淡海乃海 短編集   作:もりのち

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時系列:原作十二巻

※二次成分マシマシという事でお願いします。


基綱ぶちぎれシリーズ ~大友宗麟編~ 2

禎兆(ていちょう)三年(1583年) 七月 山城 正親町上皇(おおぎまちじょうこう)

 

 息子の誠仁と共に謁見の間へ入ると、太閤近衛前久(このえさきひさ)、関白九条兼孝(くじょうかねたか)、左大臣一条内基(いちじょううちもと)が揃って頭を下げた。上座に座り三人を見回す。

 

「急ぎ報告したい旨があると聞いた。何用か?」

 

 誠仁が問いかけると、太閤が"はっ"と頭を下げた。

 

「九州にいる前内府(さきのないふ)から報告がありました。朽木は大友へ攻めかかった様でおじゃります」

「なんと!」

 

 思わず誠仁と顔を見合わせる。息子も驚いたような表情だ。朽木が大友を攻めた?

 

「朽木は島津と戦っていたのではないのか?」

「はっ。前内府から届いた文によりますれば、大友に見過ごせぬ点があり、やむをえずこれを攻めたと記されておりまする」

 

 見過ごせぬ点?朽木は大友の救援を大義名分として九州へ向かったと聞いていたが……

 

「文には続きがおじゃります。朽木が大友と戦い始めてからしばらく(のち)、龍造寺が朽木へ攻めかかりました」

 

「!」

 

 今度は言葉も出なかった。龍造寺が朽木に……という事は朽木は今、島津・大友・龍造寺の三家を相手にしているのか……

 

「土佐の分家からも同様の報告がおじゃります」

 

 左大臣の言葉に太閤も頷いた。四国の土佐一条家か。つまり誤報の類ではないという事だな。

 

「詳しく申せ」

 

 誠仁の言葉に太閤が"はっ"と(かしこ)まった。

 

「九州へ渡った朽木ですが、当初は秋月の攻略を優先したようでおじゃります。一月ほどで秋月を下し、大友へ反旗を翻していた国人衆たちを討伐していたのですが、しばらくして問題が発生致しました。大友が朽木に対し、大友の面子を立てて欲しいと申し出たそうでおじゃりまする」

 

「面子を立てる……」

 

 誠仁が訝しそうに私を見る。ここは院である私が聞かねばなるまいな。

 

「太閤、それはどういう事かな」

「はっ。朽木は大友家の反乱を鎮圧した後、反旗を翻していた国人衆を自家に召し抱えようとしたようです。しかしそこへ大友から横やりが入ったようです。大友に逆らった者を朽木が許す、これでは大友の面子が立たぬと」

 

 なるほど。自分に逆らった者を他人に勝手に許されては立場が無いという事か。

 

「大友家の当主である宗麟は、逆らった者たちを奉公構(ほうこうがまい)に致すゆえ彼らの身柄を引き渡して欲しいと前内府に要求したようです」

「奉公構?」

「武家の習わしのようです。奉公構にされた者は主家の許しが無い限り、他家に仕えることが出来ぬとか」

 

 誠仁が"なんと……"と呟いた。関白と左大臣も言葉が出ないようだ。どこの家にも仕えられぬとはすなわち、武士として生きてゆけぬという事であろう。いくら反旗を翻したとはいえ……

 

「それは余りに(むご)かろう」

「麿もそう思いまする。朽木家中では一旦許した者を大友へ引き渡すような真似をすれば、今後朽木へ降伏する者はいなくなってしまうという懸念も出たようでおじゃります」

 

 うむ、道理よ。そのような事をすれば朽木は、前内府は信を失う。天下人が信を失えば世はたちまち混乱に陥るだろう。そのような事はあってはならぬ。

 

「それで大友を攻めたという訳か?」

「はっ。九州はいささか遠うございまする。琉球や南蛮の事もございますれば、目の届きにくい場所に反抗的な者を放置しておく事は出来ないと」

「うむ」

 

 太閤の言葉には十分な説得力があった。誠仁も大きく頷いている。外国との戦が見えてきた今、九州に不安の種を放置する事は出来ぬ。

 

