は剣を───投げ捨てる。

 一秒も惜しい、こうなれば剣は重りでしかない。

 信じられるのは即ち、自分の肉体。

 

速度強化(アクセル・ブースト)二重(ダブル)

 

 動きは知っている。

 一度だけ師匠が行った動かし方を、僕は目に焼き付けたから。

 両腕を鞭のようにしならせて、不足している速度は術式で補う。

 

「打神鞭」

 

 多分、本物には大きく劣る。黒桐くんからは変な技だと言われた。

 あくまで模倣、疑似、形だけの偽物。しかし、剣を振るよりも早く、致命傷を与えられる。

 狙う一撃は、鎖と鎖の間、心臓部。

 指に力を篭めて、僕は素早く振り抜き───。

 

「取っ───」

「───ってねえよ、馬鹿弟子」

「優!?」

 

 顎に強烈な衝撃。仰け反る寸前に見えたのは、足を上げた師匠の姿。

 麻痺霧(パラライズ・ミスト)はまだ効果を発揮している。だけど、師匠はいつも通りの顔をして、少し嬉しそうに笑っていた。

 

「やっぱりお前、天才だわ」

 

 視界がスローモーションのように遅く感じる。その刹那に、僕には見えた。

 白銀の義手に集まっていた、小さな火種を。

 

「二人共、避け、ッ!」

「“爆ぜろ”」

 

 チリッと、小さな火は揺らめき、ソレを握り潰す。

 瞬間、赤い膜が師匠を包み込み、諸共に───()()()

 

 何が起こったのか、思考が停止した。

 一瞬の静寂。その(のち)、最初に襲って来たのは、爆風と熱波だった。避ける暇さえなく、体が宙を舞い、僕は背中から白壁に叩きつけられていた。全身に鈍い痛みが走る。

 ギィィンッと鼓膜が破れんばかりのけたたましい金属音が響く。

 眼前に広がる、轟々と燃え盛る猛火。見回せば、遠くの先にアリスと葵の姿があった。

 体を横に倒して動かない。駆け寄ろうにも、僕も力が入らない。

 

「ああ、ヤバい。ちょっと制御ミスった。一カ月分の魔力が消し飛んだな、こりゃあ」

 

 声が聞こえた。黒煙の昇る炎の中から人影。

 師匠だ。頭を掻き、目に見えて冷や汗を垂らし、顔を青くしながら焦土のように変わった白床から姿を現わす。

 

『あのー、店長。私の超高性能タブレットちゃんと幾つかの測定機器がエラー吐いてるんですけど。バックアップ取ってなきゃ号泣してたんですけど』

「ごめんね、本当にごめんね」

『それに、訓練室の方は大丈夫なんですか。二階も酷い事になってますよ』

「いやぁ、駄目かも」

 

 靴の腹で地面を擦る師匠。

 金宮司先輩の声を辿り、上を見上げてみれば確かに観戦席を覆うように張られた窓硝子は全て、大きく破損していた。

 

「ふっ、コイツは、また賠償コース確定だな。あとでおやっさんに土下座交渉してこよう」

 

 そう言いながら、師匠は葵とアリスの方に向かい、二人を脇に抱えて僕の前に立つ。

 

「二人は大丈夫、なの?」

「心配しなくても、ちょっと気を失ってるだけだ。回復薬飲ませれば直ぐに目を覚ますさ」

「そっか、良かった」

 

 静かに地面に横たえた二人の口に、ポーチから取り出した赤色の回復薬を流し込む。

 あれ、多分高価なヤツだ。師匠が僕をボコボコにした時にいつも飲ませる物。

 

「良い連携だった。アリスの魔術はどれも練度が高い、それを難なく重ね掛けして戦えている君達は、現役の探索者(ダイバー)にも引けを取らない。葵ちゃんも水鏡の分身を五体も出せるとは思わなかった。あれ、多分一体一体の情報量を頭の中で演算しないといけないタイプの能力だろうしね。まあ、氷鎖(アイシクル・チェーン)はもう少し自分の物にした方が良いけど、二重(ダブル)までいけるなら大したモンだよ」

 

 それに、と僕を見る。

 左手を頭に乗せて、力任せに撫でられる。

 

「打神鞭モドキはテンション上がったなぁ。一回しか見せてないのに、結構形になってて驚いた」

「本当!?」

「ああ、今度暇な時にでも教えてあげるよ。ただ、剣を投げ捨てるのはやめような。せめて相手にぶん投げるとかにしなさい。良い目潰しになるから」

「はいっ!」

 

 師匠に褒められた、師匠に撫でられた!

 しかも、打神鞭をちゃんと教えてくれるって!!

 

「総合的に見れば、八…九〇点位あげたい所だけど。そうだな、滅茶苦茶小さい事だけど一つ注意点を上げるとすれば」

 

 顎先に指を当てて、こう続ける。

 

「俺、状態異常は殆ど効かないんだよ。()()()()()

「…………んえ?」

「対人とか、ボスを抜かした一〇〇層までの雑魚相手なら特に気にする事もないけど。そういう手合いも中には居るから、害悪戦法は過信し過ぎないようにね」

 

 何か、とても聞き捨てならない事を言われた気がする。

 そう言えば、どうして爆心地にいた筈の師匠は身綺麗なままなんですか??

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あと、近い内にキミ達三人を三〇層まで連れてくから準備しといてね」

「………んええええ!?」




この後、店長は会長室に乗り込んで、ジャンピング土下座を披露した。
会議中だった会長は即座に全てを理解し、土下座へのモーションがまた洗礼されていた事実に頭を抱えた。慣れたものである。

ついでに店長みたいに状態異常を強制レジストする化物は基本的に一等星連中。
二等星、三等星も装備によってはレジスト可能だが、アイツ等は最悪身一つの状態でも効かない。某「海境」メンバー以外も大体イカレた性能してる名前すら出ない奴ら。設定考えるの楽しい。
店長が麻痺霧の最中に首を下げたのは、「次何すんのかなぁ」とワクワクして乗ってただけ。

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