週末なのでセシリアに約束させていたお買い物に行くことになった。週末なのに朝8時には起こされて悲しい……
惰眠を貪るのが持つ者の権利です!という主張はセシリアの冷たい一瞥で封殺されました。
青と金がトレードカラーだし氷のように冷たい女。セシリアオルコット。ぐすん。
「あら、わたくしの目が蒼いうちは自堕落な生活は決してさせませんわよ。」
何が楽しいのか普段より時間をかけて身支度をしながらセシリアが言う。私服というのは制服よりもむしろきちんとしなければならないのだそうだ。
ふわぁ。ふかふかのベッドに座ってぼけ~っとしながらセシリアを待つ。というか朝8時過ぎには起こしたくせに自分の身支度は終わってないの酷くない?
「レディは身支度に時間がかかるものなのですわ?」
「レディ?」
「なにか?」
英国緑のチェックの入ったワンピースに深い蒼色の肩羽織を掛けた格好のセシリアにじと~っとした目で見つめられる。
「なにか文句が御座いますかしら?」
「ないでしゅ」
それから10分ぐらいベッドに座ってぼけ~っとセシリアの方を眺めていると突然腕を掴んで立ち上がらされた。
そのまま背後に回ってかすかな塵埃をセシリアの手で払われる。
「お待たせいたしました。」
「うぃ」
「それでは先ずはモノレールに向かいますわよ」
腕を引かれて廊下を歩き、注目を集めながら生徒達で賑わうロビーへ。
「貴方も殿方なのだからデートの最中ぐらいしっかりとレディをエスコートして下さいましね?」
「レディ?」
「あら、なにか仰りたいことでもございますかしら?」
ごごごごごご。セシリアの背景に金色の獅子が見える。きんいろのあくま。
「ありましぇん」
「ふふっよろしい」
三浦半島の沖合に浮かぶ巨大な人工島であるIS学園と本州本土との行き来は防犯上の都合もあり、基本的にIS学園関係者のみが利用する直行の高速モノレールのみによって行われている。
週末の休日であることもあり、京急電鉄三崎口まで伸びるモノレールの駅はこれから遊びに行くのであろう女学生たちでごった返していた。
というか、例によって腕を組んでセシリアに連れられている俺たちもそのうちの一組なのだが。
俺たちの姿を見つけた女生徒たちの一部が走り寄って進路の邪魔にならない程度に周りを囲んでくる。すわ。関所か。討ち入りか。俺たちに出入りは認められていないのか。
「恋人みたいに腕絡めて!モノレールとは!さてはこれからデートですか!?代表候補生にして大人気モデルのオルコットさんと入学一週間にしてデートとは流石はお目が高いですの~!!!」
「オルコットさんみたいな金髪碧眼の超絶美少女とそんな風にして街を連れ歩いてたら、刺されちゃうかも~!」
「一週間でこの有様とはもしかして睡蓮くんって超ナンパ!?」
「でも初日の夜にはもう同じような二人が目撃されてたようなっ!?」
クラスメイトかは解らないが、同じ一年生の少女がハイテンションに囃し立ててくる。
「デートかは分かりませんが、私物が無さすぎるとセシリアに怒られましたのでお買い物で~す。」
「わたくしたち、そういう関係ではなくルームメイトですの」
「でもオルコットさんも満更でもなさそう。」
「ん~?セシリアがモデル?Realy?」
耳を疑うセリフが出てきたので思わず反応してしまった。
そりゃ美少女だとは思うけど天変地異。
「そうだよ~?良く雑誌の表紙とかも飾ってるんだから~。おまけに本物の英国貴族だよ~?」
まぁそれは親戚もそうだからどうでもいいかな。
本音ちゃんではない一年生の女子がいう。
「ルームメイトの睡蓮さんがご存じないとは……わたくし傷つきました。およよ」
隣で器用に泣き崩れるふりをするセシリア。
「ふ~ん。」
足を踏んづけてくるセシリア。
「意外とオルコットさんって愉快で親しみやすい人なんだね。」
「でも織斑くんのことは猿扱いしたって聞いたけど。」
「でも食堂ではいつも4人で一緒にご飯食べてる姿をみるよ~?」
「わたくしTPOは弁えておりますの。おほほ。」
胸を張り両手を腰に当てたお貴族ポーズでアピールするセシリア。
「それにあのお猿さんと違って睡蓮さんはわたくしが手も足も出ないくらいに強いですもの。……まぁ日常生活ではぽんこつですが。」
「そうでもある~」
「そこはもう少し否定していただきたいところですわね。」