「朽木は大丈夫なのか?三つの家を同時に相手にしては……」

 

 誠仁が不安そうに問いかけた。そうだ、いかに前内府といえども三対一では……

 太閤がゆっくりと笑みを浮かべる。その姿に思わず目を見張った。

 

「心配はいりませぬ。前内府からの文によれば、既に大友は無力化しつつあると書かれておりまする」

「誠か」

 

 誠仁が驚いたような声を上げた。私も言葉が出てこない。前内府の強さは知っていた。しかしこうもあっさりと……

 

「龍造寺は一軍を持って抑えつつあり、島津については何やら秘策があるようでおじゃります。末尾には年内には近江に帰れるだろうと綴られておりました」

 

 誠仁が"ほうっ"と溜息を洩らした。どうにも現実感が湧かないのだろう。

 

「三つの敵を相手にして堂々と戦うか。まさに天下人よな」

 

 私の感嘆とした呟きに太閤と左大臣が頷いた。関白は……どこか面白くなさそうな表情をしている。

 

「向かう所敵なしでおじゃりますな。嫡男の弥五郎も徳川攻めを進めております。九州攻めの後は関東、そして奥州。それが終われば天下統一という事になりましょう」

「前内府が戻った暁には、朝廷からも祝いの使者を出す必要がありましょうな」

 

 太閤と左大臣が互いに笑顔を浮かべている。誠仁も嬉しそうだ。

 

「良きことよ。朕が帝であった頃は天下は乱れるばかりであった。それを思えば夢のようじゃ」

 

 目の前の三人が神妙な表情をした。いかん、水を差してしまったか。そのような意図は無かったのだが、つい言葉が出てしまった。

 

「天下人は強くなくてはならぬ。足利はもうこりごりよ。そなたらもそう思うであろう?」

 

 意図して笑顔を浮かべ、皆に笑いかけると太閤、左大臣が"真に""仰せの通りにございまする"と言って笑った。誠仁も笑っている。部屋に楽し気な響きが満ちた。その中で、一人不満げな表情をしている関白が印象的だった……

 

 

 

禎兆(ていちょう)三年(1583年) 七月 豊後(ぶんご) 小早川隆景(こばやかわたかかげ)

 

 兄の陣を訪ねると、ちょうど小姓(こしょう)から握り飯を受け取っている所だった。気の早い事だ、まだ夕餉には時間があるというのに……

 

「兄上、敵が退いていきますぞ」

「そのようだな」

 

 兄は床几(しょうぎ)に座り、平常そのものといった様子で握り飯を頬張っている。その様子に思わず苦笑が漏れた。

 

「兄上らしくありませんな。今は戦の最中ですぞ」

「分かっている。しかしこうも出番が無くてはな。何のために最前線へ出張ったのやら」

 

 兄が溜息を吐いた。私も傍に置かれた床几に座る。せっかくなので私も握り飯を頂いた。炊き立てらしくほかほかと湯気を立てている。齧りついてみると強めの塩気が口の中に広がった。炎天下で戦う体には何とも染み入るようだ。

 

 毛利勢は現在、豊後の地で対島津の最前線を担っている。基本的には毛利が中央を固め、朽木の鉄砲隊が左右から撃ちかかる格好だ。千を越える鉄砲の回転撃ちに島津はなすすべなく攻めあぐねている。何度か戦闘は起こったが、驚いた事に未だ毛利勢には出番が無い。

 

「驚くべきは朽木の補給ですな。確か兵糧方と言いましたか。あれほど弾を撃って尽きる様子が見えぬとは」

「うむ。忙しなく辺りを行き来しておる。立ちぼうけの我らは何をしに来たのかと言われそうだな」

 

 兄が皮肉気に笑った。

 

「しかしいつまでもあれは続かぬだろう。いかに朽木が大量の弾薬を持ち込んだと言ってもな」

「はい」

 

