詳しい内容はXで報告してます。良ければ見てね。
あと、忙しかったけど感想は見てるヨ。
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おやっさん達が準備だ何だと今もどこぞを駆けずり回っている状況だろうが、俺がやる事はいつもと変わらない。店に訪れるお客さんの対応をして、時間が空けば掃除や食器の片付け、昼頃を過ぎれば暇になる。
今も聞こえてくるのはラジオから流れる複数の音声のみ。
『本当に見たんですよ。北部の都市からの帰り道に、
『いやいや、そりゃあ見間違いかなんかでしょうよ。空を飛ぶなんて芸当が出来る人間は、この世に数える程しかいませんよ。ましてやバイクに乗ってだなんて、そんなトンチキな』
この時間帯にやっている『オカルトトークShow』なる放送では、話を持ち込んだらしい青年が声高に「僕は見たんだ」と叫んでいる。ラジオを盛り上げる為にサクラでも紛れ込ませていたんだろう。
「空飛べるヤツね、俺の知り合いでもラオとかアンネ位しか知らねえや」
思い出すのは美女の皮を被った化物みたいな元仲間達。
あとは南米の方にいる『精霊使い』の妖怪婆、聖女の側付きをやっている『銀翼』のチビも限定的に飛ぶ事が出来た筈だ。まあ、どれもこれも一等星で性格に難あり、というか癖が強い。
「店長もいつだったか飛んでたじゃないか。ほら、こう、足先からボンッと」
「あー、あれか」
同じく暇を持て余していた影縫さんが、足で床を踏み鳴らしながら言う。
「あれは飛ぶっていうか弾き飛ばすというか、ちょっと威力を間違えば足が飛ぶからノーカンで。使い熟せるようになるまで、何回か酷い事になったもんだ」
「危険すぎるだろう、何故そんなものを使おうと思ったんだ」
「……移動手段が欲しかったし、空中戦の対策にな」
引き気味に聞かれるとこう返す他にない。
あれを思いついたのは、確か海境の時だったかな。
割と洒落にならないんだよ、特に状態異常持ちの飛行魔物。
ゲームの時は飛んでる敵もコマンド一つで技が当たるけど、この世界だと先に落とすか遠距離武器で処理しなきゃならない。そして悲しいかな、俺は遠距離武器の扱いが苦手。
投擲アイテム系なら問題ないが、どうしてか魔銃を使うと精度が落ちる。
使えない訳では無いけど、だったら殴った方が早い。
それになにより、飛んでる魔物を、地べたに引き摺り下ろしたかった。
無駄に知能があるタイプ、
滅茶苦茶ムカついた、だからただ落としたかったのだ。
どちらの方が上か分からせて、連中に地面と土の味を教えてやる為に。
「顔を戻してくれ、お客さんが来たら逃げ出す」
「おっと、悪い」
サッ、と差し出された鏡には、自分でいうのも何だかあくどい顔を浮かべる俺がいた。
二度、三度と手で顔を揉み解す。
「アイツ等みたいにポンポンと使いたくはないな。命大事に、だ」
「その割には頻繁に使っていたと思うが?」
それは昔、影縫さんがちょっかいを掛けて来ていた時の事を言っているのだろう。
懐かしいものだ、よく
「そりゃあ、誰だって自分を殺そうとする相手に出し惜しみなんか出来ないでしょ。必要だったから使う、それだけ。それにあの頃の影縫さんは尖ってたからなぁ、凄く怖かった」
「しくじった、何の反論も出来ない」
「『使命の為、我が家の汚名を雪ぐ為にその命貰い受ける』……だったっけ?」
「……勘弁してくれ」
痛い所を突かれたとでも言うように、彼女は顔を顰める。
“感情のない殺人人形”
“影縫の傀儡師”
いやぁ、思わず瞠目する程にカッコイイ二つ名っすね。
呼ばれただけで全身に鳥肌が立ちそう。
「この話は止めにしよう、互いに得が無さそうだ。私は休憩に入るよ」
「そうだな、それが良い」