乗車用降車用2本のホームに分かれたプラットホームの上でしばらく待っていると、海に反射されて銀色に輝くモノレールが飛ぶようにそして滑るように滑らかに入ってきた。
生徒を始めとしたIS学園関係者の為だけに作られた、三崎口駅と三浦半島城ヶ島沖の海上に作られた巨大な人工島であるIS学園を繋ぐこのモノレールは、
朝5時から夜22時まで毎時4本15分間隔で運転されている。
特に学生の場合はこの門限を過ぎたら後は泳いでがんばってやってくるか、専用機持ちならこっそりISで飛んでくるかということになるだろう。
当然がんばってうまくやらないとたちまちのうちにブリュンヒルデに捕捉されてお陀仏である。なんまんだ~ぶ~。
まぁこんな門限は柳生睡蓮さんの前では敵ではありませんが。えっへん。
三浦半島沖の海上に敷かれたレールの上を滑るように進むモノレールの窓に立ったまま張り付いて、海と緑が織りなす外の景色を眺めている。
・・・・・・なんか隣のセシリアの目が冷たい気がする・・・・・・およよ・・・・・・この景色が見れるのは基本的にIS学園に関わるものだけだというのに、
セシリアさんは何がお気に召さないのだろうか。こんなに趣のある景色なのに!
「この年にもなってそんなに窓の景色になっている殿方と一緒に居るのがわたくし、少々恥ずかしいのですわ♪面白いところもありますが」
「この年ってまだほんの15さいの若造だし~まだまだぴっちぴちの若者だし~」
「だいたいわたくしたちIS乗りなのですし、これよりすごい景色などいくらでも見られるような気がいたしますが、殿方というのは変なところがございますのね♪おほほ♪」
「べつばら~それはべつばら~まったくもってべつばら~」
「・・・・・・ふ~ん・・・・・・そうですの・・・・・・それはよかったですわね・・・・・・」
隣のセシリアにじと~っとした目線で見つめられながら、20分程三浦半島の海と緑を堪能していると、IS学園の玄関口にして都会などへと繋がっている京急電鉄との接続駅である三崎口駅についた。
周囲の生徒の熱い視線をどことなく感じながら、セシリアとぎゅっと手指を繋いで降りる。
相変わらずひんやりとしてすべすべの手だ。く~りっしゅ。なめらか。
「三浦半島に到着で~す、んでセシリアどこに行くの?」
「京急に乗り換えて汐入駅にある帝国軍横須賀基地併設のショッピングセンターに向かいますわ。」
「あいさ~」
「本来であればレディであるわたくしを、殿方である貴方がエスコートするのが筋でありながら、わたくしが貴方のためにプランニングまで行ったのだから深く感謝してくださいましね?」
「英国大貴族令嬢!金色のふわふわ天使。セシリアオルコット~」
「ふふっ♪それほどでもありますわ♪」
赤がトレードマークの京急電鉄に乗り換えて汐入駅へ。
青と金がトレードマークのセシリアは入ってきた電車を見ると頬を不満げに膨らます。
「赤より青のほうがお洒落ですわよね?」
「あんま気にしたことがないかな~。」
「そうですの。そんなつれないことをいう方には、他の色に目移りしないように、これからじっくり刻み付けて差し上げますわ♪」
学園の玄関口となっている三崎口の駅から京浜急行の鉄道に乗り換える。
目指すのは帝国空軍の基地のある汐入駅、
駅を降りて交差点を一つわたると最初の目的地が見える。
横須賀の港沿い、横須賀基地の一区画に繋がる場所に最近出来た大きなショッピングセンターだった。
帝都防衛の要の一つである横須賀基地の需要と学園の需要が合わさり、盛り上がっている
心地良い春の潮風がセシリアの着ている青いワンピースの裾をひらひらと揺らしている。
そんなに長く居たわけではないとはいえ海なし県の柳生の里には吹かない類の風だった。
そしてふわふわとたなびく金色の髪。
やっぱり海はいい。特に最近は空気すらろくにないような場所に居ることが多かったのでなおさらだ。
建物に入るとイオンと魚屋がお出迎えだった。
「さかなさかなさかな~」
「先に用事を済ませますわよ」
無情にもぐいっと腕を引き戻される。
そしてそのままエスカレーターへ。
階を二つ上がり、何となく見知った店の名前が並ぶ、紳士服売り場へ。
「まずは身辺からわたくしのルームメイトに相応しい殿方になって頂きませんと」
なんか覇気。ハキハキ覇気。
使命感?
