シンギュラリティ・ラッドピース   作:物部。

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6話 黒桐凶也01

「師匠師匠、僕達今日からランク戦に参加出来る事になったんだよ」

「へぇ、何それ」

 

 オムライスを食べながら、何処か誇らしげな顔をする優君に俺は適当に相槌を打つ。口元にケチャップを付けながらそんな顔されても、ギャグにしか見えないぞ。

 

 と言うかこの子、迷宮帰り以外だと態々制服から私服に着替えて来るんだよな。謎だ。

 

 

 

 さて、ランク戦。

 迷宮都市ヤマトにもあった対人要素だ。

 皇星学園では、生徒一人一人に順位が割り振られており、そのランク戦を勝ち進める事で数値が変動し、高ければ高いほど内申点にボーナスが付く。

 

 脳筋ビルドを組む者(主に俺)にとっては必須項目のような物であり、勝てばその分賞金……相手が所有する皇星ポイントが一割付与される。

 

 最初は同学年と競い合って、一年の1位を勝ち取れば次は二年、三年と対戦が可能になり、全学年トップに躍り出れば隠しキャラの学園長と戦えるようになる。

 

「これで皇星ポイントを溜めて、お店のツケを全額払っちゃいます!」

「おお、期待してるぞ」

 

 ああ、全く期待出来ねえ。

 

 皇星ポイントは、この新都内で使う事が出来る学生だけの仮想通貨。飲食は勿論、嗜好品や武器の強化、素材の購入にも充てる事が出来る夢の万能通貨である。

 

 絶対使い込むだろ、お前。

 

「ふっふっふ、師匠も大舟に乗ったつもりでいてくれていいよ。なんと今日、初戦にも勝っちゃったからね」

「泥船の間違、もう誰かと戦ったのか?」

「泥船……?あ、うん。同じクラスの黒桐君が、いきなりランク戦を挑んできたんだ」

 

 黒桐、黒桐凶也か。

 

「でも何か変な事言ってたな。僕の事が最初から気に食わないとか、推薦も何か小細工をしたんだろ、とか。後は旧都出身の癖に黒桐家に逆らうなとか」

「あー、成程」

 

 そうか、ランク戦が始まったならチュートリアルだって始まるわな。

 

「で、結果はどうだった」

「そりゃあもう、師匠直伝の見敵必殺男女平等マジ殴りでノックアウトだよ!」

「うん、そっか。そんな名前だったっけ」

「ボッコボコだよ、ボッコボコ」

「ボッコボコかぁ」

 

 優君の教育方針間違えたかな。

 そう言えば、最近は迷宮帰りでも剣を持ってなかったような気がする。一応主人公の専用武器って剣だった筈だけど、どうしよう。

 

「黒桐君、ポイント貯め込んでたみたいで一杯貰えました!今日はこれで払いますね」

「思考が蛮族のそれな気がするんだけど、大丈夫?」

「合法なら死体でも何でも使えって教えてくれたのは師匠ですよ?」

「そっか、そうだっけ、そうだったかも」

 

 その師匠を今すぐ俺の目の前に呼び出して欲しい。

 ああ、優君。違うそうじゃない、コンパクトな手鏡を俺に向けるんじゃない。何で手鏡なんて常備してんだ、お前。何でピンク色なんだ、ちょっと可愛いじゃねえか。

 

「それで、その黒桐君はどんな様子だった?」

「歯を食いしばって睨まれました、ちょっと涙目で」

「だろうな」

「戦場では情けも容赦も無用なのに、何が悪かったんだろ」

「へえ、ついでにそれは誰が教えたの?」

「師匠だよ」

 

 うんうん、そうだったな。

 

「優君」

「はいっ!」

「その教え、全部迷宮の中で心掛ける事だからな。模擬戦、もとい対人戦でそんな事してみろ、心圧し折れるわ」

「え!?」

「怒らないから正直にお兄さんに言ってご覧、どんなマジ殴りしちゃったの?」

「か、顔が変わる位、かな」

「圧し折れたのは心じゃなくて上顎骨か?」

「下もやりました……」

「やり過ぎだ、バカ弟子」

 

 おかしいな、ゲームの描写だとそこまで執拗に追い詰める事は無かった筈なんだけど。 

 

 コイツの親御さんはどう言う教育をしたんだ。

 いや、責任の一端は俺だろうか、俺だな。

 まあでも、この世界って回復薬も普及してるから骨折程度なら誤差の範疇だし、と言うか普通に良くある事だし。

 