諸手を上げて影縫さんは食糧庫の方に歩いて行く。
さて、なら俺はまたラジオでも聞いて暇を潰そうか。
そう思っていた───その時だ。店の外、ドアの先に人影が見えた。
数秒の間、その場で佇み、暫ししてドアベルの音と共に姿を現わす。
入って来たのは、やけに良い生地で仕立てた服を纏う男だった。
銀、いや白髪の長身男、そして在り得ない位の美形。
「やあ、元気にしていたかな、戦友」
ソイツは満面の笑みを浮かべながら、抱擁でもするような大仰な動作で俺に近付き、語り掛けてくる。
「会合の時に君の声を聞いてから、どうしても会いたくなってね。しかし都合が付かないから、つい仕事を放り出してきてしまったよ。帰ったら最愛の妹に怒られそうだ」
「………………」
「おや、どうかしたかい。まるで苦虫を丹念にすり潰して飲み込んだような顔をして。折角この俺が来たんだ。丁重に持て成してくれても」
「帰れ」
「おいおい、最初の言葉がそれか?」
呆気に取られて、なんとか絞り出した第一声は、客に向けるには失礼極まりなく、しかし何よりも目の前の男に対しては有効な言葉だった。
「白夜……白蓮の当主が護衛も付けずに、どうして当たり前の顔でこんな場所に来てるんだよ」
男の名は、白蓮白夜。
その名の通り四家の一つ、白蓮家の現当主の椅子に座る原作ヒロインの実兄。
呆れた顔で尋ねた俺に、奴は髪を掻き上げて、口を開く。
「むっ、先程も言ったじゃないか。会いたくなったから来た、それだけさ」
「フットワークが軽すぎるだろ」
「良いだろう。なにせ翡翠の御息女や黒桐の御子息があしげく通う喫茶店だ。俺が出入りした所で問題ない。いや、そもそも君の店に問題なんてものが起きるはずもない」
俺が立つ位置から一番近くのカウンター席に腰掛け、頬杖を突くその姿は常連のマダム達や世の女性が見れば黄色い歓声が轟くだろう程に完成されている。
さながら乙女ゲームから画面を突き破って現れた貴公子。ここはギャルゲーの世界だぞ、美男はお呼びじゃねえ。
この無駄に整ってる顔を見ると、条件反射で奥歯を噛み締めてしまう。
「それじゃあマスター、珈琲を一つ頼む」
「チッ……了解、少し待ってろ」
「ハハハッ、折角の客に舌打ちをするものじゃあないよ」
「その客が長身のナイスバディな美女なら文句はねえんだがな、少なくともお前じゃねえ」
強いて言うなら、金髪の美女なら文句のつけようもなかった。
ああ、どこぞの脳筋聖女はお呼びじゃないぞ。絶対、マジで、本当に。
顔を合わせたらノータイムで顔面に飛び蹴りかましてきそうだし。
「それと軽く摘まめる物も頼みたいね、何かないかな」
「コマエダの豆」
「他店の市販品をそのまま出してくる喫茶の店長なんて聞いた事がないね。おっと、袋ごと投げて寄越すのはやめてくれ。これでも僕は大和貴族だぞ」
「昔に携帯食にがっついてた
良いだろうが、塩味が丁度良くてサクサク食べられる。
俺も時たまミカに箱買いしてきて貰う位には気に入ってるんだぞ。
ついでにウチの近くに出来た人気チェーン店ではない。
あそこの名前はムーンドロップス。どこかで聞いた名前?気のせいだろ、繁華街とか行けば人目を惹くキッチンカーに乗ってフラペチーノとか売ってるよ。
「飲んだら帰れ、俺も暇じゃないんだ」
「おや、店前で観察していた時は随分と暇そうな顔をしていたと思ったんだけどね」
思いっきりバレてるよ。動きを止めていた理由はそれか。
「しゃあない、適当になんか作るか」
「ああ、任せたよ。俺は君の手料理ならなんでも好物だからな」
「野郎に言われても嬉しくねえぞ、それ」
暇だ暇だと言っていたら、神様が心底嬉しくないサプライズをくれたものである。
喜色満面、警戒心のない顔をする高貴な友人を尻目に、俺は厨房に向かうのだ。