「素材は極上ですから、アレンジのし甲斐がありますわね♪」
最高級のカットが施された宝石のように光り輝くその瞳。
「不肖このセシリア、オルコット家の誇りにかけて、貴方様を何処に出ても恥ずかしくない殿方にしてみせますわ♪」
「もしも~し」
応答なし。
戦いの予感。この戦場からは逃避したいね。切実に。
「それではブランチといたしましょうか。」
「ふひひ~」
エレベーターに乗って最上階のレストランに。
お洒落な感じでありながら気取りすぎずに飲食が楽しめ、IS学園の生徒も含め人も結構入っているようだ。
まあ私服だから断言はできないけどね~
「なにをきょろきょろなさってますの?」
幅広の窓からは港と基地が一望できる。
帝国海軍&ロイヤルネイビー カレー&サンドウィッチ
この辺りの名物として知られている。
帝国海軍の長年の習慣で金曜日はカレーと決まっているらしく、また各艦で個性のあるレシピが開発されており、それらをここではビュッフェスタイルで味わえるようだ。
ふ~ん。ここはひとつそれにしましょう。決定。
「睡蓮さんは何にいたしますの?」
「かれ~びゅっへ。」
「ではわたくしはマグロのフィッシュアンドチップスにいたしますわ」
タイミングよく注文を取りに来たウエイターにセシリアが二人分の注文を伝える。
「早朝訓練もしてないのによくそれほど召し上がれますわね。」
「せっかくだから~」
「はぁ。お腹が痛くならない程度になさってくださいましね」
セシリアが選んだのは三崎鮪のフィッシュアンドチップスだった。
フィッシュアンドチップスというとタラが使われることが多いが、ここでは三崎の名産品であるマグロが使われている。
「それって手づかみで食べるもんじゃないの~?」
「あら。レディはそのようなはしたない真似はいたしませんわ」
「もったいないね~」
五感の内2つで味わうのと五感の内3つで味わうのではどちらが美味しいのかはまぁ言うまでもないだろう。
「あら。お一つ如何ですか?」
「いいの~?」
「レディは油物を控えたほうがよいですから♪よろこんで差し上げますわ♪」
「はいあ~ん♪」
ナイフで切り分けられ、フォークに突き刺された、白い衣が光り輝くマグロのフライをセシリアが口元に差し出してくる。
「もぐもぐ。はふ。ふんふん。」
上質な油でサクサクと歯切れよく。旨味は濃厚でありながらくどさはない。
噛めば噛むほどジューシーな旨味があふれ出る。
「いかがですか?」
「うまい。」
「ふふ♪では、もう一つ差し上げますわ♪さあ、召し上がれ♪」
「はいあ~ん♪」
「はふ。」
餌付け職人セシリア。
「もうっ、カレーのルーがお口の周りにびっしりと付いてましてよ?・・・・・・はぁ。少し、じっとしていてくださいまし?」
セシリアが懐から取り出した透き通るような薄手のハンカチで、口の周りを拭われる。
「桜~?それなら~近所に知り合いの別荘があるよ~?」
「あら♪それでしたら、そこまでエスコートして下さいます?」
「あいあいさ~」
「それにたしかこれはこの国のロイヤルファミリーのエンブレムではありませんの?」
「そうだよ~?よく知ってるね~」
「あら、わたくしを見くびっていただいては困りますわ?」
「一年にそう何日も使わないんだから~問題ないよ~」
「これが日本人が愛してやまないという桜なんですのね・・・・・・確かに美しいですわね・・・・・・」
「だな~久しぶりだな~」
「あら。そうなんですの?」
「随分と久々の帰国だからな~」
「それと、ささやかですが、本日はサンドウィッチをこしらえてまいりましたの。さぁどうぞ召し上がれ♪」
「お~」
セシリアの膝の上に蒼い光の粒が舞い、ISの機能で粒子化されて格納されていた藤の籠が現れる。
「ここら辺はMSにはないISの明確な利点だよね~。」
ISには拡張領域という追加武装などを収納するスペースがあるが、その気になれば日用品などもこの領域に収納することで持ち歩くスペースや重量などを節約することができるのだ。