 普通、鉄砲は弓や槍と組み合わせて使う。もしくはここぞという時に集中して撃ちかける。あまりに乱発しすぎてはあっという間に弾が尽きるからだ。朽木とて無限に弾を持つ訳ではない。鉄砲だけで島津を抑え込んでいる今が異常なのだ。

 

「まあ良い、いずれ我らにも出番は来る。それまでお手並み拝見といこう」

 

 兄が再び握り飯にかぶりついた。苦笑しながら私も握り飯を頂く。

 

「……そういえば、なぜ反対されなかったのですか」

「何がだ?」

 

 兄は素知らぬ顔で指を舐めている。分かっているくせに。

 

恵瓊(えけい)の言葉にです。てっきり某は、今こそ裏切る好機だと言い出すものかと」

「それで勝てるならな」

 

 兄が視線を逸らしたまま、"フン"と鼻を鳴らした。

 前内府様が大友を攻めると仰せになった時、毛利家中では二つの意見が上がった。一つは本陣の傍を願おうというもの。他人の戦で()り潰されては叶わぬという事であろう。そしてもう一つはこの機に朽木を裏切り、島津や龍造寺と共に戦おうというものだった。今裏切れば前内府様を討ち取れるかもしれぬ。このような機会は二度と無い。家中の意見が真っ二つに割れようかという時に進み出たのが恵瓊だった。

 

 恵瓊ははっきりと皆に言い切った。毛利が最前線を務めるべきだ。島津でも、龍造寺でも良い。我らが進んで朽木の為に戦う。それを前内府様に願い出るべきだと。

 当然皆は驚いた。中には激しく反対する者もいた。怒号のように浴びせられる声にも怯まず、恵瓊は毛利家の当主である右馬頭(うまのかみ)に面と向き合い言葉を続けた。

 

 ここで朽木を助ければ、毛利は前内府様から確たる信を得る事が出来る。今は裏切るにはまたとない好機。なればこそ、自ら朽木の為に戦う姿勢を見せれば、この先二度と裏切りを疑われる事は無い。毛利は朽木にとって唯一無二の家となるだろう……

 右馬頭へ頭を下げる恵瓊に対し、皆の反応は芳しくなかった。特に朽木へ(くだ)った事を認められない者からは、恵瓊をなじるような声も出た。よもやこのまま収拾がつかないかと思われたが、家中でも屈指の武闘派である兄が恵瓊に賛成した事で急速に意見は纏まった。

 

「勝てるのであれば裏切りも良かろう。だがな、ここで裏切って毛利に将来(さき)があると思うか?」

「いえ……」

 

 兄が横目でこちらを見つめてくる。静かに首を振った。

 

「仮に裏切り、上手く行ってあの男を討ち取ったとしよう。その場合毛利は不倶戴天の敵として朽木に認識される事になる。あの男が家中から得ている信頼を考えれば、朽木の者は復讐の為に死兵と化して我らを襲うはずだ。毛利の一族は一人残らず殺される事になる。女子供まで、容赦なくな」

 

 兄が目を閉じた。朽木は自身に敵対する者を容赦なく滅ぼしてきた。特に裏切った者には苛烈な制裁を加えた。安芸の一向一揆が(かつ)え殺しにされた件は未だ記憶に新しい。あの時、朽木は老若男女を問わず皆殺しにしようという勢いであった。籠った城から逃げ出そうとした者は容赦なく撃ち殺された。灰も残らず全てを焼き尽くす朽木の根切り。その恐ろしさを皆が思い知らされた……

 

「それにな、左衛門佐(さえもんのすけ)。ある意味で今、毛利はまずい状況に陥りつつある」

「と言いますと?」

「九州では島津に加えて大友・龍造寺が朽木と戦う事になった。この戦に勝てば、西日本から朽木に反抗的な勢力は一掃される。西に残る大大名は毛利だけだ。次の主戦場は東になるだろう。後は関東から奥州を制覇すれば朽木の天下統一は成る……」

「そうですな」

 

 兄が顔を顰めた。とても喜ばしいという雰囲気ではない。

 

「天下統一を阻もうとする者が居れば、その者は必ず西で事を起こそうとする。そして毛利を巻き込もうとするだろう。……朽木が毛利を見る目は間違いなく厳しくなる」

 

