戦前爺のウマ娘珍道中   作:越後屋松之進

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サトノ家に行く

友人であるキタサンブラックとサトノダイヤモンドに連れられて来たのは、見渡せないほどの大豪邸である。きっかけは親しくなったサトノダイヤモンドから、よろしければ今週の土曜日、我が家に遊びに来ませんか?と誘いを受けたからである。勿論、親交を深めることは良きことなので二つ返事で行きたいと言った。初めて行く他人の家なので、場所は何処にあるのかと聞いたのだが、車なので大丈夫ですと言われた。まさか、このような事になるとは予想できなかった。

 

「ダイヤちゃんの家はまことに大きいのだな、東洋一の大豪邸だろうか。」

 

「東洋一って・・・ハルナちゃんは面白い言葉を使うんだね♪」

 

「あっはは~、あたしは何度か行ったことがあるから慣れているけど、ハルナちゃんは初めてだもんね。」

 

実際、乗車しているリムジンから見える敷地は極めて広大である。満鉄の車両工場に勝るとも劣らない具合だ。しばらくすると大きな車寄せに到着した。そこにリムジンは停車し自分達三人は降りたところ、お帰りなさいませお嬢様ならびにようこそお越し頂きましたお客様、と居並ぶ女中達が大音声で挨拶をした。まさか友人の一人が財閥の令嬢であったのは想像できなかった。

呆然とした気持ちでダイヤちゃんの後をついて歩くと、大きな木製扉の前に到着した。会って欲しい人がいると言われて、サトノダイヤモンドのノック後に三人で入ると精悍な印象の紳士が座っていた。

 

「君がハルナコンゴウオーさんでよろしいかな?」

 

「はいっ、自分がハルナコンゴウオーであります。」

 

「ははは、そう緊張しないで寛いでいいよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「礼儀正しい子だね。ところで、君のことは娘から聞いていたけど、中々面白いと評判みたいだね。今までに聞いたことがない趣味を得意だというのは本当かな?」

 

「いえ、極々普通の趣味で、相撲と射撃、大工仕事です。これらに付随した知識を少々持っているだけです。」

 

「ほうほう、この年で相撲と射撃、大工仕事を得意とするウマ娘は少ないと思うよ。ふむ、そうだね・・・この部屋の中で興味を引くような物はあるかな?」

 

サトノダイヤモンドの父親がいる部屋なので、おそらく財閥当主の書斎であり、調度品はどれも極上品である。なので、知ったかぶりをせずに正直に答えよう。

 

「知識が少ないので上手く言えないのですが、そちらにあるマホガニーの一枚板で拵えた執務机、バーズアイメイプルとキングウッドから構成されたキャビネット、紅木製の飾り棚です。」

 

「・・・君は一体何者かな?一目見ただけで家具の材料を全て当ててしまうなんて・・・ハルナコンゴウオーさん、君のお父様は大工もしくは家具製作の関係者かな?」

 

「いえ、化学関係の研究開発に就いていると聞きました。」

 

「うーん、聞いていた以上に君は面白い子だね。これからもダイヤと仲良くして欲しいな。」

 

「はい、こちらこそお世話になっておりますので、どうかよろしくお願いします。」

 

やがて、サトノダイヤモンドの父がいる部屋を出て、長い廊下を三人で歩いていた。

 

「ハルナちゃん、あなたは本当に何者なの?」

 

「そうだよ!あたしが知っているウマ娘に、ハルナちゃんの様なウマ娘はいないよ!家具の材料を一目で見破ること出来ないよ!」

 

「そうは言われてもこれが取り繕わない姿なのだが・・・」

 

合板もしくは突板で加工されていない限り、色と木目、年輪の具合によって凡そ判別は可能であり、あの部屋にあった家具は全て極上品故に、無垢材を使用していたから難しくはないと考えていた。

 

「まあ、それはさておきサトノ家の練習場に行って一緒に走ろう♪」

 

「うん!楽しみにしてたんだ~。」

 

「練習場?それは一体どういうものなんだ?」

 

「まあまあ、着いてからのお楽しみ♪」

 

しばらくすると豪邸の一角にある練習場という場所に到着した。そこには競馬場を小さくしたような芝生のコースが広がっていた。

 

「はい、お待たせしました♪ここがサトノ家の練習場です♪」

 

「よ~し、今日は三人でいっぱい走ろー!」

 

「これは魂消たな・・・自宅の敷地内に走るためのコースがあるなんて。」

 

「ふふふ、ハルナちゃんが驚いてくれてうれしいです♪」

 

「ここで走ったことがあるけど、とても気持ちいいよ!三人で思い切り走ってみよ!」

 

「ああ、是非ともそうさせてもらうか。」

 

芝生の上を走るのは未経験なので、緊張しつつも高揚した気持ちで一歩を踏み出した。だが、待っていたのは喜びや楽しみではなかった。

 

―最初に感じたのは違和感だ―

 

―足の踏み込みと膝の調子が合わない―

 

―速度は上がるが、体の姿勢が維持できない―

 

―両脚の力が上半身に伝わらない―

 

―呼吸が乱れる、心拍も狂ってくる―

 

―意識が途切れそうになる―

 

―これは危険だ、即時停止せよ―

 

何とか数字が記されている棒が立つ場所で足を止めたものの、息は乱れて落ち着かなくなっている。考えがまとまらず、目が回るような気分だ。

 

「はっ、ハルナちゃん!大丈夫!?」

 

「どこかケガした!?すぐに主治医を呼んでくるよ!」

 

「いや、大丈夫だ。すまない、お騒がせした。初めて走るから緊張して焦ってしまったようだ。」

 

「・・・そっかー、それなら安心したよ。ハルナちゃんがあそこまで息を切らしていたから心配しちゃったよ。」

 

「でも、もし具合が悪くなりましたら、サトノ家の主治医をお呼びしますので、何時でも言ってね♪」

 

「ああ、すまないな。」

 

何事も無かったが、芝の上を走った違和感は何だろうか?これは自分にとって避けて通れない壁であり、後の人生を左右するのではないかと予感がした。後日、それは明白な結果として降りかかるものとなった。

 

 

 

さて、しばらく走った後にお菓子を食べながらゲームをしたのだが、ここでも変わったウマ娘と言われてしまった。サトノダイヤモンドの会社で販売したゲームで遊んでいたのだが、倉庫にあった過去のゲームを見せてもらった時に選んだソフトが問題らしい。サトノダイヤモンドからは苦い顔をされ、キタサンブラックは乾いた笑いを浮かべていた。

 

デスクリムゾン、自分にとってはハイカラかつ剽軽さに溢れた良いゲームと思うのだが。

 

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