シンギュラリティ・ラッドピース   作:物部。

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8話 黒桐凶也03

「こ、ここは」

「ああ、起きたか」

 

 リュミエールに到着して約20分程、ソファに黒桐を寝かせた俺は暇潰しがてら売上金の計算を行っていた。

 終わってもまだ気を失ってるようなら強引に叩き起こそうとも思ったが、その必要は無かったらしい。

 

「服は勝手に着替えさせたぞ、汚れが酷かったし」

 

 主にお前の血と吐瀉物。

 どっちも俺のせいだから何も言えないのだが。

 

「何で」

「あ?」

「何で、オレを助けたんだ」

「あの状態で意識があったのか」

「…………あった、最後の方は無くなったけど」

 

 成程、つまりコイツは原作の通りに進めば意識がある状態で連続殺人を引き起こす事になると。まだ16の子供に随分と重い設定盛り込みましたね、シナリオライターさん。マジで糞鬱(ファッキン)

 

「何でって言ってもな。助けた訳じゃないし、そもそも成り行き……若しくはお前が襲い掛かって来たから応戦した」

「応戦、蹂躙の間違いじゃ────」

「何か言ったか?」

「い、言ってねえ」

 

 嘘つけ、思い切り聞こえてたぞ。

 溜息一つ吐きながら、俺は黒桐凶也に椅子に座るよう促す。

 

「起きたんなら茶でも飲んでけ、何が飲みたい?」

「何でも、良いけど」

「なら……良いのがあったな」

 

 案外聞き訳が良いのか、ひょこりとカウンター席の一つに座る。若干体が震えてるのは俺のせいかな。そうかも。

 

「お前、今日優君とランク戦してボロ負けしたらしいじゃん」

「ッ、聖川優」

「そう力むなよ、傷は治っても本調子じゃないんだから」

 

 余程恨みが強いのか、忌々しく譫言のように呟く黒桐凶也。 

  

「アイツも、ここに来た事があんのか」

「ある。と言うか、ほぼ毎日飯食いに来る。あと適当に稽古とか付けてやってる」

「……師匠ってアンタの事かよ」

「あー、学園でも言ってんのか」

 

 止めて欲しいな。 

 主人公の師匠キャラとか、高確率で終盤死ぬ展開じゃん。

 僅かに俺を見る目にも険が増した、だがそれも直ぐに静まる。

 

「何となくだけど、納得した。アンタ強そうだし」

「別に強くないよ。才能の壁にぶち当たって探索者を引退した位だし、俺より強い奴なんてゴロゴロいる」

「嘘だろ」

 

 それが居るんだな、これが。

 法衣姿で剣振り回してくる死にゲーのキャラみたいな奴とか、甲冑で全身固めてるのに凄い早い奴とか、後はクソ重い大剣を片手で振り回すゴリラとか。

 

「ほら、飲んでみろ。俺もあんまり入れる事ないから、味はあんまり保証できないけど」

「何か、すげぇ青い」

「そう言う茶だ」

 

 深海よりも青い迷宮産の紅茶茶葉、名前は確か、『静かな海晶』だったか。

 ゲームでも時々ドロップした付与効果があるお茶だ。

 

「……美味い」

「へえ、良かった。知り合いが置いてった物だから余らせてたんだわ」

「在庫処分かよ」

 

 勿論嘘である。

 これ、売ればこっちの世界で家一軒買える位には高い。

 

「なあ黒桐……言いにくいから凶也で良いか?」

「ああ」

「じゃあ凶也、優君は強かっただろ」

 

 徐に、凶也の手が止まる。それから一度俺を睨み付けて、左右に目を揺らし静かに口を開く。 

 

「強かった、意味が分からねえ位」

「そうだろうな。俺だって生半可な鍛え方してないし、そもそもアレは元が違う」

「元……?」

「あの子はさ、神様に愛されてんだよ」

 

 神様(せいさくしゃ)の恩恵を一番に受けている主人公。迷宮に潜れば潜る程強くなるし、魔術を使えば直ぐに練度が上がる。

 

「神なんている筈がねえだろ」

「全く以て同意見だ。俺だって信仰自体嘘っぱちの詐欺師だと思ってる。ヴェルサイユの聖女とか聖女名乗ってるただの戦闘狂(バトルジャンキー)だし、アイツ紅茶より敵の生き血を啜る方が似合ってるよな」

「いや、そこまで言ってねえけど」

「あの女、いきなり「神罰ッ!!」とかいって斬りかかってくんだぞ。マジで頭おかしい、脳みそに聖書でも詰まってんじゃねえの」

「いや、聖女様はそんな人じゃねえだろ……」

「だけど、残念だが神は居るっぽいんだわ」

「うわ、急に素に戻った」

 

 そもそも俺が、どういう訳かこの世界に居ること自体普通じゃないし。多分何かしらの神はいるだろ。

 

「だからまあ、お前が優君に負けようが何だろうが俺は別に馬鹿にしたりするつもりはないけど、方向性は間違えるなよ」

「何だそりゃ」

「星灯火教団」

「ッッッッ!」

「会ったんだろ、多分牡羊とか言う辛気臭い加齢臭のしそうなおっさんに」

「何で、それを」

「何で分かるかって?何でだろうな」

 

 言及を避けるには、何か知ってそうな顔でニヒルに笑う……これ、実は意外と有効だったりする。

 

