戦前爺のウマ娘珍道中   作:越後屋松之進

7 / 7
夏の決心

夏休みになった。自分の気持ちとしては、長期休暇になろうとも日々の務めは変わらない。競技ウマ娘に就くための鍛錬と勉学、家の手伝いに弟の世話だ。会津の農家で生まれ育った時代と比べれば楽な事この上ない。学校が休みであっても遊ぶ余裕は殆ど無いに等しかった。地主の生まれであったが、跡継ぎたる長兄の様な余裕は無く、野良仕事や家の手伝いで一日が終わったものだ。しかし末っ子だったので、末姉によく可愛がってもらった。それはそれとして、今生の弟は立派な跡継ぎに鍛えてやろうと心に決めた。勉学に武術、家事に遊び、たっぷりとしごいてやるからな。

自分自身の宿題、読書感想文に工作を三日で終わらせてからしばらく経ったある日、サトノダイヤモンドから電話があった。どうやら、キタサンブラックと一緒に自宅のプールで遊ぼうという誘いだ。なるほど夏の行水は季節の風物詩であり、気持ち良くなること間違い無しである。

 

もちろん喜んで行く旨を伝えて親にも報告したのだが、一つ問題が発生した。水着である。当初の予定では学校指定の水着で十分だと考えていたが、母親から余所行きの水着を買うように言われてしまった。水着なぞ新しく買わなくても良い、と言ったらきつく叱られてしまった。あなたはもう少し服装とか身だしなみに気を遣いなさい、と。結局、水着を買いに店まで行ったが、そこにおいても叱られてしまった。自分が考え得る最も洒落た水着を選んだのだが、あなたは何を考えているのと言われ、母が選んだ水着を買わされた。ふざけてもいないのに責められるのは心外であったが、従わざるを得なかった。それにしても、自分が若い頃は縞模様の水着が流行の最先端だったのに古臭いと評されるのは悲しい限りである。

 

さて、サトノダイヤモンドの邸宅に行く日である。自分とキタサンブラックは近所にある公園で待ち合わせをした。五分後、サトノダイヤモンドがリムジンに乗って現れ、言われるがまま同乗して邸宅へ向かう事となった。

何度見ても立派な邸宅だが、プールまで備えているとは初耳であった。サトノダイヤモンドに聞いてみると、邸宅の一角に 50 mの室内プールがあり、普段はサトノ家に属するウマ娘達がトレーニングをしているが、夏休みの合宿で僻地まで行っているので、我々みたいな子供達が遊べるみたいだ。

いよいよプールの時間である。自分達三人は服の下に水着を着こんできたので、すぐにプールへ入ることとなった。シャワーを浴びてからいざプールへ入ってみると温か過ぎず冷た過ぎずの良い塩梅であった。大きなガラス窓から夏の日差しが入るので少々眩しいが、夏の風情を味わうとなれば至福の時間であった。

泳いでみてわかったのだが、キタサンブラックとサトノダイヤモンドの両名は泳ぎが達者である。元来、ウマ娘はヒトよりも筋力があるので泳ぐのが得意な者は多いのだが、それを差し引いても二人は自由自在に泳いでいる。なお、自分も泳ぐのは得意だ。会津の小川で泳いでいた時分に比べれば、アブに刺されることも無く、急な深みに足を取られることも無く、ましてやヘビを恐れる心配も無いから楽に泳ぐことができる。しばらく三人で泳いでからプールサイドに上がると、キタサンブラックから不意に声をかけられた。

 

「そう言えばハルナちゃんは夏休みの宿題どこまでやった?」

 

「読書感想文と工作は終わっているぞ」

 

「えー!もう終わっているの?」

 

「ああ、読書感想文は図書館で借りた本で、工作は木を彫刻したぞ」

 

「うわぁ・・・いかにもハルナちゃんが得意そうなやつだね」

 

物書きに関しては得意かどうか不明だが、彫刻に関しては十八番なので苦も無く進めることができた。新木場でクスノキの端材を購入して、誕生祝いに父から買ってもらった左久作の小刀で鯉を彫るのは楽しかった。

 

「ところで、ダイヤちゃんはどんな感じだ?」

 

「私は読書感想文を書くための本で迷っているの」

 

「ふむ、それは好きな本が多くて迷う感じなのかな?」

 

「そうなの、好きな本が多いとついつい迷っちゃって・・・」

 

「あたしはまだ読書感想文に手をつけてないんだけどね・・・」

 

「ハルナちゃんはどんな本で感想文を書いたの?」

 

「自分は歴史に関する本だな」

 