 そういう事か……思わず顔を(しか)めた。

 上杉と違い、毛利は朽木家と縁を結べていない。それに過去には敵対し、実際に激しく戦をしたという前科もある。戦場が関東から奥州へ移り、朽木の戦力も大部分がそちらへ移動すれば、毛利に対する監視の目は一段と厳しくなるはずだ。毛利が疑われぬためには何らかの方法で前内府様からの信を得る必要がある。それがこの場で朽木の為に戦う姿勢を見せる事……

 

「そこまでお考えでしたとは」

「裏切りでは勝っても負けても毛利の為にならぬ。気に入らんが、恵瓊の言葉にも一理ある。だから賛成した。それだけだ」

 

 兄が再び"フン"と鼻を鳴らすと、そっぽを向きながら残った握り飯を口に放り込んだ。

 信を得る、か。大友は不当にごねる事で前内府様の信を失った。そして実際に朽木の軍勢に攻め込まれている。毛利家に同じ末路を辿らせるわけにはいかぬ。

 

「じきに島津は崩れるはずです。追撃の先鋒を前内府様に願い出るのはどうでしょう」

「そうだな。このまま出番なしというのもつまらんからな」

「それでは朽木の本陣に行ってまいります。ここは任せましたぞ」

 

 兄が頷いた。この戦ではぜひとも武功が必要だ。右馬頭の尻を叩かねばならんな。後で恵瓊にも声を掛けておくか……

 

 

 

禎兆(ていちょう)三年(1583年) 七月 筑後(ちくご) 明智十兵衛(あけちじゅうべえ)

 

「十兵衛殿、大殿より報告です。水軍が島津の本拠地を奪取。島津勢は薩摩方面に向け後退中、これより追撃に移るとの事」

「そうか」

 

 目の前で伊賀衆の忍びが片膝をついている。その言葉に小さく頷いて答えた。全ては予定通りという事だな。

 豊後の東で大友の背後を脅かしていた朽木の水軍は、島津の本隊が日向へ到着すると同時に素早く九州の南端へ向かった。島津の本拠地である内城は海沿いにある。これを攻略し、軍勢を上陸させる事で島津の動揺を誘う。どうやら上手く行ったようだ。

 

 水軍が土佐を出て豊後に向かったのは大友を牽制する為だけではない。九州に居る朽木の本隊と連絡を取る為だった。豊後は大友の領地だが、国人衆たちの反乱で実態は穴だらけだ。忍びでなくとも領地を通り抜ける事は容易だった。大殿の命を受け、水軍は海上に待機しつつ島津が動くのを待った。動きが無ければ日向に上陸し、伊集院掃部助率いる島津の別動隊と薩摩との連携を切る予定だったのだが……そうか。結局島津は動いたか。

 

 彼らもこうなる事は分かっていたのだろう。島津には坊津水軍がある。そして島津の居城は海沿いにある。本隊を北上させれば朽木の水軍に留守を突かれる、それを彼らが予想しなかったとは思えない。

 しかし、勝つためにはこうするしか無かったのだ。朽木の水軍に本拠地を突かれ、味方が動揺する前に大友・龍造寺と共に朽木へ攻めかかる。明確な優勢まで押しきれれば味方の動揺を抑える事も出来る。それが最も勝ちの目が多い方法だった。いかにその目が少なくても……

 

 ゆっくりと、静かに目を閉じる。恐るべきは大殿か。島津からあらゆる選択肢を奪い、自らの思うままに動かした。彼らは不利を承知でそうするしかなかった。朽木には大量の鉄砲がある。朽木の軍勢は待ち受ける(いくさ)でこそ本領を発揮出来る。あちらから来ると分かっているなら負けは無い。龍造寺まで含めても十分に勝てると踏んだのだ。

 

「大友の様子は?」

臼杵(うすき)城以外は制圧した模様です。現在は国人衆たちが城を囲んでおります」

 