「お前がどんな理由であれ、例えば優君への復讐だったり、他の事だったりで力が欲しがるのは勝手だけど。あんな裏技(チート)には手を出すな、男なら鍛えろ、拳で語り合え」

 

 既に黒桐凶也のシナリオはさっきの一件で崩れた。

 なら、別にこれ位は言っても良いだろ。

 

「何か悩みがあるなら今此処で言ってみろ。どうせ誰も居ないんだ、聞いてやる」

「何で、今日会っただけのアンタに─────」

「今日会っただけの奴なら幾らか話しやすいだろ。別に、お前に悩みを打ち明けられる友達(ダチ)が居るなら喋らなくても良いけど」

 

 迷うように、凶也は黙る。

 別に言えないなら言えないで、俺はどっちでも良い。

 ただまあ、何となく悩みを抱える後輩の話でも聞いてやろうかと魔が差しただけ。

 そもそも、黒桐凶也の事情とか既に知ってるし。

 

「黒桐の家はさ、実力主義なんだよ」

 

 だが予想に反してポツポツと、凶也は語り出す。

 

「オレは昔から黒桐の麒麟児って持て囃されてたし、オレよりも強い奴なんて居ないってずっと思ってた。だけど、少し前に妹が適性検査をやってさ。オレと同じ六属性の適性で、闇系統に関してはオレよりもランクが高くて、今裏だと次期当主はどっちにするかって話まで出てきてる」

 

 黒桐凶也の妹は、二年編で入学して来るサブヒロイン枠。

 黒桐、いや大和貴族の長男、長女は他の人間よりも早く魔術の適性を測る。それは家の見栄だったり、小さい頃から魔術の鍛錬を行わせる事で他と線を引く目的があったりと色々あるらしいのだが、凶也はそれで六属性を引き当てた。

 

「オレは黒桐の次期当主だ、オレは偉いんだよ、なのにどうしてオレからアイツ等は全部取り上げようとするんだ。オレには、それしかないのに。強く無けりゃ、誰も褒めてくれねえのに」

 

 これだ、結局コイツは見栄を張りたい。

 いや、それが無ければ誰も自分に見向きもしないと捻じ曲がった考えをする。

 虚栄、虚飾、それは傲慢に変わり、後のルートに繋がる。

 

「学園の連中だってそうだ。オレが負けた姿を見て馬鹿にした奴も、笑った奴も、全員許せねえ」

 

 怒りに肩を震わせて、言葉を続ける。

 それが黒桐凶也の内に凝り固まった想いなのだろう。

 

「子供だなぁ」

「は?」

 

 まあ、翡翠アリスとか言う己が道を歩む生粋の問題児を見た事がある俺から言わせれば、凶也は割と真っ当だ。

 コイツは家の事に時間を割かれ周囲に目を向ける事の無かった子供だ。別にそれ自体が悪いとは思わないし、良い家の長男であるのなら、寧ろ正解なのかもしれない。

 

「お前は子供だよ。扱いが面倒で、性格も捻じ曲がってて、クソみたいに周りを見下してる子供だ」

 

 だからこそ、先を生きる俺達が道を示してやらなければならないだけだ。

 

「うん、気が変わった。お前の性根を叩きなおしてやる」

「いや、いきなり何言いだしてんだアンタ」

「アンタじゃない。俺の事を師匠、或いは兄貴と呼べ。呼ばなければぶん殴る」

「いや、ちょっと待てよ」

「待てよじゃない、敬語を使えッ!!」

「アガッ」

 

 拳を凶也の頭上に振り下ろす。

 

「お前を育てた馬鹿親には後で俺が物申すとして、取り敢えず一週間はお前此処で過ごせ」

「いやいやいや、本当に何言って」

「茶は飲んだだろ、なら行くぞ」

「何処に!?」

 

 割とヒョロッこい凶也の首根っこを掴み、向かう先は店の貯蔵庫。業務用冷凍庫や小型冷蔵庫が並ぶ中を歩く事暫し、そこには少し大きめに作られた床下収納庫の扉が一つ。

 力任せにソレを引き上げると、その先には何処までも続く暗い道と気持ち程度に輝くランプの明り。

 

「なあ、これ迷宮(ラビリンス)だよな」

「そうだな」

「何で喫茶店の地下に迷宮(ラビリンス)が出来てんだよ!?」

「馬鹿かお前、探索者なら地下に迷宮の一つや二つ隠し持ってるに決まってるだろうが」

「んな訳あるかッ」

 

 ついでにこれはゲームにもあった仕様だ。

 ハウスラビリンスシステムと言って、一定以上等級が上がった探索者(ダイバー)は自分用に迷宮を持つ事を許されている。

 まあ、ハウジング機能とかは全部消え失せてるから一から自分で組み立てなければならないんだけど。

 

「おら、とっとと行くぞ」

「ぎゃあああああああああああああああああ!?」

 

 大丈夫だ、そんなに深くないから。

 だってここは、主人公君の稽古に使ってる所だし。

 

 

 

 

 

 

 後に、俺との一週間ブートキャンプを終えた凶也はこう言った。

 

「兄貴には、もう二度と逆らわない」

 

 学園での態度は鳴りを潜め、何時も終業のチャイムが鳴ると一人で修練場に引き籠るようになったとか。

 これ、寧ろ悪化してない?

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