「その後、友達と一緒にどっか行ったから大丈夫だよ!先生には怒られたけど、学園長は笑って許してくれたし!」

「…………そっかぁ」

 

 あの学園長ならやりかねない。

 ランク戦のラストに「私を倒したら、お主が真の学園のトップじゃ!」とか言い出すクソガキだもん。

 

 余談だが、その学園長戦で主人公が勝ったら「こんなの本気じゃなかったんじゃからな!無効じゃ、無効!」とかほざき倒すマジのクソガキだ。

 何度嵌めプで遊んだか覚えてない。

 

 ついでに、余談の余談だが学園長を倒した時に貰えるトロフィー名は『ざぁこ、ざぁこ』だったりする。

 死に曝せ(ファッキン)、クソゲー。

 

「師匠、顔が、怖いよ」

「ああ、大丈夫だ。今の俺はあのクソガキの呪縛には縛られないからな」

「成程…どういう事?」

 

 顔も見たくないとまではいかないが、関わる事がないだけで心持ち穏やかである。そもそもクソガキではあるが、学園長も中々の実力者だし。

 

「取り敢えず、優君の矯正は後に回すとして」

「今何か言った?」

「何も言ってないよ、ほら珈琲でもお飲み」

 

 問題は、優君が黒桐凶也を倒したと言う事。

 

 これが何を意味するのか、つまりはシナリオが進む。

 今までの彼の物語はヒロインとの交流がメインの迷宮探索だったが、コイツの介入によって色々と面倒な輩が土竜のように顔を出してくる。

 

 黒桐凶也はメインシナリオで割と何度も関わって来る中ボスなのだ。

 そりゃあもう何度も、お前死んでなかったのか!?を悪役キャラに多用するとは前世の俺を以てしても到底見抜けない程である。正直一発屋の敵キャラだと思ってた。

 

「黒桐って言えば、大和貴族の一派閥だったか」

「そうなの?」

「どうしてお前が知らないんだ」

 

 まあ、これは優君の物語だし俺が何かする事でもない。

 今の所はシナリオ通りに進んでいるんだから、俺は優雅に珈琲を飲みながら適度に情報を出す位が丁度いいだろう。

 

「大和貴族ってのは、優君は勿論分かるよな」

「うん。『侵攻』以降に率先して迷宮の管理や都市の改善に手を入れて来た人達、だったよね。確かアリスの家もそうだって言ってた」

「そうそう」

 

 黒桐の他にも、翡翠、白蓮、紅小路……合わせて四つ。

 その内の三つはメインヒロインズであり、翡翠に関してはもう優君のパーティに居る。

 と言うか、ソイツは度々ウチに紅茶を飲みに来るし家出とか言って泊まりに来るやべぇヤツだ。全ては過去の俺が悪い。

 

 そんな大和貴族の更に上に君臨するのが、何処かでチラッと出て来た大和の統治者、天帝こと帝ちゃん。こっちに関しては立ち絵は有っても殆どメインに出て来なかった。

 大和の民の為に日々祈りを捧げてるらしいけど、マジで何やってるのか謎。ファンブックにも出て来なかった。

 

「学園長とアリスが目を光らせるだろうけど、黒桐の家は、あんまり良い噂は聞かない。少しの間は注意するに越した事はないかもな」

「分かったよ!何かして来たら取り敢えずマジ殴りする!!」

「うん、それは一旦落ち着こうな」

 

 何かしてくるとしても黒桐凶也が魔物化して襲い掛かって来る位だと思うから問題はないだろう。

 

「注意はしつつ優君は迷宮に潜って研鑽を積んで行けば良いさ。時間はあるし今日も少し体動かしてくだろ?」

「勿論!」

「うんうん、素直な子は伸びるぞ」

 

 ゲームの頃とは違ってレベル概念がない世界だが、やはり動きを見て居ればその成長速度が計り知れない事に嫌でも気が付く。

 良いなあ、才能(ポテンシャル)の塊って。

 俺にもちょっと位分けて欲しいよ。

 いや、もう迷宮に潜る気はないんだけどさ。

 

「まあ、想定外でも出て来たら……」 

 

 最悪、黒桐家がシナリオにない行動を取ったらこっちの方で処理すればいいだけだし。

 一応影縫さんに声掛けとくか。

 

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