やはり、各々が好きな本で感想文を書くのが自然体であると痛感する。学校の図書室には感想文の課題図書なるものが存在するものの、他人には薦められないと思う。一応、全て読んだのだが、どれもこれも説教臭いうえにありきたりな展開だらけだったので、小国民もとい子供達に読ませても実りは無いだろうと思った。

老いたウマ娘の介護をする家族の話、優秀な姉と比較されるウマ娘の話、競技で有望視されていたが障害を負ったウマ娘の話等々、どれもこれも説教好きな教師が好みそうな教訓めいた内容だった。修身の授業が無いから読書感想文で埋め合わせようという心づもりだったのかもしれない。そんな風に考えていた最中、ふとサトノダイヤモンドに自分の考えを投げかけた。

 

「自分がどうしても成し遂げたいこと、好きなことを思い出せば良いのではないか?」

 

「え・・・それはどういうこと?」

 

「自分が一番強く願うことを、ありのまま吐き出してみるものだ」

 

「それってハルナちゃんもやったことなの?」

 

「ああ、自分自身が何故ウマ娘として生まれたのか、自分の使命は何なのか、何を成すべきなのか、そのために過去を学びたくて歴史の本を選んだのだ」

 

ウマ娘に転生した理由を一朝一夕で知ることは不可能だと思っている。しかし、今の家族に連なる先祖や過去の事績を調べることによって、自らに降りかかった因果を知ることはできると思う。これらを達成すれば、ダートレースの競技ウマ娘になるという夢を確固たるものに出来ると感じているからだ。故に、キタサンブラックとサトノダイヤモンドにも、自分自身が一番強く願うことを知ることで、彼女達自身の夢をゆるぎないものとする手助けになると考えたから、先ほどの言葉を投げかけた。

 

「ダイヤちゃんが一番強く願うことは何だ?」

 

「私は・・・一族の悲願を達成したい!GⅠレースを買ってジンクスを破り家族の夢を叶えたい!」

 

「立派な願いだ、自分もダイヤちゃんに恥じぬよう精進するぞ」

 

「あたしも強く願うことがある!お祭りみたいにみんなが盛り上がる最高のレースをしてみたい!」

 

「粋な願いだ、自分もキタちゃんに遅れをとらぬよう踏ん張るぞ」

 

二人が表明したならば、自分が行うことはただ一つ。

 

「ならば、自分も宣言するぞ!自らの使命を突き止めて、成すべきことを達成するウマ娘になるぞ!」

 

「ハルナちゃん、頑張れ!」

 

「私も応援するね!」

 

「ああ、一緒に頑張ろう!」

 

夏の暑い日、サトノダイヤモンドの邸宅にある室内プールで、三人はそれぞれ決心した。自分自身が一番強く願うことは何か、読書感想文の話題から決意表明へと転がったが、この瞬間を忘れることは決して無いだろう。心の内面を吐露できる友人というものはかけがえのない存在だと改めて感じた。その後、キタサンブラックは祭りに関する本、サトノダイヤモンドはジンクスに関する本を選んで読んでみると言った。

 

プールから上がって着替えたら、昼食のご馳走に預かることになった。サトノダイヤモンドに案内されて大広間に着いたら、サトノダイヤモンドの両親が既に着席しており、家族交えての食事会となった。出てくる料理は精養軒のような一流の洋食で、ビフテキや白身魚のムニエル、コーンポタージュやサラダであった。もちろんお替わりも自由であり、サトノダイヤモンドの父から強く勧められた。

食事中、娘と仲良くしてくれてありがとう、君たちのお陰で娘は楽しい日々を送っているとサトノダイヤモンドの両親から言及があった。自分からしてみれば一介のウマ娘に対し、これほどまでの心尽くしをしてくれるのに、恩返しができないのは心苦しいものである。いずれはこの恩に報いることが出来るようにしますと返答したのだが、サトノダイヤモンドの両親は娘と仲良くしてくれるだけで十分だよと笑って応じていた。

お世話になった人たちへ恩返するにはまだまだ未熟である、子供という立場にもどかしさを感じながら食べたデザートのアイスは歯茎に冷たく感じた。

 

なお、午後は三人でサトノダイヤモンドの会社で販売したゲームで遊ぶことになった。今回も、倉庫にあった過去のゲームを見せてもらったので、前回のように苦い顔をされないような、皆が盛り上がるゲームソフトを選んでみた。おそらく、これなら二人とも笑顔になるだろうと期待した。

 

 

 

 

 

 

 

大冒険 セントエルモスの奇跡、お洒落なパッケージに雄大さを感じるようなタイトルなので、非常に楽しみだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。