 大殿は大友を攻めるに際し、大友へ反旗を翻していた者たちに武器を分け与えた。功を上げれば大いに報いるとの言葉を受け、彼らは一人残らず奮起した。反乱を起こすほど恨みのある相手に思い切り殴りかかれるうえ、加増までされるかもしれないのだ。がぜんやる気になるという物だろう。

 結果的に朽木は戦力を温存でき、その分を島津や龍造寺に振り分ける事が出来た。国人衆からも感謝されるだろう。朽木にとっては八方良しという訳だ。……さんざん駄々をこねられた宗麟への意趣返しかもしれんな。

 

 戸次道雪殿と高橋紹運殿は結局大友に戻っていった。大殿は二人を引き留めたようだが、大友家を見捨てることは出来ぬとこれを辞退したようだ。大殿は二人の忠義を褒め称え、朽木家に迎えたかったと寂しそうに微笑んだらしい。道雪殿と紹運殿は天下人にその身を惜しまれたのだ。さぞ後ろ髪を引かれる思いであったろう。

 

「四国の状況は如何(どう)か」

「はっ。引き続き権大納言様が抑えております。阿波守は不満なようですが、兵を起こす素振りはありませぬ」

 

 結局四国での騒乱は起きなかった。三好阿波守(みよしあわのかみ)細川掃部頭(ほそかわかもんのかみ)は動きたがっていたようだが、権大納言足利義助様がそれを抑えた。朽木が九州で大戦(おおいくさ)を演じる中、四国で騒乱など起こせば朽木への敵対行動と取られかねない。そんな事をすれば攻め滅ぼされても文句は言えない。そなたは朽木に弓を引くつもりかと阿波守を一喝したようだ。さすがの阿波守も行動を控えたらしい。

 

 それにしても、義助様か……

 思わず顔を動かし、遠くに目をやってしまう。かつては朽木が義助様と義昭の和睦を仲介した。そして今、義助様が四国を抑え、結果的にそれが朽木の為になっている。何とも不思議な人の縁だな。

 

「分かった。見ての通りこちらについては問題無い。大筒まで割いて頂いたからな。大殿には心置きなく追撃されたしと伝えよ」

「はっ」

 

 伊賀衆が頭を下げた。戦場の方に視線を向ける。火薬の音が鳴り響き、矢と砲弾の雨が龍造寺の軍勢に襲い掛かっていた。

 大殿が決断されてから、龍造寺が攻めて来るまでには十分な時間があった。軍の配置、地形の把握、そして陣地の構築。戦の準備は万全に練る事か出来た。もはや龍造寺に地の利は無い。彼らが攻めあぐねているうちに大殿が島津と大友を(くだ)すだろう。本隊が戻ってくれば龍造寺も終わりだ。

 

 鍋島孫四郎は蟄居(ちっきょ)を命じられたらしい。最後まで朽木と戦う事に反対していたようだ。結局主君を抑える事は出来なかったか。

 ……しかし龍造寺を滅ぼした後、あの男をどうするかは考え物だな。あくまで鍋島の家を守ろうとするのなら良いが、龍造寺を守ろうとするのであれば許すことは出来ぬ。下手に復興運動をされても困る。できれば排除しておきたいが……

 あの男は親朽木派だった。処分しようにも理由が無いのが困った所だ。場合によっては戦の混乱で、という事も考えておかねばならんか。

 

「大殿は龍造寺について、何か言っていたか?」

「はっ。こちらの追撃は無用にと」

 

 ふむ、あちらが片付くのを待てという事だな。しかし追撃無用とは……私が勝つことを微塵も疑っていないという事か。何とも面映(おもは)ゆい事よ。これは万が一にも不覚を取る訳にはいかんな。

 意図して固い声を出し、伊賀衆を送り出した。床几(しょうぎ)に座り直し、腕を組んで表情を引き締めようとするが、どうにも口元が緩んでくるのを抑えられない。

 遠くで龍造寺の兵が崩れ、朽木の兵が雪崩を打って襲い掛かっていくのが見えた。あまり出すぎるようなら引き留めねばならん。やれやれ、勝ちに沸く味方へ冷や水を浴びせるか。小言をたらふく言われるだろうな……

 

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