セシリアの細くてしなやかな指先が音をたてないようにゆっくりと蓋を開くと、正方形を二分割した三角形に切り分けられたサンドウィッチと、一口サイズの正方形にに切り分けられたサンドウィッチが現れた。
「左側上段がコロネーションチキン、中段がベーコン&チキン、下段がキューカンバーになっておりますわ。」
「右側の小さく切り分けられた方はデザートですから、後でお召し上がりくださいまし。」
「あい。」
と言われたので大きな三角形を一つ手に取って食べてみる。
ジューシーな鶏もも肉の旨味と絡み合うチャットニーとカレースパイスの香ばしさ。
「いかがですか?」
「おいちい。」
「ふふっ。よかったですわ♪たくさんありますから、よく噛んでゆっくりとお召し上がりくださいましね?」
「も~らい」
風にたなびくこいのぼりの様に膝を横倒しにするようにして座っているセシリアの太ももに頭を乗せるようにして横になる。
肌さわりはもちもちすべすべで、むにっとした弾力性がある。
頭に少し力を入れればへこみ、抜けば戻る。面白い。えもいわれぬ中毒性がある。
ん~。これはまさしく枕ですぞ。
「ちょっと?食後直ぐに横になるのはお体に障りますわよ?」
「んに~」
「聞いてらっしゃいますの?」
「んにんに、んに~」
上から指を伸ばしてほっぺたを伸ばしてくる。
ぐにぐにぐに~っと
「くっ・・・・・・すべすべもちもちですわ♪」
「ちょっと、もしもし?朝あれだけ寝たのにまだ寝ようっていうんですの?」
「もうっ・・・・・・仕方のない人・・・・・・ふふっ」
「1つ伺ってもよろしいですか?」
屋敷の芝生に座って桜を眺めながらセシリアの作ってきたサンドウィッチをもしゃもしゃする俺を眺めていたセシリアが言った。
「何個でもいいよ~?」
「どうしてこの学園に入学したんですの?」
「ぴっかぴかの高校いっちねんせいだから?」
「ふふっ、そうですわね」
「それを疑うつもりはございませんわ」
「でも他にもきっと理由があるのではなくて?」
「貴方の空気は学生としては余りに外れてらっしゃいますもの」
「殿方では動かせない筈のISを駆り、まるで彗星の如く貴方はやってきた。ブリュンヒルデの弟と天災の妹が揃うこのタイミングに。」
「青春をえんじょしてこいって束に送り出されたのは本当だしそれがメインの目的なのは間違いないけどね~」
「でもま~ほかに目的があるのは確かだね~特に束にはね~」
「ですから、差支えのない範囲で構いませんので、あなたのこれまでの物語をわたくしに聞かせていただけませんか?」
「ん~う~んとね~そうだね~そうだな~」
「俺たちはこうしてIS学園に通ってるわけだけど~篠ノ之束がISをなんで創ったのか知ってる~?」
「宇宙への道を切り開く者。宇宙開発のためのマルチスーツだと伺っておりますわ。」
「そうそう。」
曹操?セシリアと同じ金髪のセシリアよりもよりくるくるとした巻髪が浮かんだ。今は無関係だ。
くるんくるん。頭の中もくるんくるん?
「ま~セシリアも知ってのとおり~10年たっても今のところあんまりそうはなってないんだけどね~残念ながらね~」
重力に魂を引かれたもの。この愚か者め。
「・・・・・・えぇ、そうですわね。」
首を傾げるその姿は小鳥のように愛らしい。
「目論見が外れて埒が明かないと思ったあの兎さんはさ~大多数に期待するのを止めて少数の同志と一緒に先ず飛び出したんだよね~」
「飛び出す・・・・・・宇宙開拓へとですか?・・・・・・にわかには信じがたいですわね・・・・・・」
麗らかな春の陽気の中で、赤くて真ん丸の太陽が水平線へと静かに沈んでゆく。
その光のハーモニーをごつごつとした岩場に腰掛け、二人寄り添いながら言葉少なく見送っていた。
相模湾の向こう、遥かに見えるのは不死の山。
会話は少なくてもなんとなくわかりあえて心地いい。そんなあともすふぃあ~。
さむしんぐ。えぶりしんぐ。うぉっちんぐ。